うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

泣き童子(わらし)~三島屋変調百物語参之続~

2013年07月31日 | 宮部みゆき
 2013年6月発行

 不幸な出来事で傷心のおちかは、叔父の袋物屋の三島屋伊兵衛に引き取られ、不幸な過去や不思議な出来事を体験した人たちの話に耳を傾ける。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第3弾。

魂取(たまどり)の池
くりから御殿
泣き童子(わらし)
小雪舞う日の怪談語り
まぐる笛(ぶえ)
節気顔(せっきがん) 計6編の短編連作

魂取の池
 幼馴染みとの縁組みが整ったお文と名乗る娘が、自分の祖母にまつわる話をする。
 それは岩槻城下にて、人気を嫌い、男女の姿が写されると必ずその2人は別れると言い伝えのある・魂取りの池に、別れたい夫と共に姿を写しみた祖母だったが、失ったのは夫ではなく家財産だった。祖母の心には、浮気をする憎い夫から財産を奪い取りたいといった思惑があった為で、魂取りの池は、その者が一番欲しているものを奪い去るのだ。

くりから御殿
 白粉問屋の主・大坂屋長治郎は、難波湊の西の漁師町(三島町)の出で、実家は干物問屋・三ツ目屋を営んでいたが、豪雨による山崩れに一瞬にして町は飲み込まれ、僅か10歳で天涯孤独になってしまった。
 お救い宿から助けられ、網元の山御殿の一画に収容されたが、毎日を共に過ごした幼馴染みたちに、今はなき実家でその気配に出会うといった夢うつつながらの出来事を経験する。すると、気配を抱いた人物の遺骸が上がるのだった。

泣き童子
 三島屋で行き倒れになっていた瀕死の老人は、名家でもある古名主の家守(大家・差配)を努めていた。そして、言葉を発せないばかりか、血の匂いを嗅ぐと突如として火が付いたように泣き出す曰くのある童・末吉を預かったのだが、老人のひとり娘・おもんに対しても泣き止まぬ末吉に業を煮やしたおもんが、あろう事か末吉を手に掛けてしまった。
 事を有耶無耶にしたものの、月日が流れ、おもんが生んだ子は末吉の産まれ変わりであり、おもんは自害してしまい、輪廻を絶つべく老人は我孫をその手にかけてしまったのだ。

小雪舞う日の怪談語り
 常陸と下野の国境の山里から冬の間で稼ぎに来てい源吉・おこち夫婦が、この年は未だ幼い娘のおえいを伴っていた。
 一方おちかは、岡っ引き・半吉から、札差井筒屋七郎右衛門肝煎りの百物語の会に誘われる。
 贅を凝らした座敷では、逆さ柱にまつわる家の衰退を語る北国出の商人、野州の橋で起きる怪異に命を縮める代償の話をする女、人の病いが見えなき瞳に写る母親の話をする上野国元検見役の豊谷。
 最後に半吉の番になると、駆け出しの下っ引き時代の、深川十万坪・小原村の寮にて、ひとりの男を看取るように命じられた話を始める。
 それは、生前の悪行が祟り、恨みを抱いた亡者に毎夜、身体をなでられ、次第に全身が黒く変色して息絶えた余之助という岡っ引きの壮絶な死であった。
 行きの永代橋で不思議な声を耳にした気がするおちかは、「橋は元々道のないところに築いた物であるので、別の世界へと繋がっていてもおかしくはない」と半吉が言っていた事を思い出し、帰りの永代橋で声に問い掛けてみると、雪沓と端布の綿入れ姿が目に入った。
 それが、初めての出稼ぎのおえいを案じた「おこぼさん()」であったと判明すると、おちかは、おこぼさんの優しさを身に染みるのだった。
 
まぐる笛
 江戸勤番藩士・赤城信右衛門は、子どもの預、山深い母・光恵の郷方の尼木村に預けられた。そこで山道に迷った折り、腕だけが喰い殺された奇妙な死体を目の当たりする。それは、里山に伝わる「まぐる」という生き物の仕業であり、退治出来るのは光恵だけだと言う。
 村にまつわる不思議な伝統と、村の定めを身を持って体験した幼い信右衛門が、これまで口に出す事も憚られ、胸の押込んでいた思いのたけを募らせる。

節気顔
 小間物屋の内儀・末が、幼かった頃。父・三蔵の長兄・春一が、三両を差し出し「1年養って欲しい」とやって来た。
 物置に住み、下男同然の働きを率先する春一に、放蕩を尽くし勘当されていた、昔の道楽息子の面影は無い。
 ただ、物置には近付くな。二十四節の節日は外出させて欲しい。謎めいた行動もあった。
 春一は、家守のような男に、「顔を貸す」代償として使っても減らない3両を受け取っていたのだ。「顔を貸す」とは、この世に思いを残した死者に1日だけ顔を貸し、思いを遂げる仕事だった。
 おちかは、その家守のような男と関わった人を喰らう屋敷の一件を思い出す。

 「おそろし」、「あんじゅう」に続きシリーズ3作目となるが、毎度その着眼点には脱帽である。切なく、怖く、遣る瀬ないながらも、陰に終始するのではなく、そこかた新たな兆しを見出していく。
 今回は、百物語の会として、一章に4編の話が収められ、語りだけではなく、人間模様も織り込んだ手法も新しく見事だった。
 そしてやはり表題である「泣き童子」。物悲しいだけではなく、番所へ知らせて欲しいで締め括った辺りが言うに言われぬ臨場感である。
 今回、新太や金田、捨松、良介3人組の出番はほとんどなかったのが残念であるが、青野利一郎とおちかの関係は継続させ、続編への期待を予感させている。
 回を重ねる毎に内容も濃くなり、もっともっと読みたいシリーズである。
 難が1カ所。黒子の親分・半吉が、朱房の十手を持っているといった記述があるが、朱房は与力・同心のみで、岡っ引きのそれには房はついていません。池波正太郎氏は、その辺りにまで拘りを持っておられます。そこが残念な思いです。ストーリには関係ありませんが。

主要登場人物
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘
 伊兵衛...神田三島町袋物屋三島屋の主、おちかの叔父
 お民...伊兵衛の妻
 八十助...三島屋の番頭
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝 三島屋の女中
 青野利一郎...本亀沢町・深考塾の師匠
 灯庵老人(蝦蟇仙人)...口入屋の主
 半吉(紅半纏の半吉・黒子の親分)...岡っ引き
 金田、捨松、良介...青野利一郎の教え子




書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村

思い立ったが吉原~ものぐさ次郎酔狂日記~

2013年07月28日 | ほか作家、アンソロジーなど
祐光正(すけみつただし)


 2012年02月

 生まれついての生真面目な三枝恭次郎が遠山金四郎の命で、道楽者の遊び人に成りすまし、隠密同心として活躍するシリーズ第2弾。

第一章 思い立ったが吉原
第二章 二階から惚れ薬
第三章 鳥なき遊里の蝙蝠(こうもり) 計3編の短編連作

第一章 思い立ったが吉原
 吉原にて、無体を働く薩摩藩士5名を叩きのめした恭次郎は、吉原で売られている御禁制の媚薬売りかと思われる浪人・相良宇兵衛を見咎めるが、宇兵衛の扱う薬はそんじょそこいらで手に入る精力剤であった。だが後に、吉原で打ちのめした薩摩侍たちこそ売人と突き止める。

第二章 二階から惚れ薬
 吉原からの帰り道に武家屋敷奉公の女中に声をかけられた恭次郎は、媚薬により身体の自由を奪われ、その女主・姫の一夜の相手を務めさせれれるも、翌朝刺客に命を狙われ、瀕死の重傷を負う。
 半助の探りでは、姫の相手をした男は4名が殺され、1名は命からがら生き延び江戸を離れていた。
 調べを進めるうちに、大身旗本の奥方が、子種を欲しがっての行為と分かるが、使われた媚薬の出所は…。
 
第三章 鳥なき遊里の蝙蝠(こうもり)
 品川宿での化け猫騒ぎ探索の任を受けた恭次郎。相模屋で馴染みを作り、探りを入れると、遊女・小梅の哀れな話を耳にする事となった。
 愛惚れの旗本の子息の身請け話が決まり、幸福の絶頂にいた小梅を、心安く思わない旗本たちが陵辱し、身籠った小梅は堕胎に失敗して命を失ったのだった。
 その事実を隠すため、化け猫騒ぎを起こし行く方知れずとしていたのである。
 同時に、細君との間で悩む相良宇兵衛が、ついに細君とその相方を手にかけ、死に場所を求め恭次郎の前に現れる。

 一見独立した3つの話から成る構成だが、実は第一章は序章であり、御禁制の媚薬とその売人が底辺に根強くあり、最終章にて、相良宇兵衛が元薩摩藩士であった事がその太刀筋から分かり、媚薬の謎も解けるといった深い内容になっている。
 隠居後の遠山金四郎が密偵を使って、事件を解決する、いわゆる痛快時代劇系設定であるが、著者が多分好きなのだろう、立ち合いシーンに項を裂き、男性好みの仕立てになっている。
 また、物語全編に恭次郎の過去の思い人・富士森との切ない別れがあり、フェルメール(印象派の画家)がシンボリックに写し出されるなど、著者の新たな時代小説への挑戦が伺える。
 難は、レギュラー人物像のキャラはしっかりと確立しながらも、その心理状態の表現に弱さを感じた。

主要登場人物
 三枝恭次郎景光...南町与力・三枝家の二男、帰雲の隠密
 帰雲(遠山左衛門尉金四郎景元)...元南町奉行
 睡蓮の半助...遊び人、帰雲の隠密、恭次郎の相棒
 美秋...帰雲の隠密、柳橋芸者
 越山惣兵衛...上野池之端仲町・袋もの屋の主
 お敬...越山惣兵衛の娘
 三枝誠太郎...南町奉行所例繰方与力、恭次郎の兄
 千草...誠太郎の妻
 富士森...長崎丸山遊廓の遊女
 フィンセント・アーフェルカンプ...出島のドクトル(蘭方医)

 相良宇兵衛...浪人、元薩摩藩士
 ※青字は回想
 

書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村

たぶんねこ

2013年07月23日 | 畠中恵
 2013年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第12弾。


跡取り三人
こいさがし
くたびれ砂糖
みどりのたま
たぶんねこ
終 計5編の短編連作

跡取り三人
 長崎屋の主・藤兵衛に連れら、大商人たちの集まりに顔を出した一太郎。そこには同じように大店の跡取りである幸七と小一郎も同席していた。
 すると、任侠の大親分である大貞が、誰が一番、金子を稼ぐことができるのか、勝負をしようと持ち掛け、一太郎たちは、大貞の家に住み込んで仕事探しに精を出すのだが、兄探しを武家の娘に頼まれた小一郎が、剣呑な目に合わされたのきっかけに、一太郎たちの仕事は、思わぬ方に転がり出すのだった。
 「まんまこと」シリーズでお馴染みの、両国の貞こと両国の顔役・貞吉の父親・大貞が登場。という事は、「まんまこと」の麻之助、清十郎、吉五郎らと若旦那は、同時代のほぼ同世代。どちらかの物語中、是非ともジョイントして欲しい。

こいさがし
 一太郎の母・おたえは、行儀作法を仕込むべく、於こんという娘を預かった。於こんの目的は玉の輿ににあるのだが、家事は元より裁縫も何もかも不慣れな於こんは、おてつにみっちりと鍛えられている。
 そこに、先達ての大貞が、仲人をして仲介料を儲けると意気込んでいると、困り果てた富松がやって来た。時をおかずに、今度は河童の大親分・禰々子が、娘ひとりに相手2人の見合いを仕切って欲しいと持ち込んで…。
 富松の仕切る見合いには、情婦(いろ)が乗り込み、禰々子の方は、ひとり目の相手と手に手を取り合って消えていく…。

くたびれ砂糖
 安野屋で修行中の栄吉が、砂糖を買い求めに長崎屋を訪れた。伴っていた小僧・平太の態度の腹を立てた妖たちが、栄吉の行李に潜り込み、安野屋へ行ってしまったから大変。事が起こる前に妖たちを連れ戻さなければと、一太郎も安野屋へと向かった。
 件の安野屋では、主夫妻に番頭の3人が病いで倒れ、その病状が次第に進むといった問題を抱えていた。医者の処方した薬を手に、仁吉は、何かほかの物が混入していると見抜く。しかしてその犯人とは…。

みどりのたま
 頭を打ち川に落ちて記憶を失った仁吉。いつの間にか医者に間違われ、病いの老人・古松を診るはめに。だがその老人は、なぜか仁吉を白沢と呼び、旧知の仲らしい。実は古松は、荼枳尼天の庭に住まう妖狐であったが、江戸の出て来たまま戻る術を失ったのだと言う。
 古松を荼枳尼天の庭まで通じる道へと戻す為に仁吉は、記憶が戻らないまま奮闘するも、掏摸や仁吉を敵対視する妖狐の仲間に付け狙われる。 

たぶんねこ
 天界で荼枳尼天の庭にいた、幽霊の月丸が、どうしても江戸に帰りたがっていると、見越の入道が長崎屋に現れた。件の月丸は、見越の入道の巾着に中に封じ込められていたのだが、ふとした弾みで一太郎もその中に。
 夜半の江戸を彷徨いながら、月丸の江戸での望みを叶えようと、一太郎は手助けを買って出るも、巷を賑わす盗賊の刃傷沙汰を目撃したことから、追われる羽目になる。
 
 ど素人がプロの作家さんに対して甚だ生意気ではあるが、畠中恵氏は、この2~3年、見違えるくらいに腕を上げた。デビューから作風は面白く、そして楽しめているが、近年は洗練されかつさらに読み易く感じる。
 本作品は、仁吉、佐助といった準主役の出番が少なく、一太郎と新たな登場人物のかけあいが多く、ある意味で、シリーズの脱却…いや違う、シリーズの方向転換か…。マンネリを防ぎ(これまでもマンネリ感はないが)、新たなステージに入ったのではないだろうか。
 とにかく畠中氏の作品は読み易いのが特徴的であり、かつ飽きもこず、読み人を選ばないのだ。
 人気の同シリーズも既に12冊目となるが、一太郎の魅力には増々磨きがかかったようである。
 惜しむらくは、連作当初からの妖たちの出番がめっきり減ったことと、「ころころり」のようなほろ苦いストーリがみられないことである。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 おてつ...長崎屋の下女
 久郎兵衛...長崎屋の番頭
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 見越の入道...大妖
 野寺坊...獺の妖
 禰々子...関東河童の大親分
 美春屋栄吉 日本橋菓子屋の嫡男(安野屋で修行中)、一太郎の幼馴染み
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 武蔵屋幸七...日本橋塗物問屋の嫡男
 松田屋小一郎...江戸橋煙管問屋の嫡男
 大貞....両国の顔役(「まんまこと」シリーズから)
 富松...大貞の子分(「まんまこと」シリーズから)
 於こん...金狐
 平太...団子屋の息子、安野屋の丁稚  
 梅五郎...箱屋橋田屋の三男、安野屋の丁稚
 文助...表具師の息子、安野屋の丁稚
 月丸...幽霊




書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村

斎藤一~新選組三番隊組長~

2013年07月20日 | ほか作家、アンソロジーなど
菊池道人

 2003年11月発行

第一章 池田屋事件
第二章 油小路
第三章 必殺! 突き技ーー天満屋事件
第四章 敗走
第五章 新生の地 会津
第六章 春なき新天地
第七章 昨日の敵は今日の友なれど
第八章 侍たちへの挽歌ーー西南の役
終 章 永遠なれ 会津魂

 新選組屈指の剣豪であり、三番隊(組)組長の斎藤一の半生を綴ったノンフィクション的要素の多い一冊。
 明石藩足軽であった父が、御家人株を購入し、武家の身分になった山口家(斎藤一の本名)はだったが、つまらぬ諍いから旗本の子息を斬り殺してしまった斎藤は、京都へ逃れ、やがて旗揚げした壬生浪士組(新選組の前身)の門戸を叩く。
 物語は、そんな経緯を交えながら、新撰組最大の見せ場である池田屋事件から始まり、戊辰戦争での敗走により会津へと転戦。
 会津開城後、越後高田藩での謹慎→陸奥斗南藩での苦渋の生活→警視庁に出仕後西南戦争への参戦。そして死に至までを、莫大な資料から克明に描いている。
 従来の寡黙で暗殺を得意とする、陰の男としてのイメージの強かった新選組の斎藤ではなく、新政府への疑念、会津への郷愁、二度の結婚による私生活、山川浩(大蔵)ら、旧会津藩士との交流などをとおして、人間臭い喜怒哀楽も描かれている。
 
 会津戦線を離れようとする土方歳三に、「今、会津を離れるは義に非ず」。このひと言にしびれ、新選組内で一番好きな人物が、斎藤一である。大変興味深く項をめくった。
 斗南への移動方法や、そこでの至急米の事など、詳しい数値まで引用され、作者の並々ならぬ知識がそこかしこに溢れ、実に興味深いのだが、当方の認識が違っていたのか、年代に違いがみられる部分があり? の疑念が浮かぶ場面が数カ所感じられた。
 だが、斎藤一を知る上では、貴重な一冊と言えるだろう。


書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村

花ごよみ夢一夜~新選代表作時代小説 24~

2013年07月11日 | ほか作家、アンソロジーなど
浅田耕三、伊藤桂一、南条範夫、小松重男、早乙女貢、津本陽、隆慶一郎、多岐川恭、永井路子、皆川博子、戸部新十郎、安西篤子、梅本育子、荒俣宏、白石一郎、池波正太郎

 2001年11月発行

 戦い・葛藤をテーマに描かれた珠玉の短編時代小説集。

浅田耕三 首化粧
伊藤桂一 山小屋剣法
南条範夫 銀杏の実
小松重男 鎌いたち
早乙女貢 露カ涙カ
津本陽 公事宿新左
隆慶一郎 慶安御前試合
多岐川恭 二人の彰義隊士
永井路子 かこめ扇
皆川博子 美童
戸部新十郎 秘太刀“放心の位”
安西篤子 秋海棠
梅本育子 手習子の家
荒俣宏 福子妖異録
白石一郎 海峡の使者
池波正太郎 鬼平犯科帳女密偵女賊 計6編のアンソロジー集

浅田耕三 首化粧
 織田信長の陣にあり、討ち取った首に化粧を施す、首化粧の化粧手・私は、首化粧の美と魔に取り憑かれ、次第に信長の首こそ我が手で施したいといった欲求を抑え切れなくなる。

主要登場人物
 私(語り部)...化粧手

伊藤桂一 山小屋剣法
 武芸者・上坂半右衛門安久の内弟子として奥飛騨の山小屋で修行に励んだ中山家吉(松之助)。最期の仕上げとして師・安久と立ち合い、命と引き換えにその秘技を授けられ、安久の娘・加奈と共に山を下りる。

主要登場人物
 中山家吉(松之助)...一刀流の剣客・中山靫負光成の一子
 上坂半右衛門安久...武芸者
 上坂加奈...半右衛門安久の娘

南条範夫 銀杏の実 
 未読。

主要登場人物
 きわ...上州飯田村の豪農・伝右衛門の娘
 照岡亮之介...大身旗本の息子

小松重男 鎌いたち
 城下で無体を働く旗本たちに手を焼いていた会津藩。側用人の鏑木兵庫は、旗本の取締を藩主・松平肥後守正容に進言するも、幕府の目を気にし、阿呆払いにしてしまう。兼ねてより想定済みの兵庫は、妻子を伴い山林に身を置き、鎌いたちよろしく悪徳旗本の耳を削ぎ一泡吹かせる。

主要登場人物
 鏑木兵庫...会津若松藩松平家・側用人
 彦坂織部...会津若松藩松平家・勘定奉行

早乙女貢 露カ涙カ~秘剣一ノ太刀~ 
 未読。

主要登場人物
 塚原卜伝...鹿島新当流の剣豪
 足利義輝...室町幕府第13代征夷大将軍
 池田金三郎...足利義輝の小姓

津本陽 公事宿新左
 公事師としての評判も上々なら、剣客としても類を見ない大橋新左衛門・万作兄弟。新左衛門の婚礼の日、博徒たちの手痛い嫌がらせに、縁組破棄を申し出された妻となるべきうのは、自刃して果てる。祝言の前とは言え、新左衛門は18人の博徒相手に妻の敵討ちに向かう。

主要登場人物
 大橋新左衛門...武州深谷宿公事師
 大橋万之丞...新左衛門の父
 大橋万作...新左衛門の兄

隆慶一郎 慶安御前試合
 未読。

主要登場人物
 柳生兵庫助利厳...剣術家

多岐川恭 二人の彰義隊士
 上野戦争前夜、酒の上で引っ込みが付かなくなって入隊した・鳥飼十蔵は、町人に化けて上野の山を出ると言い出す。一方の香山幹之助は、激戦地となった黒門で戦うも生き延び、十蔵の隠れ家を目指す。
 だが、生き延びた筈の十蔵が、その晩の内に、つまらぬ口論が元で切り結び死亡していた。

主要登場人物
 香山幹之助...彰義隊士(御家人・御本丸表火の番)
 鳥飼十蔵...彰義隊士

永井路子 かこめ扇
 夫・久郎三の度重なる浮気に業を煮やしたかこめは、今度の相手が分限者の女借上と知ると、ふじめと共に「うわなり打ち」をしようと相談する。
 だが、それを押し止めた息子・藤三が、久郎三を迎えに行ったまま戻らず、変わって久郎三がうな垂れて戻り、「あの女、藤三に惚れやがった」と。

主要登場人物
 かこめ...扇職人
 ふじめ...鋳物職人の女房

皆川博子 美童
 陰間の藤乙は、従者で、念者の弥平次と旅を続けながら、いつか見世を持つ事を夢見ていた。だが、元来の博打好きから未を滅ぼした弥平次が、旅人を騙し金を奪い取る計画を立てるも、その旅人により弥平次もろとも藤乙も成敗される。

主要登場人物
 藤乙...飛子
 弥平次...金剛

戸部新十郎 秘太刀“放心の位” 
 未読。

安西篤子 秋海棠
 嫂・八重と割りない中となった平三郎。それを兄・儀太夫に知られ、腹を切ろうとするも、八重に止められる。八重は共に出奔しようとするが、いつしか平三郎は、身重の八重ひとりを残し、姿を決してしまった。

主要登場人物
 今西平三郎...部屋住み
 今西八重...儀太夫の妻
 今西儀太夫...某藩江戸詰め・者頭、平三郎の兄

梅本育子 手習子の家
 瀧乃の娘・美穂の手習いの師は、若かりし頃相愛だった尚太郎である。訳合って双方が別の相手と所帯を構えたが、久し振りの出会いから、静かに時を取り戻す。夫を失い後家となっていた瀧乃。妻を失った尚太郎は、今度こそ共に生きようと誓うのだった。

主要登場人物 
 尚太郎...小柳町御家流筆学指南
 瀧乃...三河町剣術道場主・伝七の娘、後家

荒俣宏 福子妖異録
 日照り旱魃を沈めるため、竜宮童子を探し出し、竜宮に返す役目を負った岐夫。父・麻人に授けられたトホウを背負い、遥かなる旅に出、様々な福子に出会いながら、誓願成就を願う。

主要登場人物
 千穂の岐夫...奥州遠野・綾織村の陰陽師
 トホウ...福子(福をもたらす精霊・神・妖)

白石一郎 海峡の使者
 かつては馬廻、船方・船頭を務めた上級藩士だった日高市五郎だが、些細な失策の責務から徒士へと格下げにされ6年。市五郎の失策の裏には、藩主・宗対馬守義真が、市五郎の許嫁であったお聖を側室へと望んだ事もあったのかも知れなかったが、今では家禄は少ないまでも、気ままな暮らしに慣れていた。
 そんな矢先、お聖乱心か? の良からぬ噂を耳にすると程なくして、藩主・義真からお聖を下げ渡される。

主要登場人物
 日高市五郎...対馬藩徒士
 お聖...藩主・宗対馬守義真側室

池波正太郎 鬼平犯科帳女密偵女賊
 茶店で女賊・お糸を見掛けたおまさ。声を掛けると、待っているのは押切の駒太郎だと言う。だが、駒太郎は、八王子で急ぎ働きを行った鳥浜の岩吉に殺害されていた。平蔵は、お糸の目の前で駒太郎の仇を討つと、お糸に密偵にならないかと持ち掛ける。

主要登場人物
 長谷川平蔵...火付盗賊改方長官
 大滝の五郎蔵...平蔵の密偵
 おまさ...平蔵の密偵
 佐沼の久七...渋谷の口合人

 恐縮です。塚原卜伝、柳生関係は、どうしても読む事が出来ませんでした。「剣客商売」は大好きなのですが、武芸関係は不得手です。活字はおろか、ドラマや映画といった映像でも苦手。
 よって、初めての未読で失礼させていただきます。
 
 大映映画を彷彿とさせる「鎌いたち」、「公事宿新左」、「二人の彰義隊士」。
 どことなくアンニュイでありまた、不思議さを醸し出す、「美童」、「福子妖異録」。
 抱腹の落ちが効いている「かこめ扇」、「海峡の使者 」など、収録作品は全て短編なので、章はあっと言う間に読む事が出来、そのほとんどが痛快な時代小説。







書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村

辰巳八景

2013年07月06日 | 山本一力
 2005年4月発行 

 深川に生きる人々の、平凡な日常に起きる素朴な泣き笑いを描いた、人情時代小説短編集。

永代橋帰帆
永代寺晩鐘
仲町の夜雨
木場の落雁
佃町の晴嵐
洲崎の秋月
やぐら下の夕照
石場の暮雪 計8編の短編集

永代の帰帆
 赤穂浪士の吉良邸討ち入りに沸く江戸で、公儀に楯突いたにも関わらず、彼らが義士扱いされるのに腹を立てる大洲屋茂助。
 だが、伊予松山藩松平家下屋敷へ、稼業の蝋燭を納めに行った際、偶然にも見掛けた白装束の大石主税。16歳の少年が見せた武士の姿に茂助は、深く感じ入る。

 ほかの作品と比べ、真意が分かり難いものの、大石主税という歴史上のスターを登用し、死に逝く者の未練、切なさそして武士道を現している。

主要登場人物
 大洲屋茂助(健太郎)...佐賀町河岸ろうそく問屋の4代目 
 吉田宗右衛門...伊予松山藩松平家家臣

永代寺晩鐘
 幕府の米買い上げにより米価が沸騰。煎餅屋を営む武蔵屋では、材料の米が手に入らず頭を抱える日々。そんな悩みをおじゅんに打ち明けられた、旧知の僧侶・西悦は、永代寺に出入りの札差・増田屋を紹介する。
 そして増田屋の跡取りに見初められたおじゅんは、その時になり、西悦への適わぬ思いを改めて知り、おじゅんは増田屋へと嫁ぐ。

 思わず青春時代を思い出す秀作そろいであるが、中でも、この物語のラストシーンの美しい光景には感動を隠せない。
 決して適う筈のない恋を、刻の鐘に万感の思いを込める打つ西悦。本文中、一度も感情の起伏を現さない西悦が、無言で刻の鐘を鳴らすシーンは痺れます。
 短編ではあるが、山本氏の作品中、一番感動した作品となった。

主要登場人物
 おじゅん...永代寺仲見世通り煎餅屋・武蔵屋の娘
 西悦...富岡八幡宮別当寺・永代寺の僧侶
 
仲町の夜雨
 好き合って夫婦になった政太郎とおこんだったが、幾ら立っても子を授からず、政太郎は子ども欲しさに妾を囲う。
 既に子を産めない身体となったおこんは、おみよに子を設けるように頼みに出向くが、おみよは頑にそれを拒むのだった。そして、それは子を産んでも本宅に取り上げられる寂しさからだとおこんは悟る。

 本妻、妾、それぞれの心の葛藤を、男性である作者が見事に表現している。

主要登場人物
 おこん...政太郎の女房
 政太郎...深川冬木町・町鳶の頭
 おみよ...政太郎の妾

木場の落雁
 行儀見習奉公先の吉野の気品と美しい所作・言葉遣いに感銘を受るさくらは、恋仲の弦太郎の粗野さが気になって仕方がない。一方の弦太郎も、さくらが滑稽に見える。
 そして、大横川の畔で、子どもたちの会話を耳にし、自身が身の丈にそぐわぬ背伸びをしていたと気付くのだった。

 違う世界に足を踏み入れたり、垣間見た時、人はこんな勘違いを仕勝ちである。そんな一話。

主要登場人物
 さくら...深川汐見橋・大工の頭領・孝次郎の娘
 弦太郎...孝次郎の弟子
 吉野...木場・材木商妻籠屋の大女将

佃島の晴嵐
 深川で暮らす新田正純は、住民の安全のためにも、近隣に橋の必要性を深く感じていた。そして、ある夏、川で妻・ききょうを亡くした正純は、その見舞金を投じて橋を架け、新田橋と名付けられた。
 それから3年後、火事で父・正純をも命を亡くしたかえでは、町の景観に父母の面影をなぞし、それが変わる事に難色を示しながらも、安全性を最優先に、新田橋の架け直しに踏み切るのだった。

 作者の意図とは違うだろうが、清廉潔白、世のため人のために生きている人の身にも不幸ってあるのだなあと、少し物悲しくなってしまった。

主要登場人物
 かえで...正純・ききょうの娘、町医者
 新田正純...永代寺門前仲町の町医者
 ききょう...正純の妻

洲崎の秋月
 厳助は、江戸の三味線屋の総元締同様の老舗・杵屋の、「難しい客」を持て成す座敷を、無遠慮な若い芸妓・仙吉の目付役も兼ねて務める事になった。
 その難しい客とは、侠客・ましらの亥吉と、その代貸・亥三郎である。
 無方図な仙吉は、案の定、失態を犯し亥吉の怒りを買うも、厳助の機転で、座敷を無事に務める事が出来た。
 この一部始終を目の当たりした、杵屋の跡取り・清次郎から、落籍話が持ち込まれるが、厳助は大いに困惑する。そして、「芸者が好きだから」。芸妓として己を全うしたいと結論を出すのだった。

 辰巳芸者の心意気を存分に堪能出来ると同時に、若気の至りーー何時の時代も人の口に上る、「今の若い者は」といった話である。

主要登場人物
 厳助...深川・常磐検番の芸妓
 仙吉...深川・常磐検番の芸妓
 杵屋清次郎 三味線屋の跡取り
 篤之助...杵屋の番頭 

やぐら下の夕照
 飛脚宿の主・遠藤屋良三は、27年前を思い起こしていた。それは、数度文のやり取りをし、1度だけ深川で会った事のある弘衛の事だった。恋と呼ぶには淡い思いと、良三の父・亮吉が亡くなり、遠藤屋を継ぐに当たり、疎遠になったほろ苦さの入り混じった若かりし日である。
 良三は、27年振りに弘衛に文を出し、あの時と同じ、仲町の櫓の前で弘衛を待つ。

 誰にでも覚えがある、青春時代のノスタルジックな思い出が、同じ場所、同じ人と見る景色の中で風化せずに蘇る。それは、それぞれが歩んだ27年の人生が満ち足りていたからこそ得られた充実感。そんな爽やかな話である。

主要登場人物
 遠藤屋良三...北品川・飛脚宿の三代目主
 弘衛...深川海辺大工町・大工の内儀

石場の暮雪
 絵草子作者を目指す一清は、大横川黒船橋たもと新兵衛店で日がな、宮本武蔵を題材とした新作に没頭していた。そんなある雨の日、出先で雪駄の鼻緒が切れ、飛び込んだ履物屋で、輝栄と出会い、これまでにない胸の高鳴りを感じる。
 名の知らぬ輝栄を「てる」と名付け、武蔵の物語に登場させた事で、これまで未熟だった作品が、版元・江木屋の目に止まるのだった。
 同時に、毎日、「あなたを想いながら、武蔵の話を書いています」。同じ文を律儀に届ける一清の実直さに、輝栄の気持ちも傾いていく。

 色恋沙汰とは無縁の実直な若者が初めて恋をし、それにより、人として深みを出していくといった、これまた「やぐら下の夕照」のような爽やかでありかつ若さって良いと微笑ましくなる内容である。
 
主要登場人物
 一清...絵草子作者の卵
 輝栄...深川古石場履物職人・信吉の娘
 芳太郎...日本橋版元・江木屋の手代



書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村