うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

きずな~信太郎人情始末帖~

2013年01月30日 | 杉本章子
 2004年7月発行

 呉服太物店美濃屋の総領息子でありながら、年上の後家・ぬいと割りない仲となり内証勘当の身となった信太郎。河原崎座の大札の下で働きながら、岡っ引きさながらの推理と智恵で難事件を解き明かす。人情始末帖シリーズ第4弾。

昔の男
深川節
ねずみ花火
鳴かぬ蛍
きずな 計5編の連作

昔の男
 吉原の引手茶屋・千歳屋の女将・おぬいに、脅しの文が届く。それは、知る人とているはずのない、先の亭主を亡くした直後の情人に関する内容だった。
 美濃屋の名を出され、脅しの主の元へ足を運んだおぬいを救ったのは、美濃屋卯兵衛だった。

深川節 ねずみ花火 鳴かぬ蛍
 旗本の放蕩息子によるとみられる女殺しがあった。そこに手証を見出した南町同心・三上小平太だった。
 兄を殺害され、急遽家督を継ぐ運びとなった磯貝貞五郎。不慮の死を遂げた兄の仇を討つため、信太郎と共に調べを進めるうちに、小平太が件の旗本に仕掛けた罠であったことに気付く。
 そしてそれは、小平太の仇討ちでもあった。
 一方、旗本の当主となった貞五郎。小つなは身分違いと切れる覚悟を決めるが、貞五郎から思わぬ申し入れがあり…。

きずな
 信太郎の父親・卯兵衛は、ぬいの人柄も気に入り、ぬいの連れ子・千代太をゆくゆくは美濃屋の跡取りにしたいと願うようになっていた。
 ぬいの不安をよそに、美濃屋への布石を気付き築きつつあった卯兵衛であったが、持病の病いが悪化し…。

 ぬいの過去にまつわる「昔の男」で始まり、そこで出会った卯兵衛とのつながりを描いた最終章の「きずな」。
 中に挟まるのは、「深川節」、「ねずみ花火」、「鳴かぬ蛍」の連作3編。貞五郎の実兄殺しが本筋となり、その背景に放蕩旗本の悪行。そして番方から晴れて定町廻り同心に直った小平太の過去が描かれる。
 そして全編を通し、大店の嫡男・信太郎と引手茶屋の女主・ぬい。武家戻った貞五郎と芸者・小つなと、双方の身分違いの恋の行方。さらには信太郎の処遇遺憾で将来が変わる妹のおゆみの恋が流れる。
 実に内容の深い1冊だった。同シリーズは3冊しか読んではいないが、この回ばかりは信太郎というより、むしろ父親の卯兵衛の懐の大きさを全面に押し出した印象が強い。
 ハッピーエンドで終わるかに思えた最期の最後に、悲しく切ない別れが、今後の同シリーズへの波紋を投げ掛ける。
 そして舞台は川原崎座から美濃屋へと移り、第二章の幕開けを感じさせている。
 実に深くかつ巧みな構成であり、著者の大きさを感じさせるシリーズである。
 信太郎が千代太へこたえる、「千代太は生まれてくる赤ん坊より先に、おれの子になるのさ」の台詞や、信太郎と卯兵衛の別れのシーンはぐっと胸に込み上げる物がある。さらりと短文で締めながらも要所はきちんと押さえた技巧はお見事。
 書評で読み限り、増々面白くなっている様子。是非とも続けて読みたいシリーズだ。

主要登場人物
 信太郎...本町呉服太物店・美濃屋卯兵衛の総領息子(内証勘当中)、猿若町川原崎座の大札下働き
 千歳屋ぬい...吉原仲之町引手茶屋・千歳屋の女将、信太郎の情婦
 千代太...ぬいの連れ子
 おみち...信太郎・ぬいの娘 
 元吉...岡っ引き・徳次の手下、信太郎の幼馴染

 徳次...日本橋北から両国広小路縄張りの岡っ引き、中山弥一郎の小者
 彦作...千歳屋の番頭
 和助...千歳屋の男衆
 中山弥一郎...南町奉行所定町廻り同心
 久右衛門...川原崎座の大札、ぬいの叔父
 磯貝貞五郎...川原崎座の囃子方、本所石原町・御家人磯貝家の部屋住み

 小つな...柳橋の芸者、貞五郎の情婦
 美濃屋卯兵衛...美濃屋の主、信太郎の父親
 嶋屋庄二郎...大伝馬町木綿問屋の主、信太郎の義兄
 おふじ...庄二郎の女房、信太郎の姉
 おゆみ...信太郎の妹
 仁平...美濃屋の番頭
 二代目河竹新七...川原崎座の立作者
 三上小平太...南町奉行所定町廻り同心



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水雷屯~信太郎人情始末帖~

2013年01月26日 | 杉本章子
 2002年3月発行

 呉服太物店美濃屋の総領息子でありながら、年上の後家・ぬいと割りない仲となり内証勘当の身となった信太郎。河原崎座の大札の下で働きながら、岡っ引きさながらの推理と智恵で難事件を解き明かす。人情始末帖シリーズ第2弾。

水雷屯
ほうき星の夜
前触れ火事
外面
うぐいす屋敷 計5編の短編連作集

水雷屯
 信太郎の義兄・嶋屋庄二郎は、妾宅で盗人に押入られ、預りものの手形を盗まれてしまった上、庄二郎の子を宿した筈の妾・おちかの行方が知れなくなってしまった。思い余った庄二郎は、信太郎から岡っ引きの手下の元吉を紹介されるが、勝手に依頼を受けたと、今度は元吉まで苦境に立たされてしまう。

ほうき星の夜
 元吉の兄貴分の常蔵が何者かに殺害された。その日、言い争うのを目撃されていた元吉に、当然容疑がかかり、元吉は番屋へと引き立てられる。そもそも2人争いは、先の嶋屋庄二郎の一件にあり、責任を感じた信太郎は、元吉の無実を立証する為に奔走する。

前触れ火事
 磯貝貞五郎の相方・小つなの贔屓の呉服屋枡屋がもらい火によって焼け、主も焼死した。小つなは、お座敷で耳にした話から、火事に見せ掛けた枡屋殺害を目的とした付け火であるのではないかと疑念を抱く。

外面
 居酒店にたまたま居合わせた中間風の男が店を出たところで何者かに殺されていた。どうにも、その男と今しがたまで一緒だった泣きぼくろの男の正体を突き止めなくてはならなくなった信太郎は、光雲堂の看板を掲げる怪しげな占い師に行き当たる。

うぐいす屋敷
 信太郎と同じ裏店・万平店の植木職人・かん助は、借金のかたに植正の印半纏を取り上げられてしまった。その後、かん助の半纏を纏った男が遺骸で発見され、またかん助自身と同じ植正のの乙八も辻斬りに遭ってしまう。一連の事件は、かん助を狙っての仕業ではないかと信太郎は動き出す。

 進行形のこシリーズ。事件の脇では千歳屋ぬいが信太郎の子を宿しながらも、大店の総領息子である信太郎とは添えない。一方の信太郎は、ぬいの連れ子・千代太に2人の仲を認めて貰いたいといった、サイドストーリが展開する。
 どこか掴みどころのない信太郎ではあるが、同じ長屋の人々との交流がほとんどの章で描かれ、1作目より人間味のある、サブタイトルの「人情始末帖」に相応しい内容になっていた。
 穏やかな人柄の主人公が、図らずも事件に巻き込まれ、それを頭脳で解き明かす。派手な殺陣や大掛かりな設定はないが、どこかほっとするシリーズである。
 それは内容ももちろんであるが、作者の技量によるところも大きく、こういった安定感のある時代小説に出会うとほっとする。

主要登場人物
 信太郎...本町呉服太物店・美濃屋卯兵衛の総領息子(内証勘当中)、猿若町川原崎座の大札下働き
 千歳屋ぬい...吉原仲之町引手茶屋・千歳屋の女将、信太郎の情婦
 千代太...ぬいの連れ子 
 元吉...岡っ引き・徳次の手下、信太郎の幼馴染

 徳次...日本橋北から両国広小路縄張りの岡っ引き、中山弥一郎の小者
 彦作...千歳屋の番頭
 和助...千歳屋の男衆
 
 中山弥一郎...南町奉行所定町廻り同心
 久右衛門...川原崎座の大札、ぬいの叔父
 磯貝貞五郎...川原崎座の囃子方、本所石原町・御家人磯貝家の部屋住み

 小つな...柳橋の芸者、貞五郎の情婦
 美濃屋卯兵衛...信太郎の父
 嶋屋庄二郎...大伝馬町木綿問屋の主、信太郎の義兄
 平六...研ぎ屋、慶養寺門前町・万平店の店子
 為次...瓦職人、万平店の店子
 かん助...入谷の植木屋・植正の職人、万平店の店子
 二代目河竹新七...川原崎座の立作者


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善魂宿

2013年01月23日 | ほか作家、アンソロジーなど
坂東真砂子

 2002年3月発行

 かつては集落だった天鏡峠に連なる山襞に建つ合掌造りの一軒家。路に迷った旅人たちが、一夜の宿と引き換えに、そこに住まう母と息子に語る、切なく不可思議かつ幻想的な物語集。

第一話 侍の妻
第二話 毒消し売り
第三話 盆嬶
第四話 無限寺
第五話 天鏡峠
第六話 餅のなる樹 計6編の短編連作

第一話 侍の妻
 大坂から孫娘を連れて能登の縁者の元へ向かう途中、路に迷った老人・安助は、明治の初め、境で起きた土佐藩足が発砲し、 仏蘭西兵11名を射殺した泉州堺事件。それにまつわる、土佐藩足軽・荘一と時八茶屋の茶屋娘・みつの淡く切ない恋を語るも、無念のみつの思いは孫娘に残っていた。
 
第二話 毒消し売り
 明治初頭、瞬く間に日本全土に広がったコロリ(コレラ)。越後の船乗り・信太は幼い頃、そのコロリ騒動で暴徒と化した町の人々が、余所者の若い男を毒を流したとして惨殺する様を目撃し、人々の裏と表の顔の怖さを語る。

第三話 盆嬶
 彼岸の日に日金山に登れば、死んだ人に必ず会えるという言い伝えを信じ、日金山を目指していた老女・シデ。彼女の育った村では、15歳の娘と籤で決められた若者が、盆の3日間を夫婦として過ごす盆嬶なる仕来りがあった。シデは、その時盆嬶となった相手の寿夫に会いたいと、再び日金山を目指す。
 シデの去った後、母親は、旅の途中で立ち寄り死んだ男の墓を思い出すのだった。

第四話 無限寺
 加賀の仏壇売りが語る、表裏一体の幸せの話。無限の鐘を鳴らせば、願い事が叶うという言い伝えを信じ、おどろおどろしい試練に耐えた甲之助は、孤児の身の上から大成。落ちぶれたかつての主家・加賀の廻船問屋を我が物にし、その末娘・摂を嫁にしたのだが、疑心が沸き上がると同時に、運が掌から零れ落ちたのだった。

第五話 天鏡峠
 鏡磨きの老人・丑六は、たった一軒となった家で暮らす母と永吉に目を見張った。
 彼こそは、永吉と母親が暮らすこの北屋と呼ばれる合掌造りの家を出奔した小父であった。
 その話では、そこには昔、南屋、北屋、東屋、西屋の4軒が居を構え、どこにも20~40人の一族が共に寝起きしていた。その集落には夫婦の制度はなく、嬶の長男が御亭、長女が嬶となる世襲制であったが、時代と共に人々は町へと流れ、いつしか集落は寂れていったのだった。
 
第六話 餅のなる樹
 丑六の打ち明け話に続き、ちぬがこれまで語る事のなかった出来事を話し出す。
 永吉の母親もまた北屋の嬶であった。櫛の歯が抜けるように人々が集落を離れて行く中、ちぬ(永吉の母親)
は、兄の永吉と下の村を目指すが、兄とはぐれた折りに、伝説の餅のなる樹を見付け、集落へ戻る決心を固めた。そして、一族を見送り息子と2人で生きて来たのだった。
 一夜明け、己が居場所で息を引き取っていた丑六を葬った後、ちぬ(ちせ)は、息子の長吉に集落を下りるように諭す。

 時代は徳川から明治に変われど、世間から隔離された秘境にある合掌造りの一軒家で、下界とは遮断された昔ながらの生活を営む母と息子。そこを訪れるのは路に迷った旅人ばかり。
 その旅人が語り部となる物語である。
 舞台となるのは、合掌造りという事や、合掌造り一軒のみということで、上平村猪谷を連想させるが、白川郷もしくは五箇山辺り、昔はもっと多かったであろう富山、加賀近辺の集落をモデルとした、架空の村と思われる。
 女系の一族が一軒の家に暮らし、子供を産み労働力を確保しながら集落を継承していった独特の文化であったが、町の豊かな暮らしを知った若者たちが離れ始めると、後はあれよあれよと集落は寂れ、母息子2人のみが暮らしているのだった。
 こういった背景の元、一夫一婦制が確立されず、女性の処女性も尊ばれない独特の文化を如実に織り込みながら、隔離された村での言い伝えや風習を伝えている。
 迷い人の話は冒頭でも書いたように、切なく、幻想的で不可思議であるが、筆者は各項目のラストにミステリー的な落ちを用意している。
 また、合掌造りの山麓の村といった設定に相応しい、自然の移り変わりの描写が素晴らしい。
 永吉の日常を追いながら、四季を肌で感じる事が出来る。
 後から後から興味が沸き、3時間強で読み終えたのだが、頁を閉じ、不思議な虚脱感に襲われた。
 こういった暮らしがあったのだろう。それも明治と言ったそう遠くない時代まで続いていたのだ。
 美しい自然を捨て、町へと人は集まり豊かになったと同時に、失った代償が、この集落にはあるのではないだろうか。
 それが、本書の冒頭で語られている言葉であろう。
「大昔、山に餅がなったものじゃそうな。みながそれを取って、仲良く食べている間は、平和で幸せじゃったそうな。 そうじゃが人間がだんだん利口になって、頭がどんどん重とうなってきた。あんまり重たいもんじゃで、背丈が縮んで きたんじゃとよ。それで餅の樹にも手が届かんようになってまったと。なさけないこっちゃ」
 文中、エロティックな描写が多用されているが、昔の閉鎖された集落での性はこうだったのだろう。性描写でありながら、山麓での暮らしの一端として必要不可欠な表現だったと思われる。
 藤沢周平氏描く所の庄内地方が、映像化された折りのタイトルバックの景色が脳裏を過った。
 また、高知県出身の著者が、加賀地方の歴史や方言(方言は大坂、越後なども書き分けている)を調べ本書を書き上げた情熱の平伏する思いである。

主要登場人物
 永吉...天鏡峠近くの集落・北屋の御亭
 ちせ(幼名・ちぬ)...永吉の母親、北屋の嬶



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色と欲の 異色人物日本史~怪奇と謎に満ち満ちた英雄たちの意外な素顔 ~

2013年01月23日 | ほか作家、アンソロジーなど
風早恵介

 1994年2月発行

 日本史に名を残す英雄・名将たちの、色と欲に彩られた知られざる意外な素顔を描いた一冊。

はじめに
紫式部
 名著『源氏物語』は、実は式部の創作ではなかった!?
貝原益軒
 誰のための女大学であり養生訓であったのだろうか
紀伊国屋文左衛門
 彼の富を喰いつぶせと仕掛けた幕府の奸計とは?
武田信玄と勝頼
 過激な傭兵に領民は青息吐息-万卒枯れた甲斐軍団の怪
額田王
 古代の皇子たちを悩殺した歌姫の“相聞歌”は?
平賀源内
 讃岐が生んだ一代の奇傑も、時代を先取りしすぎて失敗
お岩と鶴屋南北
 身も凍る“四谷怪談”が出来上がるまで
榎本武揚
 今浦島の思いも束の間、留学帰りの彼の目に映ったものは?
琵琶法師 芳一
 平家の怨霊にとりつかれた芳一が失ったものは?
玉藻前
 鳥羽上皇を寵絡する彼女は、妖狐金毛九尾の化身だった!
北条時宗
 二万五千余のモンゴル軍を迎え撃つ鎮西奉行の秘策とは?
いま一つの忠臣蔵
 吉宗の秘策から生まれた『仮名手本忠臣蔵』とは?
小野お通
 信長、秀吉、家康に大切にされた女の謎の生涯
怪談・番町皿屋敷
 お菊と青山播磨も逃げだす皿屋敷の由来と狙い
天草四郎と金鍔次兵衛
 救世主を担ぎだして幕府と対決した怪男児・次兵衛とは?

 短編歴史書として、またはルポ物、歴史ハウツー本として読み始めたが、これは小説だろうか? 人物や史実の検証は子細であり、例えば「いま一つの忠臣蔵」の項では、吉良家に続く高家の名前を全て網羅するなど作者の歴史に関しての見識の深さがそこかしこに滲み出ている。
 そんな歴史に残る怪奇話や史実をヒントに作者が書き下ろした小説のような気がした一冊。
 因に表題の「色と欲の 異色人物日本史」であるが、これは出版社側が付けたのだろう。作者の意図としては、全く感じられない。むしろ、作者の真面目さの勝った文章である。



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父子雲~藍染袴お匙帖~

2013年01月20日 | 藤原緋沙子
 2006年発行

 外科、本道(内科)を習得し、長崎でシーボルトから先進医術を、学び、かつ武芸にも秀でた女医者の桂千鶴が事件を紐解くシリーズ第3弾。

第一章 父子雲
第二章 残り香 計2編の中編集

第一章 父子雲
 放蕩の末、父を自害に追い込んだシーボルトに仇討ちを企てる旗本の嫡男・進一郎。そして進一郎絡みの陰謀に巻き込まれる実弟の進介を救うべく、千鶴は進一郎の闇を糾弾する。

第二章 残り香
 千鶴の亡き父・桂東湖の朋友でもあり、父とも慕う医師の酔楽の隠し子が発覚する。老齢になってからの我が子に相好を崩し、その母子に100両もの大金を工面する酔楽。千鶴は、騙りではないのかと真相を調べるのだった。

 「桂ちづる診察日録」のタイトルでドラマ化されたほか、劇場での上演もされた人気シリーズである。
 話の筋そのものは、人情風でもあり、爽やかでもあるのだが、どうにも接続詞の稚拙さが気になり、何度も読む事を断念しようとした。
 同じ言葉を二行の中に繰り返したりと、文章に付いていけなくなってしまった。そちらが気になり、内容が頭に入ってこなかった。
 以前、「白い霧~渡り用人 片桐弦一郎控~」を読んだ折りには、読み易い文体であっと言う間だったのだが…。
 編集者が違ったという事なのだろうか。文体を気にしなければ良いのだろうが…。
 多くの方が絶賛しており、人気シリーズでもあるので、一重に当方の求める物と、作者との相性の問題もあるのだろう。
 
主要登場人物
 桂千鶴...桂治療院の女医師
 お竹...桂家の女中
 お道...千鶴の助手、呉服屋伊勢屋嘉右衛門の二女
 酔楽...医師、東湖(千鶴の父親)の朋友
 五郎政...酔楽の下男、元侠客
 市蔵...五郎政の弟分、虫や野草の振売り
 菊池求馬...旗本の当主
 浦島亀之助...南町奉行所定町廻り補佐役
 猫目の甚八...亀之助の小者(岡っ引き) 




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新選組全史~幕末・京都編~

2013年01月17日 | 新撰組関連
中村彰彦

(単行本「決断! 新選組」 1985年発行を加筆改正し改題)

 2001年7月発行

 近藤勇と多摩の名士たちとの関わりから新選組絶頂期までの歴史書。

はじめに
第一章 試衛館の青春
第二章 新選組誕生
第三章 怒濤と化して
第四章 絶頂の時
第五章 伊東甲子太郎の新選組加盟
第六章 逝くもののごとく

 近藤勇が試衛館の跡目となり、やがて浪士組として京に上る。その後、新選組絶頂期を迎え、伊東甲子太郎加盟までを膨大な資料を元に著者が検証、推理した歴史書である。
 新選組史書のバイブルと言われる、子母澤寛氏の「新選組始末記 」、「新選組遺聞」、「新選組物語」三部作始め、新選組二番組組長・永倉新八著述の「新選組顛末記」、「浪士文久報国記事」や、 元隊士が後に残した書籍を読み下し、文献を照らし合わせ、これまでの定説の過ちや、著者の受け止め方を記している。
 また、新選組の支援者でもあった日野宿組合名主・佐藤彦五郎(土方歳三の義兄)や多摩郡小野路村名主・小島鹿之助らの証言から、近藤勇の人物像にも迫っている。

 これまで新選組に関する書籍は幾冊か読んでいたが、新たな発見に胸を躍らせたのは、近藤は気さくな人物でアあったらしいが、所謂(いわゆる)試衛館の若様であり、下からの叩き上げの者への労いに掛けていたといった記述。
 さらに、彼らと接触をした他藩の士族の記述で、土方歳三とは、柔和で人当たりも良く、配下への心配りが出来、近藤に欠けている部分を補っていたという点。土方が参謀につかなければ、近藤では隊をまとめ上げられなかったどろうと。
 これは、会津に行ってからの土方の評価と同じであった。これまでの鬼の副長への見方が変わった節である。
 また、子母澤寛氏の新選組三部作を読んで、彼はルポライターだと思っていたが、昨今作家と知り、その内容も本人が作り話と語っていたと本書は記している点。さらに、新選組三部作の中で谷万太郎と谷三十郎の項において、これまでの自分の知識と違い頭を捻ったものだったが、中村氏は、子母澤氏は万太郎と三十郎を取り違えていると断言している。それなら、当方の疑念も解決したのだった。
 これは当時の編集者の手落ちであろう。
 このように、目から鱗の内容が詰まった資料としても一級品の作品であった。
 新選組ファンであれば是非とも目を通していただきたい一冊である。
 関連書籍に「新選組全史~幕末・函館編~」がある。




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白い霧~渡り用人 片桐弦一郎控~

2013年01月10日 | 藤原緋沙子
 2006年8月発行

 御家改易により浪人となった片桐弦一郎が、口入れ屋の依頼で、渡り用人となり旗本家の建て直しに奔走するシリーズ第1弾。

第一話 雨のあと
第二話 こおろぎ
第三話 白い霧 長編

 嫡男・辰之助の道楽により、財政難に陥った旗本五百石・内藤家の再建のため、三月の間の用人を務めることになった片桐弦一郎。
 内藤家の門前には、取り立てにいきり立つ青茶婆のおきんの姿があった。
 やがて弦一郎は、放蕩息子・辰之助の心の隙き間を埋めると共に、青茶婆のおきんの凍てついた心をも氷解させていく。
 そして、舞台は内藤家の知行地・葉山村へと移り、村の発展のために尽力するのだった。

 心を鎖した人々が、弦一郎との出会いでやがて人間としての温かさを取り戻していく。そして、捕物あり殺陣ありの爽快時代小説である。
 だが、切なさのある内容も織り込んでいるが、独創性に欠ける感は否めず、片桐弦一郎の、剣の達人であり人品卑しからぬ設定が、このところ読みふけっている澤田ふじ子氏の「公事宿事件書留帳」、「祇園社神灯事件簿」、「足引き寺閻魔帳」シリーズを彷彿とさせる。
 もうひとつ、 片桐弦一郎の人間味が希薄な気がした。
 そして、殺陣シーンや事件解決などのタッチは、あっさりと流されており、剣の達人の件は必要だったのかと疑問を抱く。
 しかしながら、何より読み易い文体であり、1日掛からずにひと息で読んでしまった。
 当書は、シリーズ1作目なので、後続のシリーズは更にバージョンアップされていると思われる。

主要登場人物
  片桐弦一郎...通油町・古本屋大和屋の筆耕、神田松永町武蔵屋の店子
 おゆき...神田松永町・材木問屋・武蔵屋利兵衛の娘
 万年屋金之助...本石町・口入れ屋の主
 鬼政(政五郎)...北町奉行所定町廻り同心・宅間普助の小者(岡っ引き)
 お歌...神田佐久間町・煮売り屋千成屋の女将、鬼政の母親
 内藤辰之助...旗本五百石・内藤孫太夫の嫡男
 増川三平...内藤家の若党
 与吉...内藤家の中間
 おきん...馬喰町・青茶婆(借金取り立て屋)
 藤兵衛...内藤家知行地・葉山村・名主
 兼七...名主・藤兵衛宅の手代
 


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嵐山殺景 ~足引き寺閻魔帳~

2013年01月09日 | 澤田ふじ子
 2003年9月発行

 正義を全うし、強気を挫き弱気を助ける闇の仕事師たち。訳あり僧侶の宗徳率いる足引き寺一派の爽快時代小説第4弾。

第一話 白い牙
第二話 嵐山殺景
第三話 仲蔵の絵
第四話 色がらみ銭の匂い
第五話 盗みの穴
第六話 世間の河 計6編の短編連作

第一話 白い牙
 養女とその連れ合いに店を乗っ取られ、その日の暮らしにも事欠くやきもの問屋・大木屋の隠居・お吉の窮状に、豪が牙を剥く。

第二話 嵐山殺景
 姉小路通りのお堂にひたすら祈る娘・お雪を放っておけなくなったお琳。訳を訊ねると両の親に先立たれ、宛もないと言う。更に、昨今他界した父親・勘助(大工)の死因に疑念を抱く。

第三話 仲蔵の絵
 寺町錦小路の河村座に錦蛇が投げ込まれるなど嫌がらせが続いた。また、そこで下働きをする仲蔵の絵の才能を見出したお琳は、彼を世に出したいと支援するも、嫌がらせの狙いは仲蔵への妬みであることが判明する。

第四話 色がらみ銭の匂い
 ならず者たちに命を狙われた男・蔵人足の仁吉に加勢した豪だったが、自身も瀕死の重傷を負う。看病のかいなく仁吉は命を落とすが、彼の妹が入水自殺していたことが分かり、宗徳たちが深い遺恨を探る中、豪は復讐に走る。

第五話 盗みの穴
 墓所の供え物を漁り、寺社の縁の下で暮らす幼い姉弟・おふさと市松を枡屋に連れ帰ったお貴和。聞けば両の親を殺され、賊から逃れる為に身を隠していると言う。子どもたちの命を救う為、そして親を殺した悪党を退治するため、足引き寺一派は立ち上がる。

第六話 世間の河
 仇討ちの旅に出たが路銀が尽き、大道芸で日銭を稼ごうとしていた中間の弥七と出会った蓮根左仲は、弥七の清々しい心根に惹かれる。そして、仇討ちの空しさを感じる弥七と僅か12歳の幼き主・新十郎に、新たな生き方を進言するのだった。

 善と悪をテーマに正義感を貫く作品が多い筆者の中でも、典型的な正義の作品と言えるだろう。
 設定は「公事宿事件書留帳」シリーズと似通ってもあいるが、扱う事件で違いを現している。そして何よりも、闇を裁くテーマながら爽快感が全編を通じて感じられる。話の中には、悲しい場面も含まれるが。
 特徴的なのは、紀州犬の豪にも人格(犬格)を持たせているところ。
 ひと言で言うなら、ドラマ「必殺」シリーズの殺し屋たちが、損得なしに本来の正義心から動くといった話である。
 「仲蔵の絵」は切ない話であったが、「盗みの穴」、「世間の河」などは明るい締め括りに仕上がっており、わたしは好きです。このシリーズ。
 そして澤田氏の作品を何冊か読ませていただいたが、彼女の博識、そして時代考証には頭が下がる思いである。

主要登場人物
 宗徳(黒田小十郎)...東山知恩院末寺・綾小路地蔵寺住持、元西町奉行所与力・黒田長兵衛の二男、(足引き寺一派)
 蓮根左仲...西町奉行所定町廻り同心、(足引き寺一派)
 豪...宗徳の愛犬(紀州犬)、(足引き寺一派)
 お琳...扇絵師、大垣藩浪人の娘、(足引き寺一派)
 与惣次...羅宇屋、左仲の小者、(足引き寺一派) 
 黒田大十郎...西町奉行所与力、宗徳の実兄
 枡屋喜左衛門...四条旅籠の主
 お貴和...枡屋の養女
 伊兵衛...枡屋の番頭


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見えない橋

2013年01月06日 | 澤田ふじ子
 1993年9月発行

 妻が不義密通の末、出奔。藩命にて女敵討ちに出た岩間三良が旅の果てに出した結論とは…。

第一章 早春城画譜
第二章 仲秋夜能(やのう)
第三章 闇の足音
第四章 無明の旅
第五章 見えない橋 長編

 美濃大垣藩士・岩間三良は、家中屈指の剣の遣い手として知られる一方、生真面目な性格から上役や同輩との折り合いが悪く、郡同心へと役替になった。
 郡同心の役目は、領内の村々を視察することで、役目に邁進する三良だったが、役宅に残された新妻の加奈には、埋め切れない寂しさがあった。
 そんな折り、ふと出会った大蔵奉行の息子・大隅佐四郎に強い思慕を抱いた加奈は、あろうことか、三良の留守を良いことに不義密通を重ね、事が露見すると佐四郎共々出奔を果たす。
 藩から下されたのは、女仇討ち。宛のない旅に身をやつしながら三良は、その空しさを胸に抱え込むのだった。
 そして仇に巡り会った時、三良は苦渋の決断を…。

 表題、そして最終章の「見えない橋」の持つ意味合いが、大きく伸し掛かる作品であった。夫婦愛、藩内での政治、そこに文化・芸術を背景にした、壮大な時代が展開される。
 三良の役替前の務めである勝手方掛(納戸役)が、物語の終盤に大きな意味合いを持つばかりか、話の枝葉で、絵師を目指す子どもが登場するが、その子を通して物語全体の時代を芸術面から読ませるなど、深い内容の作品になっている。
 結果は、全く予期せぬ終わり方で、私個人としては、三良に刃を振るって貰いたかったの念が否めないが、作者は、当時の決まりの無意味さ、空しさ、そして命の尊さを説くと共に、そうならざるを得なかった事の過程を言いたかったのだと思われる。
 ひとつの結果に至までに、辿った道筋を、三良の旅を通して思い知ることが出来る。
 同時に、人もひとつの顔だけではなく、幾重もの表情を持ち備えながら、たまたま巡り合わせでそれが善にも悪にもなると受け止めた。
 読めば読む程、作者から投げ掛けられた人=生き方といったものを深く考えさせられる作品である。
 至極の作品に巡り会えた。

主要登場人物
 岩間三良...美濃大垣藩戸田家・郡奉行所同心
 岩間加奈(おきぬ)...三良の妻、大垣藩寺社奉行与力・生田平内の娘
 沖伝蔵...大垣藩・歩行横目付、三良の朋友
 浄円(飯森惣助)...京・知恩院派浄願寺住持、元大垣藩・足軽の五男、三良の朋友
 岩根帯刀...大垣藩大目付番頭、三良の義兄
 乙松...生田家下男
 小平太...大垣藩領平野村の百姓の息子→京四条富小路の絵師・松村景文の弟子
 杉田市兵衛...大垣藩・郡奉行所同心
 大隅佐四郎(佐助)...大垣藩・大蔵奉行・大隅太兵衛兵の庶子(四男)
 櫟屋七郎兵衛...京仏光寺烏丸西・諸道具目利屋の主 



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江戸の怪奇譚~人はこんなにも恐ろしい~

2013年01月06日 | ほか作家、アンソロジーなど
氏家幹人

 2005年12月発行

 「怪談の向こうに江戸の真実が見える」と唱える著者による、江戸時代の物の怪にまつわる話の集大成。

プロローグ
神隠し
河童
十六歳
奇病
猫娘
嫉妬
イジメ
炎の女
老人介護
ひとつ家
懐疑的
凶宅
エピローグ

 江戸で起きた奇々怪々な出来事。それは物の怪の悪戯なのか。今も昔も本当に怖いのは、人の心の闇が生んだ「現実」と著者は言う。
 魑魅魍魎の仕業とされた事件ながらも、そこには人の嫉妬や妬みなどが渦巻いていたのではないか。
 「一話一語」、「天保雑記」、「甲子夜話」、「耳嚢」、「微妙公家夜話」など、実に百冊にも及ぶ江戸時代から現代に書かれた文献を元に著者が編纂した不思議な話と、その解釈が記された一冊。
 例えば、口から針を吐いた少女。殺人鬼へと豹変した真面目な旗本の亡霊。突如、母親を切り刻んだ姉弟から旗本の虐めによる刃傷などなど、実際に起きた(とされる)事件が事細かに記されている。

 とても丁寧に、年代、関係者の在所、所属、身分、名前まで入っており、著者が言うように、江戸の真実が見えてくる。
 そして興味深かったのは、歴々の時代小説作家が題材として取り上げた事件も多々含まれており、やはり江戸を語る上には、当時怪談とされていた出来事は欠かせない事件であったと実感する。
 そして、江戸時代にも拉致、虐待、イジメ、ストリートチルドレンなど、現代社会にも通底する諸問題があったことを実感させられた。歴史書として読んでみたい一冊である。




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討たれざるもの

2013年01月03日 | 澤田ふじ子
 1983年3月発行

霧の中の刺客
闇の音
討たれざるもの
冬の鼓
扇の月
鬼火 計6編の短編集

 時代の桎梏のなかに生きる、男女の哀歓を綴った6編。

美濃大垣藩戸田家
霧の中の刺客
 西陣の紋織職人・菊臓は、好いたおしの父親の借金の為、美濃大垣藩の誘いに乗り、美濃へ向かおうとするも、 西陣の技術流出を許さない高機八組の雇う伊賀者に捉るのだった。

主要登場人物
 菊臓...織屋・橘屋の紋織職人
 おしの...大工・辰五郎の娘

闇の音
 出石又十郎は、亡き父・頼母の朋輩だった菊沢藤蔵の悪事を知る事になった。それは清廉な藩士に冤罪を押し付け、己の保身を計ったものであり、真実を暴く事が、亡き父への餞でもあると思い込んだのだが、真実は又十郎を破滅へと導くのだった。

主要登場人物
 出石又十郎...近江仁正寺藩(後の西大路藩)勘定所上納役郷村出役
 菊沢藤蔵...仁正寺藩郡奉行
 徳之助...仁正寺藩元勘定所役人・帳佐衛門の遺児

討たれざるもの
 素人離れした絵を描く大垣藩士・間宮十蔵。大商人・美濃屋嘉兵衛から別邸に襖絵を依頼されるが、その評判を耳にした前藩主氏英の側室・瑞泉院(寿々)に懇願され、白衣観音像を描く。だが、それを面白くない藩絵師・狩野唯雪から横槍が入り、十蔵の上意討ちが下される。その時十蔵は、唯雪を斬り脱藩する。

主要登場人物
 間宮十蔵...美濃大垣藩郡奉行下役
 美濃屋嘉兵衛...伝馬町海産物・雑穀商

冬の鼓
 先の嫁ぎ先に息子を取られ離縁された寿乃であったが、奈倉弥右衛門に再嫁し、弥右衛門の嫡男・弥一郎を育て上げ、平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、浪人のような風貌の実子・田中清十郎が膳所から目の前に現れる。

主要登場人物
 奈倉弥右衛門...美濃大垣藩勘定所詰
 奈倉寿乃...弥右衛門の後妻
 田中清十郎...寿乃の実子

扇の月
 北小路基安は、身分こそ正三位の官位をもつ朝臣であるが、内状は三十石三人扶持の無役の平堂上(公家)である。ために、扇面の絵付けをし、小銭を稼いでいた。
 ある日、扇屋・俵屋に居合わせた二条定番(二条城警固)の侍に密絵(あぶな絵)を依頼されるが、その無礼さに腹を立てた挙げ句斬り合いとなり落命する。
 真実をねじ曲げられた、妻・薫子は、復讐のために立ち上がる。

主要登場人物
 北小路基安...正三位・平堂上
 薫子...基安の妻
 甚十郎...日野西家・根来同心

鬼火 
 貧しい小作百姓の娘・おあきは、5年年期で祖父と孫ほども年の離れた料理屋・魚文の隠居・又左衛門の元へ妾奉公の出された。だが、わずか1年で又左衛門はみまかり、その後は、強欲な魚文の当代・安太郎の命で、更に僧了順の元へと妾に出される事になり、心を通わせていた織物師の重蔵が、おあきの借財を肩代わりする事となるのだが、そこには罠が仕掛けられていた。

主要登場人物
 おあき...下笠村・小作百姓の娘
 魚文安太郎...三条東洞院西・料理屋の主
 重蔵...西陣・織職人
 

 全話、切なくほろ苦い人間模様が描かれており、世の中の理不尽さに、胸が締め付けられる作品集であった。
 表題の「討たれざるもの」のみ、ほっと胸を撫で下ろす事が出来るものの、それぞれの話の主人公の選択は、もの悲し過ぎた。
 こういった市井に生きる人々を描く、澤田氏の情感をひしと感じられる作品集である。




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