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呉服太物店美濃屋の総領息子でありながら、年上の後家・ぬいと割りない仲となり内証勘当の身となった信太郎。河原崎座の大札の下で働きながら、岡っ引きさながらの推理と智恵で難事件を解き明かす。人情始末帖シリーズ第4弾。
昔の男
深川節
ねずみ花火
鳴かぬ蛍
きずな 計5編の連作
昔の男
吉原の引手茶屋・千歳屋の女将・おぬいに、脅しの文が届く。それは、知る人とているはずのない、先の亭主を亡くした直後の情人に関する内容だった。
美濃屋の名を出され、脅しの主の元へ足を運んだおぬいを救ったのは、美濃屋卯兵衛だった。
深川節 ねずみ花火 鳴かぬ蛍
旗本の放蕩息子によるとみられる女殺しがあった。そこに手証を見出した南町同心・三上小平太だった。
兄を殺害され、急遽家督を継ぐ運びとなった磯貝貞五郎。不慮の死を遂げた兄の仇を討つため、信太郎と共に調べを進めるうちに、小平太が件の旗本に仕掛けた罠であったことに気付く。
そしてそれは、小平太の仇討ちでもあった。
一方、旗本の当主となった貞五郎。小つなは身分違いと切れる覚悟を決めるが、貞五郎から思わぬ申し入れがあり…。
きずな
信太郎の父親・卯兵衛は、ぬいの人柄も気に入り、ぬいの連れ子・千代太をゆくゆくは美濃屋の跡取りにしたいと願うようになっていた。
ぬいの不安をよそに、美濃屋への布石を気付き築きつつあった卯兵衛であったが、持病の病いが悪化し…。
ぬいの過去にまつわる「昔の男」で始まり、そこで出会った卯兵衛とのつながりを描いた最終章の「きずな」。
中に挟まるのは、「深川節」、「ねずみ花火」、「鳴かぬ蛍」の連作3編。貞五郎の実兄殺しが本筋となり、その背景に放蕩旗本の悪行。そして番方から晴れて定町廻り同心に直った小平太の過去が描かれる。
そして全編を通し、大店の嫡男・信太郎と引手茶屋の女主・ぬい。武家戻った貞五郎と芸者・小つなと、双方の身分違いの恋の行方。さらには信太郎の処遇遺憾で将来が変わる妹のおゆみの恋が流れる。
実に内容の深い1冊だった。同シリーズは3冊しか読んではいないが、この回ばかりは信太郎というより、むしろ父親の卯兵衛の懐の大きさを全面に押し出した印象が強い。
ハッピーエンドで終わるかに思えた最期の最後に、悲しく切ない別れが、今後の同シリーズへの波紋を投げ掛ける。
そして舞台は川原崎座から美濃屋へと移り、第二章の幕開けを感じさせている。
実に深くかつ巧みな構成であり、著者の大きさを感じさせるシリーズである。
信太郎が千代太へこたえる、「千代太は生まれてくる赤ん坊より先に、おれの子になるのさ」の台詞や、信太郎と卯兵衛の別れのシーンはぐっと胸に込み上げる物がある。さらりと短文で締めながらも要所はきちんと押さえた技巧はお見事。
書評で読み限り、増々面白くなっている様子。是非とも続けて読みたいシリーズだ。
主要登場人物
信太郎...本町呉服太物店・美濃屋卯兵衛の総領息子(内証勘当中)、猿若町川原崎座の大札下働き
千歳屋ぬい...吉原仲之町引手茶屋・千歳屋の女将、信太郎の情婦
千代太...ぬいの連れ子
おみち...信太郎・ぬいの娘
元吉...岡っ引き・徳次の手下、信太郎の幼馴染
徳次...日本橋北から両国広小路縄張りの岡っ引き、中山弥一郎の小者
彦作...千歳屋の番頭
和助...千歳屋の男衆
中山弥一郎...南町奉行所定町廻り同心
久右衛門...川原崎座の大札、ぬいの叔父
磯貝貞五郎...川原崎座の囃子方、本所石原町・御家人磯貝家の部屋住み
小つな...柳橋の芸者、貞五郎の情婦
美濃屋卯兵衛...美濃屋の主、信太郎の父親
嶋屋庄二郎...大伝馬町木綿問屋の主、信太郎の義兄
おふじ...庄二郎の女房、信太郎の姉
おゆみ...信太郎の妹
仁平...美濃屋の番頭
二代目河竹新七...川原崎座の立作者
三上小平太...南町奉行所定町廻り同心
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