うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

江戸の時代って本当はこんなに面白い!~学校では教えないビックリ江戸学~

2013年09月27日 | ほか作家、アンソロジーなど
大和田守と歴史の謎を探る会編

 2004年5月発行

プロローグ 太平の世はこうして生まれた
●小国ニッポンの“江戸”はなんと世界一の大都市だった!
 なぜ江戸幕府は安定政権を長く保てたのか
 家康がとった支配体制とは
 江戸は世界一の大都市だった
 明暦の大火で大江戸が形成される
 江戸の武士「旗本」と「御家人」のちがい
 世界にもまれな江戸城の大奥
 武士は現代のサラリーマンそのものだ

一章 お城勤め、出張、薄給に苦心さんたん
●宮仕えはお気楽じゃない! 武士の暮らしの実状とは
 徳川政権で生まれた「側用人」のシステムとは?
 大名の義務、参勤交代にかかった費用は?
 五十五人の子供を作った十一代将軍家斉
 今求められているのは地方分権の「廃県置藩」
 奥女中の生活と仕事はどうだったか
 高給サラリーマン、旗本の年収は?
 妻に借金をする武士の苦しい生活
 現代人こそ学びたい武士の倫理観
 留守居役は現代の社用族で“銀座で豪遊”
 御畳奉行殿、大坂で豪遊する


二章 買い物、湯屋、園芸が大ブームに
●江戸庶民の暮らしは実はこんなにも楽しかった!
 江戸っ子もブランドものが大好きだった
 魚売りの行商でにぎわった江戸
 江戸時代にあった、へーッと驚く珍商売
 江戸っ子はみんな風呂好きだった
 ビジネスマンの原点、江戸時代の近江商人
 天下の台所、大坂は日本最大の流通都市
 江戸時代の農民は、本当に貧しかったのか?
 女の子の稽古事と江戸の園芸ブーム
 江戸の町、親はなくても子は育つ
 切絵図で歩く江戸の町
 「鬼平」「半七」と歩く江戸の町
 江戸・八丁堀の七不思議とは
 江戸時代にもあったサラ金

三章 人気の屋台は、まさにファストフードの始まり
●意外や、とてもグルメだった江戸っ子の食生活
 日本のファストフードは江戸で誕生
 グルメな江戸っ子にうけた寿司
 天保時代のオヤツは焼きいも
 三代将軍家光が気にいった漬物とは
 江戸っ子は興津産の甘鯛がお気に入り
 江戸っ子が好んだくじらの食し方とは
 幕末のサムライが喜んだ「アイスクリン」
 江戸時代も今も、水は買って飲むもの?!
 人気の「大食い大会」は江戸時代が起原?
 長屋の住民の朝飯は、シンプルな健康食
 『馬琴日記』に見る江戸人の食生活とは
 水戸黄門が食べたラーメンのお味は?

四章 浮世絵、漫画、草子が大流行
●花開いたアート・文学は驚くほど粋で洒落ていた!
 遊び心にあふれていた絵画の世界
 個性豊かな蒔絵が世界の注目の的
 笑いと驚き、洒落と風刺の江戸漫画
 愛嬌満点の妖怪たちが江戸をバッコ
 “移動動物園”のラクダの見せ物が大人気に
 江戸のニュース速報、かわら版を「読む」
 文芸趣味大名と老詩人
 江戸弁と“江戸っ子気質”が生まれる
 粋と洒落が好きな江戸っ子のことば遊び
 江戸っ子気質が生んだ「ことわざ」の効用
 江戸っ子のおしゃべりを再現すると……
 釣りが武士の遊びとして流行した
 ドギモを抜くほど精巧な奇術文化

五章 春画から風俗界まで、それはもう盛況
●武士も町人もみんな性愛に自由奔放だった!
 江戸庶民が愛した浮世絵春画は世界に誇る芸術だ
 女房が妊娠中に浮気するのは、江戸っ子も同じ
 春画に見る江戸の流行ファッション
 春画に描かれた“江戸の潮吹き女”
 江戸は「色の掃溜」であった
 芸者という新しい遊女が誕生した
 吉原遊びにあった三つの「法度」とは
 江戸社会は性に寛容、夜這いと浮気に罪はなし
 不義密通は男も女も死刑になった?
 江戸時代、恋人同士がデートした場所って?
 将軍も学者も楽しんだ男色
 エリート武士の屋敷でも、エッチ話に花が咲く
 江戸時代のチカン行為と求愛ダンス

六章 歳事に燃える日本人の原点がある
●江戸っ子は祭り好きで憧れのレジャーは旅と温泉!
 江戸っ子は花見や歳事が大好きだった
 山王祭は江戸っ子自慢の天下祭
 時刻と暦はこうして知った
 江戸っ子はここで紅葉を愛でた
 庶民が楽しんだ落合の蛍狩り
 江戸人が大切にした年中行事
 大晦日の江戸の町をのぞいてみよう
 江戸の旅の基本はウォーキング
 江戸人も楽しんだ温泉と旅のガイドブック
 大流行した旅と『旅行用心集』
 なぜ女性の旅を厳しく調べたのか
 街道の宿場ではこうして売春禁止の宿をつくった

七章 将軍様から芸術家まで
●江戸の英雄の素顔はめっぽう多才で個性的!
 揚げ物に当たって死んだ徳川家康
 生まれた時から将軍だった家光と春日の局
 水戸黄門のビジネス心得
 武蔵と小次郎の決闘の真実は?
 暴れん坊将軍・吉宗と大岡越前守
 バブル経済の崩壊と松平定信の福祉政策
 降雪が激しい日に暗殺された井伊直弼
 最後の将軍・徳川慶喜はカメラマニアだった
 畸人なり、葛飾北斎
 勝海舟が初めて見た軍艦
 実はビジネスマンだった坂本竜馬

八章 武士のファッション、混浴にビックリ
●外国人が見た“江戸”は奇抜でユニークそのもの!
 日本には日曜日がない、と驚いたシュリーマン
 江戸人の服装は外国人にはとっても奇妙!
 壮観な染井村の植木と江戸の盆栽
 風呂の混浴は外国人には奇抜だった!
 オールコックの見た幕末の「浅草」は?
 元禄時代に将軍と面会した外国人
 朝鮮通信使に焼肉の調理とキムチの漬け方を学ぶ
 朝鮮通信使の行列で大にぎわいの神田祭
 漂着船から富士山を描いた中国人
 イギリスの新聞で報道された幕末維新
 アーネスト・サトウの京都見聞

九章 黒船来航から明治維新まで
●近代日本への道のりこれが“ドラマチック幕末”だ
 明治期に古老たちが語った幕末とは
 幕末のキーマン政治家・阿部正弘の役割
 「安政の大獄」で処分された“日本の才能”
 松蔭が愛弟子に訴えた最後の訓戒
 戊辰戦争を点火させた幕末のクーデター
 ペリー艦隊と徳川幕府の交渉
 重要だった幕末の“情報戦争”
 捕鯨の拠点として世界的に注目された島
 水戸藩士の“イワシ”事情
 日米初の為替レート会議
 幕末を動かした女性たちの活躍

十章 誕生のいきさつから隊士の素顔まで
●いまも人気を集める新選組の男たち
 新選組はこうして結成された
 ひどく貧しかった新選組
 近藤勇が広めた天然理心流
 土方歳三は俳諧人でもあった
 沖田総司と町医の娘の恋
 恋人と駆落ちして処罰された美男隊士
 新選組を有名にした語り部とは
 新選組のスポンサーが会津藩主のわけ
 新選組の財政事情と給料は?
 池田屋事件名場面の真相は?
 女好き隊士の多い新選組に男色はいたか
 新選組隊士は「幕臣」になれたのか
 妻子のために命をかけた悲劇の壬生義士とは

 お洒落も遊びも粋と洒落が心情だった江戸っ子たち。そんな彼らが愛した、愛でた、慈しんだ日常から、歳時記、文化、世情を交えた江戸情報と、江戸が滅びる幕末の出来事を綴った、江戸の暮らしの手引書とも言える一冊。



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江戸の金・女・出世~シリーズ江戸学~

2013年09月27日 | ほか作家、アンソロジーなど
山本博文

 2006年10月発行

第1部 武士の掟
 一日二時間だけ仕事した将軍
 江戸幕府の出世メカニズム
 幕府の上下関係の「御法度」 含む計26編
中休み 将軍家の墓をめぐって
 敗軍兵の「頭蓋骨」は物語る
 発掘された徳川秀忠の遺体
 将軍は超現代的な顔だった 含む計6編
第2部 女たちの江戸時代
 十三代将軍毒殺を暴露した女中 
 上品だった江戸の“OL言葉”
 ペット愛に燃えた「大奥」 含む計26編

 借金返済に追われる下級武士、出世のための厳しい掟、浪人となった武士の妻たちの末路から、大奥女中の掟や高級女中の収入など、江戸の生きた武士階級の男女の実態を、実際の事件を元に、分かり易く紹介した、江戸時代への入門書となる一冊。

 江戸学研究の第一人者・山本博文らしく、実に簡潔な文章でかつ分かり易く、楽しみながら学べる江戸の雑学となっている。





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天空の橋

2013年09月25日 | 澤田ふじ子
 2009年11月発行

 「虹の橋」、「見えない橋」、「もどり橋」、「幾世の橋』と続く、「橋」シリーズの完結編。江戸時代の京の工芸品や風俗、文化が作品の随所に綴られ、京焼の世界を描く。

第一章 春の翳
第二章 命の相客
第三章 えせの窯ぐれ
第四章 足引きの町
第五章 あの坂をのぼって 長編

 播磨国城之崎温泉で下働きしていた15歳の八十松は、湯治に訪れた京の積問屋の主・高野屋長左衛門に見込まれ、京・五条坂にある京焼の窯元・亀屋に陶工として預けるの。高野屋には、京焼を粟田焼を超える名陶にしようとの思惑もあり、八十松の感性を見込みそれを託したのだった。
 高野屋長佐衛門の目指すところの京焼きは、粟田焼随一の陶工であった喜助を引き抜き、五条坂・清水焼の窯元へと迎え入れる。
 喜助の技術力を失った粟田焼は衰退し、反して五条坂・清水焼隆盛に向かうのだったが、粟田焼側の陶工からの妬みを買う事になった。
 それら確執のある中、八十松は喜助の元で京焼の修行を積み、4年目、清水寺の大方丈で開かれた品評会で、近衛家諸大夫の進藤殿に一番で買いあがられ、高い評価を得るのだが、これが更なる陶工たちの妬みを買う事になる。
 妬みは苛へと発展するが、八十松はそれを撥ね除け己の道を進む。

 片田舎で下働きの貧しい八十松少年が、その素質を買われ、京で陶工として名を馳せるまでのビルドゥングスロマン小説である。
 一方で、京焼の発展に尽力する高野屋長左衛門の裏の顔も明らかとなり、美への執着と完成度の高さを究極する、彼の狂気の一面として、先妻、妾にまつわる毒々しい過去で描かれている。
 物悲しさ、切なさの募る高野屋長左衛門の選択で物語は締め括られているが、八十松のビルドゥングスロマンだけでは弱いからと、無理矢理付け足したようなエピソードであると感じて止まない。
 前回、確か「卒業」と書いたが、本のストックがあったので、読ませていただいた。当方の頭の回転の問題なのかも知れないが、このところ、澤田氏の作品がナチュラルではなく、小難しく感じて止まず、没頭出来なくなった。
 「見えない橋」、「討たれざるもの」、「花籠の櫛~京都市井図絵~」のような自然に胸の中から込み上げてくるものが欲しい。
 
主要登場人物
 八十松...播磨国城之崎温泉で下働き→五条坂・清水焼の陶工
 高野屋長左衛門...京の積問屋の主
 喜助...元粟田焼の陶工→五条坂・清水焼の陶工




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雁の橋

2013年09月14日 | 澤田ふじ子
  2002年12月発行

 お家に秘められた謎から、父母、妹を含む一族を葬られ、なお刺客に狙われた少年が、師を見出すもその師もまた、暗殺されてしまう。
 少年が何もかも失いながらも、ひとり凛々しく生きていく姿を描いた、長編時代小説。

上巻
幼童の涙
世間の蛇
闇の連理
黒い花
霧の系譜

下巻
奇妙な客
迷路の末
天の碑(いしぶみ)
去年(こぞ)の雪
不動の剣(つるぎ)

 小栗雅楽助は、女中・伊勢、中元・弥助に伴われ、京から若狭と急いでいた。だが、山中、国元から派遣された刺客に弥助は殺され、伊勢も深手を負う。
 その時、通り合わせた李鉄拐を名乗る見窄らしい男と、芸州広島藩浅野家臣下の3人に救われ、雅楽助は李鉄拐に従い、加賀山中村へと向かうのだった。
 李鉄拐は本名を木屋権左衛門といい、京で炭問屋として成功を収めると同時に、池坊の立花師として、名を上げたが、池坊からは破門されるや、惜しげもな店を番頭に譲り、己は新派を立ち上げるべく故郷へと戻るところであった。
 雅楽助は、権左衛門の幼名・八十助を名乗り、弟子として立花師の道を歩んでいた。しかし、師匠の権左衛門が池坊の息がかかった平沼陣十郎に暗殺され、雅楽助は、料理人として生きる道を選ぶ。

 小栗の秘密から、家は断絶。一族は主藩によって囲み討ちにされ、ひとり生き延びた少年が刺客に命を狙われるといった始まりで、小栗家にまつわる秘密とは何ぞやを最後まで引き摺るのだ。
 代々の嫡男は廃嫡され、二男が家を継ぐ。そこにも大きな秘密がありそうだと終始匂わせる。
 発行が2002年と大分前なので、謎解きをすると、小栗家の先祖が、豊臣秀頼の御落胤ではないかとの疑惑が発端である。しかし、既に6代も丹波国篠山藩松平家に遣えており、100年は経っているのだが、ここにきて篠山藩松平家が、徳川幕府を恐れて一族の血を絶やすといった暴挙に出たのだ。
 何だかなである。徳川政権100年も経ち、今更豊臣の遺臣もないだろう。しかも代々嫡男は廃嫡し、二男が家を継ぐって、それも何だかな。
 そして、伏線に赤穂浪士の討ち入りを謳っており、登場人物にも赤穂藩の主藩である芸州広島藩浅野家が、見方側として登場するも、討ち入りとは全くの無縁。
 何だかな。
 ただ、主人公の小栗雅楽助は、謂れなき刺客から命を長らえる事になったが、それを助けた木屋権左衛門が、謂れなき刺客に抹殺されるといった因縁の発想は頷ける。
 伊勢と菊蔵の悲恋など、全体的に、これでもかのお涙頂戴物から、小栗雅楽助の立身を描いたサスペンス&感動の長編を狙ったのだろうが、余話の詰め込み過ぎた事と、プロップの甘さが物語を嘘っぽく仕立ててしまっているようだ。
 加えて小栗雅楽助。8歳の子どもの台詞とは思えず、年齢的な成長後と全く人物的に変わっていないのも残念。
 木屋権左衛門に助けられ、師と仰ぎ、彼の死。そして仇討ち。これだけで良かったのではないだろうか。
 澤田氏は、史実を交えない「公事宿事件書留帳」や風情を織り込んだ「討たれざるもの」、「見えない橋」など、女性ならではの感性を感じさせる作品こそ、持ち味が如実に感じる。「花暦(はなごよみ)~花にかかわる十二の短篇~」は心打たれたのだが、氏が力を入れている「橋」シリーズはどうも…。
 感性の違いで、澤田氏の思い入れを受け入れられないだけなのかも知れない。卒業します。
 
主要登場人物
 小栗雅楽助(うたのすけ)、八十助...丹波国篠山藩松平家・勘定役・小栗頼母の嫡男
 木屋権左衛門(李鉄拐)...立花師(池坊から破門)
 伊勢...雅楽助の付女中
 菊蔵...富山の売薬人
 桃田庄兵衛...芸州広島藩浅野家・京都留守居役
 大槻左内...芸州広島藩浅野家・京目付 
 槙新久郎...芸州広島藩浅野家・京目付 
 藤掛似水...池坊会頭職
 平沼陣十郎...似水の付武士
 小栗平左衛門...雅楽助の伯父、奥能登鈴屋村・長光寺にて隠棲
 重十九...平左衛門の若党
 市助...能登山中村湯治宿・東山屋の奉公人 
 長吉...市助の息子
 政吉...能登山中村湯治宿・東山屋の料理人



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名家老列伝~組織を動かした男たち~

2013年09月12日 | ほか作家、アンソロジーなど
童門冬二


 2003年2月発行
 
 藩政立て直しに尽力した、家老たちの生き様。

第一部 経営手腕~藩の危機にどう対応したか 
 真田藩・恩田木工
 田原藩・渡辺華山
 南部藩・楢山佐渡
 赤穂藩・久郎兵衛
第二部 諌言~トップの間違いをどう正したか
 黒田藩・栗山大膳
 紀州藩・安藤直次
 唐津藩・二本松大炊
第三部 トップとの連帯~その信頼関係をどう維持したか
 熊本藩・平太左衛門
 備前藩・熊沢蕃山
 彦根藩・長野主膳

 藩主を立て、己が犠牲となり藩士を救った家老。藩主を戒める家老。藩主と共に藩政改革に取り組んだ家老。
 武家社会の礎(いしずえ)となった家老たちの真実を語りながら、その意思が現代社会で生かされると著者は語る。






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明治・妖モダン

2013年09月08日 | 畠中恵
 2013年9月発行

 江戸が明治に改まって20年。煉瓦街が並ぶ銀座は、夜を照らし出すアーク灯が灯る東京でも一番のモダンな街へと変貌していた。
 そこにモダンとは掛け離れた、江戸の遺物のような、掘立小屋のような派出所があった。だが、それは建物だけではなく、明治の世では消えてしまったと思われている妖たちが跋扈していたのである。

第一話 煉瓦街の雨
第二話 赤手の拾い子
第三話 妖新聞
第四話 覚り 覚られ
第五話 花乃が死ぬまで 計5編の短編連作

主要登場人物(レギュラー)
 原田巡査...銀座煉瓦街四丁目・交差点派出所勤務の警官
 滝駿之介巡査...銀座煉瓦街四丁目・交差点派出所勤務の警官
 百木賢一(百賢)...銀座煉瓦街三丁目牛鍋屋・百木屋の主
 百木みなも...賢一の長妹
 百木みずは...賢一の次妹
 赤手...銀座煉瓦街三丁目裏路地・煙草商
 お高...三味線の師匠
 騙しの伊勢...詐欺師
 長太...かっぱらい

第一話 煉瓦街の雨
 雷神が怒りに任せて降らせているような雨の中、雨宿りに駆け込んだ銀座煉瓦街四丁目の派出所で、伊勢は、原田巡査から不思議な話を聞く羽目になった。
 それは、三丁目牛鍋屋・百木屋で起きた主の妹・みなもの勾引し事件であった。
 みなもは、四十にも手の届く待合茶屋の主・下谷から一方的に思いを寄せられ、目を見張る程の大粒のエメラルドのブローチを贈られていた。それをひと目にて原田巡査は、連続強盗殺人事件との関わりに気付き、捜査に乗り出すも、みなもは、警官に化けた見知らぬ男に連れ出され、忽然と姿を消したのだった。
 その後、木島は路上で頓死。それも鎌鼬(かまいたち)の仕業としか思えない死に様だった。そして、下谷は、濡女に掘りに引き込まれて水死したのだが、その濡女の顔が、みなもであった。そう言い残して、原田巡査と滝巡査の姿がふつりと消えた。
 すると、表から雨足が和らいだのを幸いに、原田巡査と滝巡査が派出所に戻って来たのだった。
 今さっきまで伊勢に話をしていた原田巡査は…。

主要登場人物
 下谷...銀座待合茶屋の主
 木島...下谷の用心棒

第二話 赤手の拾い子
 赤手が、迷子を拾ったと銀座煉瓦街四丁目交差点の派出所へ届けに来たが、何とその娘・おきめは、ダイヤモンドの粒を幾つも守り袋に収めていたのだ。
 派出所では預かれないので、役所の開く明日まで赤手に預かれと言われる始末。だが、男手ひとつでは子どもの面倒を見られる訳もなく、思い倦ねて百木屋へ預かってもらう事にする。
 だが、確か3歳くらいだったおきめが、僅かの時間に成長をしているではないか。もしやおきめの名は、鬼女からきているのでは…。

主要登場人物
 おきめ...迷子(?)
 丸加根...深川の金貸し

第三話 妖新聞
 羽の生えた三味線、人魚、妖刀などの記事を載せた妖怪記事が新聞を賑わせている昨今、江戸橋近くの河畔に、5人の老若男女の死骸が打ち上げられた。
 何事も妖騒ぎに結び付ける新聞記者の高良田に苦々しい思いを抱きながらも、原田巡査と滝巡査は、事件に駆り出され大わらわであった。
 そんな中、百木屋に集う常連たちが殺された人の身元を突き止めると、犯人から、新妻・靖子を拉致したとして、呼び出された原田が斬り付けられる。
 やがて稀代殺人犯・笹熊は服毒自殺を図り終結を迎えたかに思われたが、巡査らは、裏で糸を引くある人物に目星を付ける。

主要登場人物
 高良田...銀座・多報新聞社の記者

第四話 覚り 覚られ
 壮士に取り囲まれた男を助けた折り、頭を杖で殴られた滝。助けた男は代言人の青山と名乗り、某氏から、知り合いが「さとり」ではないかを探って欲しいと依頼されており、その探索を手伝って欲しいと言い出した。
 妖探しなど雲を掴むような話に巡査が手を貸す訳もないのだが、そんな最中に赤手が行方をくらませてしまう。
 旧知の赤手探しに乗り出した原田巡査と滝巡査ではあったが、執拗に青山も「さとり」探しと称して2人に食らい付くのだった。
 明治の今更「さとり」などといった妖を持ち出し、世論を集めようとする青山の言動に普請を抱く巡査たちは、その狙いが第一回衆議院議員選挙に関わりがあるのではないかと…。 

主要登場人物
 青山...免許代言人(弁護士)

第五話 花乃が死ぬまで
 沽券を引ったくられそうになった女・伊沢花乃が、銀座煉瓦通り四丁目交差点派出所で、滝巡査を見た途端に、20年前に悲恋に泣いた、滝駿之介ではないかと詰め寄る。容姿も瓜二つで名前も同じではあるが、年齢が合わず、思い違いであったと悟る花乃であった。
 だが、それからも花乃は2度命を奪われ掛け、それが花乃の財産を狙った者の仕業であると分かると、百木やに集う面々、特にお高が事の終結を急いだ方が良いと提言し、滝と花乃のロマンスを新聞社に売り込み、周囲の注目を集めさせるのだった。
 果たして花乃は、親族を名乗る者たちに襲われ、滝とお高の機転で事態をくぐり抜けるが、滝駿之介との恋には思わぬ結末が待っていた。

主要登場人物
 伊沢花乃...財産家の未亡人
 辰二郎...かっぱらい

 畠中氏得意とするところの、妖物が、時を江戸から明治に移しての登場。
 随所に、江戸と明治は地繋がり、時繋がりといった江戸の幻影をかんじさせつつ、近代化され、モダンな雰囲気漂う銀座煉瓦通りを舞台に繰り広げられる。
 だが、妖がメインではなく、飽くまでも表面上は噂なのである。妖を使って悪巧みを練ったり、己の不始末を妖に押し付けたりといった、明治ならありそうな江戸の名残り。
 ただし、それだけでは終わらない。実は…。やはり妖は身近にひそみ、普通に暮らしているのでは…といった不可思議を含んでいるのだ。
 その序章として「第一話 煉瓦街の雨」の終焉で、不思議な出来事を持ってきておいて、「第二話 赤手の拾い子」では、「やはり」を思わせる。ただ、この話の中で、ダイアモンドの別けに触れていないのが、残念だが。
 そして、「第三話 妖新聞」では、思いも掛けないどんでん返しで、妖がクローズアップ。
 「第四話 覚り 覚られ」、「第五話 花乃が死ぬまで」では、次第に素性が明かされていくのだが、未だ未知なるレギュラー陣もおり、続編へ続くかと思われる。
 また、「第三話 妖新聞」にて、「アイスクリン強し」のミナ(皆川真次郎)と思われる人物が作った菓子も登場し、ファンの心を掻き立ててくれるのだ。
 全般に面白く、一気に読ませていただいたが、想像力を掻き立てられたのは第三話までで、そこからは、トーンダウンを感じた。
 それは当方が勝手に、滝巡査の正体を「しゃばけ」シリーズの仁吉(白沢)に重ね合わせていたからだろう。
 それも、雑誌「yom yom」に読切りで書かれた「えどさがし/しゃばけ」では銀座煉瓦街へと若旦那探しに仁吉が現れると、いった内容と見知っていたので、同作品も収録されていると勝手に勘違いしていた次第。
 巡査の中に、「アイスクリン強し」の若様組などが登場したら楽しいのだが。是非ともそんなジョイントを期待して止まない。
 また、登場人物のキャラが、ほかの作品と比べ、薄くも感じた。
 「えどさがし」の書籍化をご存じの方、是非、ご一報くださいませ。


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雪の夜のあと

2013年09月07日 | 北原亜以子
 1997年7月発行

 暴漢に手籠めにされ、自刃した愛娘・三千代の復讐に燃える同心森口慶次郎の執念の追跡を描いた「その夜の雪」から5年後、三千代の自刃の原因である喜平次が、常蔵と名を変えて、再び慶次郎の前に現れる。
 シリーズ「慶次郎縁側日記」の前哨とも言える長編作品。


生まれつき
小春日和
親心
秘密
三人三様
娘と娘
追いつめる
三年前
雪となる
雪解け 長編

 自刃した三千代の許婚・晃之助に家督を譲り、慶次郎は酒問屋・山口屋の寮の留守番役として根岸の寮で隠居生活を送っていた。
 ある日、知人を訪った折りに、愛娘・三千代を自刃へと追いやった常蔵が、名前を変えて住んでいる事を知る。
 一方、森口晃之助の手下(岡っ引き)を務める辰吉は、常蔵(喜平次)にまたも悪い虫が騒ぎ出し、その情婦であるおたきの息子・米蔵が常蔵を殺めようとした事に心を痛め、米蔵を下手人にしない為にも、常蔵の娘・おぶん(おとし)に常蔵の元へ戻り見張って欲しいと頼むのだった。
 だが、性根まで腐り切った常蔵。表面上はおたきと切れてもそれは、ほんの僅かの間に過ぎず、一方では娘ほども年の離れた大店・翁屋の娘・おりょうとも深間になり、恋いこがれたおりょうは、食も喉を通らない有様。そんな愛娘を案じる父・翁屋与市郎は、常蔵を婿に迎えると、腹を括るのだった。
 そんな常蔵父娘が暮らす裏店には、訳ありの駆け落ち者と見られる男女が住んでいた。おしまと新兵衛は、世間の目から逃れる為にも、問題を起こす常蔵に人々が注目をするそこが終の住処に思えたのだが、辰吉が出入りする事で危惧を覚え始める。
 そこには、旗本の嫡男でありながら、実父の借財の為、跡目を商家の息子に金で譲り、廃嫡された金六郎失踪の謎が秘められていた。
 常蔵を巡る女2人の恋の結末。金六郎は失踪なのか、殺害されているのか、その真相に関わる手掛かりは俵屋多左衛門と口入れ屋・長五郎にあると突き止めた島中賢吾の手下(岡っ引き)・太兵衛。
 だが、同時に強請、集りを常とす北町奉行所定町廻り同心・秋山忠太郎の手下(岡っ引き)・吉次も動きだし、常蔵までもが俵屋へ揺さぶりを掛ける。
 嫌が応にも巻き込まれた慶次郎は、常蔵(当時・喜平次)を成敗しなかった事へと、三千代の名誉を守る為に、喜平次の悪行を隠し、縄もかけなかった事へ後悔する。
 また、そんな父親の為に己を犠牲にせなくてはならないおぶん(おとし)。
 ふとした弾みで善人が極悪人に手を掛けてしまった。それは殺められても当然の所行の人間である。だが、それでも罪は罪。人ひとりの命は戻らない。
 しかし、目を瞑れば、善人は善人として生きていける。
 慶次郎は葛藤する。

 「慶次郎縁側日記」の根底にある娘・三千代の死の間接的な下手人である喜平次のその後を描きつつ、殺し隠蔽といった大きな2つのテーマの下で、母親を選ぶか女を選ぶかといった葛藤。
 父の為に己の人生を犠牲にしながらも、父の悪行を阻止しようとする娘。娘愛おしさに、身代を賭ける父。人を救う為に図らずも犯した殺人に人生を狂わされた男女。
 妬みや嫉妬など、人間の根底にある善悪を問う長編大作で、読み応えがあった。
 物語は、主に、慶次郎、常蔵(喜平次)、おぶん(おとし)、おたき、吉次の視点から分割されて描かれ、その切り替えは一行空けてのスタートなので、場面が変わった事は分かるのだが、その始まりがストレートではなく、繋がりへの執着がないといおうか、思わせぶるな為に、誰が何を思って、今どうなっているかを把握するのに頭をフル回転させる必要があり、中々に読み辛く感じた。
 正直、北原氏の作品で、こんなもどろっこしく難解な内容は初めてに感じる。わざと物事を難しく言おうとして、傍からは全く理解出来ない。そんな人を思い浮かべた。
 北原氏って、こんな感じだっただろうか…。
 ただし、謎解きから終焉までのラストスパートは見事な筆の運びで、ここまでくれば一気に読み終わる。
 そして心理描写の鋭さと洞察力は、凄みがあり、読む価値は高い作品であった。
 

主要登場人物  
 森口慶次郎...霊岸島酒問屋・山口屋の根岸寮番、元南町奉行所定町廻り同心
 森口皐月...晃之助の妻、吟味方与力の神山左門の娘
 森口晃之助...慶次郎の養子、南町奉行所定町廻り同心
 森口三千代...慶次郎の娘(故人)
 森口八千代...晃之助・皐月の娘
 佐七...霊雁島酒問屋・山口屋の根岸寮下男
 吉次(蝮の吉次)...北町奉行所定町廻り同心・秋山忠太郎の手下(岡っ引き)
 辰吉(天王橋の辰吉)...森口晃之助の手下(岡っ引き)
 島中賢吾...南町奉行所定町廻り同心
 太兵衛(弓町の太兵衛)...島中賢吾の手下(岡っ引き)

 おぶん(おとし)...常蔵の娘、手内職・料理屋の女中
 常蔵(喜平次)...遊び人
 おしま(お勢)...新兵衛の情婦、元料理屋・如月の女将 
 新兵衛(新之助)...諏訪町入舟長屋の店子、俵屋の跡取り・多左衛門の息子
 俵屋多左衛門...新両替町・炭屋の主
 おたき...常蔵の情婦、仕立て内職
 米蔵...大工見習、おたきの息子
 翁屋与市郎...日本橋田所町・古道具屋の主
 おりょう...与市郎の娘
 長五郎(新木島の親分)...口入れ屋・新木島の主




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高砂~なくて七癖あって四十八癖~

2013年09月05日 | 宇江佐真理
 2013年9月発行


 日本橋堀留町の会所の管理人・又兵衛とおいせの元へ持ち込まれる、町内の親子・夫婦・兄弟など人間模様をほのぼのと描く、「ほら吹き茂平」に続く、「なくて七癖あって四十八癖」シリーズの第2弾。 

夫婦(めおと)茶碗
ぼたん雪
どんつく
女丈夫(じょじょうふ)
灸花(やいとばな)
高砂(たかさご) 計6編の短編連作

 又兵衛は4人目、おいせは出戻りの訳あり夫婦であるが、二人の夫婦仲は至って良い。だが、おいせに過分な遺産があるため、おいせ亡き後の相続問題を考え祝言は挙げていなかった。

主要登場人物(レギュラー)
 伊豆屋又兵衛...日本橋堀留町・会所の管理人、深川蛤町・材木仲買の隠居
 おいせ...又兵衛の後添え、米沢町町医者・故富川玄白の娘
 孫右衛門...大伝馬町裏店・瓢箪長屋の大家(差配)、元大伝馬町酢・醤油問屋・恵比寿屋の番頭、又兵衛の幼馴染み
 お春...孫右衛門の女房
 伊豆屋利兵衛...深川蛤町・材木仲買の主、又兵衛の長男 
 おゆり...利兵衛の女房
 檜屋清兵衛...木場・材木問屋の婿養子、又兵衛の二男
 おゆみ...清兵衛の女房
 おかつ...松井町小間物屋・新倉屋信助の女房、又兵衛の長女
 おつた...掘溜町居酒見世・おつたの女将
 勝蔵(大伝馬町の親分)...浜町掘界隈を縄張りにする岡っ引き

夫婦(めおと)茶碗
 真面目な畳職人・義助が、2年前から酒を呑んでは暴れ、給金を家に入れなくなった。困り果てたおなかは、子ども4人を連れて、会所へと身を寄せる。
 又兵衛が義助に訳を訊ねると、備後屋が代代わりし、銭儲けに走る当代の元で、職人として納得出来る仕事ができないのだと…。

主要登場人物
 義助...大伝馬町畳屋・備後屋の畳職人、瓢箪長屋の店子
 おなか...義助の女房

ぼたん雪
 武家に見初められ、嫁いだおつるであったが、夫・横瀬左金吾の姉が、毎度横瀬家に金子の無心に訪れ、その内状は火の車であった。それを補うため、実家の徳次の元へと無心をするおつる。
 だがそれも断られ、心労のあまり会所の前で倒れてしまうのだった。見兼ねた又兵衛は孫右衛門を連れにし、横瀬家へと乗り込み、おつるの窮状を訴える。

主要登場人物 
 おつる...横瀬左金吾の妻
 横瀬左金吾...幕府御書院番
 徳次...堀江町の大工、おつるの父親

どんつく
 町内の鼻つまみ者だった浜次が、は組の頭取に拾われ更生したものの、火事場での喧嘩で寄場送りとなり、3年の月日が流れていた。戻った浜次は、頭取の居候となり、女房・子どもを迎えにいくどころか、会おうともしない。
 そんな折り、女房のおゆきに後添えの声が掛かるが、相手の桔梗屋には囲い女がおり、目論みは宇田川を己の菓子屋の出店にする事と知った浜次は、桔梗屋を打ちのめし、所払いとなってしまう。

主要登場人物
 浜次...鳶職、は組火消し人足(土手組)
 おゆき...浜次の女房、品川町菓子屋・宇田川の娘
 伝蔵...浜次・おゆきの息子
 
女丈夫(じょじょうふ)
 若い時分から甲州屋を仕切り、男勝りのおみさは、亭主の新三郎に対しても辛辣であり、奉公人の前で新三郎を叱咤するなど日常であった。
 気の良い新三郎に同情を寄せる又兵衛は、新三郎が甲州屋を出て3日も戻らないと知るや、孫右衛門と共に、新三郎探しに奔走する。

主要登場人物 
 おみさ...伊勢町口入れ屋・甲州屋の若女将
 甲州屋新三郎...おみさの婿養子
 お菊...おみさ・新三郎の娘

灸花(やいとばな)
 童女を勾引し悪戯をした挙げ句に殺害するといった傷ましい事件が起きた。
 会所にも町触が回り、住民は気が気ではない。だが、それよりも下手人はみっちょ(道助)ではないかと自信番に届け出た者がいると言う。
 しかもそれは、みっちょの母親・おえんの幼馴染みで、親しい間柄の畳屋の女房・おこうであった。
 おえんとみっちょの姉・おさきによれば、おこうは天野屋の商いが太くなった事に悋気しているのだと言う。
 一方のおこうは、家族仲も芳しくない我が家と比べ、家族で船宿を営み、幸せそうなおえんに妬みを覚えなくもないが、ふとした軽はずみに頷いただけであったのだった。

主要登場人物
 天野屋清蔵...小舟町船宿・天野屋の主 
 おえん...天野屋の女将
 道助(みっちょ)...清蔵・おえんの二男 
 常助...清蔵・おえんの長男
 おさき...清蔵・おえんの長女
 おこう...富沢町畳屋下野屋の女房

高砂(たかさご)
 大伝馬町の畳屋・備後屋が盗賊に襲われ、隠居の老夫婦と小僧ひとりを除き皆殺し、そして火を放たれる惨い事件が起きた。老夫婦は孫娘の嫁ぎ先に引き取られ、備後屋の通だった職人も同時に柴田屋へと移った。
 一方風邪を長引かせていた又兵衛は、老医者・岡田策庵とその妻との関係に痛く感動していた。
 二つの出来事から、老いて後、いずれか片方が残された場合を考え、長年連れ添ってはいたが内縁であったおいせを人別に入れ、祝言を挙げる事を決意する。

主要登場人物
 岡田策庵... 堀留町の町医者
 岡田仁庵...堀留町の町医者、策庵の嫡男
 桂順...仁庵の弟子
 おみつ...横山町畳屋・柴田屋の内儀、大伝馬町畳屋・備後屋の娘

 7カ月振りの宇江佐氏の新作は、副題の「なくて七癖あって四十八癖」から「ほら吹き茂平」シリーズではあるが、町家の人情物といった括りであり、同一の登場人物は描かれていない。
 だが、全体を包み込むほのぼの感は、前作表題の「ほら吹き茂平」をどこか彷彿とさせる。
 宇江佐氏の作品中、切なさの込み上げる胸が熱くなる作品も良いが、「深川にゃんにゃん横丁」や、「ひょうたん」、「無事、これ名馬」など老齢の主人公が織り成す淡々とした日常物も捨て難い。「無事、これ名馬」など可愛らしくて可愛らしくて、何度読んだ事か。
 今作中、一番胸に響いたのは、「灸花」の道助の件である。「なぜか道助の言葉が又兵衛の胸に滲みる。それが不思議でならない」。そんな又兵衛同様に我が胸にも道助の純真さが滲みた第一章であった。
 また、「どんつく」の浜次の不器用な生き方も胸が熱くなる思いで読んだ。是非とも続編にて、幸せになってもらいたいものだ。
 物語は奇麗にまとめ上げられているので続編は今現在考えてないのかも知れないが、仮に続編への期待を寄せる要因があるとすれば、「高砂」で盗賊の襲われ、命を失った大伝馬町の畳屋・備後屋の当主が、「夫婦茶碗」で義助が働いており、敬愛していた主と同一人物であるとすれば、その件に期待を寄せたいと思う。



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春色恋ぐるい~天女湯おれん~

2013年09月01日 | 諸田玲子
 2012年2月発行

 八丁堀の湯屋・天女湯を舞台に、ひとり身の美人女将・おれんと訳ありの仲間たちの色めいた活躍を描く「天女湯おれん」シリーズの第3弾。

女、貰い受け候
昇天、鼬小僧
ソにして漏らさず
ホオズキの秘密
春色恋苦留異
大姦は忠に似たり
忍法、天遁の術 計7編の短編連作

 八丁堀の湯屋・天女湯の表の商いは文字通りの湯屋であるが、その裏では、設えた隠し部屋にて色事の手引をしている。
 それは、よんどころない事情で金銭のために身体を売らねばならない女のために、男女の仲を取り持ちも行っているのだ。むろん、御法度の裏稼業である。
 そんな表と裏を知る天女湯の奉公人も、これまた脛に傷を持つ者ばかり。
 よっておれんを始め皆が皆、巷を騒がす義族・鼠小僧にはいたく執心していた。中でも、8年振りに再会した与平・おくめの息子・与吉に至っては、鼠小僧を兄と慕い、自らを鼬小僧と名乗って天女湯に盗みに入ったところを与平に取り押さえられ、そのまま釜炊きになる。
 鼠小僧捕縛から獄門までと、裏長屋の面々の日常や、湯屋に通ってくる少女への義父の性的虐待、人気戯作者を追い回す女、賊の首領が庄屋の息子と偽り大店の婿に納まるも、内状は火の車だったりと、色事の妬みなどを交えながら、人々の生業を描いていく。
 そして、誰もが天女と崇める美貌のおれんの3度目の悲恋。
 短編連作ではあるが、長編とも読み取れる一冊である。

 内容自体は、どろどろとしたきな臭さがあるのだが、おれん始め登場人物のあっけらかんとしたキャラが、それを「さもありなん」風に描いている。また、事件の結末にどんでん返しが絡み、悲壮感も払拭させていると言えるだろう。
 江戸の湯屋の2階では、男たちがこんな話題で持ち切りだったのだろうと思わなくもないが、エロチックなシーンも多く、諸田氏の作品では異色である。
 そして、おれん自身が恋に落ち、また恋から冷める件も実にあっさりとしており、人情家である筈の彼女が色恋には情が薄いとでも言おうか…1作目、2作目を読んでいないので、まあ今回に限っての印象だが。全体に、レギュラー陣のクールさが印象的だ。
 個人的には、諸田氏の持ち味を感じられなかった。

主要登場人物
 天女湯おれん...八丁堀北島町の湯屋の女将
 弥助...天女湯の三助兼釜焚き・色事師(役者崩れ)
 与平...天女湯の番頭(元盗賊)
 おくめ...天女湯の女中、与平の女房(元女郎)
 杵七...天女湯の小童
 与吉(鼬小僧)...天女湯の釜焚き、与平の息子
 栄次郎...岡っ引き
 深津昌之助...旗本の二男
 惣兵衛...日本橋薬種問屋・和漢堂の隠居
 為永春水...戯作者
 新村左近...某藩藩士




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