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東海にある三万石の某小藩を舞台に、15、16歳の少年たちの友情とほのかな恋心…。彼らの成長を描いた物語。
学びて時にこれを習う
巧笑倩たり、美目盼たり
剛毅朴訥、仁に近し
幸いにして免るるなり
たれか学を好むとなす
知者は水を楽しむ
君子は下流に居ることを悪む 計7編の連作
筧新吾と花山太郎左は、高田道場に通う徒組の軽輩である。一方の興津道場には家禄の高い上士の子弟が集い、反目を繰り返していた。
ある日、渡辺辰之進を首謀とする興津道場の面々が、腕の立つ花山太郎左衛門(太郎左)に大人数で制裁を加えようとしたところを救った筧新吾。
2人の潔さに感服した、仲間内で馬鹿にされていた馬廻組の曽根仙之助も仲間に加わり、3人の身分を超えた友情が芽生える。
折しも、藩では藩校を創立。藩校普請に際し、事故が多発する。犬馬心院さまの祟りだと人足たちがおびえ始め、新吾ら3人は原因を突き止めようとするも、藩主の元傅人であり、隠居してなお藩の御意見番の鉢谷十太夫に出会す。
そして、剣術所の教授に高田清兵衛を押すか、興津七太夫かで、それぞれに門弟5人による御前試合が行われた。
また、藩主・河内守吉長を失脚させ、実権を手中に収めようとする吉長の叔父・蟠竜公の企てを主軸に、新吾の幼馴染みの志保の姉・真沙と藩校の定番士・秋津右近との因縁、長沼流軍学の大山魁夷教授騒動。
由姫と国家老・石原織部の嫡男・栄之進の失踪騒ぎなど、事件を交えながら、出来物の長兄・精一郎、いい加減で飄々とした次兄・助次郎と末っ子・新吾の筧家での日常。
豪傑な太郎左とその兄弟や新吾、高禄の当主であるが些か情けない仙之助との友情。隣家の幼馴染み・志保との思慕など、思春期の青年の実情を描いた逸作。
内容も作者も知らなかったのだが、表紙の絵が南伸坊氏によるもので、可愛らしく興味があって手に取った次第。
読んでみて、とにかく楽しい。新吾たちが成長した、続編の「夏雲あがれ」がドラマ化されたのが手に取るように分かる。読んでいるだけで、静かで温暖なかの地での青春が脳裏に浮かび上がるのだ。
悪役たる登場人物の設定も明確で、明確すぎる上に些か混乱するくらいに登場人物は多いのだが、それでも、主役の筧家のみならず、花山家、曽根家、恩田家の多くの人物像を見事に書き分けているのは、作者の技量である。しかも、その人物像の誰もが、見事に生き生きとしている。
特に太郎左と花山家に関する記述は面白く、太郎左が蜜柑を15個食べ、皮の数が足りず、「皮まで喰ったのか」と新吾が心の中で思い描くシーンは、思わず声を立てて笑ってしまった。
そのくらいに、全てのシーンが鮮烈で印象深い。
読み終える前に、「夏雲あがれ」を注文した。それ以降、続編はないらしいが、是非とも書いて欲しいと切に願う次第である。
真っ青な空が目の前に広がるような作品である。
下町物で、切なさやほろ苦さが宗に込み上げる作品が好きなわたくしが、爽やかな青春ストーリに絶賛した初めての作品だった。
主要登場人物
筧新吾...東海の三万石の某藩・徒組三十石の三男
曽根仙之助...馬廻組百二十石の嫡男
花山太郎左衛門(太郎左)...徒組三十石の嫡男
花山千代丸...太郎左の次弟
鉢谷十太夫...鴫江村の隠居、元藩主・吉長の傅人(役)
お花...八幡村の百姓娘、十太夫の後添
筧怱衛右衛門...新吾の父親
筧貞江...新吾の母親
筧精一郎...新吾の長兄
筧助次郎...新吾の次兄
恩田志保...徒組三十石の二女、新吾の隣家
恩田ぬい...志保の母親
恩田真沙...志保の姉
曽根綾...仙之助の母親
木嶋廉平...曽根家の若党
曽根佐喜...仙之助の姉
高田清兵衛...御弓町・直心影流高田道場主
興津七太夫...追手町・直心影流興津道場主
河内守吉長...藩主
石原織部...国家老
石原栄之進...織部の嫡男
蟠竜公...藩主の叔父、隠居
千早蔵人業亮...千早家当主
阿野謙三郎...千早家御用取次
赤沢安右衛門...武徳館教導方介添
森小右衛門...江戸留守居役
梅原監物...江戸家老
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