2000年7月発行
居眼り心中
影牢(かげろう)
布団部屋
梅の雨降る
安達家の鬼(あだちけのおに)
女の首
時雨鬼(しぐれおに)
灰神楽(はいかぐら)
蜆塚(しじみづか) 計9編の短編集
物の怪に例えたホラー仕立てで物語は進むが、実は人間の業が生み出した、心に巣食う怖さこそが怪であると解いている。後から首筋がぞわりとする作品集。
居眼り心中
藤一郎から、子を宿した女中のおはるの元へ、使いを頼まれた銀次は、着いた先で、藤一郎とおはるが相対死している姿を目の当たりにする。
主要登場人物
銀次...日本橋通瀬戸物町木綿問屋大黒屋の丁稚
親父...大伝馬町口入れ屋万年屋の主
藤一郎...大黒屋の若旦那
影牢(かげろう)
一番番頭松五郎が、三月前に起きた岡田屋一家七人が毒をあおった、惨劇を磯辺に語る。それは、先代の内儀お多津の亡霊の生した業か。それとも松五郎か…。
主要登場人物
松五郎...深川六間掘町堀蝋問屋岡田屋の一番番頭
多津...深川六間掘町堀蝋問屋岡田屋の先代内儀
磯辺...同心
布団部屋
奉公先で急死した姉おさとの後を受け、兼子屋に奉公に上がったおゆうは、女中頭お光の命令で、布団部屋で一夜を過ごす事を余儀なくされる。聞けば奉公人誰もが通る仕来りらしい。
主要登場人物
おゆう...深川永代寺門前東町酒屋兼子屋の女中
おさと...元兼子屋の女中、おゆうの姉
お光...兼子屋の女中頭
梅の雨降る
担ぎの油売り箕吉の元へ、姉のおえんがみまかったと知らせが届く。おえんは、器量で奉公先をほかの娘に奪われてから、心を病んだ侭であった。
主要登場人物
箕吉...担ぎの油売り
おえん...箕吉の姉
安達家の鬼(あだちけのおに)
笹屋に嫁いだわたくしが語る、お義母さまの生涯。お義母さまの傍らには、わたしには見えない何者かが棲んでいた。
主要登場人物
わたくし...富太郎の妻、語り手
お義母さま...筆と墨の商い笹屋の隠居、日本橋通町呉服問屋上州屋の庶子
富太郎...笹屋の主
お玉...笹屋の女中
女の首
母が亡くなり十歳で葵屋の丁稚となった太郎は、ある日、納戸部屋の唐紙に女の生首を見てしまった。と、同時に幼い頃勾引しあった葵屋の実子に間違いないと葵屋夫妻が言い出して…。
主要登場人物
太郎...本所一ツ目橋袋物屋葵屋の丁稚
浅一郎...葵屋の主
お由宇...浅一郎の妻
おあき...葵屋の女中
時雨鬼(しぐれおに)
お信は奉公先を紹介してくれた口入れ屋に、奉公先を代わる相談をしに行く。応対に出た口入れ屋の女房を名乗るおつたは、お信が悪い男に騙されていると察し、己の半生を語り聞かせるのだが。
主要登場人物
お信...下谷搗米屋加納屋
おつた...深川六間掘町口入れ屋桂庵の内儀
重太郎...お信の情男
灰神楽(はいかぐら)
平良屋から、奉公人が刃傷沙汰を起こしたとの知らせを受けた政五郎が駆け付けると、主の弟の善吉に斬り掛かったおこまという女中が、この世のものとは思えぬ悪口の挙げ句、白い灰のような息を吐き出し事切れてしまう。
主要登場人物
政五郎...本所元町の岡っ引き
善吉...桐生町下駄屋平良屋の弟
おこま...女中
誠次...下駄職人
蜆塚(しじみづか)
病いで伏せている松兵衛を見舞った米介は、松兵衛から、世の中には歳も取らず、病にもかからず、死にもしない連中がいると聞かされる。現に桂庵にも十年くらい時を開け、同じ人物が訪なっている筈だと。
主要登場人物
米介...柳橋先の代地口入れ屋桂庵の主
松兵衛...日本橋西呉服屋小河屋の番頭、米介の亡父の碁敵
六太郎...小河屋の奉公人
夢と現実の間を彷徨う「居眼り心中」。真実は何処に。そして目の前にいるのは、生ある者かそれもと…。最後の最後の言葉が気にかる「影牢」。曰くと因縁に肉親の情愛が挑む「布団部屋」。憎しみや妬みが生み出した幻影に翻弄される「梅の雨降る」。
鬼を作り出すのは、人のそねみや憎しみであると解く「安達家の鬼」。女の業が生み出した生首の怪「女の首」。人の本性とはをきれいな顔の下にある「時雨鬼」。物の怪に翻弄される「灰神楽」。不老不死の人は存在するのか「蜆塚」。
憎しみ、妬み、そねみが生み出す鬼が全編のテーマだろう。子どもが主人公となり、恐ろしい出来事に巻き込まれる話が多いのだが、意外な事に、周りの大人たちが良い人であり、悲惨な結末にはなっていない。こういったホラーミステリーなら歓迎である。
とは言っても中には、「影牢」のように目を覆いたくなる話や、「蜆塚」のように心が痛む結末もある。
「本所深川ふしぎ草紙」、「幻色江戸ごよみ」、「堪忍箱」、「かまいたち」に通じるホラーミステリーだが、この「あやし」の完成度は、宮部さんの底力を突き付けられた思いである。
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影牢(かげろう)
布団部屋
梅の雨降る
安達家の鬼(あだちけのおに)
女の首
時雨鬼(しぐれおに)
灰神楽(はいかぐら)
蜆塚(しじみづか) 計9編の短編集
物の怪に例えたホラー仕立てで物語は進むが、実は人間の業が生み出した、心に巣食う怖さこそが怪であると解いている。後から首筋がぞわりとする作品集。
居眼り心中
藤一郎から、子を宿した女中のおはるの元へ、使いを頼まれた銀次は、着いた先で、藤一郎とおはるが相対死している姿を目の当たりにする。
主要登場人物
銀次...日本橋通瀬戸物町木綿問屋大黒屋の丁稚
親父...大伝馬町口入れ屋万年屋の主
藤一郎...大黒屋の若旦那
影牢(かげろう)
一番番頭松五郎が、三月前に起きた岡田屋一家七人が毒をあおった、惨劇を磯辺に語る。それは、先代の内儀お多津の亡霊の生した業か。それとも松五郎か…。
主要登場人物
松五郎...深川六間掘町堀蝋問屋岡田屋の一番番頭
多津...深川六間掘町堀蝋問屋岡田屋の先代内儀
磯辺...同心
布団部屋
奉公先で急死した姉おさとの後を受け、兼子屋に奉公に上がったおゆうは、女中頭お光の命令で、布団部屋で一夜を過ごす事を余儀なくされる。聞けば奉公人誰もが通る仕来りらしい。
主要登場人物
おゆう...深川永代寺門前東町酒屋兼子屋の女中
おさと...元兼子屋の女中、おゆうの姉
お光...兼子屋の女中頭
梅の雨降る
担ぎの油売り箕吉の元へ、姉のおえんがみまかったと知らせが届く。おえんは、器量で奉公先をほかの娘に奪われてから、心を病んだ侭であった。
主要登場人物
箕吉...担ぎの油売り
おえん...箕吉の姉
安達家の鬼(あだちけのおに)
笹屋に嫁いだわたくしが語る、お義母さまの生涯。お義母さまの傍らには、わたしには見えない何者かが棲んでいた。
主要登場人物
わたくし...富太郎の妻、語り手
お義母さま...筆と墨の商い笹屋の隠居、日本橋通町呉服問屋上州屋の庶子
富太郎...笹屋の主
お玉...笹屋の女中
女の首
母が亡くなり十歳で葵屋の丁稚となった太郎は、ある日、納戸部屋の唐紙に女の生首を見てしまった。と、同時に幼い頃勾引しあった葵屋の実子に間違いないと葵屋夫妻が言い出して…。
主要登場人物
太郎...本所一ツ目橋袋物屋葵屋の丁稚
浅一郎...葵屋の主
お由宇...浅一郎の妻
おあき...葵屋の女中
時雨鬼(しぐれおに)
お信は奉公先を紹介してくれた口入れ屋に、奉公先を代わる相談をしに行く。応対に出た口入れ屋の女房を名乗るおつたは、お信が悪い男に騙されていると察し、己の半生を語り聞かせるのだが。
主要登場人物
お信...下谷搗米屋加納屋
おつた...深川六間掘町口入れ屋桂庵の内儀
重太郎...お信の情男
灰神楽(はいかぐら)
平良屋から、奉公人が刃傷沙汰を起こしたとの知らせを受けた政五郎が駆け付けると、主の弟の善吉に斬り掛かったおこまという女中が、この世のものとは思えぬ悪口の挙げ句、白い灰のような息を吐き出し事切れてしまう。
主要登場人物
政五郎...本所元町の岡っ引き
善吉...桐生町下駄屋平良屋の弟
おこま...女中
誠次...下駄職人
蜆塚(しじみづか)
病いで伏せている松兵衛を見舞った米介は、松兵衛から、世の中には歳も取らず、病にもかからず、死にもしない連中がいると聞かされる。現に桂庵にも十年くらい時を開け、同じ人物が訪なっている筈だと。
主要登場人物
米介...柳橋先の代地口入れ屋桂庵の主
松兵衛...日本橋西呉服屋小河屋の番頭、米介の亡父の碁敵
六太郎...小河屋の奉公人
夢と現実の間を彷徨う「居眼り心中」。真実は何処に。そして目の前にいるのは、生ある者かそれもと…。最後の最後の言葉が気にかる「影牢」。曰くと因縁に肉親の情愛が挑む「布団部屋」。憎しみや妬みが生み出した幻影に翻弄される「梅の雨降る」。
鬼を作り出すのは、人のそねみや憎しみであると解く「安達家の鬼」。女の業が生み出した生首の怪「女の首」。人の本性とはをきれいな顔の下にある「時雨鬼」。物の怪に翻弄される「灰神楽」。不老不死の人は存在するのか「蜆塚」。
憎しみ、妬み、そねみが生み出す鬼が全編のテーマだろう。子どもが主人公となり、恐ろしい出来事に巻き込まれる話が多いのだが、意外な事に、周りの大人たちが良い人であり、悲惨な結末にはなっていない。こういったホラーミステリーなら歓迎である。
とは言っても中には、「影牢」のように目を覆いたくなる話や、「蜆塚」のように心が痛む結末もある。
「本所深川ふしぎ草紙」、「幻色江戸ごよみ」、「堪忍箱」、「かまいたち」に通じるホラーミステリーだが、この「あやし」の完成度は、宮部さんの底力を突き付けられた思いである。
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