うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

お順~勝海舟の妹と五人の男~(上・下巻)

2013年10月12日 | 諸田玲子
  2010年10月発行

 勝海舟の妹であり、佐久間象山の妻であったひとりの女性・お順が辿った女としての道。そして彼女を取り巻く幕末の動乱を描いた長編作品。

上巻
第一章 小吉の放蕩(ほうとう)
第二章 虎之助の野暮(やぼ)
第三章 象山の自惚(うぬぼ)れ
下巻
第三章 象山の自惚(うぬぼ)れ(承前)
第四章 隣太郎の人たらし
第五章 俊五郎の無頼
終 章 お順のその後 長編

 奔放ではあるが、情に深く義を重んじる父・勝小吉を崇拝するお順は、貧困の中にあってもそれを苦にもせず、当時の女性としては進歩的思考に育っていった。
 そんな彼女が思慕を抱いたのは、父親程も年の離れた剣客・島田虎之介であった。
 この初恋は実ろうかといった矢先、虎之介が病いに倒れる。
 そして、やはり親子程も年の離れた佐久間象山の正室として嫁すが、そこには妾の産んだ幼い恪二郎と、同じく妾のお蝶が先住しているのだった。
 いきなり恪二郎の母として家刀自として、一切を任されたお順。胸の奥に虎之介の思いを秘めながらも、象山を尊敬し、妻として相応しくあろうと努めるが、嘉永7 (1854)年、再び来航したペリーの艦隊に門弟の吉田寅次郎(松陰)が密航を企て、象山も事件に連座して伝馬町に入獄。更に松代での蟄居を余儀なくされる。 
 お順も松代まで同道し、江戸を離れ長い蟄居生活を送る。
 実母・信子の病い看病のため、単身江戸へと戻ったお順。時に、実兄の麟太郎(海舟)は、幕府の重鎮として出世を果たし、蟄居を解かれた象山は一橋慶喜に招かれて上洛し、公武合体論と開国論を説くも、尊皇攘夷派の志士・前田伊右衛門、河上彦斎等により暗殺される。
 再び勝家に戻ったお順は、山岡鉄太郎(鉄舟)の門弟であった村上俊五郎に亡き虎之介の面影を見出し、恋に落ちる。
 幕府が倒れ、駿府へと移住を余儀なくされた旧幕臣たちであったが、お順はここで俊五郎との生活を始めるも、俊五郎の身持ちの悪さに愛想を尽かしたお順はひとりで歩き出す事を誓う。

 愛した島田虎之介、尊敬する佐久間象山、女としての幸せを掴もうとした村上俊五郎。そして敬愛止まない父・小吉。勝家再興を果たし、先見の明のある兄・麟太郎(海舟)。
 お順に生涯に多大な影響を及ぼした5人の男たちである。
 さすが勝家の娘。ほかにも彼女を取り巻く人物がひとかどではない。当然なのだが、幕末で名の知れ人たちばかりである。
 物語は、お順の目を通して描かれており、幕末の政治や歴史をくどくどと論じる事もなく、自然に頭に入ってくるので、歴史が苦手な方でも難なく読みこなせるだろう。
 諸田氏渾身の作と感じ入った。
 大変に面白い作品である。
 
主要登場人物
 勝順子...勝家の二女、佐久間象山の妻
 勝小吉(夢酔)...順の父親、旗本・小普請組
 勝麟太郎(海舟)...順の兄、海軍奉行並、陸軍総裁、軍事取扱など歴任
 勝信子...順の母親
 勝はな...順の姉
 勝民子...麟太郎の正妻
 男谷信友...小吉の甥、幕臣、道場主
 島田虎之介...順の許嫁、剣客、武蔵忍藩藩主・松平忠敬の出入り師範
 島田菊...虎之介の娘
 佐久間象山...順の夫、松代藩士、兵学者・朱子学者・思想家
 村上俊五郎...順の内縁の夫、元道場主、浪士組道中目付
 佐久間恪二郎(三浦啓之助)...象山の庶子、後の新選組隊士、松山県裁判所判事
 お蝶...佐久間象山の妾


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