2011年6月発行
深川中島町の木戸番夫婦、笑兵衛とお捨を中心に、そこに暮らす人々の営みを描いた人情時代小説。「深川澪通り木戸番小屋」7年振りのシリーズ第5弾。
主要登場人物(レギュラー)
笑兵衛...深川中島町の木戸番
お捨...笑兵衛の妻
弥太右衛門...中島町の自身番に詰める差配人(いろは長屋の差配人)
太九郎...中島町の自身番に詰める書役
神尾左馬之助...北町奉行所定町廻り同心
伝次...岡っ引き(左馬之助の小者)
勝次...賄い屋の奉公人(元南組三組の纏持ち)
おけい...勝次の妻
第一話 いま、ひとたびの
第二話 花柊
第三話 澪つくし
第四話 下り闇
第五話 ぐず豆腐
第六話 食べくらべ
第七話 初霜
第八話 ほころび 計8編の短編連作
いま、ひとたびの
5年前に中島町にやって来たおゆうは、錦絵に描かれるよりも美しい娘だが、右の頬と左の指に大層な火傷の痕がある。その火傷の訳には傷ましい事件があった。
その件に関わりがある彦太郎と、偶然にも木戸版小屋で再会したおゆうは…。
おゆうの決心で幕を閉じるが、明るい未来へ向けての進展を続編で描いて欲しいと願って止まない。
主要登場人物
おゆう...三島町小売り米屋の娘
彦太郎...賄い屋の奉公人、三島町料理屋の次男、おゆうの元許嫁
花柊
大工の三郎助が現場で怪我し、寝付いたおちせの元に舅の儀兵衛が、看病を名目に家移りして来た。だがこの舅、看病どころか、おちせの言動に難癖を付け隣散らす毎日。頼みの綱の三郎助も、大工の仕事を続けられないとなると人が変わり、おちせは追い詰められていた。
精神的に追い詰められたおちせ。我が侭放題で、己の事しか考えられない儀兵衛。そんな家の中を煩わしく思う三郎助。だが、何時か暗雲は晴れるとお捨の大らかな人柄が伺える一話。
主要登場人物
おりつ...おちせの友人
おちせ...三郎助の妻
三郎助...大工
儀兵衛...三郎助の父親
澪つくし
離縁しひとりで暮らすお才は、思いも掛けずに雄之介に再会をする。その雄之介こそ、お才が思いを寄せた相手なのだが、実は5年前、雄之介の妻の萩江に不義の噂が立ち、雄之介と萩江は夜逃げ同然で姿を眩ませたのだった。そしてその噂の出所はお才とされていた。
適わぬものであっても好いた男を守りたい。そんなお才の一途な思いがいじらしい。終盤笑兵衛の、「縁がありゃあ、また会えるさ」の台詞が利いている。
主要登場人物
お才...おもちゃ作りの内職
宇田(三根)雄之介...手跡指南所の師匠
万次...小間物売り
下り闇
男に縁のないおとき。所帯を持つと思っていた伊三には妻子がおり、次に出会った直吉は若い女と消えた。思い余りいろは長屋に戻ってみるが、日々は酒に溺れるだけだった。
ひがみ妬みの激しい気質のおとき。強がっては居るものの、誰か口には出せない本音を見抜いて欲しいといった切実な悲鳴が聞こえてくる。
主要登場人物
おとき...いろは長屋の店子
伊三...大工、おときの元情夫
直吉...小間物売り、おときの元情夫
ぐず豆腐
おるいは、百姓を嫌って家を飛び出した息子の峰松を本所で見掛けたと聞き、探しに江戸までやって来た。深川の鼠長屋で知合ったお京は、おるいとは逆に親に探して欲しいと願っている娘だった。
親子の絆を描いたこの作品には、シリーズにも時折顔を出す金兵衛の子育てと、子の親を思う繋がりも同時進行で描かれ愛らしい。
主要登場人物
おるい...小島村の百姓
お京...相川町縄暖簾の女中
金兵衛...豆腐屋の主
秀太...金兵衛の長男
栄三...金兵衛の三男
食べくらべ
亭主と息子を亡くし、仕立て直しを生業とするおはんは、ある日、待針を背に縫い込んだままだった事を叱咤され、己の衰えとひとり身の老後に不安を抱くのだった。
主要登場人物
おはん...仕立て直し
後家...佐賀町干鰯問屋の隠居
おちよ...仕立て直し仲間
おひさ...仕立て直し仲間
おりゅう...仕立て直し仲間
初霜
大人しく可愛らしかった嘉一が、大工の棟梁の元から実家へ逃げ帰ると、母親のおくにに殴る蹴るの乱暴を働く上に、昼夜反転の荒んだ生活を送るようになっていた。その訳は、おくににあった。
現在の家庭内暴力であろう。嘉一、おその共に、母親の過去から振られるといった痛い思いが暴力へと突き動かしていったのだ。余り後味の良い作品ではないが、笑兵衛、お捨の包容力が嘉一を救う事だろう。
主要登場人物
嘉一...無職
おくに...嘉一の母親
おその...嘉一の妹
長五郎...嘉一の継父、小間物売り
ほころび
兄の伊之助の朋友だった宗助を見掛けたお俊。その後ろには古着屋の出戻り娘おさわの姿が合った。その後、高熱を出したお俊は、亡くなった嫂だったおたねから、おさわの嫁した先の笠間屋の三好屋源太郎が見初めたのはお俊であり、宗助の気持ちもお俊にあると聞かされる。
お俊の与り知らないところで、お俊の幸せを奪っていっていた幼馴染みのおさわ。こういう小狡い女は得てしているもので、そして男はそれに気が付かない。
主要登場人物
お俊...佐賀町菓子屋大和屋の菓子の考案
おたね...元お俊の嫂、板前の五平の妻
宗助...畳職人、お俊の兄の朋友
一話毎の主人公がどんな判断を下したのか、それを明確に言葉では現していない。だが、その思いは前向きに変わっていっている筈だと匂わせ、笑兵衛とお捨は、それにほんの少し手を貸すといった組み立て方になっている。
今回は、思いを抱いてもそれを相手に伝えられない女が多く登場しているようだ。
また、金兵衛と新たにその息子たちの出番もあり、自作に繋がる展開へと期待したい。
書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村
深川中島町の木戸番夫婦、笑兵衛とお捨を中心に、そこに暮らす人々の営みを描いた人情時代小説。「深川澪通り木戸番小屋」7年振りのシリーズ第5弾。
主要登場人物(レギュラー)
笑兵衛...深川中島町の木戸番
お捨...笑兵衛の妻
弥太右衛門...中島町の自身番に詰める差配人(いろは長屋の差配人)
太九郎...中島町の自身番に詰める書役
神尾左馬之助...北町奉行所定町廻り同心
伝次...岡っ引き(左馬之助の小者)
勝次...賄い屋の奉公人(元南組三組の纏持ち)
おけい...勝次の妻
第一話 いま、ひとたびの
第二話 花柊
第三話 澪つくし
第四話 下り闇
第五話 ぐず豆腐
第六話 食べくらべ
第七話 初霜
第八話 ほころび 計8編の短編連作
いま、ひとたびの
5年前に中島町にやって来たおゆうは、錦絵に描かれるよりも美しい娘だが、右の頬と左の指に大層な火傷の痕がある。その火傷の訳には傷ましい事件があった。
その件に関わりがある彦太郎と、偶然にも木戸版小屋で再会したおゆうは…。
おゆうの決心で幕を閉じるが、明るい未来へ向けての進展を続編で描いて欲しいと願って止まない。
主要登場人物
おゆう...三島町小売り米屋の娘
彦太郎...賄い屋の奉公人、三島町料理屋の次男、おゆうの元許嫁
花柊
大工の三郎助が現場で怪我し、寝付いたおちせの元に舅の儀兵衛が、看病を名目に家移りして来た。だがこの舅、看病どころか、おちせの言動に難癖を付け隣散らす毎日。頼みの綱の三郎助も、大工の仕事を続けられないとなると人が変わり、おちせは追い詰められていた。
精神的に追い詰められたおちせ。我が侭放題で、己の事しか考えられない儀兵衛。そんな家の中を煩わしく思う三郎助。だが、何時か暗雲は晴れるとお捨の大らかな人柄が伺える一話。
主要登場人物
おりつ...おちせの友人
おちせ...三郎助の妻
三郎助...大工
儀兵衛...三郎助の父親
澪つくし
離縁しひとりで暮らすお才は、思いも掛けずに雄之介に再会をする。その雄之介こそ、お才が思いを寄せた相手なのだが、実は5年前、雄之介の妻の萩江に不義の噂が立ち、雄之介と萩江は夜逃げ同然で姿を眩ませたのだった。そしてその噂の出所はお才とされていた。
適わぬものであっても好いた男を守りたい。そんなお才の一途な思いがいじらしい。終盤笑兵衛の、「縁がありゃあ、また会えるさ」の台詞が利いている。
主要登場人物
お才...おもちゃ作りの内職
宇田(三根)雄之介...手跡指南所の師匠
万次...小間物売り
下り闇
男に縁のないおとき。所帯を持つと思っていた伊三には妻子がおり、次に出会った直吉は若い女と消えた。思い余りいろは長屋に戻ってみるが、日々は酒に溺れるだけだった。
ひがみ妬みの激しい気質のおとき。強がっては居るものの、誰か口には出せない本音を見抜いて欲しいといった切実な悲鳴が聞こえてくる。
主要登場人物
おとき...いろは長屋の店子
伊三...大工、おときの元情夫
直吉...小間物売り、おときの元情夫
ぐず豆腐
おるいは、百姓を嫌って家を飛び出した息子の峰松を本所で見掛けたと聞き、探しに江戸までやって来た。深川の鼠長屋で知合ったお京は、おるいとは逆に親に探して欲しいと願っている娘だった。
親子の絆を描いたこの作品には、シリーズにも時折顔を出す金兵衛の子育てと、子の親を思う繋がりも同時進行で描かれ愛らしい。
主要登場人物
おるい...小島村の百姓
お京...相川町縄暖簾の女中
金兵衛...豆腐屋の主
秀太...金兵衛の長男
栄三...金兵衛の三男
食べくらべ
亭主と息子を亡くし、仕立て直しを生業とするおはんは、ある日、待針を背に縫い込んだままだった事を叱咤され、己の衰えとひとり身の老後に不安を抱くのだった。
主要登場人物
おはん...仕立て直し
後家...佐賀町干鰯問屋の隠居
おちよ...仕立て直し仲間
おひさ...仕立て直し仲間
おりゅう...仕立て直し仲間
初霜
大人しく可愛らしかった嘉一が、大工の棟梁の元から実家へ逃げ帰ると、母親のおくにに殴る蹴るの乱暴を働く上に、昼夜反転の荒んだ生活を送るようになっていた。その訳は、おくににあった。
現在の家庭内暴力であろう。嘉一、おその共に、母親の過去から振られるといった痛い思いが暴力へと突き動かしていったのだ。余り後味の良い作品ではないが、笑兵衛、お捨の包容力が嘉一を救う事だろう。
主要登場人物
嘉一...無職
おくに...嘉一の母親
おその...嘉一の妹
長五郎...嘉一の継父、小間物売り
ほころび
兄の伊之助の朋友だった宗助を見掛けたお俊。その後ろには古着屋の出戻り娘おさわの姿が合った。その後、高熱を出したお俊は、亡くなった嫂だったおたねから、おさわの嫁した先の笠間屋の三好屋源太郎が見初めたのはお俊であり、宗助の気持ちもお俊にあると聞かされる。
お俊の与り知らないところで、お俊の幸せを奪っていっていた幼馴染みのおさわ。こういう小狡い女は得てしているもので、そして男はそれに気が付かない。
主要登場人物
お俊...佐賀町菓子屋大和屋の菓子の考案
おたね...元お俊の嫂、板前の五平の妻
宗助...畳職人、お俊の兄の朋友
一話毎の主人公がどんな判断を下したのか、それを明確に言葉では現していない。だが、その思いは前向きに変わっていっている筈だと匂わせ、笑兵衛とお捨は、それにほんの少し手を貸すといった組み立て方になっている。
今回は、思いを抱いてもそれを相手に伝えられない女が多く登場しているようだ。
また、金兵衛と新たにその息子たちの出番もあり、自作に繋がる展開へと期待したい。
書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村