うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

月は誰のもの~髪結い伊三次捕物余話~

2014年10月24日 | 宇江佐真理
 2014年10月発行

 超人気「髪結い伊三次捕物余話」シリーズ第8弾「我、言挙げす」から、第9弾「今日を刻む時計」までの10年間を描いた書き下ろし長編。

月は誰のもの
 火事で全てを失った伊三次一家のそれから。空白だった10年の間に、何が合ったのか?
 伊三次は姉の嫁ぎ先の梅床に、お文は、伊与太と共に、芸妓屋・前田に身を置き、暫し離れての暮らしを余儀なくされていた。
 そんな中、お文は偶然にも実の父親に出会い、不破龍之進は、若かりし頃の宿敵・本所無頼派の薬師寺次郎衛とひょんな事から巡り会い、親交を深める。
 そして伊三次にも、淡い恋心が芽生え…。
 一方で、味噌・醤油問屋・野田屋の主殺しの下手人とされる稲助の冤罪を晴らすため、不破友之進、伊三次、緑川平八郎が走る! 
 現行のシリーズは時代が進み、出番の少なくなった不破友之進、伊三次のコンビが活躍する、ファン待望の一冊である。

 ああ、あの10年をこういった形で繋いでいったのかと、今更ながらに宇江佐氏の文才に感動。
 これは、ページの関係だろうが、全体に短文の組み合わせで、文体が急ぎ足感を否めず、宇江佐氏独特の奇麗な風景描写や人物洞察力が若干薄めであるのが残念。
 しかし、若かりし伊三次の勇士はファンにはたまらず、こういった形で、本編以外にも出版していって欲しいと切に願う次第。

主要登場人物
 伊三次...廻り髪結い、不破友之進の小者
 お文(文吉改め桃太郎)...伊三次の妻、日本橋前田の芸妓
 伊与太...伊三次の息子
 不破友之進...北町奉行所定廻り同心
 不破いなみ...友之進の妻
 不破きい...龍之進の妻
 不破龍之進...友之進の嫡男、北町奉行所番方若同心、八丁堀純情派
 松助...不破家中間
 緑川平八郎...北町奉行所隠密廻り同心
 緑川鉈五郎...平八郎の嫡男、北町奉行所番方若同心、(元八丁堀純情派)
 橋口譲之進...北町奉行所番方若同心、(元八丁堀純情派)

 春日多聞...北町奉行所番方若同心、(元八丁堀純情派)
 西尾左内...北北町奉行所番方若同心、(元八丁堀純情派)
 古川喜六...北北町奉行所番方若同心(柳橋料理茶屋川桝からの養子。前本所無頼派/元八丁堀純情派)
 片岡監物...北町奉行所吟味方与力見習い
 薬師寺次郎衛...駄菓子・よいこやの主、元小十人格(旗本格)薬師寺図書次男、(元本所無頼派)
 小勘(おのぶ)...日本橋前田の芸妓、次郎衛の女房
 増蔵...岡っ引き(門前仲町)





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爆笑新撰組 (歴史ポケットシリーズ)

2014年10月18日 | 新撰組関連
シブサワ コウ

 1998年5月発行

 新選組のすべてがわかる。「爆笑新選組」の改題改訂。

第1章 8分でわかる!? 新撰組の歴史
第2章 新撰組のエライ人
第3章 鬼だ、鬼だと呼ばないで
第4章 血煙ばかりが人生さ
第5章 新撰組とはオレのこと!
第6章 ボクたちだって、壬生狼だっ!!
第7章 オレがそんなに悪いのか?
第8章 関係ないや、と言わないで

 新選組の結成から終焉までの足跡。近藤勇、土方歳三、沖田総司始め隊士たちが新撰組でどうあったかを紹介。また、同時代に生きた幕末の志士たちを紹介している。
 軽いタッチで簡潔な文章と、ユニークなイラストで、初心者にも分かり易い、新撰組入門書。







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図解雑学 沖田総司と新選組隊士(図解雑学シリーズ)

2014年10月17日 | 新撰組関連
河合敦

 2003年12月発行

 謎に包まれた沖田総司の生涯をさまざまな角度から検証。並びに新撰組幹部隊士の人物像。新撰組の足跡を残す京都・日野・会津・函館を図解で紹介。

第1章 新選組関連
第2章 沖田総司の生涯
第3章 新選組隊士列伝
第4章 新選組の史跡探訪 

 沖田の生涯と素顔。新撰組発足から衰退までの足跡。そこに関わった隊士たち。こちらもマニュアル本として一冊用意しながら、新撰組関連の書物を読む事をお勧めしたい。こちらも欲しかった一冊。
 
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図解雑学 土方歳三(図解雑学シリーズ)

2014年10月17日 | 新撰組関連
山村竜也

 2003年12月発行

 幕末の動乱期に最強の剣客集団を育てあげ、幕府の節義に殉じた土方歳三の生誕から蝦夷地に散るまでの波瀾万丈の生涯を図解。

第1章 武州石田村
第2章 壬生浪士
第3章 新選組副長
第4章 局中法度
第5章 戊辰戦争
第6章 会津落陽
第7章 箱館五稜郭

 土方の生い立ちや人柄、交流なども図にまとめられており、また、地図によって進軍経路なども示され、小説等で文字だけでは分かり辛い部分をカバーしている。
 マニュアル本としてこれを一冊用意しながら、新撰組関連の書物を読む事をお勧めしたい。欲しかった一冊。


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むこうだんばら亭

2014年10月14日 | ほか作家、アンソロジーなど
乙川優三郎

 2005年3月発行

 江戸での暮しに絶望し、銚子へ流れ着いた孝助とたかが営む酒亭 「いなさ屋」に集う市井の男女を描く連作短編集。

行き暮れて
散り花
希望
男波女波
旅の陽射し
古い風
磯笛
果ての海 計8編の連作短編集

行き暮れて
 13歳で越後から江戸の岡場所に、17歳で銚子へと売られてきた老女の半生と故郷への郷愁。

散り花
 一家を支える貧窮に耐え兼ね、身を売る少女・すが。

希望
 女郎として半生を送ったきちが、友造と出会い、本当の愛を知る。

男波女波
 他界した女房の秘密を知ってしまった佐多蔵は、子と生き別れたゆうと出会い、過去の呪縛から解き放される。

旅の陽射し
 夫である医師・意伯に、昔の不貞を打ち明けられた万は心穏やかではない。だが、医師として立ち直った夫との絆を深めていく。

古い風
 夫の暴力により離縁し、点々とした末に綿縮の機織りを始めたあさに良縁が舞い込むが、己の過去から抜け出せすことができなかった。

磯笛
 己の過失が元で女房、子どもを失った船頭の島蔵。大海原の果てから己を呼び女房と子どもの声を聞く。

果ての海
 娘・ぬいの身売り話に心を痛めるたか。孝助は、昔は芸妓であり現在三弦指南のかのを訪れ、その厳しい半生を聞き、ある決断をする。

 海辺の町・銚子で生きる市井の人々の悲喜こもごもを切なくそして哀愁を込めて描いた作品集。
 胸にジーンと響く一冊。

主要登場人物
 いなさ屋孝助...銚子の酒亭・桂庵の主
 たか...元宿場女郎






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保存版 古写真で見る江戸から東京へ

2014年10月10日 | ほか作家、アンソロジーなど
鈴木 理生・小沢健志(監修)

 2001年4月発行

 明治初年から20年代初めの東京が撮影された未発表の貴重な写真を多数含む、写真アルバム「大日本東京写真名所一覧表」を初めて公開。100余年前の東京グラフティー。

巻頭特集 カラーで蘇る幕末から明治の江戸・東京
古写真で見る 江戸から東京へ(江戸城/皇城之部)
麹町区(糀町区之部) ほか
江戸から東京へ 古写真の魅力
対談 古写真で偲ぶ江戸・東京
紀行 向島を歩く
東京史年表(明治元年~明治30年)

 江戸の名残を残しつつ文明開化の花咲く東京の姿が、当時の写真によって蘇る。





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大正の后(きさき)

2014年10月10日 | ほか作家、アンソロジーなど
植松三十里

 2014年09月16日

 大正天皇に嫁ぎ、激動の昭和を生き抜いた貞明皇后の生涯を描おた長編小説。

1章 武蔵の育ち
2章 九条の黒姫さま
3章 二十二歳の雪合戦
4章 大正浪漫
5章 はるか御陵へ
6章 日の丸の小旗
7章 ヒメジョオン 長編


 九条家の姫、節子は、幼少の頃に農家へ預けられ、「九条の黒姫さま」と呼ばれるほど活発な少女として育つ。その利発さと健やかさを評価され、皇太子妃として選ばれたことから、病に臥せることの多かった大正天皇を支える貞明皇后として、激動の人生が始まった。
 また、母として昭和天皇を見守り続け明治、大正、昭和を通し、平和への願いと家族の絆を描いた、皇室の視点から日本の近代史に光を当てた傑作長編。

 明治・昭和天皇と比べ、余り知られていない、大正天皇の私生活や素顔を伺える。読み易い一冊。




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昨日のまこと、今日のうそ~髪結い伊三次捕物余話~

2014年10月08日 | 宇江佐真理
 2014年9月発行

 髪結いと同心の小者の、二足の草鞋を履く伊三次の人情捕物劇と、その家族との繋がりを描いたシリーズ第13弾。

共に見る夢
指のささくれ
昨日のまこと、今日のうそ
花紺青(はなこんじょう)
空蝉(からせみ)
汝、言うなかれ 計6編の短編連作

共に見る夢
 龍之進、きいに待望の子が誕生した。栄一郎と名付けられた子の誕生祝いが臨時廻り同心・岩瀬修理から届かない事にいなみは首を傾げる。
 ほぼ時を同じくして、その岩瀬から大名家の若様の放蕩に手を焼いていると相談を受けた友之進。岩瀬と親しく交わる内に、岩瀬の妻女・清乃が死の床にあると知る。
 清乃を、伊勢参りにも連れて行けなかったと悔やむ姿を目の当たりにした友之進は、役目を退いた後、いなみに伊勢参りに行こうと持ち掛けるのだった。

指のささくれ
 伊三次の弟子・九兵衛は、実父・岩次の勤める魚問屋・魚佐の娘・おてんとの祝言に踏み切れないでいた。それは、家格の違いにもあるが、ほかに好いた娘が現れた事が大きかった。しかし、おてんとの話を反故にすれば、岩次が職を失い欠けず…。苦しむ九兵衛を見兼ねた伊三次は、九兵衛が思いを寄せているであろう娘に探りを入れるが…。

 九兵衛の、淡い恋心とおてんの一途な思いに、童女失踪事件を絡め、人の思いと誤解、また、身分といった日常にありがちな事柄を九兵衛の主演で描いた、味わい深い一作。

昨日のまこと、今日のうそ
 病いに臥せる松前藩嫡男・松前良昌を見舞う三省院鶴子の供として上屋敷に赴いた茜(刑部)だったが、そこで、良昌から案に側室を所望される言葉を切り出される。どうやら鶴子も承知の上だったようである。
 茜は、その場で良昌の快癒を願い、まずは藩主となって欲しいと励ますが…それは承諾とも受け取れる返事だった。
 
 武家の奉公人としての刑部と、ひとりの女としての茜の、追い詰められた苦しい胸の内、伊与太への思いを描いている。伊与太と茜の恋はどういった展開になるのか、宇江佐氏の筆に興味が募る。
 
花紺青
 伊与太の師である歌川国直の元に、芳太郎なる新たな弟子がやってきた。伊与太のとっては年齢的にも弟弟子になるのだが、その経歴や才能は伊与太の比ではない。
 己の限界を感じながらも、悋気を押さえ切れない伊与太。思い余って足が向いたのは、葛飾北斎の元だった。
 伊与太の言動から全てを察した北斎は、伊与太に結髪亭北与(けっぱつていほくよ)の雅号を与える。
 一方、九兵衛とおてんの祝言が決まり、伊三次一家、不破家も喜び一色である。伊与太も兄と慕う九兵衛へ、己の画を届けるのだった。

 九兵衛とおてんの祝言の日の慌ただしさの中に、人の繋がりを描き、温かな最終回のような終わり方をしている。いつか最終回を迎えるのなら、こんな終焉が望ましいと思わせるのだが、やはり宇江佐氏である。
 伊与太と葛飾北斎を絡ませ、今後、葛飾北斎の存在が深く関わっていくことを暗示させているのだ。

空蝉
 江戸の町に周到な押し込みが横行し、捕獲を逸した内与力の山中寛左は、古川喜六が内通者があると疑い、不破龍之進と緑川鉈五郎に喜六の周辺捜査を依頼する。
 だが、山中寛左の思惑は短絡であり、彼の言動に不信を抱く龍之進。父・友之進も同様な捜査を依頼され、山中寛左への疑惑を抱く。
 そして、九兵衛の新妻・おてんの実家である魚佐を回りに高積み見廻り同心が調べていることから、伊三次は、次の押し込みは魚佐ではないか、真の密通者は山中寛左ではないかと、魚佐張り込む。

 龍之進、鉈五郎が内密な使命を受ける奉行所内から話が始まり、務めと友情との葛藤から、九兵衛とおてんの新婚生活。そして孫が産まれた不破家と舞台は変わりながらも、話が全て繋がり、やはり伊三次の勘が鍵となっていく展開に、レギュラー陣が顔を揃え自然な流れの中で事件が明るみとなる、練られたストーリだった。
 
汝、言うなかれ
 京橋・柳町の漬物屋・村田屋の女将・おとよは、亭主で村田屋の主・信兵衛の10年前の打ち明け話を思い起こしていた。
 当時手代だった信助(信兵衛)に惚れて入り婿に迎えたのはおとよである。
 その折り信助は、以前貧しさから人を殺め金子を奪った過去を告白していたが、その過去を深く悔い改め、また、日頃の奉公振りから、止むに止まれぬ事情と、おとよは罪を胸に仕舞い込み、重みを共に背負う覚悟で一緒になったのだった。
 だが、村田屋を継いでから首をもたげ出した信兵衛の短慮な性質に不安を抱く中、信兵衛と不仲の青物問屋・八百金の主・金助が土左衛門となって発見される。
 おとよの胸に、当日の信兵衛の不審な行動が重く伸し掛かったように、伊三次たち町方の手が信兵衛に伸び、過去の殺人が明るみに出る。

 ほとんど村田屋の話で、伊三次は大詰めの捜査から登場といったシリーズでは異色の展開(何本かはある)である。伊三次ファンには物足りないが、宇江佐氏が、現在の事件の傷ましさを伝えようとしている作品が見受けられる一端であろう。
 人の二面性、物事の善悪を見事に表現している。
  
主要登場人物
 伊三次...廻り髪結い、不破友之進の小者
 お文(文吉)...伊三次の妻、日本橋前田の芸妓
 伊与太...伊三次の息子、芝愛宕下の歌川豊光の門人
 お吉...伊三次の娘
 九兵衛...伊三次の弟子、九兵衛店の岩次の息子
 岩次...新場魚問屋魚佐の奉公人
 お梶...九兵衛の母親 
 お園...炭町髪結床・梅床十兵衛の女房、伊三次の姉
 不破友之進...北町奉行所臨時廻り同心
 不破いなみ...友之進の妻
 不破龍之進...友之進の嫡男、北町奉行所定廻り同心
 不破茜(刑部)...友之進の長女、本所緑町・蝦夷松前藩江戸下屋敷の奥女中(別式女)
 不破きい...龍之進の妻
 不破栄一郎...龍之進の嫡男
 笹岡小平太...北町奉行所同心、元北町奉行所物書同心清十郎の養子、きいの実弟
 松助...本八丁堀の岡っ引き(元不破家の中間)
 おふさ...伊三次家の女中、松助の妻
 佐登里...松助とおふさの養子
 歌川国直...日本橋田所町の絵師、伊与太の師匠
 芳太郎(歌川国華)...国直の弟子
 片岡監物...北町奉行所吟味方与力
 緑川平八郎...北町奉行所臨時廻り同心
 緑川鉈五郎...平八郎の嫡男、北町奉行所隠密廻り同心
 橋口譲之進...北町奉行所年番方同心
 古川喜六...北北町奉行所吟味方同心
 三保蔵...不破家の下男
 おたつ...不破家の女中
 和助...不破家の中間
 増蔵...門前仲町の岡っ引き
 おてん...新場魚問屋魚佐の末娘
 松前良昌...蝦夷松前藩藩主・道昌の嫡男
 三省院鶴子...蝦夷松前藩8代藩主・資昌の側室
 村上監物...蝦夷松前藩執政(首席家老)
 長峰金之丞...下谷新寺町松前藩江戸上屋敷の奥女中(別式女)、茜の朋輩
 佐橋馬之介...松前藩江戸上屋敷の奥女中(別式女)、茜の朋輩
 さの路...松前藩江戸上屋敷の御半下女中 
 藤崎...松前藩江戸上屋敷の老女
 おため...歌川国直家の女中
 葛飾北斎...浮世絵師
 お栄(葛飾応為)...北斎の三女、浮世絵師
 おとし...産婆
 山中寛左...北町奉行所内与力







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