松井今朝子
2007年3月発行
逃げ切るのは不可能とされた花の吉原で、名妓と謳われた花魁・葛城が突然失踪する。その失踪の謎を突き止めるため、ひとりの男が関係者たちに話を聞いて回る謎解きミステリー。
引手茶屋 桔梗屋内儀 お延の弁
舞鶴屋見世番 虎吉の弁
舞鶴屋番頭 源六の弁
舞鶴屋抱え番頭新造 袖菊の弁
伊丹屋繁斎の弁
信濃屋茂兵衛の弁
舞鶴屋遣手 お辰の弁
仙禽楼 舞鶴屋庄右衛門の弁
舞鶴屋床廻し 定七の弁
幇間 桜川阿善の弁
女芸者 大黒屋鶴次の弁
柳橋船宿 鶴清抱え船頭 富五郎の弁
指切り屋 お種の弁
女衒 地蔵の伝蔵の弁
小千谷縮問屋 西之屋甚四郎の弁
蔵前札差 田之倉屋平十郎の弁
詭弁 弄弁 嘘も方便 長編
身請けを控え、幸せの絶頂にあった筈の、吉原の大籬・舞鶴屋抱えの花魁・葛城が煙のように消え失せた事は、周知の事実であった。だが、当時、廓の法度どうりに葛城に追っ手は掛らず、事は有耶無耶にされていた。
その謎を解き明かすべく、ひとりの男が関係者の固く鎖された口を訪ね歩く。
葛城の人となりに関しては滑らかな舌も、ひとたび事件の確信に触れようとすると、のらりくらりとはぐらかされながらも、一歩一歩確信に近付くのだった。
そして、事件の真相は、葛城の生い立ちを含めた意外なものだった。
表題の「吉原手引草」に惹かれて手に取った。そう、吉原の作法や成り立ち、風習などを知りたいと思ったからである。恥ずかしながら、著者の名前も、第137回直木賞受賞作ということも知らなかった。
まずは、引手茶屋桔梗屋内儀・お延の一人称で頁は進む。そして舞鶴屋見世番・虎吉、舞鶴屋番頭・源六……と、延々と一人称の文章で進行するのだ。
その間、主役と思われる聞き込みの男の正体は全く明かされないばかりか、一体何が起きたのか、葛城という花魁はどうしたのかと、知る事が出来ぬままである。言うなれば、これこそがミステリーの神髄であろう。
正直、推理小説、かつ一人称の文章の苦手な当方には、中だるみもあったが、当初の目的である吉原の作法や成り立ち、風習などの面においては、登場人物の話の中に、実に緻密に織り込まれており、吉原手引書としては申し分ない。
だが、読み進めて行くと、ぞっとするような作者の計算を思い知る事になる。
ひとり、またひとりと証言が進む度に、グルリと取り囲んだ捕縛がジリジリと間合いを詰めて行くような。縺れた糸がひとつ、ひとつ解けていくような。そんな緊張感がある。
そして最後まで語りの上での登場だった葛城に関しては、その後は明かされず、探索をする謎の男に関しては、読者の想像力を仰ぐといった形で、十返舎一九ではないかと思わせている。戯作の題材にといった名目も次第に明かされるが、実は目付手下としての探索だった事が最後の最後に明らかにされるのだが、十返舎一九であれば、駿府の町奉行同心の子として生まれ、江戸で武家奉公をした史実からも頷ける。
こうした細部にまで拘ったクオリティの高さは随所に現れている。読み終えて、作者の並みならぬ底力に感服した。
※主要登場人物は、目次の人物と同一
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逃げ切るのは不可能とされた花の吉原で、名妓と謳われた花魁・葛城が突然失踪する。その失踪の謎を突き止めるため、ひとりの男が関係者たちに話を聞いて回る謎解きミステリー。
引手茶屋 桔梗屋内儀 お延の弁
舞鶴屋見世番 虎吉の弁
舞鶴屋番頭 源六の弁
舞鶴屋抱え番頭新造 袖菊の弁
伊丹屋繁斎の弁
信濃屋茂兵衛の弁
舞鶴屋遣手 お辰の弁
仙禽楼 舞鶴屋庄右衛門の弁
舞鶴屋床廻し 定七の弁
幇間 桜川阿善の弁
女芸者 大黒屋鶴次の弁
柳橋船宿 鶴清抱え船頭 富五郎の弁
指切り屋 お種の弁
女衒 地蔵の伝蔵の弁
小千谷縮問屋 西之屋甚四郎の弁
蔵前札差 田之倉屋平十郎の弁
詭弁 弄弁 嘘も方便 長編
身請けを控え、幸せの絶頂にあった筈の、吉原の大籬・舞鶴屋抱えの花魁・葛城が煙のように消え失せた事は、周知の事実であった。だが、当時、廓の法度どうりに葛城に追っ手は掛らず、事は有耶無耶にされていた。
その謎を解き明かすべく、ひとりの男が関係者の固く鎖された口を訪ね歩く。
葛城の人となりに関しては滑らかな舌も、ひとたび事件の確信に触れようとすると、のらりくらりとはぐらかされながらも、一歩一歩確信に近付くのだった。
そして、事件の真相は、葛城の生い立ちを含めた意外なものだった。
表題の「吉原手引草」に惹かれて手に取った。そう、吉原の作法や成り立ち、風習などを知りたいと思ったからである。恥ずかしながら、著者の名前も、第137回直木賞受賞作ということも知らなかった。
まずは、引手茶屋桔梗屋内儀・お延の一人称で頁は進む。そして舞鶴屋見世番・虎吉、舞鶴屋番頭・源六……と、延々と一人称の文章で進行するのだ。
その間、主役と思われる聞き込みの男の正体は全く明かされないばかりか、一体何が起きたのか、葛城という花魁はどうしたのかと、知る事が出来ぬままである。言うなれば、これこそがミステリーの神髄であろう。
正直、推理小説、かつ一人称の文章の苦手な当方には、中だるみもあったが、当初の目的である吉原の作法や成り立ち、風習などの面においては、登場人物の話の中に、実に緻密に織り込まれており、吉原手引書としては申し分ない。
だが、読み進めて行くと、ぞっとするような作者の計算を思い知る事になる。
ひとり、またひとりと証言が進む度に、グルリと取り囲んだ捕縛がジリジリと間合いを詰めて行くような。縺れた糸がひとつ、ひとつ解けていくような。そんな緊張感がある。
そして最後まで語りの上での登場だった葛城に関しては、その後は明かされず、探索をする謎の男に関しては、読者の想像力を仰ぐといった形で、十返舎一九ではないかと思わせている。戯作の題材にといった名目も次第に明かされるが、実は目付手下としての探索だった事が最後の最後に明らかにされるのだが、十返舎一九であれば、駿府の町奉行同心の子として生まれ、江戸で武家奉公をした史実からも頷ける。
こうした細部にまで拘ったクオリティの高さは随所に現れている。読み終えて、作者の並みならぬ底力に感服した。
※主要登場人物は、目次の人物と同一
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