うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

利休の茶杓~とびきり屋見立帖~

2014年07月12日 | 山本兼一
 2014年5月発行

 尊王攘夷に国中が揺れる幕末の京都で、とびきり屋という道具屋を構えた真之介とゆず。とびきり屋を立派な店にする為、智恵を絞り奔走しながら、維新の志士たちと関わり合っていく。
 京の都の商人を主人公にした、はんなり系痛快時代小説の第4弾。

よろこび百万両
みやこ鳥
鈴虫
自在の龍
ものいわずひとがくる
利休の茶杓 計6編の短編連作

よろこび百万両
 銅屋の蔵の目録書を頼まれた、とびきり屋真之介とゆず。丁寧な仕事と人柄を見込まれ、道具屋冥利に尽きる程の逸品・堆黄の盆を託される。
 とびきりの値をつけようと意気込む矢先、待ち伏せしていたゆずの兄・長太郎に有無を言わさず連れられ、からふね善右衛門と雲堂孝右衛門の待つ座敷へ。
 彼らは、真之介が銅屋の蔵へ入っていることを知り、出物を待ち構えていたのだった。
 
みやこ鳥
 京の町に大筒の音が鳴り響いた。甲冑を着た武者が横行する。何が起きたのか…。
 真之介は様子を探りに市中に出向くと、長州が禁裏から締め出されたと言う。
 都落ちする三条実美に、真之介とゆずはみやこ鳥の香炉を送るのだった。

鈴虫
 銅屋吉左衛門から預かった、鈴虫の名の付いた黒楽茶碗。何代の作なのか、贋作なのかの目利きを頼まれたが、贋作には思えずかといって本物には9分。
 真之介もゆずにも、鈴虫の銘がそぐわないように思えてならないのだ。
 そんな折り、茶道家の若宗匠が、黒楽茶碗の鈴虫を持ち歩いていると聞く。
 早々家元の元に出向いたゆず。そこで、銅屋の鈴虫の本物の箱とそれに相応しい本来の名を見出すのだった。
 
自在の龍
 枡屋喜右衛門から、名工・明珍作の鉄製始め、沢山の自在置物(鉄などの素材で、体節・関節が動くように写実的に作られた動物の模型)を持ち込まれた「とびきり屋」。
 だが、龍の自在置物だけは売らずに、かつ枡屋が指定する形で飾って欲しいと頼まれる。
 真之介は、これは何かの合図に違いないと得心する。そんな折り、芹沢鴨がやって来て、その絡繰りを見抜きそうになるのを、ゆずが防ぐ。

利休の茶杓
 真之介が茶杓箪笥を仕入れてきた。竹はもちろん、象牙や銀の茶杓もあり、見事な細工である。いずれも利休や織部、細川三斎などの高名な茶人の物を真似たようである。
 早々に目を着けた若宗匠宗春が買い求めるも、それは竹家の主が趣味で拵えていた大切な道具箱であったが、こじれて露店に出てしまったのだった。
 さらに若宗匠宗春の元から取り戻したい竹家の主との間に芹沢鴨が野心ありげに入ったからたまらない。
 そして1本だけあった本物の利休の茶杓の目利き合戦が始まる。

 面白おかしく読み応えのあるシリーズ。芹沢鴨のキャラがこのシリーズには不可欠であり、敢えて芹沢を選んだ作者の眼力こそが目利きである。
 女性であれば、「とびきりや」と絡む新撰組隊士は、間違いなく土方歳三か沖田総司だっただろう。
 いよいよ尊王攘夷派と佐幕派が激突する、「池田屋事件」まで秒読みとなり、また「とびきりや」と一番関わりの深い芹沢鴨暗殺も間近に迫る。この大事件と真之介、ゆずはどう関わっていくのか…。
 実にワクワクと新作を待っていたのだが…このシリーズもこれで読み納めかと思うと、寂しさが募る。もし続編があれば、「とびきりや」がどう明治維新と関わっていくのかなど、気になって仕方ない。
 いち読者がそうであれば、間違いなく作者も無念であったことだろう。
 ご冥福を御祈り申し上げます。合掌

主要登場人物
 とびきり屋真之介...三条木屋町道具屋の主
 ゆず...真之介の妻、茶道具商からふね屋の娘
 伊兵衛...とびきり屋の番頭
 牛若...とびきり屋の手代
 鶴亀...とびきり屋の手代
 俊寛...とびきり屋の手代
 鍾旭...とびきり屋の手代
 松吉...とびきり屋の丁稚
 梅吉...とびきり屋の丁稚
 きよ...とびきり屋の女衆
 みつ...とびきり屋の女衆
 からふね屋善右衛門...知恩院新門前通り茶道具商の主、ゆずの父親
 からふね屋長太郎...善右衛門の嫡男、ゆずの兄
 大雲堂孝右衛門...道具屋の主
 芹沢鴨...壬生浪士、水戸藩徳川家脱藩(後の新撰組局長)
 桂小五郎...長州藩毛利家家臣(後の木戸孝允、総裁局顧問専任など明治政府から重用された)
 近藤勇...壬生浪士、天然理心流宗家四代目(後の新撰組局長)
 若宗匠家元...鴨川の側茶道家
 若宗匠宗春...鴨川の側茶道家(家元の嫡男)、ゆずの元許嫁
 銅屋吉左衛門..両替商
 大雲堂考右衛門..道具屋



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東京自叙伝

2014年07月07日 | ほか作家、アンソロジーなど
奥泉光

 2014年5月発行

 明治維新、太平洋戦争、サリン事件、福島第一原発事故…。帝都に暗躍した、謎の男の無責任一代記。

第一章 柿崎幸緒(かきざきさちお)
第二章 榊春彦(さかきはるひこ)
第三章 曽根大吾(そねだいご)
第四章 友成光宏(ともなりみつひろ)
第五章 戸部(とべ)みどり
第六章 郷原聖士(ごうはらきよし) 長編


 江戸末期の幕府徒組の柿崎幸緒から、平成の郷原聖士まで、各章において主人公が生きた時代の、歴史に残る戦や天変地異、事件を背景に、一代記を展開。だが、その6人とは、「東京の地霊」の輪廻転生であった。
 火事をキーワードにした第一章から時代は上り、主人公はノモン ハン事件、太平洋戦争、バブル崩壊、地下鉄サリン事件、秋葉原の通り魔殺人、福島第一原発事故等、時代の記憶に残る出来事に主人公を絡めながら、主人公が何者なのかを描き出している。

 目次を見てノンフィクションの伝記と思い読み始めたのだが、フィクション小説と気付いた次第。読解力不足の自分には、シュール過ぎる作品。奥泉光氏の作品は初めてなのだが、皆、このような作風なのだろうか?
 前半は未だ、ゆるやかに過ぎていくのだが、章を重ねる毎に詰め込む要素が多くなり、駆け足で文章が進んでいく感じも否めない。それでなくても大作なので、枚数の関係か…。
 各章の主人公が実は私であり、同一の人格を持った別の人間といった設定であり、彼らの人生が功名に絡み合うストーリである。
 最も気になったのが、文体が統一されていないことなのだが、編集者始め読者も気にならないのだろうか? それも氏の持ち味なのか…。
 この主人公を心理学的に表現すると、犯罪者に多く見られるタイプ。社会道徳を守る気はなく、つまりモラルや秩序が欠落し、自分さえ良ければそれで良しといった協調性のなさである。
 最もこの主人公は犯罪に手を染めているので、それも頷ける話である。
 いずれにせよ、摩訶不思議と感じた次第。

 主要登場人物はタイトルと重複。経歴は多々あるため省略。



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