うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

めおと

2015年06月27日 | 諸田玲子
 2008年12月発行

 諸田玲子氏の初期の作品を集めた男女にまつわる短編集。

江戸褄(えどづま)の女

佃(つくだ)心中
駆け落ち
虹(にじ)
眩惑(げんわく) 計6編の短編集

江戸褄(えどづま)の女
 駿河小島藩江戸詰めの夫・倉田有之助の腹違いの妹・久美が現れ、二人の仲を邪推する妻・幸江。だが、久美の正体は…。


 病いのために家督を弟に譲り隠棲する橘新左衛門。その妻・佳世には、誰にも知られてはならない秘密があった。新左衛門に忠節な下男の留吉にそれを知られたと同時に、留吉の企みに佳世は気付く。

佃(つくだ)心中
 浪々の山下半左衛門は、ふとしたきっかけで辻斬りで憂さを晴らすようになっていった。そして仕立物の内職で糊口を凌いでいる妻の鈴江には、夫には知られてはならない秘密があった。
 その二つが交差した時、夫婦の運命が一転する。

駆け落ち
 東海道吉原宿で旅籠を営む庄左衛門、紀代夫妻の元に、駆け落ち者と思しき男女・伊三郎とおみちがやって来た。自らも駆け落ちで結ばれた紀代は、何とか二人の力になりたいと尽力するも…。

虹(にじ)
 足軽の小助は、桶狭間の戦に駆り出され、恋女房の美貌のいねの在所の足軽たちが、いねの良からぬ噂話をし、小助を蔑むのに我慢がならず、戦の戦勝祝いに振る舞われた酒に下剤にもなる薬草を混入してしまう。だが、その酒が回り回って大将の口に入ったから大変。

眩惑(げんわく)
 八名郡矢萩城主・服部正昭の娘・小夜姫を警護しつつ富岡城まで落ち延びる草者の三郎太と伍助。逃避行の最中、身分を超えて男女となった小夜姫と三郎太を傍観していた伍助であった。
 歳月がは流れ、再度落城の憂き目に会う小夜姫を救い出すべく伍助は動くが、そこには老いた己を三郎太に見せたくはないといった小夜姫の思いが働き、三郎太が選んだ盲目の愛。

 御本人も恥ずかしいと後期に書いておられるが、確かに初期作品だけあり、冒頭から落ちが分かってしまうストーリ。だが、小袖などの小物を絶妙に使った情景描写は冴えている。





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まったなし

2015年06月12日 | 畠中恵
 2015年6月発行

 お気楽な、名主の跡取り麻之助と、家督を継いで名主となった清十郎。そして八丁堀見習同心の吉五郎。3人の悪友たちが繰り広げる人情物語「まんまこと」シリーズ第5弾。

まったなし
子犬と嫁と小火
運命の出会い
親には向かぬ
縁、三つ
昔から来た文 計6編の短編連作

まったなし
 町名主を継いだばかりの若き当主・西松哲五郎が、祭りのための寄進が少なく、その存続も危ぶまれるとの相談事を高橋へ持ち込んだ。当主・宗右衛門は、同じく町名主の八木清十郎と共に、その打開策を話し合う。
 よって、名主の仕事は総領息子・麻之助と西松家の手代・辰平によって処理されている…筈であったが、その中に、今は亡き清十郎の父・源兵衛とおぼしく申し出に、清十郎とおぼしき息子の嫁取りを案じる内容があった。ほかに目を引いたのは、以前、清十郎と縁のあった吉田屋の娘・おときが、「狐憑き」と噂されている件。
 麻之助は、これは天からの導きとばかりに、清十郎を伴い吉田屋へと向かう。
 だが、「狐憑き」の噂を広めていた平井屋お万や、おときの縁談相手である米屋小池屋の隠居が、西松家からの寄進の話を知らない。二度も脅されたなどと、口走った事から、若き当主・哲五郎と手代・辰平の微妙な位置関係が明らかになる。
  
 相変わらずの飄々さで、事件を解決する麻之助。棒手振りの勝吉とおかめの夫婦喧嘩も交え、3つの出来事が重なり合う中で、そして、そろそろ清十郎が嫁を迎えるだろう事を匂わせている。

子犬と嫁と小火
 町内の大工の頭領の子・お松と鉄五郎から、子犬探しを託された麻之助。聞けば近頃、子犬や仔猫が頻繁に居なくなっているという。早速幼馴染みの清十郎に助けを求めるが、そちらの町内では小火騒ぎでそれどころではないらしい。
 ちょうど出会った2人は、火事騒ぎに巻き込まれ、清十郎は台八車を避け切れずに脚を敷かれ、助けようとした麻之助は堀川へ転がり落ちる。
 だが、この二つの出来事に関わりを感じた麻之助は、小火騒ぎの折りに子犬を探す少年の姿が目撃されていることを突き止めた。
 一方怪我で動きが取れない清十郎。ここ幸いとばかりに麻之助の父・宗右衛門は、見舞いと称して見合い相手の娘を次々と送り込む。
 そんな清十郎に、助け舟も出さなくてはならない麻之助は、扇屋吉田屋の娘・お香を差し向けるのだった。

 高橋家、八木家に持ち込まれた事件が絡み合い、謎解きをしていく手法は、毎度ながらも見事な展開であり、犯科帳物ではないので、町屋ならではの解決法も温かさを感じる。
 物語を通して描かれるであろう清十郎の嫁取りに、2人の候補が現れた。

運命の出会い
 江戸で麻疹が万延する中、真っ暗な道を歩く麻之助と清十郎の前に、救いを求め竹之助という少年が現れた。不気味な男・大江に、送ってやると執拗に追い掛けられていると言う。
 間に割って入ろうかといった麻之助と清十郎だったが、竹之助に逃げられた大江は、今度は麻之助と清十郎に照準を合わせたのだった。
 麻之助は、はたと気が付いた。清十郎共々、麻疹で病いの床にあった筈の己が、どうして灯りひとつない闇夜を歩いていたのか。
 大江は、幻覚を見せ、宗右衛門、お由有、寿ずと姿を変えて、あの手この手で麻之助を黄泉への渡し船の乗せようと企む。
 
 流行病により、死の淵にある人物へ、疫病神が取り憑き、三途の川を渡らせようとする幻想的な話に、未亡人となったお由有の後添え話が加わる。
 「まんまこと」シリーズでは珍しい、妖物。「しゃばけ」シリーズに麻之助と清十郎が迷い込んだかのような幻想的で、面白い話。麻之助の智恵と推理が光る。
 
親には向かぬ
 病に伏した質屋赤松屋から、愛息・万吉の養い親探しを頼まれた麻之助。万吉が成長するまで赤松屋の身代を守り切れ、かつ女手のある相手となると…同じ質屋を生業としてはいるが、裏で高利の金貸し業を営む丸三へと託す事にした。
 この仕儀を不思議に思う清十郎と吉五郎ではあったが、赤松屋の身代を狙う、実兄である浅草の胴元・与一(金に手を付け勘当の身)の登場で得心する。
 是が非でも赤松屋を手に入れたい与一は、丸三の妾・お虎を勾引し、人質に取るといった暴挙に及び、丸三一家と与一手下とを含めた争いに、両国の顔役・貞吉が加わり…。

 麻之助の知恵と丸三の人情味ある別の顔、そして貞の男気が描かれ、サブキャラである、丸三と貞が回を進める毎に無くてはならない存在感を示している。

縁、三つ
 麻之助の勝手知らないところで、書役の正吾が縁談絡みの裁定を下していた。そしてその裁定が片手落ちであると、公事にまで上ろうかといった騒ぎになっていた。
 それは長治を横取りした形のお真知が、その白無垢の仕立てをおしんに依頼するも、故意に汚されたと賠償を要求していたのだ。それを正吾は、おしん側に賠償金の支払いを命じていた。
 町名主の沽券はがた落ちである。麻之助は、縁組の当事者である長治、おしん、お真知とその縁者を呼び寄せ、新たに裁定を下そうと試みるも、それを待たずに長治が自らが身を引くと断言してしまう。
 果たして、白無垢を汚したのはおしんなのか…。その染みに麻之助は、真実を見出す。
 一方、お由有も再嫁が決まり、高橋を出ると言う。また、清十郎もいよいよ縁談から逃れられなくなり…。

 お由有へ淡い思いを寄せる麻之助との、擦れ違いをバックグラウンドに、それぞれの縁の運命が流れて行く。
 
昔から来た文
 お安との縁組が決まった清十郎だったが、その後一向に話が進展しない。業を煮やしたのは、お由有の実父・札差の大倉屋だった。清十郎の縁組がはっきりしないと、お由有の再縁話も立ち消えになると言う。
 歓迎しない依頼を受けた麻之助は、お安を呼び出すと、以前清十郎と付き合いのあった娘からの、嫌がらせの文に心を痛めていると言う。
 そこに何故か丸三の妾・お虎も加わり犯人探しを始めるが、意外な人物の存在が…。

 畠中氏の作品で最も好きなシリーズである。そのシリーズも5作目となり、次なるステップへと登場人物が移り変わり、更なる展開に期待が高まる。

主要登場人物
 高橋麻之助...神田の古町名主宗右衛門の総領息子
 八木清十郎...隣町の町名主
 相馬吉五郎...北町奉行所見習同心
 高橋宗右衛門...神田の古名主、麻之助の父親
 おさん...麻之助の母親
 故・野崎寿ず...麻之助の妻、吉五郎の遠縁
 お由有...清十郎の義母、故・源兵衛(清十郎の父親)の後妻
 貞吉(両国の貞)...両国の顔役、物売り
 大貞....両国の顔役、貞吉の父親 
 丸三...神田の高利貸し
 みけ(八木家)、とら(相馬家)、ふに(高橋家)...兄弟猫
 黒蔵....岡っ引き
 西松哲五郎....町名主
 辰平....西松家の手代
 おとき....扇屋吉田屋の長女
 お香....扇屋吉田屋の二女
 お安....町名主・甲村家の娘
 お虎....丸三の妾
 大倉屋....札差、お由有の実父



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山月庵茶会記(さんげつあんちゃかいき)

2015年06月05日 | ほか作家、アンソロジーなど
葉室麟

 2015年4月発行

 「陽炎の門」、「紫匂う」に続く、「黒島藩シリーズ」第3弾。長編

 かつて藩内の政争に敗れた柏木靫負は、家督を養子に譲り、京、江戸にて千利休の流れを汲む高名な茶人として名を馳せていた。
 そして16年振りに国元(九州豊後鶴ノ江の黒島藩)に戻り、山裾の庵・山月庵にて隠遁生活を送りながら、茶会に16年前の派閥抗争に関わった客を招く。
 それは、妻の死の真実を知るためだった。次第に明らかになる妻の抱えた謎。そして藩政との絡み。

 一転二転の展開と、あっと驚く結末に圧倒される。ほかの作品も是非、読みたくなった。





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会津白虎隊~物語と史蹟をたずねて~

2015年06月01日 | ほか作家、アンソロジーなど
星亮一

 1988年1月発行

未曾有の危機
横浜の異人館
驚愕の日々
仙台藩出兵
青春のときめき
仙台・米沢・会津会談
火を噴く土湯峠
七ケ宿
白石会談
世良誅殺 ほか

 鳥羽伏見の戦いに破れ、会津へと引き揚げた会津藩松平家中を、慶応4年3月から、9月22日鶴ヶ城に白旗が挙るまでの会津戦争を、つぶさに追った作品。
 会津家臣たちの行動や考えは小説仕立てであるが、その史実はルポとして詳細に記録されている。
 会津戦争を知る上で、貴重な資料とも言えるだろう。現在絶版であり、これまた貴重な一冊。
 登場人物は、全て実存の人物。
 凄く内容が分かっているなあと感じながら読んだのですが、一度文庫で読んでいました。それでも史実が分かって面白い。


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