うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

禁城の虜~ラストエンペラー私生活秘聞~

2014年03月24日 | ほか作家、アンソロジーなど
加藤康男

 2014年1月発行

 清朝・満洲国の滅亡に翻弄されながらも、激動の時代を生きた、清朝最期の皇帝・愛新覚羅溥儀の知られざる真相を赤裸々に描いた実話巨編。

第1章 紫禁城の幼帝
第2章 宦官と女官
第3章 憂鬱なる結婚
第4章 流浪する廃帝と離婚劇
第5章 満洲国皇帝の光と影
第6章 后妃たちの終戦
第7章 それぞれの断崖
第8章 火龍の末期

 同性愛、女官との宮廷秘話、皇后・側室との異常性愛の真相。宦官は見た!最後の皇帝「溥儀」の愛欲と悲劇。
 2歳9ヵ月で第12代清朝皇帝の座に就いた溥儀は、幼少期から女官に性行為を教え込まれ、10代半ばで宦官との同性愛に目覚める。そんな溥儀の同性愛、女官との宮廷秘話、皇后・側室との異常性愛の真相。
 そして僅か6歳で退位を迫ら、18歳でクーデターにより紫禁城を追われ、天津の日本租界などを流浪し、28歳で満州国皇帝に。
 第二次世界大戦後、日本にへ亡命を図るも、ソ連に抑留され、東京裁判に検察側証人として出廷。
 溥儀は、周囲を不幸の渦に巻き込みながら61歳で病没。
 そんな溥儀の、比類無き権力欲、物欲、我欲、性欲、名誉欲、保身欲を赤裸々に描いている。

 著者の取材力に圧倒され、一気に読み終えた。映画「ラスト・エンペラー」では描かれなかった溥儀の真実の顔があった。


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時代劇はやっぱり面白い~写真家が書いた時代小説・ドラマ案内書~

2014年03月24日 | ほか作家、アンソロジーなど
斉藤政秋

 2014年2月発行

 カメラマンの著者が、実際の現場で体験した江戸を描く。

第1章 時代小説の巨匠と各地を探訪する
 早乙女貢さんと会津若松へ
 新田次郎さんと武田甲斐領へ
 南条範夫さんと北京を歩く
第2章 江戸時代の庶民生活
 勾かし、人攫い
 護摩の灰
 足が頼りの歩行 ほか
第3章 江戸時代の「仕組み」
 商家の奉公、番頭~丁稚
 商人の屋号
 江戸の飾り細工職人 ほか
第4章 江戸の道案内・地域の名所旧跡
 花の江戸探訪は江戸城から
 江戸城から北へ、神田~上野~谷中~浅草~吉原
 江戸城から東へ、日本橋・両国・吉良邸・芭蕉庵・深川八幡 ほか


 第1章 著者が、撮影で時代小説作家と現地に赴いた時の話。
 第2章 江戸時代の庶民生活をいくつかのキーワードをで振り返る。
 第3章 江戸時代の社会のルールや物流・経済。
 第4章 江戸城を中心に、東西南北に足を伸ばし、現存する名所旧跡を紹介。

 江戸時代のしくみや暮らしの分かるハウツー本。同じようなハウツー本は数多く出版されており、この一冊に目を留めたのは、タイトルにあった。「時代劇はやっぱり面白い~写真家が書いた時代小説・ドラマ案内書~」。だが、江戸一般事情がほとんどで、ドラマの裏話や時代考証の苦心談などを期待したので、内容は残念。
 これは著者の問題ではなく、編集サイドのタイトルの付け方にあると思う。



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絵でみる江戸の食ごよみ~江戸っ子流の食と暮らし~

2014年03月20日 | ほか作家、アンソロジーなど
永山久夫

 2014年2月発行

 旬にこだわり、魚や野菜など素材の持ち味を生かすことが江戸っ子流の食文化。江戸の庶民はどのような食べ物を口にしていたのか。

春 くさ餅、青物、ほか
夏 うどん、アユ(鮎)、ほか
秋 きぬかつぎ、サンマ(秋刀魚)、ほか
冬 おでん、山鯨、ほか

 普段の食から、四季折々の旬の食材を活かした料理や、年中行事のための特別料理など、食から分かる江戸の暮らし。
 川柳からも食を読み解いていく。

 当時の名店や、当時のレシピ、調味料などの紹介もされており、興味深い一冊。イラストの可愛らしさが、更に内容を興味深い物としている。かなりの量の食材、料理が掲載されており、是非試してみたいレシピも嬉しい。



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日本橋本石町 やさぐれ長屋

2014年03月16日 | 宇江佐真理
 2014年2月発行

 日本橋本石町の長屋で暮らす、庶民の日常を背景に、情愛を描いた作品。

時の鐘
みそはぎ
青物茹でて、お魚焼いて
嫁が君
葺屋町の旦那
店立て騒動 計6話の短編連載

時の鐘
 時の鐘の音を聞き入るのが好きな、真面目一徹の大工・鉄五郎。そろそろ嫁取りを勧められる中、気になる相手は、若くして出戻りのおやすという娘だった。明け透けのない物言いに次第に引かれる鉄五郎は、おやすと身を固める決意をする。

 物語の要となっていく、鉄五郎とおやすの出会いに、時の鐘を絡めて、鉄五郎の人柄を現すなど、大きな盛り上がりこそないが、しっとりとした一編となっている。

みそはぎ
 老いた母・おまさの面倒を見ながら居酒見世の井筒屋で働くおすぎは、隣の店子の16も年の離れた喜助から、一方的に思いを寄せられ、いつの間にか所帯を持つと思い込まれてしまった。そんな折り、おすぎに良縁が舞い込むと逆上した喜助が暴挙に及び、寝たきりのおまさが、最期の力を振り絞りおすぎを守る。
 
 現代にも通じる老人介護問題を、身体の不自由な母親の面倒を見るため、婚期を逃した喜助と、そろそろ逃しつつあるおすぎの、両面から、介護の大変さ、親への思い、そして自分の将来への不安と幸せを求める姿を綴る。

青物茹でて、お魚焼いて
 亭主の茂吉が元吉原の女の元に居着き、長屋に戻らなくなった。おときは、居酒見世・井筒屋に働きに出るが、そこで上方から来ていた尾張屋の番頭・忠助から、一緒に上方に行こうと言われ、心が動く。だが、忠助からは、子どもは置いてくるようにと告げられ、2人の幼い子をそれぞれ奉公に出し、待ち合わせの場に走るも、忠助の本心を知り、目が覚める。

 寂しさから逃れたい。上方への思慕。そんな女心を随所に押し出し、母親として子を選ぶか、女の幸せを取るかを迫られる。
 思ってもいなかった忠助からの申し出に、舞い上がる中年女の様が、実に臨場感を持っている。が、「子どもを選んで」と進言したくなるのだ。
 結果、忠助の人となりが分かり、茂吉も元の鞘に収まる。目出たし目出たし。
 「見上げた空には鱗雲が繁っている。耐え難い夏は、ようやく終わったようだ」。の一文が物語る。

嫁が君
 おやすの宿に鼠が出た。どうにも苦手で不安なおやす。折り悪く、亭主の鉄五郎は、染井の現場に泊まり掛けの仕事である。不安と恐怖で眠れない中、長屋に越して来たばかりの駕籠舁き・六助とおひさ夫婦が親身になって手を貸してくれた。
 長屋では、六助が寄せ場帰りだと悪口を叩く者もいるが、おやすは困った時にこそ、損得抜きで親身になってくれたこの夫婦を有難いと思う。

 鼠に悩まされるといったそれだけの話である。鼠出現から退治までの過程に起きる、周りの人々の反応をおやすの視線で語り、人の本音や気質など、現代の近所付き合いと変わらない人の長短所が描かれる。

葺屋町の旦那
 芝居茶屋・福之屋の、妾の子から、本妻の死により、総領息子となった幸助だったが、先妻の娘たちとの跡目争いや、父親との確執から、家を出ておすがの元に身を寄せながら本材木町の魚市(新場)・魚新で働いている。
 迎えに来た父親に、これでもかと悪態を浴びせる幸助だったが、六助の執り成しに心を開き、福之屋へと戻ると、父親の商いを学ぼうと、若旦那修行に精を出すのだった。

 複雑な家庭環境の中で、己の進むべき道と親の子への無償の愛情を手繰り、幸助が成長する過程を描いている。

店立て騒動
 弥三郎店が米問屋・秋田屋から売り出され、町医者・石井道庵の地所になった。道庵はそこを病人部屋にするつもりで、弥三郎店の取り壊しに掛かり、店子たちは行き先を探しながらも名残惜しみ井戸さらいをする。
 大方の落ち着き先が決まった矢先、道庵が死去。その妻・藤江が地主となった弥三郎店は、藤江の意思により存続される。

 出会いと分かれ、その時去来するものとは。
 
 全話、冒頭出だしの季節感。そして締めのこれまた季節感ながらも、そこには一話を物語る深さを秘めた終わり方。宇江佐氏の持ち味である、美しい情景がたまらなく生きている。
 やはり長屋の庶民を描いたら、天下一。これ以上の臨場感はないくらいの江戸がそこに広がるのだ。
 宇江佐氏が得意とする切なさや、胸の詰まる話ではないのだが、現代に通じる題材を見事に江戸で再現する、宇江佐氏の筆が光る。お江戸日本橋に雲ひとつない青天が広がる。そんな物語であった。

主要登場人物
※日本橋本石町2丁目・弥三郎店(やさぐれ長屋)の店子たち
 治助...差配
 鉄五郎...手間取り大工
 おやす...鉄五郎の女房、本石町莨(たばこ)屋・旭屋の手伝い、神田・薬種屋の娘
 おすぎ...本銀町居酒見世・井筒屋の女中
 おまさ...おすぎの母親
 喜助...左官職人
 おまき...喜助の母親
 茂吉...日本橋上槇町・亀甲屋の簪職人
 おとき...茂吉の女房、本銀町居酒見世・井筒屋の女中
 朝太...茂吉・おときの長男(12歳)、浅草・質屋の丁稚
 作次...茂吉・おときの二男(8歳)
 おちよ...茂吉・おときの長女(5歳)
 おすが...隠居
 清三郎...おすがの息子、大伝馬町呉服屋・尾張屋の手代→番頭
 六助...大伝馬町駕籠屋・和泉屋の駕籠舁き
 おひさ...六助の女房、煮売り屋の手伝い
 梅蔵...青物の棒て振り
 おたま...梅蔵の女房
※日本橋本石町界隈の人々
 石井道庵...町医者
 石井藤江...道庵の妻
 井筒屋為五郎...本銀町居酒見世の主
 旭屋惣八...本石町・莨(たばこ)屋の主
 おかね...惣八の女房
 福之屋幸助...葺屋町・芝居茶屋の息子
 おりき...幸助の母親





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江戸の犯罪白書~百万都市の罪と罰~

2014年03月15日 | ほか作家、アンソロジーなど
重松一義

 2001年1月発行

 大江戸八百八町は、悪の華咲く犯罪都市でもあった。 
どのような犯罪が起き、その裁きはどのように行なわれていたのか。犯罪事情~罪と罰について考えてみる~第2弾。

第1章 江戸の犯罪地図

第2章 わるさと御仕置
第3章 警察能力から見た江戸の町
第4章 御定書の威力 

第5章 庶民の犯罪あれこれ

第6章 知能犯と愉快犯 

第7章 大騒動と大疑獄 

第8章 罪人たちの牢屋生活

第9章 御赦免への道

 花街・吉原の実態、富籤など江戸っ子たちが熱中した遊興百態。
 寺子屋の躾、現町奉行所の仕組、市民による防犯体制から、島流しなどの刑罰など、治安秩序を保つためになされていた江戸の規制。
 そして、鼠小僧ら大盗賊の正体、賄賂政治の実態を露にした一冊。





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忠臣蔵悲恋記

2014年03月08日 | 澤田ふじ子
 1991年12月発行

「忠臣蔵」としても知られている、元禄14(1701)年3月14日、播磨国赤穂藩主・浅野内匠頭長矩が、江戸城殿中において、高家旗本・吉良上野介義央に対し刃傷に及び、内匠頭は殿中抜刀の罪で即日切腹。
 それに伴い赤穂藩は改易となったが、遺臣である大石内蔵助以下47名が翌元禄15(1703)年12月15日未明に吉良屋敷に討ち入り、本懐を遂げた一連の事件。
 その陰に泣いた女たちの物語。
 
後世(ごせ)の月 小野寺十内の妻
しじみ河岸(がし)の女 橋本平左衛門とはつ
うそつき 内蔵助の娘
幾世(いくよ)の鼓(つづみ) 礒貝十郎左衛門と多佳 計4編の短編集

後世の月
 老齢を迎えた小野寺夫妻。夫が役目を退き、京の私邸で穏やかな老後を夢見ていた妻の丹であった。
 だが、浅野内匠頭の刃傷事件が起き、夫も討ち入りの後、切腹したと知ると、菩提を弔い食を断ち、京都本圀寺にて自害する。

主要登場人物
 小野寺十内...播磨国赤穂藩浅野家・京都留守居役
 小野寺丹...小野寺十内の妻

しじみ河岸(がし)の女
 赤穂藩が改易となり、父・善右衛門が職に就けぬばかりか病いを併発。一家に伸し掛かる借財返済のために、遊女へと身を落としたはつ。
 以前、女中奉公をしていた橋本家の嫡男・斎宮助は、そんなはつの窮状を知るや、はつを苦界より救い出すために金策に走るが、浪々の身では手助けも出来ず。
 ついに2人は死へと旅立つ。
 橋本平左衛門の実話から(大坂曽根崎新地淡路屋のお初という遊女と心中)。

主要登場人物
 はつ...播磨国赤穂藩浅野家・御台所方御肴焼き方・善右衛門の娘
 橋本斎宮助...播磨国赤穂藩浅野家・馬廻り役・橋本平左衛門の嫡男

うそつき
 お里は、奉公先の旅籠屋の総領息子・彦之丞と深い関係になるも、ててなし(父親)子を枡五屋の嫁には出来ないと、次第に彦之丞はお里につれなくなる。
 母親のお軽は、父親は播磨国赤穂藩筆頭家老・大石内蔵助であると言ってはいるが、そのような嘘を付く母を嫌悪していた。
 やがて、赤穂浪士の討ち入りが世を騒がせ、大石内蔵助の庶子である事が知れると、枡五屋は態度を一転させるも、お里の誇りはそれを許さなかった。

主要登場人物
 お里...播磨国赤穂藩浅野家・筆頭家老・大石内蔵助の庶子、京・旅籠屋枡五の女中
 お軽...お里の母親、大石内蔵助の妾
 枡五屋彦之丞...旅籠屋枡五の若旦那 

幾世の鼓
 父の後添えにより継母虐めを逃れ、多佳は父と京で暮らし始め、教学院の稚児小姓の門六と出会い、次第に引かれ合い、やがて許嫁となるが、門六に士官の話が持ち上がり、播磨国赤穂藩主・浅野長矩の側小姓として、江戸で仕えるようになった。
 嫁入りの日を楽しみに待つ多佳の元に、浅野家改易の知らせが届き、それでも浪々となった十郎左衛門に嫁ぐ意志を貫こうとする多佳だったが、浅野家との関わりを避けたい義弟・酒之助の手にかかる。

主要登場人物
 尼野多佳...尼野彦十郎の長女(先妻の娘)
 門六(磯貝十郎左衛門)...京都愛宕山清涼寺教学院・稚児小姓→播磨国赤穂藩浅野家・物頭側用人
 尼野彦十郎...美濃国大垣藩戸田家・京都留守居役
 尼野酒之助...尼野彦十郎の長男(後添えの嫡男)

 実話を題材にした4つの物語。特に「幾世の鼓」のラスト。自刃と見せ掛けた殺害シーンは、こういったシチュエーションも有り得ると感慨深いと同時に作者の捻りに脱帽した。
 赤穂藩四十七士以外にも多くの藩士の家族の間で、このような不幸があったのだろうことを思い、同時にクローズアップされないが、討たれた吉良家家臣たちの家族の間でも、こんなことがあったのだろう。
 果ては戊辰戦争…全ての争いの陰に、泣いた涙を思わずにはいられなかった。
 さすが澤田氏である。
 




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江戸の組織人

2014年03月06日 | ほか作家、アンソロジーなど
山本博文

 2008年9月発行

 江戸時代の武士組織についての概説本。武士の身分階級においては、上士、平士、下士の3つに別れ、それぞれの身分の違いにより、役目や縁組も制限されていた。そんな武家社会を噛み砕いて分かり易く説明する一冊。


第一章 武士という名の組織人

 家筋の違いは身分の違い

 番における勤務の苦労

 布衣役になるため

 諸大夫役栄転のためには

 人材登用の道が開かれていた御徒

第二章 大江戸治安機関の組織人

 町奉行所の組

 町奉行の地位の重さと多忙な業務

 町奉行見学と「七不思議」

 町奉行と与力・同心

 町奉行所与力の給料と役得

 町奉行所の慣行と利権

 目明しの弊害

 辻番は武家屋敷の警備施設

 町奉行所の裁判

 安政大地震と町奉行所

 鼠小僧次郎吉の逮捕

 小伝馬町牢屋敷の制度

 火付盗賊改

 長谷川平蔵が創設した人足寄場

第三章 財政・出先機関の組織人

 勘定所の流弊

 評定所は幕府の最高裁判所

 栄達するものが輩出した評定所留役

 遠国奉行の序列と仕事

第四章 江戸城内の組織人

 老中の経費

 陰の老中、奥右筆筆頭
 
 小姓の仕事と昇進

 将軍の側に使える役職

 旗本のエリート、目付の職掌

 将軍の目や耳となった御庭番

 御庭番の日常業務

 坊主衆の城内での役割

 御用頼表坊主の横暴

 江戸城台所の悪弊

 出向した大奥女中の気位の高さ

 大奥に勤める男子役人

 大奥で事件が起こった時の処理

第五章 処遇と処世の組織論

 将軍家と天皇家との縁組

 出向した旗本の処遇

 甲府勤番は不良旗本の溜まり場

 役職につかない幕臣の上納金

 勤向格別の者への手当金

 組織を守るための手段

 組織改革と慣行

 内部告発の是非

 いじめがもたらした重大事件

第六章 組織人としての田沼意次
  ―出世と組織の関係を考える―

 幕府直臣は、3つの身分に別れ、上士とは、家老・組頭などの家柄。上士を除いた知行取りの武士は平士。その下に下士が位置する。
 旗本の家格も、「両番家筋」(書院番と小姓組番)、次いで「大番家筋」が優遇され、下に、新番、小十人組などの「五番方」があり、役職につかない「小普請」がいた。
 出世をするには、幕府の軍事組織である「番」に入ることが第一歩であり、番入り後は、布衣役、諸大夫(遠国奉行などの役職)と進む。
 だが、この新番入りにも、諸先輩への持て成しのルールや、新参虐めなど、時代劇だけでは分からない武家社会の真実が、細かに描かれている。
 ほかにも町奉行所の組織、大奥の権力など、興味深い項目が並ぶ。
 時代劇・時代小説、または江戸時代代好きにはたまらない一冊だ。



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山流し、さればこそ

2014年03月04日 | 諸田玲子
 2004年12月発行

 同僚の奸計により、左遷され、出世の道が鎖された矢木沢数馬が、無念と逆境の中で真実の人生を噛み締める。

第一章 山間(やまあい)の地へ
第二章 風変わりな隣人
第三章 新参いじめ
第四章 壁の耳
第五章 不意打ち
第六章 化物騒ぎ
第七章 八方ふさがり
第八章 鬼退治
第九章 甲府学問所
第十章 冬ざれの果て
終 章 天保(てんぽう)六年早春 長編

 寛永年間。小普請組世話役として出世の道を歩み始めた矢木沢数馬は、同僚の讒言により、役目を解かれ、「山流し」と忌避される、甲府勝手小普請を命じられる。
 初めての目にする甲府の地は、商いで繁栄する城下とは裏腹に、無気力な勝手小普請、事なかれ主義の上役や、乱暴狼籍を働く勤番衆。荒んだ武士たちの姿があった。
 着任早速数馬は、勤番衆による「新参いじめ」に遭うが、謎の女・都万に助け舟を出される。都万の存在が気になりながらも、城下を騒がす、妖の面を付けた盗賊や、辻斬りの事件解決へと、同輩の富田富五郎(無陵先生)、末高友之助らと立ち向かう。
 そして、次第に明らかになる無陵と都万、蕗との過去。
 やがて数馬は、出世や家名に振り回されてきた己の生き様を振り返り、甲府に残る決意をする。

 左遷の場面から物語はスタートし、同輩たちの讒言に憤り、未来に失望する主人公。
 どのような内容に仕上がっているのか、読み初めの題材は暗いのだが、内容は、「青雲上がれ」のような軽いタッチと面白さで、あっという間に読破。
 そして、結末もこれまた爽やか。
 脇役の設定も丁寧であり、どうして「山流し」の憂き目に遭ったのか、甲府でどのようにしているのかから、その人間性も伺える。
 「終章 天保六年早春」では、その後が描かれていることから、シリーズではない模様。

主要登場人物
 矢木沢数馬...甲府勝手小普請、元幕府・小普請組世話役
 矢木沢多紀...数馬の妻
 矢木沢文太郎...数馬の嫡男
 喜八...矢木沢家の下男
 富田富五郎(無陵先生)...甲府勝手小普請
 末高友之助...甲府勝手小普請
 都万...生糸買付問屋荒川屋の後添え
 蕗...柳町の旅籠の娘、無陵先生の手伝
 松田嘉次郎...甲府勤番





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