2010年1月発行
江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第6弾。
第一話 大達磨(だるま)
第二話 南東風(いなさ)の吹く夜
第三話 笑う菩薩
第四話 蛍
第五話 鯨の見た夢
第六話 浄夜 計6編の短編連作
主要登場人物(レギュラー)
蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
お豊...お瑛の義母
市兵衛...蜻蛉屋の番頭・用心棒
文七...蜻蛉屋の使い走り
お民...蜻蛉屋の女中
お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
井桁屋新吉...十軒店新道居酒屋の若旦那
若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み
岩蔵(とかげの親分)...岡っ引き
第一話 大達磨(だるま)
花筏の仲居のお力の様子がおかしいと、女将の澪はお瑛に相談を持ち掛けた。
それは、敦賀藩江戸留守居役・堀田浩四郎が在所への帰国にあるのではとお瑛は予測する。
そして次第に明らかになるお力の過去。浩四郎との間に産まれたひとり息子を、嫡男として堀田家に渡していたお力。浩四郎の帰国と共に、愛息子との縁も切れると、思い悩むのだった。
太り肉で、不器量だが、元は芸妓として人気のあったお力。その大らかな人柄が、息子の将来と堀田家を思いやり、身を引いた過去。母親としてのお力の姿が、切ない話ではあるが、お力の逞しさが、生き生きと描かれている。
主要登場人物
澪...日本橋小舟町料亭・花筏の女将
お力...花筏の仲居
堀田浩四郎...越前敦賀藩江戸留守居役
第二話 南東風(いなさ)の吹く夜
大風、大雨の夜更け、訪いを受けた蜻蛉屋。奉公人たちは訝しがり、戸を開ける事を拒むが、難義しているのではとお瑛は、2人を招き入れる。
そして、夜明けまで待てないと言う2人のために、舟や駕篭を手配し送り届けるのだが、どうにもおかしいと訝しがる市兵衛が後日探ると、2人の姿は跡形もな消え去っていた。
2人は押込み、もしくは盗人であり、是が非でも夜の間に逃亡する必要があった。姫と言われていた娘は実は男だったと市兵衛は気付いていたという、同シリーズでは、これまでにない落ちのあるストーリ展開であると記憶する。
登場人物も少なく、場面もほとんどが蜻蛉屋であり、お芝居的な物語であり、新鮮であった。面白い。
主要登場人物
磯野...旗本・阿部源右衛門家の奥女中(?)
縫...阿部源右衛門家の姫(?)
第三話 笑う菩薩
人気噺家の三遊亭小蝶が蜻蛉屋を訪い、お瑛にお百の執拗な贔屓を止めさて欲しいと懇願する。小蝶はお瑛とお百が旧知の仲と思ってのことだが、お瑛は元よりお百の事は知らない。
また、過去をほじくられたくないお寿々が、お百には迷惑を掛けられていると言う。
お百はいったい何を目的に小蝶やお寿々に突き纏うのか?
色ぼけのように描かれているお百が、実は、生き別れの弟を小蝶に重ねていたという展開。そしてお百とお寿々の過去からの確執も、表面的には互いに悪態を付きながらも、切るに切れない情が絡む、大人の関係を描き、終末もお百の素性を明らかにはしないまでも、大方は分かるであろうといった、実に難しい手法で巧くまとめている。
主要登場人物
お百...商家の女将(?)
三遊亭小蝶...四ッ谷の噺家
お寿々(鈴香)...伊勢町・料亭伯楽の女将
第四話 蛍
人気の雲竹亭弥吉と、その谷町の上州屋長兵門の席に招かれたお瑛。何事も無い宴席に思われたが、長兵門の鼻緒が切れる。今は亡き弥吉の女房のお波を見掛けたと知り合いのお里が現れる上に、霊感のある夕菊が曰くありげな発言をする。
そして、悪酔いした長兵門が、橋の上から消え去るといったホラーめいた夜になった。
種明かしは、弥吉の出世のために、長兵門と不義を働いたお波が、長兵門から渡された薬で自害した。弥吉の仇討ちである。
だが、ラストは、蛍を演出し、幻想的かつホラー、ミステリアスに締めている。
こちらも、新しい展開で見逃せない。
主要登場人物
お紋...柳橋料理茶屋・一色楼の女将
雲竹亭弥吉...五代目南北門下の狂言作家
上州屋長兵門...日本橋履物問屋・高利貸しの大旦那
夕菊...柳橋置屋・鶴屋の芸妓
お波(波江)...弥吉の女房
第五話 鯨の見た夢
醍醐新兵衛の誘いで、鯨を見に、内房の清ノ浦の大井留吉の元に身を寄せたお瑛と市兵衛は、夜更けに傷だらけで逃げ惑う幼い娘・お春を保護したのだった。
だが、村人たちはお春をただの迷い子として親元へ戻すと屈託が無い。
当のお花は怯え、市兵衛から離れない有様に、お瑛と市兵衛は、生け贄をキーワードにお春救出に…。
だが、村全体から包囲されたお瑛と市兵衛、お春は、屋敷を囲まれ火をつけられ絶体絶命の危機に落ちるのだった。
心あるお房の機転で、窮地を脱したお瑛らは、江戸へと生き延びる。
主要登場人物
醍醐新兵衛...内勝山・鯨組総元締
お春...漁師の娘
大井留吉...勝山清ノ浦・廻船問屋の主
お房...大井家の女中
第六話 浄夜
蜻蛉屋に連れ帰ったが、未だ言葉を発しないお春。だが、絵にだけは興味を示すので、画塾に通わせていたのだが、浮世離れした画の師匠・東風庵一斎の借金のかたに悪名高き金貸し・大福屋に連れ去られてしまう。
その大福屋の主・久蔵が、お春を養女に迎えたいと申し出た矢先、お春の実の父親である忠助が、嫌がるお春を連れ去るのだった。
そして、お春は川に身を投げて逃れ、それを救おうとして、久蔵も川に飛び込む。
久蔵の過去と、表向きの無情な金貸しではない顔が明らかになるも、久蔵の行方は知れず、お春は尼僧院に預けられて物語は終焉となる。
「第五話 鯨の見た夢」からの連作となるが、計算された緻密な運びであった。
主要登場人物
お春...房総勝浦・漁師の娘
東風庵一斎...十軒店画塾の師匠
大福屋久蔵...通旅籠町・金貸しの主
忠助...房総勝浦の漁師、お春の父親
これまで飛び飛びで読んだ同シリーズではあったが、我が知る限りシリーズ先高傑作だろう。切なさ、そして生き様、人としての情など、感慨深い作品である。
今回にして初めて、市兵衛の需要さに気が付いた。
同シリーズを読んでいなくても森氏を知らなくても、この作品から入って欲しい。
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江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第6弾。
第一話 大達磨(だるま)
第二話 南東風(いなさ)の吹く夜
第三話 笑う菩薩
第四話 蛍
第五話 鯨の見た夢
第六話 浄夜 計6編の短編連作
主要登場人物(レギュラー)
蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
お豊...お瑛の義母
市兵衛...蜻蛉屋の番頭・用心棒
文七...蜻蛉屋の使い走り
お民...蜻蛉屋の女中
お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
井桁屋新吉...十軒店新道居酒屋の若旦那
若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み
岩蔵(とかげの親分)...岡っ引き
第一話 大達磨(だるま)
花筏の仲居のお力の様子がおかしいと、女将の澪はお瑛に相談を持ち掛けた。
それは、敦賀藩江戸留守居役・堀田浩四郎が在所への帰国にあるのではとお瑛は予測する。
そして次第に明らかになるお力の過去。浩四郎との間に産まれたひとり息子を、嫡男として堀田家に渡していたお力。浩四郎の帰国と共に、愛息子との縁も切れると、思い悩むのだった。
太り肉で、不器量だが、元は芸妓として人気のあったお力。その大らかな人柄が、息子の将来と堀田家を思いやり、身を引いた過去。母親としてのお力の姿が、切ない話ではあるが、お力の逞しさが、生き生きと描かれている。
主要登場人物
澪...日本橋小舟町料亭・花筏の女将
お力...花筏の仲居
堀田浩四郎...越前敦賀藩江戸留守居役
第二話 南東風(いなさ)の吹く夜
大風、大雨の夜更け、訪いを受けた蜻蛉屋。奉公人たちは訝しがり、戸を開ける事を拒むが、難義しているのではとお瑛は、2人を招き入れる。
そして、夜明けまで待てないと言う2人のために、舟や駕篭を手配し送り届けるのだが、どうにもおかしいと訝しがる市兵衛が後日探ると、2人の姿は跡形もな消え去っていた。
2人は押込み、もしくは盗人であり、是が非でも夜の間に逃亡する必要があった。姫と言われていた娘は実は男だったと市兵衛は気付いていたという、同シリーズでは、これまでにない落ちのあるストーリ展開であると記憶する。
登場人物も少なく、場面もほとんどが蜻蛉屋であり、お芝居的な物語であり、新鮮であった。面白い。
主要登場人物
磯野...旗本・阿部源右衛門家の奥女中(?)
縫...阿部源右衛門家の姫(?)
第三話 笑う菩薩
人気噺家の三遊亭小蝶が蜻蛉屋を訪い、お瑛にお百の執拗な贔屓を止めさて欲しいと懇願する。小蝶はお瑛とお百が旧知の仲と思ってのことだが、お瑛は元よりお百の事は知らない。
また、過去をほじくられたくないお寿々が、お百には迷惑を掛けられていると言う。
お百はいったい何を目的に小蝶やお寿々に突き纏うのか?
色ぼけのように描かれているお百が、実は、生き別れの弟を小蝶に重ねていたという展開。そしてお百とお寿々の過去からの確執も、表面的には互いに悪態を付きながらも、切るに切れない情が絡む、大人の関係を描き、終末もお百の素性を明らかにはしないまでも、大方は分かるであろうといった、実に難しい手法で巧くまとめている。
主要登場人物
お百...商家の女将(?)
三遊亭小蝶...四ッ谷の噺家
お寿々(鈴香)...伊勢町・料亭伯楽の女将
第四話 蛍
人気の雲竹亭弥吉と、その谷町の上州屋長兵門の席に招かれたお瑛。何事も無い宴席に思われたが、長兵門の鼻緒が切れる。今は亡き弥吉の女房のお波を見掛けたと知り合いのお里が現れる上に、霊感のある夕菊が曰くありげな発言をする。
そして、悪酔いした長兵門が、橋の上から消え去るといったホラーめいた夜になった。
種明かしは、弥吉の出世のために、長兵門と不義を働いたお波が、長兵門から渡された薬で自害した。弥吉の仇討ちである。
だが、ラストは、蛍を演出し、幻想的かつホラー、ミステリアスに締めている。
こちらも、新しい展開で見逃せない。
主要登場人物
お紋...柳橋料理茶屋・一色楼の女将
雲竹亭弥吉...五代目南北門下の狂言作家
上州屋長兵門...日本橋履物問屋・高利貸しの大旦那
夕菊...柳橋置屋・鶴屋の芸妓
お波(波江)...弥吉の女房
第五話 鯨の見た夢
醍醐新兵衛の誘いで、鯨を見に、内房の清ノ浦の大井留吉の元に身を寄せたお瑛と市兵衛は、夜更けに傷だらけで逃げ惑う幼い娘・お春を保護したのだった。
だが、村人たちはお春をただの迷い子として親元へ戻すと屈託が無い。
当のお花は怯え、市兵衛から離れない有様に、お瑛と市兵衛は、生け贄をキーワードにお春救出に…。
だが、村全体から包囲されたお瑛と市兵衛、お春は、屋敷を囲まれ火をつけられ絶体絶命の危機に落ちるのだった。
心あるお房の機転で、窮地を脱したお瑛らは、江戸へと生き延びる。
主要登場人物
醍醐新兵衛...内勝山・鯨組総元締
お春...漁師の娘
大井留吉...勝山清ノ浦・廻船問屋の主
お房...大井家の女中
第六話 浄夜
蜻蛉屋に連れ帰ったが、未だ言葉を発しないお春。だが、絵にだけは興味を示すので、画塾に通わせていたのだが、浮世離れした画の師匠・東風庵一斎の借金のかたに悪名高き金貸し・大福屋に連れ去られてしまう。
その大福屋の主・久蔵が、お春を養女に迎えたいと申し出た矢先、お春の実の父親である忠助が、嫌がるお春を連れ去るのだった。
そして、お春は川に身を投げて逃れ、それを救おうとして、久蔵も川に飛び込む。
久蔵の過去と、表向きの無情な金貸しではない顔が明らかになるも、久蔵の行方は知れず、お春は尼僧院に預けられて物語は終焉となる。
「第五話 鯨の見た夢」からの連作となるが、計算された緻密な運びであった。
主要登場人物
お春...房総勝浦・漁師の娘
東風庵一斎...十軒店画塾の師匠
大福屋久蔵...通旅籠町・金貸しの主
忠助...房総勝浦の漁師、お春の父親
これまで飛び飛びで読んだ同シリーズではあったが、我が知る限りシリーズ先高傑作だろう。切なさ、そして生き様、人としての情など、感慨深い作品である。
今回にして初めて、市兵衛の需要さに気が付いた。
同シリーズを読んでいなくても森氏を知らなくても、この作品から入って欲しい。
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