2008年4月発行
異人との出会いから、夫を捨て筑前福岡を出奔した女。かたや、女敵討ちのために江戸を離れた男。二人は、空前の繁栄を見せる尾張名古屋で巡り会うも、次第に、巨大な政争の道具とされ…。
前口上
密航者
神隠し
寺中
女敵討ち
旅行商人
中幕(顔見世)
不夜城
闇の森心中
豊後節
妖女
下御深井
伏見御殿
幕外 長編
第八代将軍・吉宗の治世。飢饉に喘ぐ筑前福岡で、情のない亭主と姑に憤りを抱くこなぎは、ひょんなことから亭主の磯六が拾った明国人の張紹維の命を助けるため、紹維の目指す尾張国名古屋へと出奔を誓う。
一方江戸では、流行病で一子を失い、気鬱に陥っていた高見沢鉄太郎の妻・由伊が行く方知れずとなっていた。
鉄太郎は、妻の居所を探るうちに、得体の知れない渦に飲み込まれ、否応無しに女仇討ちのために尾張国名古屋へと旅に出る。
だがそこには双方共に、政治や豪商たちの思惑が重なり、鉄太郎もこなぎもただの駒として使い捨てられる運命にあった。
前口上の4頁で引き付けられる。「我も我もと夢の都をめざすその中に~女がいた。奇しくも二人。ひとりは博多から。ひとりは江戸から。」
これだけで、一気に興味をそそられた。
だが、話は女2人ではなく、江戸から向かった女の夫である高見沢鉄太郎と博多からのこなぎが主役である。
出だしは章毎に、2人の経緯が語られる。こなぎが九州を離れる迄は、時代小説に良く見られる、または宇江佐真理さんチックな展開なのだが、本州にたどり着いてからの展開が、何やら順調過ぎて怖くなる。
一方の鉄太郎に関しては、端から暗雲立ち込めた旅立ち。そして、彼の心中の迷い、命を振り絞るような痛みが手に取るように伝わって来る。人としての情と武士である事との板挟み。そして無責任な周囲。
計らずも2人は尾張城下で出会うのだが、この頃になると、皆恵比寿顔の裏に潜めた閻魔。誰を信じれば良いのか分からなくなっていくのだ。
この展開であれば、こなぎはともなく鉄太郎は生きてはおるまいと頁を進める。
だが、ここでまた大きな展開がある。思いも掛けない人物が味方となり加勢するのだ。
そして、幕外がまた読ませてくれる。最期迄、鉄太郎の妻女は…。を引っ張りながら。
諸田玲子氏の文章力、着想眼には敬服した。歴史上実在の人物を搦めながら、無理なく話を進めながらも、人生の落とし穴を説いている。
惜しむらくは、前半を彩った張紹維のその後が失せている事。張紹維が失せたのであれば、こなぎが騒動に巻き込まれる所以はなかっただろうと思われる。
最期に、これはわたくしの独断的意見であるのだが、武士と町家の娘が結ばれる話は余り頂けない。そういった意味でもこの結末はすっきりした。
何はともあれ、傑作でしょう。文章が巧いのでややこしい話もすんなりと読み砕ける。一度、読まれる事をお勧めする。
最期に列記されている、諸田玲子氏の参考文献はかなりの数であり、これだけの下調べを行った上での作品である事は忘れてはならない。作家魂を見た。
主要登場人物
高見沢鉄太郎...幕府御手先同心鉄砲組
由伊...鉄太郎の妻
茂助...高見沢家下男
八木幸四郎...幕府御手先同心鉄砲組、鉄太郎の同輩
こなぎ...筑前福岡今宿横浜の漁師・磯六の女房
張紹維...明国の時計職人
安田文吉郎...尾張名古屋熱田の大庄屋の息子、学者
亀井伊右衛門...尾張藩徳川家・土居下同心
徳川宗春...尾張藩徳川家第七代藩主
本寿院...尾張藩徳川家第三代藩主・綱誠の側室
鴻池善右衛門...大坂の両替商の主
三井八郎右衞門...両替商呉服屋・伊勢国松坂・越後屋江戸店の主
山田彦左衛門...桑名の材木商の主
張振要...尾張名古屋御下屋敷の町医者
張振悦...尾張名古屋上野村の尾張藩御目見得医者
張貴美...振悦の娘婿
宮古路豊後掾...浄瑠璃太夫
書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村
異人との出会いから、夫を捨て筑前福岡を出奔した女。かたや、女敵討ちのために江戸を離れた男。二人は、空前の繁栄を見せる尾張名古屋で巡り会うも、次第に、巨大な政争の道具とされ…。
前口上
密航者
神隠し
寺中
女敵討ち
旅行商人
中幕(顔見世)
不夜城
闇の森心中
豊後節
妖女
下御深井
伏見御殿
幕外 長編
第八代将軍・吉宗の治世。飢饉に喘ぐ筑前福岡で、情のない亭主と姑に憤りを抱くこなぎは、ひょんなことから亭主の磯六が拾った明国人の張紹維の命を助けるため、紹維の目指す尾張国名古屋へと出奔を誓う。
一方江戸では、流行病で一子を失い、気鬱に陥っていた高見沢鉄太郎の妻・由伊が行く方知れずとなっていた。
鉄太郎は、妻の居所を探るうちに、得体の知れない渦に飲み込まれ、否応無しに女仇討ちのために尾張国名古屋へと旅に出る。
だがそこには双方共に、政治や豪商たちの思惑が重なり、鉄太郎もこなぎもただの駒として使い捨てられる運命にあった。
前口上の4頁で引き付けられる。「我も我もと夢の都をめざすその中に~女がいた。奇しくも二人。ひとりは博多から。ひとりは江戸から。」
これだけで、一気に興味をそそられた。
だが、話は女2人ではなく、江戸から向かった女の夫である高見沢鉄太郎と博多からのこなぎが主役である。
出だしは章毎に、2人の経緯が語られる。こなぎが九州を離れる迄は、時代小説に良く見られる、または宇江佐真理さんチックな展開なのだが、本州にたどり着いてからの展開が、何やら順調過ぎて怖くなる。
一方の鉄太郎に関しては、端から暗雲立ち込めた旅立ち。そして、彼の心中の迷い、命を振り絞るような痛みが手に取るように伝わって来る。人としての情と武士である事との板挟み。そして無責任な周囲。
計らずも2人は尾張城下で出会うのだが、この頃になると、皆恵比寿顔の裏に潜めた閻魔。誰を信じれば良いのか分からなくなっていくのだ。
この展開であれば、こなぎはともなく鉄太郎は生きてはおるまいと頁を進める。
だが、ここでまた大きな展開がある。思いも掛けない人物が味方となり加勢するのだ。
そして、幕外がまた読ませてくれる。最期迄、鉄太郎の妻女は…。を引っ張りながら。
諸田玲子氏の文章力、着想眼には敬服した。歴史上実在の人物を搦めながら、無理なく話を進めながらも、人生の落とし穴を説いている。
惜しむらくは、前半を彩った張紹維のその後が失せている事。張紹維が失せたのであれば、こなぎが騒動に巻き込まれる所以はなかっただろうと思われる。
最期に、これはわたくしの独断的意見であるのだが、武士と町家の娘が結ばれる話は余り頂けない。そういった意味でもこの結末はすっきりした。
何はともあれ、傑作でしょう。文章が巧いのでややこしい話もすんなりと読み砕ける。一度、読まれる事をお勧めする。
最期に列記されている、諸田玲子氏の参考文献はかなりの数であり、これだけの下調べを行った上での作品である事は忘れてはならない。作家魂を見た。
主要登場人物
高見沢鉄太郎...幕府御手先同心鉄砲組
由伊...鉄太郎の妻
茂助...高見沢家下男
八木幸四郎...幕府御手先同心鉄砲組、鉄太郎の同輩
こなぎ...筑前福岡今宿横浜の漁師・磯六の女房
張紹維...明国の時計職人
安田文吉郎...尾張名古屋熱田の大庄屋の息子、学者
亀井伊右衛門...尾張藩徳川家・土居下同心
徳川宗春...尾張藩徳川家第七代藩主
本寿院...尾張藩徳川家第三代藩主・綱誠の側室
鴻池善右衛門...大坂の両替商の主
三井八郎右衞門...両替商呉服屋・伊勢国松坂・越後屋江戸店の主
山田彦左衛門...桑名の材木商の主
張振要...尾張名古屋御下屋敷の町医者
張振悦...尾張名古屋上野村の尾張藩御目見得医者
張貴美...振悦の娘婿
宮古路豊後掾...浄瑠璃太夫
書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村