うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

江戸のなりたち 2 ~ 武家屋敷・町屋~

2013年11月23日 | ほか作家、アンソロジーなど
追川吉生

 2007年11月発行

  旗本・御家人屋敷探訪
町屋探訪
 江戸のこころ探訪
 江戸の郊外探訪

 下級旗本の傘づくり、鉄砲百人組のツツジ栽培など旗本・御家人の内職並びに拝領屋敷。
 日本橋に店(たな)を構える商家の土蔵、神田の裏長屋から酒の一大ブランド「江戸一」とは。
 大名の墓、将軍秀忠の墓、胞衣埋納のこころ、富士講と富士塚など、江戸時代の弔い。
 江戸料理屋事始め、世界最大の園芸街であった染井村。

 地下に眠っていた、旗本・御家人屋敷、町屋、墓地などの痕跡から、武士と町人の暮らしぶりを探訪。江戸文化歴史を知る上では欠かせない一冊。

 「江戸のなりたち 1 ~ 江戸城・大名屋敷~ 」よりも、生活に密接した調査結果が掲載されており、更に興味をくすぐられた。
 



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江戸のなりたち 1 ~ 江戸城・大名屋敷~

2013年11月23日 | ほか作家、アンソロジーなど
追川吉生

 2007年8月発行

 発掘で分かった、江戸の真実の姿~地下に眠る、江戸城・外堀・大名屋敷・大名庭園の痕跡から、江戸という都市を探訪。江戸文化歴史検定に役立つ知識満載。

  江戸城探訪
 外堀探訪
 大名屋敷探訪
 大名庭園探訪

 中世、家康が入府した時点での江戸城とは…。そして外堀と天下普請・堀の掘削。
 本郷の加賀藩上屋敷、市ヶ谷台の尾張藩上屋敷など大名屋敷。
 庭園に溢れる都市・江戸のアミューズメントパーク。
 本郷の加賀藩上屋敷、市ヶ谷台の尾張藩上屋敷など、大名屋敷の様子。

 発掘出土品や、遺跡跡の基づいた正確なデータから、江戸城、大名屋敷など武家の生活を探求、紐解いた、興味深い一冊。
 大名屋敷の間取り図、食器などの出土品もかなり興味深い。



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幕末のお江戸を時代考証!

2013年11月22日 | ほか作家、アンソロジーなど
山田順子

 2010年8月発行

 坂本龍馬・勝麟太郎・新門辰五郎...そして、『JIN‐仁‐』の南方先生も歩いた江戸の町の仕組みとは?
 高視聴率ドラマ「JIN―仁」の時代考証作家が、幕末の江戸をリアルに再現。町並み、人々の暮らしぶり、制度などが実際どうだったのかを検証。

第1章 小石川の水戸家屋敷
第2章 湯島の旗本屋敷
第3章 本所相生町二ツ目の長屋
第4章 下谷の西洋医学所と医学館
第5章 吉原の遊廓
第6章 猿若町の芝居小屋
第7章 浅草の火消し・新門辰五郎
第8章 日本橋の醤油倉
第9章 築地の坂本龍馬、赤坂の勝麟太郎

 文章に添え、年表や江戸切り絵図、イラストでの家屋や暮らしぶり、衣服など、正に江戸の生活・仕組みを克明に再現した一冊。
 更に、大人気ドラマであった「JIN―仁」が、江戸で足を踏み入れた場や、出会った人々なども説明している。
 手にした時点では、「JIN―仁」の時代考証・背景も描かれているとは知らなかったのだが、読み進めると、一般的な江戸の生活・仕組みよりも、更に親しみが持てた。
 また、「JIN―仁」の時代考証秘話も含まれていて面白く読めた。流石に時代考証家だけあり、まるで江戸を生きてこられたかのように詳しい。
 読み易く、気になる一冊。


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~知識ゼロからの~大江戸入門

2013年11月22日 | ほか作家、アンソロジーなど
北嶋廣敏

 2009年4月発行

 人口100万・世界一のエンタテーイメント&リサイクル都市・江戸を徹底検証。教科書では教えない江戸っ子の衣食住や恋愛事情を説く。

はじめに
第一章 江戸っ子の住まい
第二章 お仕事事情
第三章 江戸の人々の日常
第四章 江戸のカルチャー
第五章 江戸時代の恋と情事
第六章 江戸の事件
第七章 江戸城内のしくみ

 江戸の時刻の読み方といった初歩から、着物の着付方や、武家・町屋の住まい区分。各種棒手振りなどの仕様。奉行所の任務などなど、江戸で暮らす人々の日常を、漫画、イラスト、図表などを多彩に取り入れ、分かり易く解説している。
 時代小説を読んでいて、脳裏に浮かばなかった時刻や、物売りの姿など、今とは違う江戸のルールなどを知る上での入門書・江戸早分かりハンドブックと言えるだろう。



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名もなき日々を~髪結い伊三次捕物余話~

2013年11月18日 | 宇江佐真理
 2013年11月発行

 髪結いと同心の小者の、二足の草鞋を履く伊三次の人情捕物劇と、その家族との繋がりを描いたシリーズ第12弾。

 俯(うつむ)かず

 あの子、捜して

 手妻師(てづまし)

 名もなき日々を

 三省院様御手留(おてどめ)

 以津真天(いつまでん) 計6編の短編連作 

俯(うつむ)かず 
 大掛かりな賭場の捕縛に向かった不破龍之進だったが、本所相生町と神田相生町を間違え、大失態を演じてしまう。
 お文は、大金の入った紙入れを無くしてしまう。
 伊三次は、若者の喧嘩の仲裁に入った隙に、何者かに台箱を盗まれてしまう。
 そして、師匠・歌川豊光がみまかり、身の振り方が決まらずにいる伊与太。
 だが、龍之進の元に義弟・笹岡小平太が訪い、俯き勝ちな龍之進に苦言を呈しながらも初めて、「兄上」と呼び、お文の紙入れも伊三次の台箱も無事見付かり、伊与太には、当代人気絵師の歌川国直から声が掛かる。
 そして不破家では、きいが待望の初子を身籠る。
 
 それぞれが、「禍い転じて福となす」。伊三次が、同じような1日でも、今日と明日は違う日であると感じるように、毎日時は進んでいると実感する仕立てになっている。決してドラマチックな話ではないが、人の心持ちや情の絡んだ、しっとりとした良い物語だ。
 あんなに怖かった不破友之進が、イメージチェンジか? 早くも、おとぼけなおじいちゃん的な登場(笑)。

あの子、捜して
 人別改めの季節がやってきた。伊三次は、10年前から行方の分からない子どもがいると、松助から手助けを求められる。生きていれば11、12歳くらいの平吉という男の子と知ると、伊三次は不憫に思い奔走する。
 複雑な大人の感情に振り回され、産みの親から引き離され、しかも引き取った父方からは厄介払いで、養子に出され、養子先の両親が死亡。その後、質屋に奉公に出されていた平吉を無事、母親の元に送り届けるも、平吉は、余り感情を露にしない。
 物心付いた時から、知りもしなかった母親が不意に現れても、感慨は無いと娘・お吉は言うのだった。

 やってくれました。このところ、伊与太や不破龍之進に主役の座を奪われていたシリーズだったが、久し振りに伊三次が完全復活。しかも、胸に沁みる奥の深い人情話でありながら、悲壮感を払拭させる明るい結末。
 これは泣けてくる。やはり伊三次はこうでなくっちゃ。

手妻師(てづまし)
 その南蛮仕込みの技も去ることながら、艶やかな容貌で人気の浅草・奥山の手妻師・花川戸鶴之助に、江戸の娘たちはすっかり逆上せ切っている。ご多分に漏れずお吉、そしておふささえもだ。
 その座主・強欲で無慈悲な権久郎が何者かに殺害され、鶴之助に容疑が掛かり、程なくして鶴之助ほか一座の者たちが連座する。
 死罪執行前夜、鶴之助の希望で伊三次はその髪を結う為に牢へ向かう。

 この話は、幕切れが素晴らしい。鶴之助の胸中を知りながらも、心安らかに逝くように諭す伊三次と、鶴之助の牢内での別れのシーンに、色紙の鶴がシンボリックな役割を果たし、薄暗い牢に鮮やかな原色の折り鶴が浮かび上がる、幻想的な光景が目に写る。
 そして、思いもよらないまさかの鶴之助の脱走。それを、「手妻師だからな」。と愉快そうに語る不破友之進の場面で物語は終わる。不破友之進も歳を取って丸くなったと、第1弾からの読者としては思わずにいられず、こちらも口元が緩むのだ。

名もなき日々を
 蝦夷松前藩では、病弱な嫡男・松前良昌を廃し、妾腹の章昌を跡目に据える策略があるらしい。そして良昌の側室に茜(刑部)を据える動きがあると知り、憤りを感じていた矢先、老女の藤崎が、御反下・しおりを茜(刑部)付きの部屋子として送り込んできたが、彼女は密偵であり、手文庫を開けられた茜(刑部)は、しおりを打ちのめし、騒ぎになってしまう。
 一方で、魚佐の末娘・おてんと、愛惚れの九兵衛だが、魚佐の援助で所帯を持とう、髪結い床の株も買ってやると言われ、魚佐で働く父親・岩次が肩身の狭い思いをするのではなど思い倦ねるうちに、おてんへの気持ちが冷めていくのを感じるのだった。

 蝦夷松前藩上屋敷にて、藩の政治力に巻き込まれる茜(刑部)の話を中心に、第二世代の子どもたちが、大人への階段を上り始め、背負うものや苦悩を噛み締めながら成長していく話である。

三省院様御手留(おてどめ)
 御半下のしおりを打ちのめした茜(刑部)は、本所緑町の下屋敷への奉公替えとなった。松前藩嫡男・松前良昌の側室へと藩の企みは消えてはいないが、前藩主・資昌の側室であった三省院鶴子が主の下屋敷は、ゆったりとした気風で、居心地が良い。
 そんなある日、鶴子の伴で寛永寺に詣った帰り、伊与太にばったり出会い、その声に涙を堪えるのだった。

 あの茜お嬢さんも、大人になったを実感させる、女心を描いている。幼馴染みとはいえ、同心の娘・茜と、髪結いの息子・伊与太の恋の行方はどう展開していくのか。宇江佐氏ならではの運びになっていくだろうが、先が読めずに楽しみである。

以津真天(いつまでん) 
 探索中の緑川鉈五郎から、鬼の顔、蛇の胴、巨大な翼を持つ怪鳥。 「いつまで、いつまで」と人間が叫ぶような鳴き声の怪鳥騒ぎの一件を耳にした龍之進。
 初めての出産に苦しむきいに、不破家の男たちは気が気ではない。龍之進は、産室で介添えを買って出る。果たして無事に産まれた初子に、ほっと安堵の不破家であった。

 きいの出産がメインであるが、鉈五郎の素の顔が見えたり、話半ばで尻切れかと思われた怪鳥・以津真天が、不破家に向かう伊三次の頭上に見えたりと、ストーリー運びの巧さを実感する。

 物語自体は、事件物ではなく、夫婦の絆を描いた穏やかでありながら人間の心に響く内容になっている。家族とは、そして、茜の運命は…。これが本書のメインになっている。
 また、龍之進の子の誕生により、シリーズはいよいよ第三世代に入る。今後は子の成長も物語の楽しみのひとつになるだろう。何せ、宇江佐氏描くところの子どもの姿は、実に愛くるしいのだ。
 伊与太の幼い頃など、仕草ひとつひとつが可愛らしく、また胸を打つシーンも多かったものだ。
 反面、下手人が己の師匠と知り隠し立てをした龍之進を、殴り飛ばした若か知り頃とは別人のように、あの友之進がすっかり丸くなり、お爺ちゃんになったのだなあと、月日の流れを懐かしむ思いである。
 これにて、伊三次の出番も少なくなっていくのだろうか。進行型のシリーズではあるが、やはり血気盛だった頃の伊三次と友之進が忘れ難い。
 この後に続く、「共に見る夢」「指のささくれ」「昨日のまこと、今日のうそ」も既に「オール讀物」にて読んでいるので、その後の展開が分かっている章もあるのだが、やはり素晴らしい進行・結末になっている。
 早くも同シリーズ次の作品が楽しみである。
  
主要登場人物
 伊三次...廻り髪結い、不破友之進の小者
 お文(文吉)...伊三次の妻、日本橋前田の芸妓
 伊与太...伊三次の息子、芝愛宕下の歌川豊光の門人
 お吉...伊三次の娘
 九兵衛...伊三次の弟子、九兵衛店の岩次の息子
 岩次...新場魚問屋魚佐の奉公人
 お梶...九兵衛の母親 
 お園...炭町髪結床・梅床十兵衛の女房、伊三次の姉
 不破友之進...北町奉行所臨時廻り同心
 不破いなみ...友之進の妻
 不破龍之進...友之進の嫡男、北町奉行所定廻り同心
 不破茜(刑部)...友之進の長女、本所緑町・蝦夷松前藩江戸下屋敷の奥女中(別式女)
 不破きい...龍之進の妻
 笹岡小平太...北町奉行所同心、元北町奉行所物書同心清十郎の養子、きいの実弟
 松助...本八丁堀の岡っ引き(元不破家の中間)
 おふさ...伊三次家の女中、松助の妻
 佐登里...松助とおふさの養子
 歌川国直...日本橋田所町の絵師、伊与太の師匠
 片岡監物...北町奉行所吟味方与力
 緑川平八郎...北町奉行所臨時廻り同心
 緑川鉈五郎...平八郎の嫡男、北町奉行所隠密廻り同心
 橋口譲之進...北町奉行所年番方同心
 古川喜六...北北町奉行所吟味方同心
 三保蔵...不破家の下男
 おたつ...不破家の女中
 和助...不破家の中間
 増蔵...門前仲町の岡っ引き
 おてん...新場魚問屋魚佐の末娘
 松前良昌...蝦夷松前藩藩主・道昌の嫡男
 三省院鶴子...蝦夷松前藩8代藩主・資昌の側室
 村上監物...蝦夷松前藩執政(首席家老)
 長峰金之丞...下谷新寺町松前藩江戸上屋敷の奥女中(別式女)、茜の朋輩
 佐橋馬之介...松前藩江戸上屋敷の奥女中(別式女)、茜の朋輩
 さの路...松前藩江戸上屋敷の御半下女中 
 藤崎...松前藩江戸上屋敷の老女
 おため...歌川国直家の女中
 葛飾北斎...浮世絵師
 お栄(葛飾応為)...北斎の三女、浮世絵師
 おとし...産婆






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怨霊になった天皇

2013年11月17日 | ほか作家、アンソロジーなど
竹田恒泰

 2009年2月発行

 明治天皇の玄孫である著者が、崇徳天皇を中心に独特の視点から「天皇家の怨霊史」をひもといた、天皇家と怨霊の裏の歴史。

第一章 悲運の天皇
  殺された天皇
  殺されかけた天皇
  自殺した天皇
  異常な死を遂げた天皇
第二章 憤死と怨霊
  教科書に書かれる「憤死」とは何か
  憤死と怨霊の相関関係
  怨霊誕生
第三章 怨霊渦巻く平安京
  悲劇の伊勢斎王・井上内親王
  形成される怨霊の軍団
  醍醐天皇を地獄に堕とした菅原道真
第四章 生きながら天狗になった崇徳天皇
  出生自体が悲劇の始まり
  保元の乱という兄弟間の争い
  血でしたためた五部大乗経
第五章 天下滅亡の呪い
  大魔縁となった崇徳天皇
  猛威を振るう崇徳天皇の怨霊
  崇徳天皇と西行
  八百年に及ぶ鎮魂の歴史
第六章 魔王が生む魔王
  承久の変と後鳥羽天皇怨霊譚
  大魔王後鳥羽院と大魔縁崇徳院の関係
  戦うことを遺言した後醍醐天皇
終章 怨霊史の終着へ
  怨霊を生まない作法―「許し」の力
  世界を不幸にする兄弟喧嘩の因縁
  恋人は崇徳天皇
産霊(むすひ)

 25代にわたる世界最古の王室・天皇家(皇室)における権力闘争や謀略から生じた暗殺、呪殺、憤死。
 そして「怨霊」になったと信じられた天皇。歴代天皇はこれら「怨霊になった天皇」が日本国に祟らぬよう祀り、「神」としてきた。
 義理の息子に殺された安康天皇、孝明天皇暗殺説、二度の暗殺未遂事件に巻き込まれた昭和天皇、鬼に殺された斉明天皇など、歴代天皇にまつわる暗殺事件。
 また、濡れ衣を着せられ自害し、「怨霊」となった長屋王、壮絶な死から同じく「怨霊」となった早良親王、生きながら「天狗」と化し、崩御して後「大魔縁」とされた崇徳天皇…。
 「怨霊」とされる天皇たちがもたらした皇族への因果などを、莫大な資料と取材でひもといた一冊である。

 今、何かと話題の竹田恒泰氏の本業を知りたくて、読んでみた。
 精密かつ、かなり分かり易く書いておられるのだろうが、当方の無知さから、とにかく年号と天皇・上皇などの血縁関係や繋がりなどを把握するのが困難であった。
 だが、崇徳天皇や孝明天皇などは有名であるが、ほかにも知らなかった史実や、その後の出来事などを、少しだけ学んだ。
 そして最も興味深かったのが、「終章 怨霊史の終着へ」の「恋人は崇徳天皇」の項目である。現代の祇園の女将に降りた崇徳天皇の霊の話。崇徳天皇が遠い昔の方なので、怖さは感じないが、如何にも不思議な出来事である。




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唐人さんがやって来る

2013年11月08日 | ほか作家、アンソロジーなど
植松三十里

 2013年7月発行

 徳川将軍の代替わりのたび来日した、朝鮮通信使。その、大行列の様子を描いた絵図の版権を巡る、老舗版元の三兄弟の人情劇。

一章 棺桶の中
二章 怪しげな坊主
三章 献金千両
四章 不肖の三男坊
五章 てんてこ舞い
六章 利輔がゆく
七章 小火(ぼや)と泥棒
八章 いよいよ来る
九章 ようやく来た
十章 とうとう帰る
十一章 利輔が逝(ゆ)く 長編

 亡き父・利左衛門は、朝鮮通信使の「唐人行列絵図」の版権を得る事が悲願であった。その為の布石として、二男・市之丞を莫大な持参金と共に、旗本の養子にし、更にまた持参金を付け、旗本家の婿養子に送り込んだ上、「唐人行列絵図」の版元の決定に力を持つ林大学頭の元へ送り込んでいた。
 だが無念な事に朝鮮通信使の来訪が決まったのは、利左衛門が他界して間もなくの事である。
 亡き父の悲願でもあった「唐人行列絵図」の版権を求め、前回版権を得た郷野屋を打ち負かす為、荒唐堂の当主・利輔と、市之丞、そして三男坊の研三郎は奔走する。
 役目柄、豪商からの献金集めを仰せ遣った市之丞は、子細な情報を利輔へともたらし、受けた利輔共々、大枚千両もの借財をし賄賂を贈り、絵師、獣肉を捌ける料理人の手配を済ませる。
 そして兄弟は、千両回収の為の作をじょうずるのだが、意外にも遊び呆けてばかりいると苦々しく思っていた研三郎から、高級な巻物仕立てにして桐の箱に収め、贈答品としての付加価値を加え一両で販売したらどうかと、突拍子もない案が飛び出す。
 その宣伝・予約確保の為に、唐人踊りの恰好をして評判を取った研三郎。予約は上々だったのだが、ついつい遊び心に火が付き、気が付けば唐人踊りのパフォーマンスが度を越して、伝馬町送りに。
 一方「唐人行列絵図」の作成の為、利輔は絵師・妙見を伴い大坂・京へと向い、かの地で、郷野屋と四つの勝負。
 そして、昼夜を惜しまずの「唐人行列絵図」の制作に掛る。
 獣肉料理人を見付けた事から、朝鮮通信使の獣肉料理担当まで仰せ遣った市之丞は、獣肉を嫌悪する料理人を叱咤激励しながらの悪戦苦闘。
 三兄弟それぞれが最大限の力を振り絞り朝鮮通信使の行列を迎えるのだった。

 舞台は江戸を中心に、日光、東海道の宿から上方へと目まぐるしく動き、かつ兄弟・家族の在り方、それぞれの生業からくる人間関係と、贅沢禁止令などの時勢といった幅広い要素を取り込みながらもぶれる事なく進展する。
 中盤少し前より引き込まれるようにむさぼり読み、気が付けばあっと言う間に読破していた。言葉に無駄がなく、展開が早いのでだらけないのだ。
 また、思わずほろりとさせる場面も組み込まれ、人情ホームドラマを彷彿とさせる作品であった。
 時代小説好きはもちろん、ソフトタッチで難しい場面がないので、時代小説は苦手といった人でも、気負いなく読めて十分に堪能出来る。 
 カバーのイラスト同様に、楽しい話である。

主要登場人物
 鈴木利輔...日本橋の版元・荒唐堂の三代目主、長男
 草柳市之丞...荒唐堂の二男、旗本・草柳家の婿養子、林家事務方陪臣
 鈴木研三郎...荒唐堂の三男
 鈴木鹿...荒唐堂の二代目の内儀、三兄弟の母親
 鈴木福...利輔の妻
 草柳絹...市之丞の妻
 寿々...研三郎の友、端切屋の娘
 林大学頭述斎...林家八代目、昌平黌の学問所御用、儒学者
 妙見...僧侶(元浅草・本願寺の修行僧)、絵師
 梅吉...荒唐堂の番頭
 半助...彫り師(版木彫り)
 お松...半助の祖母
 杉平...荒唐堂の料理人
 孝太...杉平の長男
 新八...岩本町の彫り師(版木彫り)の親方
 郷野屋徳兵衛...神田の版元の主
 大倉山力右衛門...南町奉行所与力





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鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙

2013年11月06日 | ほか作家、アンソロジーなど
田牧大和

 2013年6月発行

 永代橋の崩落を予見して、長屋の店子の命を救った不思議な三毛猫・サバに因んでいつしか鯖猫長屋と呼ばれるようになった宮永町の割長屋に、次々と起こる不思議な出来事に巻き込まれていく、飼い主・青井亭拾楽。
 だが、当の青井亭拾楽にも曰くがあり…。

其の一 猫描(ねこか)き拾楽(しゅうらく)
其の二 開運うちわ
其の三 いたずら幽霊
其の四 猫を欲しがる客
其の五 アジの人探し
其の六 俄(にわ)か差配
其の七 その男の正体 計7編の短編連作

其の一 猫描(ねこか)き拾楽(しゅうらく)
 青井亭拾楽の斜め向いに、長屋には似つかわしくない育ちの良さそうなお智が越して来た。その手伝いの男・三次は、お智を「お嬢様」と呼ぶ。
 そのお智からの依頼で拾楽は、お智の絵姿を描く事を承諾するのだった。

其の二 開運うちわ
 白紙の団扇を買い込み、拾楽に絵を描かせ、開運団扇として一儲けを狙った貫八だったが、その口上と折り合わない結果に、逆に脅され、示談金の為に、妹・おはまを遊女に売れと脅される。

其の三 いたずら幽霊
 北海奇譚などで一時代を築いた、読本作家・長谷川豊山が鯖猫長屋へ家移りして来た。と同時にサバの姿が見当たらない。
 蓑吉の様子がおかしいと気付いた拾楽が問い質すと、サバは豊山の部屋に監禁されていた。
 夜毎に起きる怪奇現象に悩み、苦しむ豊山だったが、サバが居ると不思議とそれが収まるのだと言う。

其の四 猫を欲しがる客
 お店者が、奉公先の嫡男が「どうしても三毛の雄が欲しいと言っている」と、サバを譲って欲しいと拾楽を音訪った。
 首を縦に振らない拾楽に、男は金子を詰み挙げ句は、脅しに掛る。
 
其の五 アジの人探し
 胡麻塩柄の大きな犬が拾楽の元へ迷い込んで来た。見掛けによらず大人しい犬で、サバの弟分となっていったのでサバの子分ならアジと命名。
 そのアジ、いつしか浪人者・木島主水介の片腕となる働き振りを大道芸で示すも、ある日、ひとりの浪人者に噛み付いたのだった。
 
其の六 俄(にわ)か差配
 差配の磯兵衛が風邪に倒れ、急遽差配代理を務める羽目に陥った拾楽。長屋の修繕やら花見の手配やらで大わらわの中、店子たちが留守の間に、お智の部屋が荒される事件が起きた。
 また、磯兵衛の快気祝いの最中、おはまの行方が知れなくなる。

其の七 その男の正体
 おはまの行方を探す拾楽。拾楽の素性に勘付いた北町奉行所定町廻り同心・掛井十四郎。
 一方、三次が何者かに殺められ、その遺骸を確認したお智は、人違いだと証言する。
 そして拾楽が追い詰めた犯人は、意外な人物であり、その目的は、以吉の命を奪ってまで手に入れたい物であったのだが…。

 物語全編に流れる大きな筋は、父母の仇を拾楽と見据えたお智。その為か拾楽に仕掛ける罠。
 そして、次第に明らかになる真実といったところなのだが、お智の存在を神秘的にする為か、佐助という左官職人との件や、三次がほかの事件の裏で糸を惹いていたりと、必然性を感じないエピソードがあり、それが残念に思えた。
 三次が偽物だったといった件も、合点がいかないものがある。
 だが、拾楽の弟分である以吉の死、それに巻き込まれたお智の両親。その真実を探るといった単純さに置き換えれば、それを本筋に据えながら、幾多の不可思議な事件が起き、拾楽の英知で解決していく、二部構造の展開は素晴らしい着眼点だろう。
 落ちのお宝も当方の乏しい理解力では、納得出来なかった。
 特に表題の「ふしぎ草紙」を押し出した「いたずら幽霊」は大変に面白い作品であり、落ちもまた素晴らしかった。
 収録作品中、最も心をうたれたのが、「アジの人探し」である。忠犬・アジが可哀想な目に遭った時には、思わず鼻の奥がつんと熱くなり、終末には目頭が潤んだ。
 サバの可愛らしさや、拾楽と掛井十四郎との関係性など、キャラも楽しめる。
 
主要登場人物
☆鯖猫長屋の店子
 
 青井亭拾楽...絵師、義賊・黒ひょっとこ

 サバ(三毛猫の雄)...拾楽の愛猫
 以吉...盗人、拾楽の朋友
 磯兵衛...鯖猫長屋の差配

 おてる...与六の女房
 与六...大工
 蓑吉...野菜の振売り

 お智...藤沢の旅籠の娘

 三次...お智の請人

 貫八...魚の棒振り

 おはま...貫八の妹、通いの女中

 利助...居酒店の雇われ料理人
 おきね...利助の女房、居酒店の女中
 清吉...小間物の行商
 おみつ...清吉の女房
 木島主水介...浪人、大道芸人
 長谷川豊山...読本作家


 掛井十四郎...北町奉行所定町廻り同心

 九平次...神田下白壁町の左官の親方
 佐助...左官職人、九平次の弟子

 おてい...九平次の娘

 徳右衛門...京橋小間物問屋の主

 白糸...吉原の花魁

 山吹...吉原の新造

 加藤木...浪人

 神谷修五郎...御家人・次男坊





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~徳川家に伝わる~徳川四百年の内緒話

2013年11月04日 | ほか作家、アンソロジーなど
田安徳川家第十一代当主・徳川宗英

~徳川家に伝わる~徳川四百年の内緒話

 2004年8月発行

第一章 やっぱり家康はエラかった
第二章 奇人変人だらけの将軍たち
第三章 最後の将軍は毀誉褒貶
第四章 徳川家もラクじゃない
第五章 御三家と御三卿の微妙な関係
第六章 わが田安家のヒミツ
第七章 江戸城大奥はいいところか?
第八章 その後の徳川家

家康 貯めた金で城の床が抜けた
家光 美少年好きだった
綱吉 カラスを島流しに
吉宗 泣く泣く諦めた悲恋
水戸黄門 日本で最初にラーメンを食べた?
五代・綱吉、十代・家治、十三代・家定、十四代・家茂は暗殺された?
 田安徳川家十一代当主の筆者が描いた徳川家。

~徳川家に伝わる~徳川四百年の内緒話 ライバル敵将篇

 2005年6月発行

第一章 ただ楽々と食ったわけでは
第二章 いずれ劣らぬ戦国の敵
第三章 関ヶ原は危機一髪
第四章 大坂で最後の仕事
第五章 獅子身中の虫
第六章 幕府崩壊
第七章 明治になって出世した人たち

織田信長 大うつけだった
徳川家康 倹約は秀吉へのあてこすり
武田信玄 美少年に出した恋文
坂本竜馬 梅毒で禿げた?
勝海舟  睾丸を犬に喰われた
西郷隆盛 同性愛者だった?

 家康始め、徳川家の好敵手にまつわる、面白おかしい秘話を収録。





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雪まろげ~古手屋喜十為事覚え~

2013年11月04日 | 宇江佐真理
 2013/10月発行

 自殺しようとしているところを救った縁で結ばれた喜十とおそめは、店の前に捨てられていた赤子を養子に迎え、親子3人で静かで幸せな家庭を築こうとするが、招かざる客・北町奉行所隠密廻り同心の上遠野平蔵の手下のように使われて…。
 「古手屋喜十為事覚え」の第2弾。

落ち葉踏み締める
雪まろげ
紅唐桟
こぎん

再びの秋 計7編の短編連作

落ち葉踏み締める
 父が他界し、一家を支えるため、蜆売りになった新太に、母親のおうのは、産まれたばかりの末弟・捨吉を、何処かに捨てて来なければ川に流すと、とんでもない事を言い出す。考え倦ねた末に新太は、蜆を買って貰った事のあるおそめの優しそうな顔を思い出し、日乃出屋の軒先に捨吉を置き去りにするのだった。
 やがて捨吉をねたに日乃出屋から幾許かの金を引き出そうとするのを知ると、新吉はおうのを手にかけ、自らの幼い命を絶つのだった。 

雪まろげ
 仙人に連れられ、幽界に行った過去があると口走ってしまったため、お店を首になり、学者・平塚円水の下男として住み込みながら、幽界話を円水に語る鶴吉始め、あちこちで不可思議な経験を持つ者の噂が広まっていた。
 そんな幽界騒ぎの探索を命じられた上遠野平蔵は、喜十を誘って山くじら屋の音助の話を聞き行く。
 真実か否か…それは雪まろげのようにいずれは消えてなくなる、そんなものに未練を残して何になると喜十は思う。

紅唐桟
 喧嘩沙汰でしょっぴいた勇吉という若い男が、身形に相応しくない、高直な舶来物の紅唐桟の紙入れを持っていた。持ち主を捜し出したい上遠野とその手下の銀助は、布物を扱う喜十に無理矢理それを託す。
 折しもおそめが、伯父・上総屋次左衛門が伏せっていると聞き、本所石原町に出向いていおり、捨吉を背負ったまま、喜十は袋物屋を訪い、下谷広小路の町医者・山崎尚安の妻・おりくに辿り着く。
 長崎留学中の尚安馴染みの遊女だったおりくは、尚安を追って江戸に出て来たが、既に尚安の気持ちは離れ、心に空いた穴を埋める事も出来ず、直に長崎に戻るおりくに、喜十は、江戸で自立する道もあると勧めるのだった。

こぎん
 安行寺の本堂の縁の下で、行き倒れの男が見付かった。男の身元を調べる手掛かりは、見慣れない縫い取りのある半纏のような野良着だけである。
 上遠野平蔵より日乃出屋軒先に吊るし、見知った者を探す手伝いを頼まれた喜十。上遠野よりの頼みがそれだけで住む筈は無いと懸念するも、案の定、男の身元を知る者が現れるのだった。


 額に瘤のある女が、くたくたに着古した衣装を求めて日乃出屋にやって来た。聞けば、息子の伝吉が皮膚の病いで擦れていたまないようにとの事。おそめは、売り物ではないがと、喜十の古着を差し出す。
 一方、皮膚病の伝吉が気掛かりな喜十は、町医者の赤堀甚安に相談し、診察の段取りをつけるも、上遠野平蔵が追っている、近頃大伝馬町界隈で起きている、犬猫殺しが伝吉の仕業ではないかと当たりをつけていた。
 おてつの瘤、伝吉の皮膚そして心の病いを、喜十は癒す手助けをしようと奔走する。

再びの秋
 日乃出屋の前に捨てられていた、捨吉を養子にして1年が過ぎた。喜十はふと、哀れな最期を遂げた捨吉の長兄・新太を思い出し胸が痛む。
 そんな矢先、日乃出屋の様子を伺う少年が目に入り、新太ではないかと思うも、その弟の幸太であった。
 聞けば、引き取られた叔父の家で虐待を受けた上、心の支えにしていた妹たちが養女に出されたと言うのだった。真意を確かめるため、その叔父が住む押上村まで出向いた喜十は、おうめとおとめの妹2人は吉原に売られた事を悟ると同時に幸太を安じ、連れ帰えり、日乃出屋の丁稚にすることに。
 事情を知った上遠野は、おうめとおとめを見付け出し、喜十に身請けして面倒をみろと告げるのだった。

 この主人公の喜十は、正義感が強い訳でも実直な人でもない。増してや見てくれもお世辞にも並みとも言えない容貌。おおよそ、ヒーローには縁遠い人物なのである。
 なので、面倒事は真底嫌。慈善の心も有る訳ではないのだが、かといって非道な訳でも情がない訳でもない。
 言うなれば、どこにでもいる至って平凡な人物なのである。が、なぜか上遠野平蔵の手先のように扱われ、事件に首を突っ込むことで、厄介を背負い込むこともしばしば。
 前作からの変化は、出来た母親・おきくが鬼籍に入り、捨て子・捨吉を養子に迎え、日乃出屋の顔触れが代わった。ここで幼児を用いたことで、宇江佐氏の持ち味がまたまた発揮され、物語のアクセントになっている。
 やはり母親だけあり、宇江佐氏の描く子どもの描写は、目に浮かぶような愛らしさがにじみ出ているのだ。
 登場人物の魅力が倍増した事で、物語の幅が広がった。単に子どもの愛らしさだけではなく、どこか冷めながらも、慣れない子育てに奔走しながら、親として成長する喜十の姿も興味深い。
 さて、今シリーズ。いきなり、「これぞ宇江佐ワールド」と言わんばかりの、切なさ・ほろ苦さを胸に刻む、「落ち葉踏み締める」から第2弾がスタート。
 そして、「再びの秋」でも、これまた宇江佐氏ならではを十分に堪能することができ、「古手屋喜十為事覚え」シリーズが更なる飛躍を遂げたと言える。
 シリーズ物は、回数を重ねるうちにトーンダウンしていくパターンが多いが、宇江佐氏の作品は、そのほとんどがレベルアップしているのが素晴らしい。
 第1弾を超えるお勧めの1冊。
 実は、このシリーズには余り入れ込みはなかったのだが、今回読んで、普通の人間の抱く、普通の善悪の感情など、深い部分を感じ入った。

主要登場人物
 日乃出屋喜十...浅草田原町古手屋の主
 おそめ...喜十の妻
 捨吉...喜十・おそめの養子
 上遠野平蔵...北町奉行所隠密廻り同心
 銀助...岡っ引き(上遠野平蔵の手下)
 留吉...伊勢屋の大工
 赤堀甚安...東仲町の医者
 赤堀百合江...甚安の娘、助手 
 伝吉...日本橋大伝馬町酒屋・掛川屋の奉公人
 おてつ...日本橋大伝馬町大工宅の女中、伝吉の母親
 新太...捨吉の長兄、業平蜆売り
 幸太...捨吉の次兄
 おうの...捨吉の実母
 おてる...捨吉の長姉
 おうめ...捨吉の次姉
 おとめ...捨吉の三姉





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