うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

花鳥(はなどり)

2013年04月03日 | 藤原緋沙子
 2004年5月発行

 女として、母として信じる道を清冽に生きた月光院の生涯。

火伏の路
花鳥
蝉(せみ)しぐれ
狂乱
雪花
わかれ道
鶯(うぐいす)
月明かり
沙羅双樹(さらそうじゅ)
明暗
山里
仁愛
白玉降る
幼将軍
黒い影
紅い罠(わな)
攻防
月光の下で 長編
 
 羽根を痛めた小鳥を養育したいと連れ帰った幼き日の輝だったが、時は五代将軍・徳川綱吉の発布した「生類憐れみの令」の真っ最中。生き物を飼育し、万が一のことがあればただでは済まない。
 途方にくれているところ、身分高き若侍主従が快く小鳥を引き取ってくれた。
 これが、後の六代将軍・家宣と、同じく七代将軍の生母となる月光院の花鳥が運んだ、運命の出会いであった。
 やがて唯念寺の坊守・竜野に、教養や礼儀作法を学んだ輝は、竜野の思い通りの聡明で美しい娘へと成長し、甲府徳川家の桜田御殿へ奉公に上がり、思いもよらぬ運命の再会を果たすのだった。
 綱豊(後の家宣)の側室となった輝は、お喜世の方となり、綱豊の寵愛を独り占めしていく。
 やがて綱豊が六代将軍へと上り詰め、側近の間部詮房と共に、将軍を補佐してしていく中で、正室・近衛熙子(後の天英院)や、側室・お古牟の方(後の法心院)、
大典侍(お須免の方・後の蓮浄院)との確執や、桜田屋敷からお喜世の方に仕え、信頼の厚い絵島を巻き込んだ、徳川政権最大のスキャンダル事件が起こる。
 
 花鳥をシンボリックに演出し、輝(お喜世)と家宣のピュアな恋を描いた長編である。
 莫大な量の参考文献が列記されているだけあり、背景も登場人物も詳しく描かれているが、物語としては、理想的・夢見がちな純愛とでも言ったところだろうか。
 清廉潔白な家宣、忠義の間部詮房、そして女として理想のお喜世の方が3本柱である。
 正直、作者は何を言いたかったのだろう。恋物語を描きたかったのか…。ひとりの女性の生涯を描きたかったのか…。
 このお喜世の方の生涯とは、本来であれば、裕福でない寺の娘の立身出世物として終わるところであるが、絵島生島事件がお喜世の方を語る上でのクライマックスとなっているため、物語も成り立つ訳だが(これは史実なので、作家の想像力ではない)、そのクライマックスの大舞台が、史実に追われるあまり、お喜世の方主導の物語が、急に絵島が主役になり焦点がずれた感も否めず。
 また、創作上の人物であろう塚田四郎次が、輝の淡い初恋の相手となるのだが、この人の印象も薄い。ただし、薄いながらも冒頭と終焉は、この人が登場している。これ程、本文を読む限りでは、輝に関わる人物だったとは思えないのだが。
 また、播州赤穂藩浅野家の件は必要だったのだろうか。
 途中、「行く」「いく」の使い分けがされているのも気になり(誤植では?)、桜田屋敷に途中から仕えた絵島が、鍋松を見て、「父上の幼い頃に良く似ている」みたいな発言をしているが、年齢からいっても、奉公時期からいっても、絵島が、家宣の幼い頃はむろん、若かりし頃を知っているのもおかしな話である。
 当方の勘違いでなければ、作者というよりも編集者のミスになるが、残念。

主要登場人物
 輝(喜世→月光院→左京の方)...浅草唯念寺塔頭・林昌寺の住職の娘→六代将軍・家宣の側室→七代将軍・家継の生母
 徳川家宣(綱豊)...甲府宰相→六代将軍
 間部詮房...綱豊の用人→家宣の側衆→老中次席、上野高崎藩主→越後村上藩主
 新井白石...学者、将軍・家宣侍講
 竜野...唯念寺の坊守、旗本矢島家の娘
 塚田四郎次(真圓)...行脚僧、元能登加賀藩前田家藩士
 玄鉄(佐藤治郎左衛門)...林昌寺の住職、輝の父親、元能登加賀藩前田家藩士
 富...輝の母親
 知世...輝の義姉、先代林昌寺住職の娘、播州赤穂藩浅野家江戸屋敷奥女中
 絵島...尾張徳川家奥女中→甲府徳川家奥女中→江戸城大奥総取締、旗本・白井平右衛門の養女
 徳川家継(鍋松)...七代将軍



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さくら道~隅田川御用帳~

2013年02月20日 | 藤原緋沙子
 2008年4月発行

 深川の縁切り寺・慶光寺の門前で御用を務める橘屋の女主人・お登勢と、用心棒・塙十四郎が、人生の悲哀を含んだ女の事件を解決するシリーズ第13弾。

第一話 さくら道
第二話 まもり亀
第三話 若萩(わかはぎ)
第四話 怨み舟 計4編の短編連作

第一話 さくら道
 大奥で万寿院に仕えていた楓(おさん)の消息が知れなくなり、はるばる京まで向かった塙十四郎。おさんを見付けることは出来たが、婚家に押し込みが入り主が殺され、それを目撃した愛娘のお結は口がきけなくなっていた。そればかりか、どうやら命を狙われているらしく、十四郎はお結を伴い江戸へと戻るのだった。

第二話 まもり亀
 慶光寺門前に赤子が捨てられていた。母親・お七は、母子の命の危険を察知し、子を預けて身を隠したのだった。そしてそこには、呉服問屋・若狭屋母息子のおぞましい企てがあった。

第三話 若萩(わかはぎ)
 亭主の暴力に怯えるおひろを救って欲しいと、廻り髪結いのおとめから話を持ち込まれたお登勢だった。だが、当のおひろは、恩があるので別れられないと怯えながらも言う。その恩とは、女郎に売られるところを助けられたものなのだが、そこにも絡繰りがあり、かつ亭主の治三郎には、恐るべき過去があった。

第四話 怨み舟
 万寿院の使いに出たお登勢が何者かに襲われ、脅された。敵は万寿院もしくは橘屋に恨みを抱く者と思われたが、次第に狙いは、寛政の改革を進めた楽翁(松平定信)のにありその命までも狙っていると知れる。

 シリーズ序盤から読んだ方が、人物の繋がりなどがより明確になると思うが、途中からでも丁寧な説明があるので設定に困惑することはない。
 一話毎の入り口は伏線として描かれ、次第にほかの要素も絡み合い、複雑な人間模様が描かれる。
 捕物と銘打ってはいないのだが、悲しい女の過去には犯罪が見え隠れしており、やはり殺陣や捕物は避けては通れないといったところだろう。
 入り込めばはまるシリーズである。ドラマ化されていないのだろうか?

主要登場人物
 塙十四郎...橘屋の用心棒、築山藩浪人
 お登勢...深川慶光寺門前・寺宿橘屋の女主人
 藤七...橘屋の番頭
 万吉...橘屋の小僧
 お民...橘屋の女中
 近藤金五...寺社奉行所・吟味物調役方与力、幕府御徒組、十四郎の朋友
 万寿院...深川慶光寺の禅尼、元十代将軍・徳川家治の側室・お万の方
 春月尼...慶光寺の尼僧、元お万の方付き奥女中
 楽翁(松平定信)...元陸奥白河藩三代藩主
 小野田平蔵...(浅草?)駒形堂近く・茶飯屋江戸すずめの主、元松平定信の密偵
 松波孫一郎...北町奉行所・吟味方与力
 近藤波江...金五の母親
 近藤千草...金五の妻、旗本・秋月甚十郎の娘
 大内彦左衛門(彦爺)...千草の傅(もり)役



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父子雲~藍染袴お匙帖~

2013年01月20日 | 藤原緋沙子
 2006年発行

 外科、本道(内科)を習得し、長崎でシーボルトから先進医術を、学び、かつ武芸にも秀でた女医者の桂千鶴が事件を紐解くシリーズ第3弾。

第一章 父子雲
第二章 残り香 計2編の中編集

第一章 父子雲
 放蕩の末、父を自害に追い込んだシーボルトに仇討ちを企てる旗本の嫡男・進一郎。そして進一郎絡みの陰謀に巻き込まれる実弟の進介を救うべく、千鶴は進一郎の闇を糾弾する。

第二章 残り香
 千鶴の亡き父・桂東湖の朋友でもあり、父とも慕う医師の酔楽の隠し子が発覚する。老齢になってからの我が子に相好を崩し、その母子に100両もの大金を工面する酔楽。千鶴は、騙りではないのかと真相を調べるのだった。

 「桂ちづる診察日録」のタイトルでドラマ化されたほか、劇場での上演もされた人気シリーズである。
 話の筋そのものは、人情風でもあり、爽やかでもあるのだが、どうにも接続詞の稚拙さが気になり、何度も読む事を断念しようとした。
 同じ言葉を二行の中に繰り返したりと、文章に付いていけなくなってしまった。そちらが気になり、内容が頭に入ってこなかった。
 以前、「白い霧~渡り用人 片桐弦一郎控~」を読んだ折りには、読み易い文体であっと言う間だったのだが…。
 編集者が違ったという事なのだろうか。文体を気にしなければ良いのだろうが…。
 多くの方が絶賛しており、人気シリーズでもあるので、一重に当方の求める物と、作者との相性の問題もあるのだろう。
 
主要登場人物
 桂千鶴...桂治療院の女医師
 お竹...桂家の女中
 お道...千鶴の助手、呉服屋伊勢屋嘉右衛門の二女
 酔楽...医師、東湖(千鶴の父親)の朋友
 五郎政...酔楽の下男、元侠客
 市蔵...五郎政の弟分、虫や野草の振売り
 菊池求馬...旗本の当主
 浦島亀之助...南町奉行所定町廻り補佐役
 猫目の甚八...亀之助の小者(岡っ引き) 




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白い霧~渡り用人 片桐弦一郎控~

2013年01月10日 | 藤原緋沙子
 2006年8月発行

 御家改易により浪人となった片桐弦一郎が、口入れ屋の依頼で、渡り用人となり旗本家の建て直しに奔走するシリーズ第1弾。

第一話 雨のあと
第二話 こおろぎ
第三話 白い霧 長編

 嫡男・辰之助の道楽により、財政難に陥った旗本五百石・内藤家の再建のため、三月の間の用人を務めることになった片桐弦一郎。
 内藤家の門前には、取り立てにいきり立つ青茶婆のおきんの姿があった。
 やがて弦一郎は、放蕩息子・辰之助の心の隙き間を埋めると共に、青茶婆のおきんの凍てついた心をも氷解させていく。
 そして、舞台は内藤家の知行地・葉山村へと移り、村の発展のために尽力するのだった。

 心を鎖した人々が、弦一郎との出会いでやがて人間としての温かさを取り戻していく。そして、捕物あり殺陣ありの爽快時代小説である。
 だが、切なさのある内容も織り込んでいるが、独創性に欠ける感は否めず、片桐弦一郎の、剣の達人であり人品卑しからぬ設定が、このところ読みふけっている澤田ふじ子氏の「公事宿事件書留帳」、「祇園社神灯事件簿」、「足引き寺閻魔帳」シリーズを彷彿とさせる。
 もうひとつ、 片桐弦一郎の人間味が希薄な気がした。
 そして、殺陣シーンや事件解決などのタッチは、あっさりと流されており、剣の達人の件は必要だったのかと疑問を抱く。
 しかしながら、何より読み易い文体であり、1日掛からずにひと息で読んでしまった。
 当書は、シリーズ1作目なので、後続のシリーズは更にバージョンアップされていると思われる。

主要登場人物
  片桐弦一郎...通油町・古本屋大和屋の筆耕、神田松永町武蔵屋の店子
 おゆき...神田松永町・材木問屋・武蔵屋利兵衛の娘
 万年屋金之助...本石町・口入れ屋の主
 鬼政(政五郎)...北町奉行所定町廻り同心・宅間普助の小者(岡っ引き)
 お歌...神田佐久間町・煮売り屋千成屋の女将、鬼政の母親
 内藤辰之助...旗本五百石・内藤孫太夫の嫡男
 増川三平...内藤家の若党
 与吉...内藤家の中間
 おきん...馬喰町・青茶婆(借金取り立て屋)
 藤兵衛...内藤家知行地・葉山村・名主
 兼七...名主・藤兵衛宅の手代
 


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