2013年7月発行
回向院の親分こと、岡っ引きの茂七が難事件に挑む、1995年に単行本初出の時代ミステリー小説に新作3編を含めた完全版。各編に江戸の四季を彩る「初もの」を絡め、季節情緒たっぷりに読ませてくれる。
お勢殺し
白魚の目
鰹(かつお)千両
太郎柿次郎柿
凍る月
遺恨の桜
糸吉の恋
寿の毒
鬼は外 計9編の短編連作
主要登場人物(レギュラー)
回向院の茂七...本所深川の岡っ引き
かみさん...茂七の女房
糸吉...茂七の下っ引き、風呂屋の缶焚き
牛の権三...茂七の下っ引き、差配の助っ人
親父...富岡橋袂に屋台を出す稲荷寿司屋、元武士
猪助...稲荷寿司屋台の横で酒の計り売り、元酒の担ぎ売り
日道(長助)...御船蔵裏雑穀屋・三好屋の息子、霊感占い師
お勢殺し
茂七は、下っ引きの糸吉から、真夜中過ぎまで店を開けている稲荷寿司の屋台の話を耳にする。どうも素人屋台とは思えぬ節が…。そんな折り、醤油の担ぎ売りのお勢が、素っ裸で土左衛門になって発見された。
お店者の音次郎と深間になり、所帯を持つと浮かれていた矢先である。だが、身分・風貌・年齢とどれをとっても釣り合わない2人に、茂七は音次郎に胡乱を抱く。
主要登場人物
音次郎...御船蔵前町醤油問屋・野崎屋の手代
猪助...お勢の父親、元酒の担ぎ売り
白魚の目
冬木町の寺裏に住み着いている親なし子5人が、稲荷神社の供え物を口にして骸となって発見された。石見銀山の入った稲荷寿司は、端から子どもたちを殺めようとして仕込まれたのだろうか…。
そんな折り、尾張屋の女中・おこまが、尾張屋の娘・おゆうの残忍な病いの為に、石見銀山を買いに行った事を茂七に打ち明ける。
主要登場人物
勝吉...海辺大工町の差配人
おゆう...石原町呉服屋・尾張屋の娘
おこま...尾張屋の女中
鰹千両
日本橋通町の呉服屋伊勢屋が、棒手振りの魚屋・角次郎の鰹を千両で買いたいと言って来た。それを聞いた茂七は、裏があるのではと、日本橋通町の呉服屋・伊勢屋に乗り込む。するとやはり千両の裏には、茂七の睨んだ通りの訳があった。
角次郎・おせんのひとり娘・おはるは、伊勢屋の娘であり、千両はおはるを取り戻す為であったのだ。
主要登場人物
角次郎...三好町・棒手振りの魚屋
おせん...角次郎の妻、お針子
おはる...角次郎の娘
伊勢屋...日本橋通町・呉服屋の主
太郎柿次郎柿
何事も見通す力を持つ霊感坊主・日道という、子どもの噂が真しやかに流れていた。その真意を確かめる前に、船宿で兄が弟を殺すという痛まし事件が起きる。
殺された弟・清次郎は、江戸でお店者として成り立ち、在所で百姓を継いだ兄・朝太郎との暮らしぶりは雲泥の差であった。喰うや喰わずの貧困の兄に、贅沢な干菓子を土産に持たせる弟。切ない思いがあった。
主要登場人物
清次郎...猿江神社近く小間物問屋・よろずやの手代
朝太郎...川越の百姓、清次郎の兄
おりん...深川西町糸問屋・上総屋の娘
凍る月
河内屋で新巻鮭が盗まれ、茂七の元に犯人探しの依頼が舞い込むが、盗んだと白状し店を飛び出した女中のおさとは、既に死んでいると日道は予言する。
だが、稲荷寿司屋の親父は、おさとは生きているので、おかしな事を言うなと日道に進言。
松太郎とおさとは恋仲にあったが、松太郎が河内屋の婿養子と決まった経緯があった。
猫がくわえていったかも知れない新巻鮭に、目くじらを立てる松太郎に、おさとは愛想を尽かして己から罪を背負って出奔したらしい。
主要登場人物
三好屋半次郎...御船蔵裏雑穀屋の主、日道(長助)の父親
お美智...半次郎の女房、日道の母親
河内屋松太郎...今川町下酒問屋の主
おさと...河内屋の女中
遺恨の桜
霊感坊主・日道が暴漢に襲われ大怪我を負った。その犯人探しの最中、お夏と名乗る娘が、許嫁の清一が行く方知れずになっているので探して欲しいと現れる。
主要登場人物
勝蔵...やくざの頭目、黒江町船宿舵屋の主
お夏...神田皆川町味噌問屋・伊勢屋の女中
清一...伊勢屋の下男
角田七右衛門...深川の大地主
糸吉の恋
茂七の下っ引きの糸吉は、相生町の火事で焼けた長屋の空き地にできた一面の菜の花畑で、菜の花の精のような娘にひとめ惚れをする。だがその娘・おときは、菜の花の下に殺された赤子が埋まっていると言うのだった。
惚れた弱味で糸吉は茂七に話すが、連れない答えに腹を立て、己ひとりで探索を始めるが、意外な事実と出会すのだった。
それはおときが過去に、道ならぬ子を産み、母子もろとも身を投げた過去であった。子は命を失い、助かったおとき自身も精神に異常をきたしていたのだ。
近隣もむろん、茂七も承知の上での過去であった。
主要登場人物
おとき...深川元町蕎麦屋・葵屋の娘
おこう...菜の花畑の自称張り番
寿の毒
熊井町の料理屋・堀仙で、蝋問屋・辻屋の隠居の還暦祝いの宴席が行われ、数人が具合が悪くなり、翌朝になってそ客のひとりであったおきちが死んだ。食中毒による死であると、おきちの亭主・勘兵衛始め辻屋も一様にそう思っているが、検死役同心・成毛良衛と茂七は、毒殺を疑う。
すると、おきちの一方的な思い込みで迫られて困り果てた安川は、福寿草による毒でおきちを弱らせ、以後薮医者として認識され遠ざけられたかったのだと話す。
主要登場人物
堀仙吉太郎...熊井町料理屋の主・庖丁人
辻屋彦助...蝋問屋の主人
お久...彦助の女房
辻屋の隠居...彦助の父親
おきち...勘兵衛の後妻、元彦助の女房
いろは屋勘兵衛...深川仲町小間物屋の主
安川...御船蔵そばの町医者
成毛良衛...本所深川方・検視役同心
鬼は外
本所緑町の小間物屋の主・喜八郎が亡くなり、その妹お金は、兄の双子の弟で、30年前に花川戸の船宿に養子に出した寿八郎を呼び戻すことにした。ところが、お金は寿八郎は偽者であると言い出し、茂七に訴え出る。
寿八郎と対座した茂七は、寿八郎が松井屋へ戻る意思がない為に、お金が戯れ言を言っていると確信すると同時に、松井屋の身勝手さに呆れ、また、寿八郎からは、本物である証しに、叔母のお末の秘密を打ち明けられる。
だが、探し当てたお末こそが偽物であり、ここでも松井屋の情の無さに泣いた久一の姿があった。
主要登場人物
お金...本所緑町小間物屋松井屋の娘
松井屋徳次郎...本所緑町小間物屋の主、お金の入り婿
寿八郎...花川戸船宿の主
お末...お金の叔母
久一...お末の亭主
おるい...お末の幼馴染み
お花...孤児、差配預かり
「初ものがたり」から18年振りに新作3編を加えて再刊された、本作。先の6編は再読となるが、ミステリー色が濃く、読み手にも臨場感を味あわせながらの茂七の謎解き。頭を捻りながら思い巡らせると、とんでもないところに下手人がいる。
派手な捕り方シーンや殺陣等はなく、茂七の推理が事件を解決する言うなれば江戸の「刑事コロンボ」、「古畑任三郎」である。
そして、何よりも現代にも通じる幼児虐待、遺産相続、無差別殺人、男女の縺れ、年金不正受給などを題材に取り入れているのだ。
そして全話に共通するのが、情である。人の繋がりは、血縁=情ではないと訴えているのではないだろうか。
特に新作2編、「寿の毒」と「鬼は外」では、身勝手で思い込みが激しく、自分以外の人を思いやれない2人の女(社会に良く居るタイプの女)を登場させている当たり、宮部氏の近辺でこのような悩みがあったのではないかと思わせる。
前回読んだ時よりも、レギュラー登場人物の人間性を把握出来、人間関係がすんなり頭に入ると、物語が倍楽しめた。また、三木謙次氏の可愛らしいイラストが花を添えており、物語を守り立てるに一役買っている。
大変面白く楽しめた一冊である。
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回向院の親分こと、岡っ引きの茂七が難事件に挑む、1995年に単行本初出の時代ミステリー小説に新作3編を含めた完全版。各編に江戸の四季を彩る「初もの」を絡め、季節情緒たっぷりに読ませてくれる。
お勢殺し
白魚の目
鰹(かつお)千両
太郎柿次郎柿
凍る月
遺恨の桜
糸吉の恋
寿の毒
鬼は外 計9編の短編連作
主要登場人物(レギュラー)
回向院の茂七...本所深川の岡っ引き
かみさん...茂七の女房
糸吉...茂七の下っ引き、風呂屋の缶焚き
牛の権三...茂七の下っ引き、差配の助っ人
親父...富岡橋袂に屋台を出す稲荷寿司屋、元武士
猪助...稲荷寿司屋台の横で酒の計り売り、元酒の担ぎ売り
日道(長助)...御船蔵裏雑穀屋・三好屋の息子、霊感占い師
お勢殺し
茂七は、下っ引きの糸吉から、真夜中過ぎまで店を開けている稲荷寿司の屋台の話を耳にする。どうも素人屋台とは思えぬ節が…。そんな折り、醤油の担ぎ売りのお勢が、素っ裸で土左衛門になって発見された。
お店者の音次郎と深間になり、所帯を持つと浮かれていた矢先である。だが、身分・風貌・年齢とどれをとっても釣り合わない2人に、茂七は音次郎に胡乱を抱く。
主要登場人物
音次郎...御船蔵前町醤油問屋・野崎屋の手代
猪助...お勢の父親、元酒の担ぎ売り
白魚の目
冬木町の寺裏に住み着いている親なし子5人が、稲荷神社の供え物を口にして骸となって発見された。石見銀山の入った稲荷寿司は、端から子どもたちを殺めようとして仕込まれたのだろうか…。
そんな折り、尾張屋の女中・おこまが、尾張屋の娘・おゆうの残忍な病いの為に、石見銀山を買いに行った事を茂七に打ち明ける。
主要登場人物
勝吉...海辺大工町の差配人
おゆう...石原町呉服屋・尾張屋の娘
おこま...尾張屋の女中
鰹千両
日本橋通町の呉服屋伊勢屋が、棒手振りの魚屋・角次郎の鰹を千両で買いたいと言って来た。それを聞いた茂七は、裏があるのではと、日本橋通町の呉服屋・伊勢屋に乗り込む。するとやはり千両の裏には、茂七の睨んだ通りの訳があった。
角次郎・おせんのひとり娘・おはるは、伊勢屋の娘であり、千両はおはるを取り戻す為であったのだ。
主要登場人物
角次郎...三好町・棒手振りの魚屋
おせん...角次郎の妻、お針子
おはる...角次郎の娘
伊勢屋...日本橋通町・呉服屋の主
太郎柿次郎柿
何事も見通す力を持つ霊感坊主・日道という、子どもの噂が真しやかに流れていた。その真意を確かめる前に、船宿で兄が弟を殺すという痛まし事件が起きる。
殺された弟・清次郎は、江戸でお店者として成り立ち、在所で百姓を継いだ兄・朝太郎との暮らしぶりは雲泥の差であった。喰うや喰わずの貧困の兄に、贅沢な干菓子を土産に持たせる弟。切ない思いがあった。
主要登場人物
清次郎...猿江神社近く小間物問屋・よろずやの手代
朝太郎...川越の百姓、清次郎の兄
おりん...深川西町糸問屋・上総屋の娘
凍る月
河内屋で新巻鮭が盗まれ、茂七の元に犯人探しの依頼が舞い込むが、盗んだと白状し店を飛び出した女中のおさとは、既に死んでいると日道は予言する。
だが、稲荷寿司屋の親父は、おさとは生きているので、おかしな事を言うなと日道に進言。
松太郎とおさとは恋仲にあったが、松太郎が河内屋の婿養子と決まった経緯があった。
猫がくわえていったかも知れない新巻鮭に、目くじらを立てる松太郎に、おさとは愛想を尽かして己から罪を背負って出奔したらしい。
主要登場人物
三好屋半次郎...御船蔵裏雑穀屋の主、日道(長助)の父親
お美智...半次郎の女房、日道の母親
河内屋松太郎...今川町下酒問屋の主
おさと...河内屋の女中
遺恨の桜
霊感坊主・日道が暴漢に襲われ大怪我を負った。その犯人探しの最中、お夏と名乗る娘が、許嫁の清一が行く方知れずになっているので探して欲しいと現れる。
主要登場人物
勝蔵...やくざの頭目、黒江町船宿舵屋の主
お夏...神田皆川町味噌問屋・伊勢屋の女中
清一...伊勢屋の下男
角田七右衛門...深川の大地主
糸吉の恋
茂七の下っ引きの糸吉は、相生町の火事で焼けた長屋の空き地にできた一面の菜の花畑で、菜の花の精のような娘にひとめ惚れをする。だがその娘・おときは、菜の花の下に殺された赤子が埋まっていると言うのだった。
惚れた弱味で糸吉は茂七に話すが、連れない答えに腹を立て、己ひとりで探索を始めるが、意外な事実と出会すのだった。
それはおときが過去に、道ならぬ子を産み、母子もろとも身を投げた過去であった。子は命を失い、助かったおとき自身も精神に異常をきたしていたのだ。
近隣もむろん、茂七も承知の上での過去であった。
主要登場人物
おとき...深川元町蕎麦屋・葵屋の娘
おこう...菜の花畑の自称張り番
寿の毒
熊井町の料理屋・堀仙で、蝋問屋・辻屋の隠居の還暦祝いの宴席が行われ、数人が具合が悪くなり、翌朝になってそ客のひとりであったおきちが死んだ。食中毒による死であると、おきちの亭主・勘兵衛始め辻屋も一様にそう思っているが、検死役同心・成毛良衛と茂七は、毒殺を疑う。
すると、おきちの一方的な思い込みで迫られて困り果てた安川は、福寿草による毒でおきちを弱らせ、以後薮医者として認識され遠ざけられたかったのだと話す。
主要登場人物
堀仙吉太郎...熊井町料理屋の主・庖丁人
辻屋彦助...蝋問屋の主人
お久...彦助の女房
辻屋の隠居...彦助の父親
おきち...勘兵衛の後妻、元彦助の女房
いろは屋勘兵衛...深川仲町小間物屋の主
安川...御船蔵そばの町医者
成毛良衛...本所深川方・検視役同心
鬼は外
本所緑町の小間物屋の主・喜八郎が亡くなり、その妹お金は、兄の双子の弟で、30年前に花川戸の船宿に養子に出した寿八郎を呼び戻すことにした。ところが、お金は寿八郎は偽者であると言い出し、茂七に訴え出る。
寿八郎と対座した茂七は、寿八郎が松井屋へ戻る意思がない為に、お金が戯れ言を言っていると確信すると同時に、松井屋の身勝手さに呆れ、また、寿八郎からは、本物である証しに、叔母のお末の秘密を打ち明けられる。
だが、探し当てたお末こそが偽物であり、ここでも松井屋の情の無さに泣いた久一の姿があった。
主要登場人物
お金...本所緑町小間物屋松井屋の娘
松井屋徳次郎...本所緑町小間物屋の主、お金の入り婿
寿八郎...花川戸船宿の主
お末...お金の叔母
久一...お末の亭主
おるい...お末の幼馴染み
お花...孤児、差配預かり
「初ものがたり」から18年振りに新作3編を加えて再刊された、本作。先の6編は再読となるが、ミステリー色が濃く、読み手にも臨場感を味あわせながらの茂七の謎解き。頭を捻りながら思い巡らせると、とんでもないところに下手人がいる。
派手な捕り方シーンや殺陣等はなく、茂七の推理が事件を解決する言うなれば江戸の「刑事コロンボ」、「古畑任三郎」である。
そして、何よりも現代にも通じる幼児虐待、遺産相続、無差別殺人、男女の縺れ、年金不正受給などを題材に取り入れているのだ。
そして全話に共通するのが、情である。人の繋がりは、血縁=情ではないと訴えているのではないだろうか。
特に新作2編、「寿の毒」と「鬼は外」では、身勝手で思い込みが激しく、自分以外の人を思いやれない2人の女(社会に良く居るタイプの女)を登場させている当たり、宮部氏の近辺でこのような悩みがあったのではないかと思わせる。
前回読んだ時よりも、レギュラー登場人物の人間性を把握出来、人間関係がすんなり頭に入ると、物語が倍楽しめた。また、三木謙次氏の可愛らしいイラストが花を添えており、物語を守り立てるに一役買っている。
大変面白く楽しめた一冊である。
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