うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

青瓜不動 三島屋変調百物語九之続

2023年12月31日 | 宮部みゆき
2023年7月発行

 江戸は神田の袋物屋・三島屋で続く、一風変わった百物語。
 これまで聞き手を務めてきた三島屋主人・伊兵衛の姪のおちかが、神田多町・貸本屋の瓢箪堂勘一に嫁ぎ、聞き手は伊兵衛の二男・富次郎へと受け継がれた。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第9弾。


第一話 青瓜不動
第二話 だんだん人形
第三話 自在の筆
第四話 針雨の里 計4編の中・短編連作

序     
 恐ろしくも暖かい百物語に心を動かされ、富次郎は決意を固める。

第一話 青瓜不動
 行く当てのない女達のため土から生まれた不動明王。

第二話 だんだん人形
 悲劇に見舞われた少女の執念が生んだ家族を守る人形。

第三話 自在の筆
 筆に魅入られた絵師。

第四話 針雨の里
 捨て子、迷い子を引き取る里の秘密。

 百物語の内容も、ますます面白くなり、作者の文才に脱帽。
 本筋もさることながら、三島屋の人間模様も加わり、興味深さ深々である。早くも次回作が待たれる。

主要登場人物
 三島屋富次郎...伊兵衛、お民の二男
 三島屋伊一郎...伊兵衛、お民の長男
 三島屋伊兵衛...神田三島町袋物屋の主
 お民...伊兵衛の女房
 お勝...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘、伊兵衛の姪
 瓢箪堂勘一…神田多町・貸本屋の長男、おちかの夫
 おしま...おちか付き女中



よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続

2022年12月22日 | 宮部みゆき
2022年7月発行

 江戸は神田の袋物屋・三島屋で続く、一風変わった百物語。
 これまで聞き手を務めてきた三島屋主人・伊兵衛の姪のおちかが、神田多町・貸本屋の瓢箪堂勘一に嫁ぎ、聞き手は伊兵衛の二男・富次郎へと受け継がれた。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第8弾。

第一話 賽子と虻
第二話 土鍋女房
第三話 よって件のごとし 計3編の中編連作

第一話 賽子と虻
 幼い時から笑い方を忘れた、老人とも若者とも分からぬ異形の餅太郎。
玉の輿に乗ることになった姉に、虻が憑いたことから、姉を救うために、呪いを肩代わりし、八百万の神々の里に迷い込んだと言う。

第二話 土鍋女房
 水神の住まう粂川で、代々、三笠の渡しの船頭を家業としているおとびは、兄の喜代丸が土鍋に住まう神に魅入られてしまったことを話し…。

第三話 よって件のごとし
 苗字帯刀を許された名家・肝煎の浅川宗右衛門は、盲目の若妻・花代を伴い、以前に村を襲った悪夢のような出来事を語る。
 それは、池で繋がる村で、「ひとでなし」が発生し、村を一網打尽にしようとしているとのことだった。

 シリーズ最高傑作! 一気に読みきった。

主要登場人物
 三島屋富次郎...伊兵衛、お民の二男
 三島屋伊兵衛...神田三島町袋物屋の主
 お民...伊兵衛の女房
 伊一郎...伊兵衛、お民の長男(通油町小間物商・菱屋で修行中)
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝...三島屋の女中
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘、伊兵衛の姪
 瓢箪堂勘一…神田多町・貸本屋の長男、おちかの夫




子宝船 きたきた捕物帖 二

2022年09月15日 | 宮部みゆき
2022年6月発行

 江戸深川で、下っ端の岡っ引きの見習いだった北一だが、千吉親分の急逝により、岡っ引き見習いを廃業し、千吉親分の本業だった文庫売り(本や小間物を入れる箱を売る商売)で生計を立てているのだが、何故か事件に巻き込まれてしまう、痛快時代ミステリー第二弾。

第一話 子宝船

第二話 おでこの中身

第三話 人魚の毒 計3本の中編連作

第一話 子宝船

 赤子を亡くした家の宝船の絵から弁財天が消えていた。大騒動が起きるなか、北一が、絵を描いたという男の家へ行ってみると……。

第二話 おでこの中身

 弁当屋の一家三人が殺された――。悲惨な現場を見ていられず、外に出た北一は、見物人のなかに怪しげな女がいるのに気づく。

 「ぼんくら」シリーズの政五郎親分やおでこが主要な役割で登場。

第三話 人魚の毒
 北一が、検視の与力・栗山のもとで弁当屋の事件の真相を探っていると、木更津湊でお上の御用を務めているという男が訪ねてくる。

主要登場人物
 北一...亡くなった岡っ引き・千吉親分の本業だった文庫売り
 喜多次...長命湯の釜焚き
 栄花...椿山家別邸の主人、旗本の第三子、絵師
 栗山周五郎…南町奉行所与力
 松葉...千吉親分の女房
 青海新兵衛...椿山家別邸、通称「欅屋敷」の用人 
 勘右衛門...深川一帯の貸家や長屋の差配人で通称「富勘」
 千吉...岡っ引き。河豚中毒で亡くなる。北一の親分
 沢井蓮太郎...南町奉行所本所深川方上町周り同心
 沢井蓮十郎...蓮太郎の父。千吉に十手を預けた元同心
 万作...千吉の一の子分で本業の「文庫屋」を継ぐ
 おたま...万作の女房
 おみつ... 松葉付きの女中
 瀬戸殿...椿山家別邸の女中頭
 太一...父・寅蔵の仕事である魚の棒手振りを手伝う

魂手形 三島屋変調百物語七之続

2021年06月27日 | 宮部みゆき
2021年3月発行

 江戸は神田の袋物屋・三島屋で続く、一風変わった百物語。
 これまで聞き手を務めてきた三島屋主人・伊兵衛の姪のおちかが、神田多町・貸本屋の瓢箪堂勘一に嫁ぎ、聞き手は伊兵衛の二男・富次郎へと受け継がれた。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第7弾。

第一話 火焰太鼓
第二話 一途の念
第三話 魂手形 計3編の短編連作

第一話 火焰太鼓
 美丈夫の勤番武士の、国元の不思議な「火焰太鼓」の話し。

第二話 一途の念
 団子屋の屋台を営む娘の亡き母親の念。

第三話 魂手形
 鯔背な老人は、実家の木賃宿に泊まった「お化け」と、その案内人との不思議な縁を。

 シリーズ最高傑作。完全に「三島屋の黒白の間」に引き込まれる。読み出したら止められず、一気に読破。

主要登場人物
 三島屋富次郎...伊兵衛、お民の二男
 三島屋伊兵衛...神田三島町袋物屋の主
 お民...伊兵衛の女房
 伊一郎...伊兵衛、お民の長男(通油町小間物商・菱屋で修行中)
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝...三島屋の女中
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘、伊兵衛の姪
 瓢箪堂勘一…神田多町・貸本屋の長男、おちかの夫



きたきた捕物帖

2020年10月03日 | 宮部みゆき
2020年5月発行

 江戸深川で、下っ端の岡っ引きの見習いだった北一だが、千吉親分の急逝により、岡っ引き見習いを廃業し、千吉親分の本業だった文庫売り(本や小間物を入れる箱を売る商売)で生計を立てているのだが、何故か事件に巻き込まれてしまう、痛快時代ミステリー。

第一話 ふぐと福笑い

第二話 双六神隠し

第三話 だんまり用心棒

第四話 冥土の花嫁 計4本の中編連作

第一話 ふぐと福笑い
 富勘が持ち込んだ、ある商家の「呪いの福笑い」の一件は、出して遊べば必ず祟る。その祟りを治めるためには、誰かがこの福笑いで遊んで、一発で正しい場所に目鼻口を置かねばならないというのだ。


第二話 双六神隠し
 手習所に通う仲良しの3人の男の子が、奇妙な双六を拾って遊んだ後、神隠しに遭う。その神隠しの真相とは。


第三話 だんまり用心棒
 北一は、地主の屋敷の床下で発見された、白骨の掘り出し作業を頼まれた。次第にその発行へと同情を寄せた北一。遺族探しをする折に、湯屋の釜焚きをしている喜多次という不思議な若者と知り合う。

第四話 冥土の花嫁
 目出度い祝言の日際、前世では、新郎の前妻だったと言う自称生まれ変わりの娘が現れ、大混乱。果ては、殺人事件にまで発展する。

 北一が暮らす富勘長屋は「桜ほうさら」で、主人公の笙之介が住んでいた長屋であり、富勘を始め、長屋の住人たちが登場。「初ものがたり」と登場人物が重なり、「謎の稲荷寿司屋」の正体が本書にて解き明かされる。

 文句なしに面白い。その筆の達者さとストーリに、スルスルと読み進み、気が付けば、次回作が待たれるほどに。
 登場人物の個性も際立つ。
 
主要登場人物
 北一...亡くなった岡っ引き・千吉親分の本業だった文庫売り
 喜多次...長命湯の釜焚き
 松葉...千吉親分の女房
 青海新兵衛...椿山家別邸、通称「欅屋敷」の用人 
 勘右衛門...深川一帯の貸家や長屋の差配人で通称「富勘」
 千吉...岡っ引き。河豚中毒で亡くなる。北一の親分
 沢井蓮太郎...本所深川方上町周り同心
 沢井蓮十郎...蓮太郎の父。千吉に十手を預けた元同心
 万作...千吉の一の子分で本業の「文庫屋」を継ぐ
 おたま...万作の女房
 おみつ... 松葉付きの女中
 瀬戸殿...椿山家別邸の女中頭
 太一...父・寅蔵の仕事である魚の棒手振りを手伝う
 お秀...仕立ての内職をしながら、娘のおかよを育てている
 おしか...青物売りをしている鹿蔵の妻。漬物をつくって売る
 辰吉...天道干し。母・おたつと二人暮らし


黒武御神火御殿~三島屋変調百物語六之続~

2020年08月12日 | 宮部みゆき
2019年12月発行

 江戸は神田の袋物屋・三島屋で続く、一風変わった百物語。
 これまで聞き手を務めてきた三島屋主人・伊兵衛の姪のおちかが、神田多町・貸本屋の瓢箪堂勘一に嫁ぎ、聞き手は伊兵衛の二男・富次郎へと受け継がれた。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第6弾。

第一話 泣きぼくろ
第二話 姑の墓
第三話 同行二人
第四話 黒武御神火御殿 計3編の短編・1編の長編連作

第一話 泣きぼくろ
 富次郎と再会した幼馴染が語り始める一家離散の恐ろしい運命。

第二話 姑の墓
 一家の女たちが決してに登ってはならぬ「絶景の丘」。その訳とは…。

第三話 同行二人
 流行病で妻子を失った、走り飛脚が道中巡り合った怪異。

第四話 黒武御神火御殿
 異形の屋敷に迷い込んだ、縁も所縁もない6名を待つ運命恐ろしい運命。

 兎に角面白い。読み応えあり。もう目が話せなくなり、一気に読み終えた。
 内容もさながら、聞き手が富次郎に変わったことで、返ってしっくりと馴染んだ気もする。宮部みゆきさんって天才だね。

主要登場人物
 三島屋富次郎...伊兵衛、お民の二男
 三島屋伊兵衛...神田三島町袋物屋の主
 お民...伊兵衛の女房
 伊一郎...伊兵衛、お民の長男(通油町小間物商・菱屋で修行中)
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝...三島屋の女中
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘、伊兵衛の姪
 瓢箪堂勘一…神田多町・貸本屋の長男、おちかの夫



あやかし草紙〜三島屋変調百物語伍之続~

2018年09月28日 | 宮部みゆき
2018年4月発行

 不幸な出来事で傷心のおちかは、叔父の袋物屋の三島屋伊兵衛に引き取られ、悲しい過去や不思議な出来事を体験した人たちの話に耳を傾ける。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第5弾。

第一話 開けずの間
第二話 だんまり姫
第三話 面の家
第四話 あやかし草紙
第五話 金目の猫 計5編の短編連作

第一話 開けずの間
 塩断ちが元凶で、「行き逢い神」を呼び込み、家族が費えるといった身も凍る不幸を招いた三好屋の話。

第二話 だんまり姫
 不吉と言われる「もんも声」の老婆の波乱万丈な人生の語り。

第三話 面の家
 お家騒動から殺害されながら、その土地の災いを一身に集める「形代」となろうと城から離れられない、10歳の若殿・一国様の霊。

第四話 あやかし草紙
 複写することにより、己が寿命を知ってしまう曰く付きの草紙。白羽の矢を立てられた、浪人には言われぬ過去があり…。

第五話 金目の猫
 おちかが貸本屋・瓢箪堂勘に嫁ぎ、聞き手が三島屋の二男・富次郎へと引き継がれる。その最初の語り部は、三島屋の長男であり兄の伊一郎。
 兄弟二人が体験した、子供の頃飼っていた金眼の白猫の正体とは。

 五話全ての完成度が高く、シリーズ最高傑作と言っても過言ではない。また、今回で主人公がおちかから富次郎へと交代し、物語は新たなステージへと展開するようだ。
 この富次郎は、聞いた話を画に託し、厄落としをするといった手法を用い、この画が、今後、どのようなポジションを締めるかも興味深い。
 続編が待たれる。
 宮部みゆき氏の才能に、感服。

主要登場人物
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘
 三島屋伊兵衛...神田三島町袋物屋の主、おちかの叔父
 お民...伊兵衛の女房
 富次郎...伊兵衛、お民の二男
 伊一郎...伊兵衛、お民の長男(通油町小間物商・菱屋で修行中)
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝...三島屋の女中
 瓢箪堂勘一…神田多町・貸本屋の長男

この世の春 上下刊

2017年12月18日 | 宮部みゆき
 2017年8月発行

 宮部氏の作家30周年に当たる、21世紀最強のサイコ&ミステリー大作。

上刊
第一章 押込(おしこめ)
第二章 囚人(めしゅうど)
第三章 亡霊
第四章 呪縛
第五章 暗雲
第六章 因果

下刊
第七章 闇と光
第八章 解明
第九章 愛憎
終章 この世の春

 押し込めに合った元藩主を蝕む病い。村を焼き討ちされた青年の復讐。勾引しで消えた子どもたち。正体不明の悪意が怪しい囁きと化して、人々を蝕み…。

 冒頭「孤宿の人」を彷彿とさせる蟄居騒動に巻き込まれる主人公。だが、それは単なる乱心・蟄居といった物語ではなく、それに至までの過去の出来事に込められた怨念や怒りが人々を蝕む様子や、根底に潜む問題の解決など、とにかく絡み合う過去の繋がりに圧倒される。
 完成度は完璧。宮部氏の洞察力や文章力に今更ながら感銘を覚える作品。読み応え有り。

主要登場人物
 各務多紀…元下野北見藩・作事方組頭・数右衛門の娘、嫁ぎ先を離別
 田島半十郎…下野北見藩・検見役・角兵衛の子息、無役、多紀の従兄弟
 北見重輿…下野北見藩・六代藩主、乱心のため隠居
 石野織部…元下野北見藩・江戸家老、五香苑館守
 白田登…重輿の主治医
 伊東成孝…元下野北見藩・御用人頭
 脇坂勝隆…下野北見藩・筆頭家老
 お鈴…五香苑の女中
 おごう…五香苑の女中
 寒吉…五香苑の男衆、元白田家の家人
 五郎助…五香苑の家守


三鬼〜三島屋変調百物語四之続~

2017年01月15日 | 宮部みゆき
 2016年12月発行

 不幸な出来事で傷心のおちかは、叔父の袋物屋の三島屋伊兵衛に引き取られ、不幸な過去や不思議な出来事を体験した人たちの話に耳を傾ける。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第4弾。


第一話 迷いの旅籠

第二話 食客ひだる神

第三話 三鬼

第四話 おくらさま 計4編の短編連作

 冬に贈る怪談語り、変わり百物語。
 語り部の客は、村でただひとりお化けを見たという百姓の娘。夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋。山陰の小藩の元江戸家老。心の時を14歳で止めた老婆の4人。
 それぞれに、亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしとの出会いから、切ない話、怖い話、悲しい話を語る。
 それぞれの身の処し方に感じ入ったおちかの身にもやがて、心ゆれる出来事が…。

 引き込まれ、かなり厚みのある本もあっと言う間に読み終えたと同時に、宮部みゆき氏の巧さに、完全に宮部ワールドに魅せられてしまう。シリーズ最高傑作。

主要登場人物
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘
 三島屋伊兵衛...神田三島町袋物屋の主、おちかの叔父
 お民...伊兵衛の女房
 富次郎...伊兵衛、お民の二男
 八十助...三島屋の番頭
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝...三島屋の女中
 瓢箪堂勘一...貸本屋の長男
 青野利一郎...本亀沢町・深考塾の師匠
 灯庵老人(蝦蟇仙人)...口入屋の主
 半吉(紅半纏の半吉・黒子の親分)...岡っ引き
 金田、捨松、良介...青野利一郎の教え子


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荒神絵巻

2015年02月24日 | 宮部みゆき
宮部みゆき/こうの史代

 2014年8月発行

 宮部みゆき著「荒神(こうじん)」の新聞連載時の挿絵を描いた、漫画家・こうの史代の挿絵403点を、オールカラーで完全収録。

一、雪間
二、達之助
三、朱音
四、由良
五、奈津
六、圓秀
七、秤屋
八、朧影
九、やじ
一〇、蓑吉
一一、半之丈
一二、化身
一三、宗栄
一四、直弥
一五、太一郎
一六、源一
一七、土御門
一八、明念和尚
一九、弾正
二〇、百足
二一、霞の底
二二、荒神
二三、風光る 長編

 大平良山、小平良山を挟んで反目を続ける永津野藩と香山藩。そんなある夜、一夜にして香山藩本庄村の村民が消える。
 唯一の生き残りである蓑吉は、永津野藩名賀村の朱音の元で匿われるが、この出来事を巡り次第に明らかになる山に住まう化物の存在。
 御家騒動、奇異な風土病など様々な事情の交錯する中、その化物の正体とは、対峙していく面々が背負った宿命とは。
 元禄太平の世の半ば、一夜にして壊滅状態となった東北の小藩の山村の謎を追う、宮部みゆきの長編ミステリー時代小説が、絵巻となって再登場。

 実は、「荒神」を読んだ折り、難しさに難読したのだが、これなら挿絵を見れば分かるだろうと思ったのは間違い。やはり文章を読まなくては理解出来ず、再度難読。
 挿絵は大変可愛らしく、興味をそそる。







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荒神 (KOU JIN)

2014年09月07日 | 宮部みゆき
 2014年8月発行

 元禄太平の世の半ば、一夜にして壊滅状態となった東北の小藩の山村の謎を追う、長編ミステリー時代小説。

序   夜の森
第一章 逃散(ちょうさん)
第二章 降魔
第三章 襲来
第四章 死闘
第五章  荒神
結   春の森 長編

 大平良山、小平良山を挟んで反目を続ける永津野藩と香山藩。そんなある夜、一夜にして香山藩本庄村の村民が消える。
 唯一の生き残りである蓑吉は、永津野藩名賀村の朱音の元で匿われるが、この出来事を巡り次第に明らかになる山に住まう化物の存在。
 御家騒動、奇異な風土病など様々な事情の交錯する中、その化物の正体とは、対峙していく面々が背負った宿命とは。

 読み応えがあったと言うか、導入部分での登場人物の把握がひと苦労。とにかく登場人物が多く、また、朱音の視線、蓑吉視線、曽谷弾正の視線…と場面が展開していくので、少しずつ頭を整理して読まないことには、物語においていかれる。
 また登場人物の背景も細かく描かれているので、ひとりひとりを突き詰めていっても最初は混乱してしまう。
 ミステリー、サスペンス好きには十分に読み応えがあるだろう。
 ラストはほろ苦い切なさが描かれるが、メランコリックではなく、後味は良い。
 ただ、私的には、登場人物の把握に手間取ったため、映像で観たかった。

主要登場人物
 朱音...永津野藩名賀村の溜家に住まう小台様
 曽谷弾正...永津野藩竜崎家藩主の側近。御筆頭様。朱音の双子の兄
 榊田宗栄...溜家に住まう用心棒(浪人)
 小日向直弥...香山藩瓜生家の小姓
 蓑吉...香山藩本庄村の鉄砲討ち・源一の孫
 おせん...朱音付き女中
 志野達之助...直弥の幼馴染み
 やじ...志野家の使用人







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お文の影

2014年08月01日 | 宮部みゆき
 2014年6月発行

坊主の壺(つぼ)
お文(ふみ)の影
博打眼(ばくちがん)
討債鬼(とうさいき)
ばんば憑(つ)き
野鎚(のづち)の墓 計6編の短編集
(単行本「ばんば憑き」改題文庫版)

坊主の壺(つぼ)
 ころりで家族を失ったおつぎは、世話になったお救い小屋を建てた材木商の田屋重蔵の店の奉公人になった。ある日、重蔵が広げた掛け軸に描かれた、壺の中に肩まで収まった奇妙な僧侶の絵を目にする。
 妖に見入られた奇妙な話であるが、結果も悲壮ではなく決して後味は悪くない。

主要登場人物
 田屋重蔵...深川田町材木問屋の主
 田屋小一郎(4代目重蔵)...重蔵の嫡男
 おつぎ...深川北六間掘町飯屋の娘→田屋の奉公人→4代目重蔵の妻

お文(ふみ)の影
 影踏み遊びに高じていた子どもたちを、見守っていた佐次郎は、三吉の動向が気になり目を凝らすと、子どもの数より影がひとつ多い事に気付き、早々土地の岡っ引きの政五郎に、剛衛門長屋の謂れを尋ねるのだった。
 「ぼんくら」シリーズのレギュラー政五郎と三吉(おでこ)が、謎解きにひと肌脱ぐ。また、この政五郎親分は、「あやし」に収録されている「灰神楽」に登 場する政五郎と同一人物でもあった事が発覚。すると「初ものがたり」の茂七親分は、やはり「ぼんくら」シリーズのその人であったか。
 切ないと言うか悲しいと言うか哀れと言うか、政五郎の女房(お紺)同様、席を立ちたい思いである。
 ラストシーンの情景は必見。佐次郎の言葉に涙が溢れた。

主要登場人物
 佐次郎...深川北六間掘町剛衛門長屋の店子、元日本橋糸問屋の番頭
 政五郎...本所、深川の地廻りの岡っ引き
 三吉(おでこ)...政五郎の手下
 吉三...剛衛門長屋の大工の息子

博打眼(ばくちがん)
 近江屋の主善一が「政吉兄さんが死んだ」と言うと、男衆総出で三番蔵に何かを封じ込めた。騒ぎに外に飛び出した太七によれば、大きな黒い布団に沢山の目玉が付いた化け物が蔵に飛び込んだという。
 怖い話であるが、お美代、太七、竹次郎のキャラがそれを払拭させている。また、狛犬の件も物語をファンタジーへと変えているように感じた。

主要登場人物
 近江屋善一...上野新黒門町醤油問屋の主
 香苗...善一の妻
 お美代...善一の長女
 五郎兵衛...近江屋の番頭
 太七...棒手振り寅蔵の息子、お美代の手習仲間
 竹次郎...町飛脚山登屋の居候、便利屋

討債鬼(とうさいき)
 手習所深考塾の師匠である青野利一郎は、習子の真太郎の殺害をほのめかされる。聞けば、信太郎の実父である大之字屋宗吾郎が、うさん臭い僧侶に操られ、信太郎を討債鬼であると信じ込んでいるのだ。利一郎は、真太郎を救う為に奔走する。
 「あんじゅう」に登場した青野利一郎、手習い女の習子金太、捨松、良介と行然坊の出会いや、利一郎の過去を描き、「あんじゅう」への布石とも言える作品。
 何はともあれ、冒頭から青野利一郎が登場しているのだ。邪道ではあるが安心感を抱いて読めた。

主要登場人物
 青野利一郎...本所亀沢町手習所深考塾の師匠
 加登新左衛門 元深考塾の師匠、利一郎の師匠
 行然...僧侶(偽坊主)
 信太郎...本所松坂町紙問屋大之字屋の総領息子
 久八...大之字屋の番頭
 大之字屋宗吾郎...大之字屋の主、信太郎の父親
 吉乃...宗吾郎の妻、信太郎の母親
 金太、捨松、良介...深考塾の習子
 
ばんば憑(つ)き
 佐一郎は、湯治で箱根に行った帰り、足止めを喰らった戸塚宿で同宿となった隠居のお松から、亡者が己を殺めた下手人の魂を喰らい、いつの間にか入れ替わってしまう、ばんば憑きの話を耳にする。
 あっと驚く思わぬ結末。そして不穏な佐一郎の思惑を匂わせ物語は終了する。文章ではっきりとさせないながらも、それをしっかりと感じさせる手法は宮部みゆきさんならではの巧さである。

主要登場人物
 佐一郎...湯島天神下小間物商伊勢屋の入り婿、実家は分家
 お志津...伊勢屋の跡取り娘、佐一郎の妻
 お松...新材木町建具屋増井屋の隠居
 嘉吉...伊勢屋の番頭
 八重...某村庄屋の娘
 お由...某村豪農戸井家の娘

野鎚(のづち)の墓
 何でも屋の源五郎右衛門は、猫又のお玉から、物の怪と化した野鎚退治の依頼を受ける。話を聞くうちに、件の野鎚には、子どもの霊が宿っているのではないかと疑念を抱く。
 妖たちとの摩訶不思議な体験。そして野鎚退治といったストーリー。事が落着した後の展開に、亡き妻が姿を現し、ファンタジー仕立てとなっている。

主要登場人物
 柳井源五郎右衛門...何でも屋、深川三間町八兵衛長屋の店子
 加奈...源五郎右衛門の娘
 しの...源五郎右衛門の妻
 八兵衛...八兵衛長屋の差配人
 お玉(タマ)...猫又
 
 恐ろしいテーマではあるが、一編一編を読み砕くと、存外に恐ろしさはなく、発展的結末を迎えている。
 だが、どの話でも、登場人物の過去、背景には暗い影があるのが特徴的であり、それでも人は逞しく生きていけるといった筆者からのメッセージとして受け止めた。
 ただ「お文(ふみ)の影」に関しては、これは辛い。物語であり所詮作り物とは分かっていても、胸が苦しくなる話であった。ただ、ここに政五郎を持ってきて、その悲壮さを政五郎が静かに受け止めるといった手法はさすがである。
 また、前記したが、「ぼんくら」シリーズ、「あんじゅう」シリーズのスピンオフも収録されている。
 久し振りに再読となったのだが、薄らと記憶をたどりながら読み進めても、それでも引き付けられた。




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宮部みゆきの江戸怪談散歩

2014年02月14日 | 宮部みゆき
 2013年10月発行

 「三島屋変調百物語」シリーズを始め、怪談物語の舞台となった地図でたどり、設定の背景などを著者が語るほか、対談や、著者推薦の怪談小説を収録。

江戸怪談散歩のはじめに
三島屋変調百物語の舞台を歩く
宮部怪談の舞台を歩く
本所深川七不思議を歩く
北村薫×宮部みゆき やっぱり怪談が好き!
宮部みゆきの怪談を味わう
宮部みゆき推薦! 私の好きなこの話

 「三島屋変調百物語」、「本所深川七不思議」の舞台となった地を、地図、写真、錦絵で紹介。物語を振り返りながらでも良し、同時に照らし合わせても、イメージが画像となって現れる。
 推理作家・北村薫氏との対談では、推理小説、時代小説など枠に捕われないお二方の小説論や、江戸の不思議、怪談のロジックを語り合う。
 そして、宮部氏が選んだ、読んでほしい厳選小説4編を収録。
 宮部みゆき作
 「おそろし~三島屋変調百物語事始~」より「曼珠沙華」
 大好きだった兄の吉蔵が人を殺め島流しとなった。待ちに待った赦免だったが、殺人者の家族としての月日の流れは、藤吉(藤兵衛)へ残酷な選択をさせる。

 「幻色江戸ごよみ」より「だるま猫」
 火消しになりたいが、火事場で足が竦んでしまう臆病な文次は、ひさご屋の角蔵に預けられるが、それでも火消しの夢を捨て切れずにいた。そんな折り、角蔵は己昔は火消しだったと打ち明ける。

 宮部みゆき推薦
 「指輪一つ」 岡本綺堂著
 「怪の再生」 福澤徹三著






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〈完本〉初ものがたり

2013年08月29日 | 宮部みゆき
 2013年7月発行

 回向院の親分こと、岡っ引きの茂七が難事件に挑む、1995年に単行本初出の時代ミステリー小説に新作3編を含めた完全版。各編に江戸の四季を彩る「初もの」を絡め、季節情緒たっぷりに読ませてくれる。

お勢殺し
白魚の目
鰹(かつお)千両
太郎柿次郎柿
凍る月
遺恨の桜
糸吉の恋
寿の毒
鬼は外 計9編の短編連作

主要登場人物(レギュラー)
 回向院の茂七...本所深川の岡っ引き
 かみさん...茂七の女房
 糸吉...茂七の下っ引き、風呂屋の缶焚き
 牛の権三...茂七の下っ引き、差配の助っ人
 親父...富岡橋袂に屋台を出す稲荷寿司屋、元武士
 猪助...稲荷寿司屋台の横で酒の計り売り、元酒の担ぎ売り
 日道(長助)...御船蔵裏雑穀屋・三好屋の息子、霊感占い師

お勢殺し
 茂七は、下っ引きの糸吉から、真夜中過ぎまで店を開けている稲荷寿司の屋台の話を耳にする。どうも素人屋台とは思えぬ節が…。そんな折り、醤油の担ぎ売りのお勢が、素っ裸で土左衛門になって発見された。
 お店者の音次郎と深間になり、所帯を持つと浮かれていた矢先である。だが、身分・風貌・年齢とどれをとっても釣り合わない2人に、茂七は音次郎に胡乱を抱く。

主要登場人物
 音次郎...御船蔵前町醤油問屋・野崎屋の手代
 猪助...お勢の父親、元酒の担ぎ売り

白魚の目
 冬木町の寺裏に住み着いている親なし子5人が、稲荷神社の供え物を口にして骸となって発見された。石見銀山の入った稲荷寿司は、端から子どもたちを殺めようとして仕込まれたのだろうか…。
 そんな折り、尾張屋の女中・おこまが、尾張屋の娘・おゆうの残忍な病いの為に、石見銀山を買いに行った事を茂七に打ち明ける。

主要登場人物
 勝吉...海辺大工町の差配人
 おゆう...石原町呉服屋・尾張屋の娘
 おこま...尾張屋の女中

鰹千両
 日本橋通町の呉服屋伊勢屋が、棒手振りの魚屋・角次郎の鰹を千両で買いたいと言って来た。それを聞いた茂七は、裏があるのではと、日本橋通町の呉服屋・伊勢屋に乗り込む。するとやはり千両の裏には、茂七の睨んだ通りの訳があった。
 角次郎・おせんのひとり娘・おはるは、伊勢屋の娘であり、千両はおはるを取り戻す為であったのだ。

主要登場人物
 角次郎...三好町・棒手振りの魚屋
 おせん...角次郎の妻、お針子
 おはる...角次郎の娘
 伊勢屋...日本橋通町・呉服屋の主

太郎柿次郎柿
 何事も見通す力を持つ霊感坊主・日道という、子どもの噂が真しやかに流れていた。その真意を確かめる前に、船宿で兄が弟を殺すという痛まし事件が起きる。
 殺された弟・清次郎は、江戸でお店者として成り立ち、在所で百姓を継いだ兄・朝太郎との暮らしぶりは雲泥の差であった。喰うや喰わずの貧困の兄に、贅沢な干菓子を土産に持たせる弟。切ない思いがあった。

主要登場人物
 清次郎...猿江神社近く小間物問屋・よろずやの手代
 朝太郎...川越の百姓、清次郎の兄
 おりん...深川西町糸問屋・上総屋の娘

凍る月
 河内屋で新巻鮭が盗まれ、茂七の元に犯人探しの依頼が舞い込むが、盗んだと白状し店を飛び出した女中のおさとは、既に死んでいると日道は予言する。
 だが、稲荷寿司屋の親父は、おさとは生きているので、おかしな事を言うなと日道に進言。
 松太郎とおさとは恋仲にあったが、松太郎が河内屋の婿養子と決まった経緯があった。
 猫がくわえていったかも知れない新巻鮭に、目くじらを立てる松太郎に、おさとは愛想を尽かして己から罪を背負って出奔したらしい。

主要登場人物
 三好屋半次郎...御船蔵裏雑穀屋の主、日道(長助)の父親
 お美智...半次郎の女房、日道の母親
 河内屋松太郎...今川町下酒問屋の主
 おさと...河内屋の女中

遺恨の桜
 霊感坊主・日道が暴漢に襲われ大怪我を負った。その犯人探しの最中、お夏と名乗る娘が、許嫁の清一が行く方知れずになっているので探して欲しいと現れる。

主要登場人物
 勝蔵...やくざの頭目、黒江町船宿舵屋の主
 お夏...神田皆川町味噌問屋・伊勢屋の女中
 清一...伊勢屋の下男
 角田七右衛門...深川の大地主

糸吉の恋
 茂七の下っ引きの糸吉は、相生町の火事で焼けた長屋の空き地にできた一面の菜の花畑で、菜の花の精のような娘にひとめ惚れをする。だがその娘・おときは、菜の花の下に殺された赤子が埋まっていると言うのだった。
 惚れた弱味で糸吉は茂七に話すが、連れない答えに腹を立て、己ひとりで探索を始めるが、意外な事実と出会すのだった。
 それはおときが過去に、道ならぬ子を産み、母子もろとも身を投げた過去であった。子は命を失い、助かったおとき自身も精神に異常をきたしていたのだ。
 近隣もむろん、茂七も承知の上での過去であった。

主要登場人物
 おとき...深川元町蕎麦屋・葵屋の娘

 おこう...菜の花畑の自称張り番

寿の毒
 熊井町の料理屋・堀仙で、蝋問屋・辻屋の隠居の還暦祝いの宴席が行われ、数人が具合が悪くなり、翌朝になってそ客のひとりであったおきちが死んだ。食中毒による死であると、おきちの亭主・勘兵衛始め辻屋も一様にそう思っているが、検死役同心・成毛良衛と茂七は、毒殺を疑う。
 すると、おきちの一方的な思い込みで迫られて困り果てた安川は、福寿草による毒でおきちを弱らせ、以後薮医者として認識され遠ざけられたかったのだと話す。

主要登場人物
 堀仙吉太郎...熊井町料理屋の主・庖丁人
 辻屋彦助...蝋問屋の主人

 お久...彦助の女房

 辻屋の隠居...彦助の父親

 おきち...勘兵衛の後妻、元彦助の女房

 いろは屋勘兵衛...深川仲町小間物屋の主

 安川...御船蔵そばの町医者

 成毛良衛...本所深川方・検視役同心


鬼は外
 本所緑町の小間物屋の主・喜八郎が亡くなり、その妹お金は、兄の双子の弟で、30年前に花川戸の船宿に養子に出した寿八郎を呼び戻すことにした。ところが、お金は寿八郎は偽者であると言い出し、茂七に訴え出る。
 寿八郎と対座した茂七は、寿八郎が松井屋へ戻る意思がない為に、お金が戯れ言を言っていると確信すると同時に、松井屋の身勝手さに呆れ、また、寿八郎からは、本物である証しに、叔母のお末の秘密を打ち明けられる。
 だが、探し当てたお末こそが偽物であり、ここでも松井屋の情の無さに泣いた久一の姿があった。

主要登場人物
 お金...本所緑町小間物屋松井屋の娘

 松井屋徳次郎...本所緑町小間物屋の主、お金の入り婿

 寿八郎...花川戸船宿の主

 お末...お金の叔母

 久一...お末の亭主
 おるい...お末の幼馴染み
 お花...孤児、差配預かり

 「初ものがたり」から18年振りに新作3編を加えて再刊された、本作。先の6編は再読となるが、ミステリー色が濃く、読み手にも臨場感を味あわせながらの茂七の謎解き。頭を捻りながら思い巡らせると、とんでもないところに下手人がいる。
 派手な捕り方シーンや殺陣等はなく、茂七の推理が事件を解決する言うなれば江戸の「刑事コロンボ」、「古畑任三郎」である。
 そして、何よりも現代にも通じる幼児虐待、遺産相続、無差別殺人、男女の縺れ、年金不正受給などを題材に取り入れているのだ。
 そして全話に共通するのが、情である。人の繋がりは、血縁=情ではないと訴えているのではないだろうか。
 特に新作2編、「寿の毒」と「鬼は外」では、身勝手で思い込みが激しく、自分以外の人を思いやれない2人の女(社会に良く居るタイプの女)を登場させている当たり、宮部氏の近辺でこのような悩みがあったのではないかと思わせる。
 前回読んだ時よりも、レギュラー登場人物の人間性を把握出来、人間関係がすんなり頭に入ると、物語が倍楽しめた。また、三木謙次氏の可愛らしいイラストが花を添えており、物語を守り立てるに一役買っている。
 大変面白く楽しめた一冊である。






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泣き童子(わらし)~三島屋変調百物語参之続~

2013年07月31日 | 宮部みゆき
 2013年6月発行

 不幸な出来事で傷心のおちかは、叔父の袋物屋の三島屋伊兵衛に引き取られ、不幸な過去や不思議な出来事を体験した人たちの話に耳を傾ける。
 神田袋物屋三島屋の黒白の間で、明かされる不思議な話。「三島屋変調百物語事始」の第3弾。

魂取(たまどり)の池
くりから御殿
泣き童子(わらし)
小雪舞う日の怪談語り
まぐる笛(ぶえ)
節気顔(せっきがん) 計6編の短編連作

魂取の池
 幼馴染みとの縁組みが整ったお文と名乗る娘が、自分の祖母にまつわる話をする。
 それは岩槻城下にて、人気を嫌い、男女の姿が写されると必ずその2人は別れると言い伝えのある・魂取りの池に、別れたい夫と共に姿を写しみた祖母だったが、失ったのは夫ではなく家財産だった。祖母の心には、浮気をする憎い夫から財産を奪い取りたいといった思惑があった為で、魂取りの池は、その者が一番欲しているものを奪い去るのだ。

くりから御殿
 白粉問屋の主・大坂屋長治郎は、難波湊の西の漁師町(三島町)の出で、実家は干物問屋・三ツ目屋を営んでいたが、豪雨による山崩れに一瞬にして町は飲み込まれ、僅か10歳で天涯孤独になってしまった。
 お救い宿から助けられ、網元の山御殿の一画に収容されたが、毎日を共に過ごした幼馴染みたちに、今はなき実家でその気配に出会うといった夢うつつながらの出来事を経験する。すると、気配を抱いた人物の遺骸が上がるのだった。

泣き童子
 三島屋で行き倒れになっていた瀕死の老人は、名家でもある古名主の家守(大家・差配)を努めていた。そして、言葉を発せないばかりか、血の匂いを嗅ぐと突如として火が付いたように泣き出す曰くのある童・末吉を預かったのだが、老人のひとり娘・おもんに対しても泣き止まぬ末吉に業を煮やしたおもんが、あろう事か末吉を手に掛けてしまった。
 事を有耶無耶にしたものの、月日が流れ、おもんが生んだ子は末吉の産まれ変わりであり、おもんは自害してしまい、輪廻を絶つべく老人は我孫をその手にかけてしまったのだ。

小雪舞う日の怪談語り
 常陸と下野の国境の山里から冬の間で稼ぎに来てい源吉・おこち夫婦が、この年は未だ幼い娘のおえいを伴っていた。
 一方おちかは、岡っ引き・半吉から、札差井筒屋七郎右衛門肝煎りの百物語の会に誘われる。
 贅を凝らした座敷では、逆さ柱にまつわる家の衰退を語る北国出の商人、野州の橋で起きる怪異に命を縮める代償の話をする女、人の病いが見えなき瞳に写る母親の話をする上野国元検見役の豊谷。
 最後に半吉の番になると、駆け出しの下っ引き時代の、深川十万坪・小原村の寮にて、ひとりの男を看取るように命じられた話を始める。
 それは、生前の悪行が祟り、恨みを抱いた亡者に毎夜、身体をなでられ、次第に全身が黒く変色して息絶えた余之助という岡っ引きの壮絶な死であった。
 行きの永代橋で不思議な声を耳にした気がするおちかは、「橋は元々道のないところに築いた物であるので、別の世界へと繋がっていてもおかしくはない」と半吉が言っていた事を思い出し、帰りの永代橋で声に問い掛けてみると、雪沓と端布の綿入れ姿が目に入った。
 それが、初めての出稼ぎのおえいを案じた「おこぼさん()」であったと判明すると、おちかは、おこぼさんの優しさを身に染みるのだった。
 
まぐる笛
 江戸勤番藩士・赤城信右衛門は、子どもの預、山深い母・光恵の郷方の尼木村に預けられた。そこで山道に迷った折り、腕だけが喰い殺された奇妙な死体を目の当たりする。それは、里山に伝わる「まぐる」という生き物の仕業であり、退治出来るのは光恵だけだと言う。
 村にまつわる不思議な伝統と、村の定めを身を持って体験した幼い信右衛門が、これまで口に出す事も憚られ、胸の押込んでいた思いのたけを募らせる。

節気顔
 小間物屋の内儀・末が、幼かった頃。父・三蔵の長兄・春一が、三両を差し出し「1年養って欲しい」とやって来た。
 物置に住み、下男同然の働きを率先する春一に、放蕩を尽くし勘当されていた、昔の道楽息子の面影は無い。
 ただ、物置には近付くな。二十四節の節日は外出させて欲しい。謎めいた行動もあった。
 春一は、家守のような男に、「顔を貸す」代償として使っても減らない3両を受け取っていたのだ。「顔を貸す」とは、この世に思いを残した死者に1日だけ顔を貸し、思いを遂げる仕事だった。
 おちかは、その家守のような男と関わった人を喰らう屋敷の一件を思い出す。

 「おそろし」、「あんじゅう」に続きシリーズ3作目となるが、毎度その着眼点には脱帽である。切なく、怖く、遣る瀬ないながらも、陰に終始するのではなく、そこかた新たな兆しを見出していく。
 今回は、百物語の会として、一章に4編の話が収められ、語りだけではなく、人間模様も織り込んだ手法も新しく見事だった。
 そしてやはり表題である「泣き童子」。物悲しいだけではなく、番所へ知らせて欲しいで締め括った辺りが言うに言われぬ臨場感である。
 今回、新太や金田、捨松、良介3人組の出番はほとんどなかったのが残念であるが、青野利一郎とおちかの関係は継続させ、続編への期待を予感させている。
 回を重ねる毎に内容も濃くなり、もっともっと読みたいシリーズである。
 難が1カ所。黒子の親分・半吉が、朱房の十手を持っているといった記述があるが、朱房は与力・同心のみで、岡っ引きのそれには房はついていません。池波正太郎氏は、その辺りにまで拘りを持っておられます。そこが残念な思いです。ストーリには関係ありませんが。

主要登場人物
 おちか...川崎宿旅籠丸千の娘
 伊兵衛...神田三島町袋物屋三島屋の主、おちかの叔父
 お民...伊兵衛の妻
 八十助...三島屋の番頭
 おしま...三島屋の女中
 新太...三島屋の丁稚
 お勝 三島屋の女中
 青野利一郎...本亀沢町・深考塾の師匠
 灯庵老人(蝦蟇仙人)...口入屋の主
 半吉(紅半纏の半吉・黒子の親分)...岡っ引き
 金田、捨松、良介...青野利一郎の教え子




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