火災警報器のボタンを押さないで運動のボタンを押さないでください

2021年10月18日 | 若気の至り

 「やってはいけない」

 と言われることほどやってみたくなるのが、人間のサガである。

 芸能人の不倫騒動とか、他人への悪口からの炎上とか、人はタブーと言われる行為ほど魅力を感じてしまうもので、われわれは常にモラルと禁断の果実の間で、板ばさみにされているのだ。

 代表的なのは、学校やビルにある火災警報機のボタン。

 あれを

 

 「ウルトラ作戦第一号、攻撃開始!」

 「7時の方向に目標、撃て!」 

 「本艦は現時刻をもって自沈する。乗員諸君、今までありがとう」

 

 なんて、裂帛の気合もろとも、押してみたいと願うのは人類共通の夢である。

 よくエレベーターに

 

 「非常時には、ここを押してください」

 

 と書かれたボタンがあるが、以前住んでいたマンションではそれが、親のカタキかというくらいテープでガチガチに固められていた。

 「これ、非常時になっても押せねーじゃん!

 乗るたびに、つっこんだものであるが、おそらく、ロマンに殉じた男子住民(たぶん子供)のせいであろう。

 迷惑だが、まあ気持ちはわからなくもない。

 警報機以外だと「ベランダを仕切ってる壁」も、ぶち破ってみたい。

 マンションに住んでおられる方なら、おわかりいただけるだろうが、ベランダの両サイドに、隣との境になっている薄い壁がある。

 そこにはたいてい、こんな文言が記してある。

 

 「非常時、ここから破って隣へ抜けられます」

 

 破ってみたい。

 となると気になるのが、その強度。あれは、どれくらいの耐久力を持っているのか。 

 「ここから破って」などと簡単に書いているが、そんな楽勝な雰囲気でいいのか。ふつうに、正拳突き蹴りなどで破れるものなのか。

 あまり頑丈だと「貧弱な坊や」である自分はケガが怖いが、すぐに破壊できるようだと、それはそれで防犯的に不安でもある。

 こうなってくると、破れ方も問題である。

 パンチなりキックなりタックルなりした際、どのように壊れるのだろう。

 怪獣がビルを壊すよう、壮快に楽しく、くずれてほしいものだ。

 体当たりしたら、やはり古いアニメや、コントの定番ギャグのように、壁にきれいな人型の穴が開くのだろうか。

 なんといっても、ここは見事貫通したときのスッキリ感も大事である。

 割りばしが、うまく割れたときのような「おお! 見事な割れ具合だ」といった爽快感があるとベターだ。

 これは、なにげに問題ではないか。もし火事で避難する際、ここで今ひとつ破壊の爽快感がなく、

 「ちょっと待って、今のはノーカンね」

 ベストのスマッシュ感を求めて、再チャレンジしている間に煙に巻かれて死去、なんてこともあるかもしれず、その「割り心地」は極めて重要である。

 そこで以前、友人アサカ君の住むマンションに遊びに行ったとき、

 「よし、一体どうなるのか、実際試してみよう」

 ベランダに出て拳を振り上げたところ、後ろからはがいじめにされ、止められたことがあった。

 なにをするんだ、これはキミの安全を考慮した、双方痛みをともなう実験なのだと説得したが、同意してくれるどころか

 「なにするねん、このぼけなす!」

 頭をはたかれ、メチャクチャに怒られた

 私の友を想う心が理解できないとは、哀れなアサカ君である。

 かくのごとく、私の野望はあのベランダの壁を、ぶち破ることである。

 実際に、地震や火事などの大災害が起るのは嫌だから、アサカ君のマンションに遊びに行くたびに、火災警報機が誤作動しないかと期待している。

 そうすれば、合法的にあの壁を破れるからだが、今のところ幸か不幸か、そのチャンスはめぐってきてない。

 あ、そうか、じゃあ自分で押せばいいんだ(←絶対ダメだよ!)。

 

 


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