大逆転と「竜殺し」の英雄たち 藤井聡太vs永瀬拓矢 2023年 第71期王座戦 第4局

2023年10月12日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 藤井聡太八冠王が誕生した。

 第3局に続いての最終盤でのドラマで、いまだ興奮冷めやらぬと言ったところ。

 

 

 

 事件の現場は、この図。

 ここでは平凡に▲42金と打ち、△22玉▲32金△13玉▲22銀から自然に押して、△24玉▲27飛

 

 

 △26金と打つしかないが、▲37飛をはずしてから、△同金▲55馬と中央を制圧して勝ち。

 また▲42金に△同金も、▲同成銀△同玉▲52飛と打つのが好手。

 

 

 

 △同玉▲53銀から並べて詰み。

 △33玉▲55馬△同角成▲同飛成とこのあたりをキレイに掃除すれば後手に指す手がなく、これも先手が勝つのだ。

 永瀬は▲52飛が見えず、▲62飛と打つのでは大変と読んで▲53馬とするが、これが敗着になってしまった。

 後手玉はわずかに詰まず、大げさではなく歴史を動かす大逆転になってしまった。

 最後、▲27飛や▲52飛で、敵の攻め駒をすべて取ってしまう勝ち方は、本来なら永瀬のお家芸で大好物な手順のはず。

 もし他の棋士が相手だったなら、嬉々として「全駒」を実行し、相手を公開処刑としてさらしたに違いない。

 そもそも将棋の内容自体、スコア的に永瀬の3勝1敗、下手すると3連勝防衛となってもおかしくないものだった。

 それが、この結末

 負けるときは、よくできたもので、自然な手である▲74歩△72歩の交換や、優勢を決定づけたはずの▲85香など、すべての駒が味方を裏切っている。

 ▲74歩がなければ、最後△98飛▲78歩合駒できたし、最後もが駒台にあれば▲53馬でも、△22玉、▲31銀、△12玉に、▲13香と打てるから詰んでいた。

 まさに、あらゆる駒が負けるように配置されており、これぞまさに「勝ち将棋鬼のごとし」で、まあ、なんたること。

 なんでこんなことになるのか、理由はまったくわからない。

 もちろん、

 

 「最後まであきらめず、△37角、△55銀とプレッシャーをかけ続けた藤井がすごかった」

 

 という優等生的な答えはあって、それも間違いではないと思うけど、それにしたって、この第3局第4局のラストはありえない話である。

 いや、大逆転自体はいい。

 でもそれが、ニ番も続くのが信じられないのだ。

 かつて森雞二九段だったか、田中寅彦九段だったかが、

 

 「将棋の世界で催眠術を使うのは大山先生(康晴十五世名人)と羽生君(善治九段)だけ」

 

 控室の雑談とかでの発言だが、完全な冗談よりは少なからず本気に寄ったニュアンスだったという。

 もちろん、将棋の結果に催眠術なんてものが関わってくるわけもないのだが、その逆転を導く指しまわしと、人間的棋力的は実際に盤を対峙した者にとって、不思議なとして働いてくる実感があるかもしれない。

 永瀬の実力と、このシリーズにかけた執念を見れば、そうとでも考えなければ、どうにも納得できないものとなっているのだから。

 こうして前人未到で空前絶後の「八冠王」は成された。

 

 「中学生棋士」

 「29連勝」

 「史上最年少タイトルホルダー」

 

 そして「八冠王」でいったん決着がついた感のある「藤井伝説」序章の(まだ序章か!)次の興味は、彼を倒す「勇者」がだれかに移っていく。 

 まずは竜王戦だ。伊藤匠

 2018年、第11回朝日杯将棋トーナメント準決勝。羽生善治竜王藤井聡太四段の一戦で記録係を務めた彼は、

 

 


 「藤井さんの勝つ姿は見たくない。これ以上引き離されたくない」


 

 

 無名の奨励会員として黙々とペンを走らせながら、内心ではそう歯噛みしていたという。

 そんな男が、ついに最高峰の舞台で「勝つ姿」を消し去るチャンスを得た。第1局完敗だったが、まだまだ勝負はこれからだ。

 関西からは服部慎一郎が元気だ。「藤井さんと同世代に生まれたのは不運」と苦笑いする藤本渚新人王戦決勝を戦っている。

 タイトル戦で押し返された出口若武佐々木大地が、巻き返してくるかもしれない。本田奎はどうした? 次の爆発はまだか。

 高田明浩も生意気で大物っぽいぞ、そして奨励会には「中学生棋士」の可能性があり、前期13勝5敗で三段リーグの次点を獲得した山下数毅もいる。

 彼ら(もちろん「彼女ら」が出てくればなおグッド)はいかにして「打倒藤井」を果たすのか。

 いや、果たしてもらわないと困る。

 将棋界のすべてを手に入れた藤井聡太は、もう前から言われているけど、すでに「主人公」ではなく堂々たる「ラスボス」だからだ。

 これからは彼を「ヒール」として見る方が、将棋界は圧倒的におもしろい。

 なんなら、アベマトーナメントの控室で見せていた、開けっぴろげで辛口だった、あのモードを全開にする「キャラ変」もアリなくらいだ。

 そしてそれは、これからの将棋界の盛り上げのため、いやさ、 

 

 「もっとシビれる将棋をワシらに見せんかい!」

 

 そうさけぶ、われわれのようなエゴくて欲しがりの将棋ファンの欲求を満たすためにも、今戦っている伊藤匠ら「勇者たち」が、神殺しの熱い戦いを見せることは必須なのである。

 


★おまけ

(名人位を逃した「大内の▲71角」はこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 


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