ドイツのドラマ『バビロン・ベルリン』(フォルカー・クッチャー「刑事ラート」シリーズ)激推し

2024年09月01日 | 映画

 ドラマ『バビロンベルリン』がメチャおもしろい。

 私は学生時代、ドイツ語ドイツ文学を専攻していたため、今でもドイツの小説映画が日本で紹介されると、とりあえずチェックする習慣がある。

 正直なところ、ドイツものはこちらではマイナーなので、ほとんど話題にあがることはないが、一時期の「ドイツ・ミステリ」ブームなど、なかなかの実力を発揮することもある。

 『バビロン・ベルリン』は、まさにその「アタリ」な作品であり、ドイツ本国でも大ヒットしたそうだが、それも納得な仕上がりとなっているのだ。

 原作は、ドイツ・ミステリブームの中、ドイツ語翻訳ではおなじみの酒寄洋一さんによって紹介された、フォルカークッチャー刑事ラート」シリーズ。

 こちらでは創元推理文庫から『濡れた魚』『死者の声なき声』『ゴールドステイン』の3つが紹介されている。

 といっても、このシリーズの評価は微妙で、駄作と言うわけではないが、人気売り上げほどよくできているかと言われると、ちょっと首をかしげるところも、なくはない。

 それは主人公であるゲレオンラートがいまひとつ魅力に欠けるというか、あまり感情移入できるようなキャラでないから。

 出世にこだわるところなど妙に俗物的で、人を殺しても良心の呵責もないとか、「ん?」「それ、どうなの?」みたいな。

 いや、もちろんそういった「欠点」が魅力になるケースも多々ある。

 北欧ミステリブームのエースだったヘニングマンケルの「刑事ヴァランダー」シリーズなんかは、むしろそのショボさが「萌え」につながっているほどだ。

 実際、ネットのレビューなどでも、同様の指摘をする人が多く、作者のインタビューではそこをあえて、「ねらってやってる」とおっしゃってたが、伝わってないこともあるようなのだ。

 『ゴールドステイン』はNSDAP(「ナチス」の正式名称)が台頭してきた時期だから、その「悪役」ぶりとの対照で、多少なりともゲレオンに「ヒーロー」的要素が浮き出るけど(テコ入れが入ったのかもしれない)、その前2作に関しては、

 

 「おもしろいんだけど、なんだかしっくりこない」

 

 というモヤモヤ感が残ってしまうのは、いなめないところで、やはりそれは主人公の魅力に起因すると思われるわけだ。

 なんて、ちょっとイヤごとめいたことを書いてしまったが、ではなぜにて、そんな微妙とか言っちゃう作品を推すのかと問うならば、それはもう時代設定が秀逸だから。

 歴史もの好きには、

 

 「この時代をあつかったものはマスト」

 

 という時代背景と言うのがあって、ミステリ好きなら「ヴィクトリア朝ロンドン」。

 ドラマチックさなら革命時代のフランスに、ローマ帝国から、コンスタンティノポリス陥落、ゲームファンなら三国志とか戦国時代

 美術ならルネサンス期のイタリア哲学なら古代ギリシャ愛国ムードが高まれば『坂の上の雲』のころなどなどあるが、私の場合は、

 

 第一次大戦終結から、ナチ台頭を経ての敗戦

 

 このころのドイツと言うことになる。

 まさにこの「刑事ラート」をベースにした『バビロンベルリン』は、そこにドンピシャ当てはまるというわけなのだ。

 なにを隠そう、当ページの看板である

 

 カフェ・グレーセンヴァーン(誇大妄想狂)」

 

 こそが、20世紀初頭のベルリン、目抜き通りのクアフュルステンダムにあった、芸術家カフェの名前から取っているのだから。

 つまるところ、このシリーズの主役は「ゲレオンラートもの」と謳っているけど、実のところ「ベルリン」の街そのものということなのだ。

 もちろん、ストーリーも良い。

 ロシア皇帝金塊をめぐるかけひきや、映画女優をねらった殺人鬼に、マフィアとの対決。

 共産党の止まらぬ勢い、極右勢力の暴走、ナチの卑劣な計略、爆発寸前市場経済……。

 などなど、とにかくネタには困らないのが、このころのドイツ。

 そこに、

 

 「ソ連で極秘に行われていた再軍備計画」

 

 といった歴史的事実をからめて提示されたら、私のようなドイツ史ファンは、コロッといかれます。

 もちろん、その辺のことはあいまいでも、ミステリ的要素だけでも楽しいし、当時のベルリンで見られた、独特すぎる文化を堪能するもよし。

 そんな多角的な楽しみ方のできるこのドラマは、とってもオススメなのです。

 

 (続く

 

 

 

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