佐々木勇気八段が、竜王戦の挑戦者になった。
ということで、今回はタイトル保持者として待ち受ける藤井聡太竜王(名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)との将棋を紹介してみたい。
この2人はNHK杯決勝や、アベマトーナメントなど目立つところで何度も戦っているが、中でももっとも熱い戦いは実は他にある。
それが、まだ藤井七冠が奨励会員時代の非公式戦。
たぶん『将棋世界』で立ち読みかなんかして、佐々木の放った角成の好手と、と藤井の駒をタダ捨てする妙手が、印象に残っていたのだ。
それを取り上げたいんだけど、解説してくれてる資料が見つからず、検討するのもめんどいなー。
と放置していたのだが、佐々木勇気がついに爆発したとなれば、これはもう、一丁腕まくりするしかないのである。
ということで、今回はもうすぐ開幕の竜王戦のオードブルに、こんなのをどうぞ。
2016年の岡崎将棋まつりの席上対局。
佐々木勇気五段と、藤井聡太三段の一戦。
藤井が先手で、オーソドックスな相矢倉から、激しい攻め合いになり、難解な終盤戦に突入する。
現在、後手玉は▲34銀打の詰めろになっている。
佐々木からすれば、ここで先手玉を詰ますか、王手をかけながら、うまく詰めろをほどくなど、ワザを見せなければならない。
ここから2人の若獅子が、手練れのパイロット同士が見せる空中戦ような、激烈な攻防戦をくり広げる。
とりあえず、佐々木は△77とと金を取って王手するが、それにどう対処するべきか……。
△77とに▲97玉と逃げるのが、きわどい手。
▲同金は△38飛の王手で▲35の銀が抜ける。
▲同玉も△37飛が王手銀取りで、後手のねらいにハマりそうだが、これには▲47桂(!)の中合いがありそう。
△同飛成、▲88玉で、王手銀取りを解除するという仕組み。
まあ、これは私の妄想手順で、成立してるかは知らんけど、こういう派手な手がいろいろと埋まってそうな局面でもある。
ただここは秒読みで、リスクが大きいと見たか逃げることを選択。
この端に逃げる形も、金をボロッと取られながらの敗走でつらそうに見えるが、なにげに終盤の手筋でもある。
どう見ても寄っている場面で、ヒョイとかわした手でまったく詰まないとか、手品のようなしのぎを得意としていた。
今では「銀冠の小部屋」など教科書にも載ってるが、その元祖は「受ける青春」だったのだ。
さあ、今度は佐々木が選択する番。
後手玉は相変わらず一手スキだが、先手玉に詰みはなく、▲35の銀を抜く筋も回避されてしまった。
並の手では、ここで後手の負けが決まるが、でも佐々木勇気が「並み」だなんて、だれが言った?
△96歩と、まずは一回おうかがいを立てる。
先手玉にせまるなら、まずはここからということで、これはとりあえず秒に追われれば、我々でも指すだろう。
しかしだ、佐々木勇気ほどの男が、ここで「とりあえず王手」みたいなことはやらない。
この歩には、おそろしいねらいが秘められており、▲同玉と取ると、すかさず△95香と走ってくる。
▲同玉、△85飛、▲同玉、△76角成、▲84玉、△82飛、▲83合駒。
そこで、△75馬、▲73玉、△64馬でピッタリ詰むのだ。
一瞬で、それを察知した藤井は▲96同銀と取る。
浮き駒だった銀にヒモをつけながら、玉もヘルメットをかぶって、一見効果がわかりにくいが、そこで△76角成が佐々木のねらっていた絶妙の攻防手。
この△76角成は放っておくと、△85桂、▲同銀、△86金、▲同歩、△87飛以下の詰めろ。
また▲34銀打、△22玉、▲23金、△31玉、▲32金に△同馬と取れるようにした攻防兼備。
いわゆる「詰めろ逃れの詰めろ」なのだ。
決まったかに見えたが、そこは相手が天下の藤井聡太ということ。
並ではないという意味では、こっちも負けていないのだった。