前回(→こちら)に続いて、ベルギー・リーグ観戦記。
ひょんな思いつきから、ベルギーでサッカーを見ることとなった欧州旅行中の私。
セリエAで活躍していた中田英寿選手を見に、日本人がイタリアに集結していた時期であり、みながローマだユベントスだインテルだとさわいでいるのをよそに、ベルギーリーグの試合を見るなど、いかに思いつきの行動とはいえ、なかなかに因果である。
さすがは私、サッカーという巨大メジャーの世界においても、どこまでいっても怒濤のマイナー野郎である。ベルギー人には悪いが、なぜそんなところにいくのか。イタリアかスペイン行けよと、あのころの自分につっこみたいところだ。
まあ、このあたりの道のはずし方は、「いっそ、逆においしい」という魔法の言葉乗り切るとして、観戦するとなると、まずチェックするのは、どんなチームの試合かということである。
スマホなどない時代、さっそく駅で新聞を購入し、スポーツ欄をチェックする。
当然ながら書いてあることははサッパリなのであるが(ベルギーの公用語はフラマン語とワロン語。それぞれオランダ語とフランス語とほぼ同じ)、順位表や日程くらいはなんとなくわかる。
判明したのは、ここブルージュでは「クラブ・ブルージュ(ブルッヘ)」というチームがあること。
クラブ・ブルージュ。ちゃらんぽらん富好さんの漫談ではないが、「知らんなあ」である。
私のブルージュの知識は、ローデンバックの『死都ブリュージュ』くらいであって、どんなはかなげなところだろうとイメージしていたら、むちゃくちゃに雰囲気の明るい、ディズニーランドみたいなところで驚いたくらい。
死の街どころか、新婚旅行とかに超オススメのステキなところだったが、当たり前だけど、そんなところにもサッカーチームはあるのだ。
拍子のいいことに、明日の土曜日にホームで試合があるというので、バスに乗ってクラブ・ブルージュの本拠地であるヤン・ブレイデル・スタディオンに向かうこととなる。試合はデーゲームで、夜の時間つぶしのはずというアテははずれたが、まあそこはもうよかろう。
来てみると、スタジアムは、ずいぶんとこじんまりしていた。
スポーツ観戦はもっぱらテレビが専門だが、甲子園球場や長居競技場などには行ったことはあり、その規模くらいは比較できる。
ふつう、スタジアムというのは通路を抜けてスタンドに出た瞬間、その広さと熱気から思わず、
「おー」
と歓声がもれるものだが、このスタジアムはそういった圧のようなものはない。
コンパクトにまとまったそれは、サッカーの本拠地というよりはむしろ近所の公園の運動場のようであり、イメージ的には長居や国立というよりは、夏の高校野球の予選をやっている舞洲球場みたいなのであった。
うーん、さすがはヨーロッパとはいえ、ややマニアックなベルギーサッカーだ。思ってたのと、ちと違う。
こちらは本場のサッカーといえばフーリガンがスタジアムを破壊したり火をつけたり、あげくには観客同士がなぐりあって死人が出てみたいな、そういうものだと身構えていたのだ。
もしそんなことになったら、私も男だ。暴力など容認できないぞとばかりに、そこは腕まくりをしてどーんと、ダッシュで逃げるけど、どうも、そもそもそういう空気ではないようだ。
客層はみな健全なブルージュ市民ばかりで、親子連れとか、孫をつれたおじいちゃんとか、若いカップルとか、そういった面々。
そこをどう見ても、全身タトゥーとか顔中ピアスとかヘイファッキン、ゲラウトヒヤーみたいなフーリガンはいなのであった。
さらにいえば、ファンの層も若干地味目である。
日本だとサッカーといえば、
「リア充の見るメジャースポーツ」
というイメージだが、実際のところ、欧州や南米でサッカーといえば、むしろ社会的地位や経済面に恵まれない層の娯楽だ。ここベルギーでも、日本代表の試合で熱狂するような、
「イケてる若者が大騒ぎ」
といった空気は感じられない。
メインの客層であるベルギーおじさんたちは、みな一様にモノトーンのシャツに、グレーっぽい上着を着ている。オシャレとは対極の静けさである。
のちにセリエAを見たときも思ったけど、ヨーロッパのサッカーファンの空気感は、日本でいえば一昔前の将棋道場とかプロ野球の外野席とか、完全に「オッチャンの社交場」。ホワイトカラーよりはブルーカラー。
つまるところ、生活感が強いわけだが、そんなローカル感バリバリなブルージュのスタジアムも、活気という点ではやや物足りないところもあるけど、まったりと自然体で地元を応援するというゆるい空気は、落ち着いていて、それはそれで観光の醍醐味ともいえる。
スポーツ観戦いうたら、うるさいかと思ってたけど、のんびりしてるなあ。天気もいいし、こらサッカーよりも昼寝の方が気持ちええんとちゃうやろか。
などとのんきなことを言っていたのであるが、あにはからんや、そんなゆるいムードなど、この日の試合には向かなかった。寝るなど、とんでもない話だったのだ。
そのことは、試合開始のホイッスルが鳴ると同時に、いやでも気づかされることになる。ピーという音が響いた瞬間、スタジアムは耳が抜けるかといった、嵐のような怒号と歓声に包まれたからである。
(続く→こちら)
ひょんな思いつきから、ベルギーでサッカーを見ることとなった欧州旅行中の私。
セリエAで活躍していた中田英寿選手を見に、日本人がイタリアに集結していた時期であり、みながローマだユベントスだインテルだとさわいでいるのをよそに、ベルギーリーグの試合を見るなど、いかに思いつきの行動とはいえ、なかなかに因果である。
さすがは私、サッカーという巨大メジャーの世界においても、どこまでいっても怒濤のマイナー野郎である。ベルギー人には悪いが、なぜそんなところにいくのか。イタリアかスペイン行けよと、あのころの自分につっこみたいところだ。
まあ、このあたりの道のはずし方は、「いっそ、逆においしい」という魔法の言葉乗り切るとして、観戦するとなると、まずチェックするのは、どんなチームの試合かということである。
スマホなどない時代、さっそく駅で新聞を購入し、スポーツ欄をチェックする。
当然ながら書いてあることははサッパリなのであるが(ベルギーの公用語はフラマン語とワロン語。それぞれオランダ語とフランス語とほぼ同じ)、順位表や日程くらいはなんとなくわかる。
判明したのは、ここブルージュでは「クラブ・ブルージュ(ブルッヘ)」というチームがあること。
クラブ・ブルージュ。ちゃらんぽらん富好さんの漫談ではないが、「知らんなあ」である。
私のブルージュの知識は、ローデンバックの『死都ブリュージュ』くらいであって、どんなはかなげなところだろうとイメージしていたら、むちゃくちゃに雰囲気の明るい、ディズニーランドみたいなところで驚いたくらい。
死の街どころか、新婚旅行とかに超オススメのステキなところだったが、当たり前だけど、そんなところにもサッカーチームはあるのだ。
拍子のいいことに、明日の土曜日にホームで試合があるというので、バスに乗ってクラブ・ブルージュの本拠地であるヤン・ブレイデル・スタディオンに向かうこととなる。試合はデーゲームで、夜の時間つぶしのはずというアテははずれたが、まあそこはもうよかろう。
来てみると、スタジアムは、ずいぶんとこじんまりしていた。
スポーツ観戦はもっぱらテレビが専門だが、甲子園球場や長居競技場などには行ったことはあり、その規模くらいは比較できる。
ふつう、スタジアムというのは通路を抜けてスタンドに出た瞬間、その広さと熱気から思わず、
「おー」
と歓声がもれるものだが、このスタジアムはそういった圧のようなものはない。
コンパクトにまとまったそれは、サッカーの本拠地というよりはむしろ近所の公園の運動場のようであり、イメージ的には長居や国立というよりは、夏の高校野球の予選をやっている舞洲球場みたいなのであった。
うーん、さすがはヨーロッパとはいえ、ややマニアックなベルギーサッカーだ。思ってたのと、ちと違う。
こちらは本場のサッカーといえばフーリガンがスタジアムを破壊したり火をつけたり、あげくには観客同士がなぐりあって死人が出てみたいな、そういうものだと身構えていたのだ。
もしそんなことになったら、私も男だ。暴力など容認できないぞとばかりに、そこは腕まくりをしてどーんと、ダッシュで逃げるけど、どうも、そもそもそういう空気ではないようだ。
客層はみな健全なブルージュ市民ばかりで、親子連れとか、孫をつれたおじいちゃんとか、若いカップルとか、そういった面々。
そこをどう見ても、全身タトゥーとか顔中ピアスとかヘイファッキン、ゲラウトヒヤーみたいなフーリガンはいなのであった。
さらにいえば、ファンの層も若干地味目である。
日本だとサッカーといえば、
「リア充の見るメジャースポーツ」
というイメージだが、実際のところ、欧州や南米でサッカーといえば、むしろ社会的地位や経済面に恵まれない層の娯楽だ。ここベルギーでも、日本代表の試合で熱狂するような、
「イケてる若者が大騒ぎ」
といった空気は感じられない。
メインの客層であるベルギーおじさんたちは、みな一様にモノトーンのシャツに、グレーっぽい上着を着ている。オシャレとは対極の静けさである。
のちにセリエAを見たときも思ったけど、ヨーロッパのサッカーファンの空気感は、日本でいえば一昔前の将棋道場とかプロ野球の外野席とか、完全に「オッチャンの社交場」。ホワイトカラーよりはブルーカラー。
つまるところ、生活感が強いわけだが、そんなローカル感バリバリなブルージュのスタジアムも、活気という点ではやや物足りないところもあるけど、まったりと自然体で地元を応援するというゆるい空気は、落ち着いていて、それはそれで観光の醍醐味ともいえる。
スポーツ観戦いうたら、うるさいかと思ってたけど、のんびりしてるなあ。天気もいいし、こらサッカーよりも昼寝の方が気持ちええんとちゃうやろか。
などとのんきなことを言っていたのであるが、あにはからんや、そんなゆるいムードなど、この日の試合には向かなかった。寝るなど、とんでもない話だったのだ。
そのことは、試合開始のホイッスルが鳴ると同時に、いやでも気づかされることになる。ピーという音が響いた瞬間、スタジアムは耳が抜けるかといった、嵐のような怒号と歓声に包まれたからである。
(続く→こちら)