1999年 なぜかサッカーのベルギーリーグ観戦記 クラブ・ブルージュ編 その2

2017年07月29日 | スポーツ
 前回(→こちら)に続いて、ベルギー・リーグ観戦記。

 ひょんな思いつきから、ベルギーでサッカーを見ることとなった欧州旅行中の私。

 セリエAで活躍していた中田英寿選手を見に、日本人がイタリアに集結していた時期であり、みながローマだユベントスだインテルだとさわいでいるのをよそに、ベルギーリーグの試合を見るなど、いかに思いつきの行動とはいえ、なかなかに因果である。

 さすがは私、サッカーという巨大メジャーの世界においても、どこまでいっても怒濤のマイナー野郎である。ベルギー人には悪いが、なぜそんなところにいくのか。イタリアかスペイン行けよと、あのころの自分につっこみたいところだ。

 まあ、このあたりの道のはずし方は、「いっそ、逆においしい」という魔法の言葉乗り切るとして、観戦するとなると、まずチェックするのは、どんなチームの試合かということである。

 スマホなどない時代、さっそく駅で新聞を購入し、スポーツ欄をチェックする。

 当然ながら書いてあることははサッパリなのであるが(ベルギーの公用語はフラマン語とワロン語。それぞれオランダ語とフランス語とほぼ同じ)、順位表や日程くらいはなんとなくわかる。

 判明したのは、ここブルージュでは「クラブ・ブルージュ(ブルッヘ)」というチームがあること。

 クラブ・ブルージュ。ちゃらんぽらん富好さんの漫談ではないが、「知らんなあ」である。

 私のブルージュの知識は、ローデンバックの『死都ブリュージュ』くらいであって、どんなはかなげなところだろうとイメージしていたら、むちゃくちゃに雰囲気の明るい、ディズニーランドみたいなところで驚いたくらい。

 死の街どころか、新婚旅行とかに超オススメのステキなところだったが、当たり前だけど、そんなところにもサッカーチームはあるのだ。

 拍子のいいことに、明日の土曜日にホームで試合があるというので、バスに乗ってクラブ・ブルージュの本拠地であるヤン・ブレイデル・スタディオンに向かうこととなる。試合はデーゲームで、夜の時間つぶしのはずというアテははずれたが、まあそこはもうよかろう。

 来てみると、スタジアムは、ずいぶんとこじんまりしていた。

 スポーツ観戦はもっぱらテレビが専門だが、甲子園球場や長居競技場などには行ったことはあり、その規模くらいは比較できる。

 ふつう、スタジアムというのは通路を抜けてスタンドに出た瞬間、その広さと熱気から思わず、

 「おー」

 と歓声がもれるものだが、このスタジアムはそういった圧のようなものはない。

 コンパクトにまとまったそれは、サッカーの本拠地というよりはむしろ近所の公園の運動場のようであり、イメージ的には長居や国立というよりは、夏の高校野球の予選をやっている舞洲球場みたいなのであった。

 うーん、さすがはヨーロッパとはいえ、ややマニアックなベルギーサッカーだ。思ってたのと、ちと違う。

 こちらは本場のサッカーといえばフーリガンがスタジアムを破壊したり火をつけたり、あげくには観客同士がなぐりあって死人が出てみたいな、そういうものだと身構えていたのだ。

 もしそんなことになったら、私も男だ。暴力など容認できないぞとばかりに、そこは腕まくりをしてどーんと、ダッシュで逃げるけど、どうも、そもそもそういう空気ではないようだ。

 客層はみな健全なブルージュ市民ばかりで、親子連れとか、孫をつれたおじいちゃんとか、若いカップルとか、そういった面々。

 そこをどう見ても、全身タトゥーとか顔中ピアスとかヘイファッキン、ゲラウトヒヤーみたいなフーリガンはいなのであった。

 さらにいえば、ファンの層も若干地味目である。

 日本だとサッカーといえば、

 「リア充の見るメジャースポーツ」

 というイメージだが、実際のところ、欧州や南米でサッカーといえば、むしろ社会的地位や経済面に恵まれない層の娯楽だ。ここベルギーでも、日本代表の試合で熱狂するような、

 「イケてる若者が大騒ぎ」

 といった空気は感じられない。

 メインの客層であるベルギーおじさんたちは、みな一様にモノトーンのシャツに、グレーっぽい上着を着ている。オシャレとは対極の静けさである。

 のちにセリエAを見たときも思ったけど、ヨーロッパのサッカーファンの空気感は、日本でいえば一昔前の将棋道場とかプロ野球の外野席とか、完全に「オッチャンの社交場」。ホワイトカラーよりはブルーカラー。

 つまるところ、生活感が強いわけだが、そんなローカル感バリバリなブルージュのスタジアムも、活気という点ではやや物足りないところもあるけど、まったりと自然体で地元を応援するというゆるい空気は、落ち着いていて、それはそれで観光の醍醐味ともいえる。

 スポーツ観戦いうたら、うるさいかと思ってたけど、のんびりしてるなあ。天気もいいし、こらサッカーよりも昼寝の方が気持ちええんとちゃうやろか。

 などとのんきなことを言っていたのであるが、あにはからんや、そんなゆるいムードなど、この日の試合には向かなかった。寝るなど、とんでもない話だったのだ。

 そのことは、試合開始のホイッスルが鳴ると同時に、いやでも気づかされることになる。ピーという音が響いた瞬間、スタジアムは耳が抜けるかといった、嵐のような怒号と歓声に包まれたからである。


 (続く→こちら



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