サッカーのベルギー・リーグを観戦したことがある。
というと周囲のサッカーファンは、
「いいなあ、川島選手や鈴木選手を見に行ったんですか。わたしも日本人選手を応援に、ヨーロッパに行きたいです」。
などと熱く語ったりするが、残念なことに私はベルギーで川島選手も鈴木選手も見ていない。
いや、観ようにもまだ2人はそのころ、ベルギーに行っていないどころか、川島選手などプロ入り前の高校生くらいだったはず。これでは見に行こうにも行けないというものだ。
では、そんな日本人選手もいないころ、なぜにてわざわざベルギーくんだりでサッカーを見たのかと問うならば、これが単なる思いつきであった。
今から約15年近く前になるのか、私はテニスのフレンチ・オープンを観戦するため、フランスへ飛んだ。
そのころは私もヒマだったので、せっかく飛行機に乗って欧州に遠征するのだから、パリだけでなく他のところもいろいろ見て回りたいと、ドイツやベルギーなども観光したのである。
で、そこでのナイトライフが問題であった。
旅行というのは楽しいものだが、夕飯を食ってからの時間のつぶし方が案外もてあます。
昼は観光地をめぐっていそがしいけど、夜になると安宿に帰ってすることがない。外は暗いし、街によっては下手に出歩くと危険だったりもする。
まあ、これがパリやロンドンのような大都会なら、夜景を見に行ったり、ミュージカルを観劇したり、ライブハウスで盛り上がるなどなんなりすることもある。
が、私がそのとき滞在していたブルージュ(現地の発音ではブルッヘ)という街は、日本でいう倉敷とか金沢みたいな歴史テーマパーク的場所であり、昼間は運河めぐりなどして充実した時を過ごせるが、夜になるとパタリと店じまいしてしまう。
関西だと大阪や京都ではなく、奈良の大和高田みたいなところというか。飲み屋やディスコのような夜遊びスポットがない、健全無害な観光地なのだ。
これでは、夜に出歩こうにもどうしようもない。かといって、安宿のボロい壁を見て悄然と過ごすには私もまだ若く血気盛んであった。
そこでひねりだしたのが、
「そうだ、サッカーを見に行こう」
当時、中田英寿選手がイタリアでがんばっていたころであり、日本人の間で、
「セリエAでプレーする中田を見にイタリアへ行く」
というスタイルの旅行が、かなり流行っていたのだ。それにあやかったわけである。
ただ問題なのは、ここがイタリアではなくベルギーであるところ。
まあ、別にヒデのファンというわけではないから、そこにはこだわらないけれど、日本人選手うんぬん以前に、そもそもベルギーリーグって、どんなんかいな?
ブルージュにチームはあるのか? あっても日程は? スタジアムの場所は? チケットはどこで買うの? もしなにかのトラブルで終電に乗れなかったら、どうやって帰ればいいのか。
今のように、海外でのネット事情が充実してなかったころだ。スマホもなければ、グーグルマップも、翻訳アプリもない。ネットカフェに行っても、日本語対応のパソコンがなかったりする。
まったくの五里霧中である。どこから手をつけていいか、サッパリわからない。思えば、昔は不便だったというか、今がすごすぎるというべきか。なんにしても、技術の進化万歳。
こうなると頼れるのは、度胸と自らの足しかない。私は市内にあるツーリストインフォメーションに走ると、
「ブルージュでサッカーを見たいから、日程と試合会場を教えたまえ」。
これには、受付のお姉さんがキョトンとしていたのをおぼえている。
最初は私の言語力の問題かと思ったが、どうもそうではなく、
「サッカー? 日本人が、この観光都市ブルージュで、なんでそんなもんを?」
という疑問なのであった。
嗚呼、そうなのだ。今はともかく、当時はまだ日本といえばサッカーのイメージなどあまりないころ。
中田ヒデのプチバブルのせいで、悪い現地人がダフ屋でボッたくろうと手ぐすね引いていたイタリアとちがって、ここベルギーでは後にワールドカップで手合わせすることなど知るよしもなく、
「日本人がサッカー? 聞いたことないわあ」
くらいのあつかいだったのだ。それで、おねえさんのキョトンなのだ。
日本人がサッカーって? しかも、このベルギーで?
今はそんなことないと思うけど、当時はその程度の認識だった。もしかしたら、ブルージュでサッカーを観に行こうとした日本人は、私が初めてであるかもしれなかった。
そんな時代であったので、案内所のお姉さんが困惑するのも、当然といえば当然なのだ。それでも仕事なので、一所懸命探してくれたところによると、幸運なことに、週末、地元チームの試合があるというではないか。
おお、こらラッキー。おとずれていたのが5月だったので、ヨーロッパのリーグはそろそろ店じまいのはずだが、まさにそのシーズン最後の試合が、ここブルージュで行われるというのだ。
こういうのを縁というのだろう。こうして私は、日本人旅行者がヒデを求めてイタリアに集結する中、だれも知らんサッカーリーグの試合を見るため、ブルージュ随一の競技場であるヤン・ブレイデル・スタディオンにむかったのである。
(続く→こちら)
というと周囲のサッカーファンは、
「いいなあ、川島選手や鈴木選手を見に行ったんですか。わたしも日本人選手を応援に、ヨーロッパに行きたいです」。
などと熱く語ったりするが、残念なことに私はベルギーで川島選手も鈴木選手も見ていない。
いや、観ようにもまだ2人はそのころ、ベルギーに行っていないどころか、川島選手などプロ入り前の高校生くらいだったはず。これでは見に行こうにも行けないというものだ。
では、そんな日本人選手もいないころ、なぜにてわざわざベルギーくんだりでサッカーを見たのかと問うならば、これが単なる思いつきであった。
今から約15年近く前になるのか、私はテニスのフレンチ・オープンを観戦するため、フランスへ飛んだ。
そのころは私もヒマだったので、せっかく飛行機に乗って欧州に遠征するのだから、パリだけでなく他のところもいろいろ見て回りたいと、ドイツやベルギーなども観光したのである。
で、そこでのナイトライフが問題であった。
旅行というのは楽しいものだが、夕飯を食ってからの時間のつぶし方が案外もてあます。
昼は観光地をめぐっていそがしいけど、夜になると安宿に帰ってすることがない。外は暗いし、街によっては下手に出歩くと危険だったりもする。
まあ、これがパリやロンドンのような大都会なら、夜景を見に行ったり、ミュージカルを観劇したり、ライブハウスで盛り上がるなどなんなりすることもある。
が、私がそのとき滞在していたブルージュ(現地の発音ではブルッヘ)という街は、日本でいう倉敷とか金沢みたいな歴史テーマパーク的場所であり、昼間は運河めぐりなどして充実した時を過ごせるが、夜になるとパタリと店じまいしてしまう。
関西だと大阪や京都ではなく、奈良の大和高田みたいなところというか。飲み屋やディスコのような夜遊びスポットがない、健全無害な観光地なのだ。
これでは、夜に出歩こうにもどうしようもない。かといって、安宿のボロい壁を見て悄然と過ごすには私もまだ若く血気盛んであった。
そこでひねりだしたのが、
「そうだ、サッカーを見に行こう」
当時、中田英寿選手がイタリアでがんばっていたころであり、日本人の間で、
「セリエAでプレーする中田を見にイタリアへ行く」
というスタイルの旅行が、かなり流行っていたのだ。それにあやかったわけである。
ただ問題なのは、ここがイタリアではなくベルギーであるところ。
まあ、別にヒデのファンというわけではないから、そこにはこだわらないけれど、日本人選手うんぬん以前に、そもそもベルギーリーグって、どんなんかいな?
ブルージュにチームはあるのか? あっても日程は? スタジアムの場所は? チケットはどこで買うの? もしなにかのトラブルで終電に乗れなかったら、どうやって帰ればいいのか。
今のように、海外でのネット事情が充実してなかったころだ。スマホもなければ、グーグルマップも、翻訳アプリもない。ネットカフェに行っても、日本語対応のパソコンがなかったりする。
まったくの五里霧中である。どこから手をつけていいか、サッパリわからない。思えば、昔は不便だったというか、今がすごすぎるというべきか。なんにしても、技術の進化万歳。
こうなると頼れるのは、度胸と自らの足しかない。私は市内にあるツーリストインフォメーションに走ると、
「ブルージュでサッカーを見たいから、日程と試合会場を教えたまえ」。
これには、受付のお姉さんがキョトンとしていたのをおぼえている。
最初は私の言語力の問題かと思ったが、どうもそうではなく、
「サッカー? 日本人が、この観光都市ブルージュで、なんでそんなもんを?」
という疑問なのであった。
嗚呼、そうなのだ。今はともかく、当時はまだ日本といえばサッカーのイメージなどあまりないころ。
中田ヒデのプチバブルのせいで、悪い現地人がダフ屋でボッたくろうと手ぐすね引いていたイタリアとちがって、ここベルギーでは後にワールドカップで手合わせすることなど知るよしもなく、
「日本人がサッカー? 聞いたことないわあ」
くらいのあつかいだったのだ。それで、おねえさんのキョトンなのだ。
日本人がサッカーって? しかも、このベルギーで?
今はそんなことないと思うけど、当時はその程度の認識だった。もしかしたら、ブルージュでサッカーを観に行こうとした日本人は、私が初めてであるかもしれなかった。
そんな時代であったので、案内所のお姉さんが困惑するのも、当然といえば当然なのだ。それでも仕事なので、一所懸命探してくれたところによると、幸運なことに、週末、地元チームの試合があるというではないか。
おお、こらラッキー。おとずれていたのが5月だったので、ヨーロッパのリーグはそろそろ店じまいのはずだが、まさにそのシーズン最後の試合が、ここブルージュで行われるというのだ。
こういうのを縁というのだろう。こうして私は、日本人旅行者がヒデを求めてイタリアに集結する中、だれも知らんサッカーリーグの試合を見るため、ブルージュ随一の競技場であるヤン・ブレイデル・スタディオンにむかったのである。
(続く→こちら)