バーベキューがブームであるという。
私も一時期よく誘われたというと、一見「リア充」自慢のようだが、前回(→こちら)語ったように、心の汚れた私はそういう一点の曇りもないさわやかな場が苦手である。
うまい肉とおいしい空気、良き友とかわいい女子たちに囲まれながら、どうにもそれがいたたまれなくて、いつも泥酔していた記憶しかない。
これではいかんと、私も「近代バーベキューの父」と呼ばれたトーマス・マッコイの著作など読んで学んだりもしたが、付け焼き刃ではいかんともしがたく、恥をかくことも多かった。
あるバーベキューパーティーで、マユコちゃんという16歳の女の子から
「シャロンさん、ちょっとお話をうかがいたいんですけどいいですか」
女子高生から逆ナンである。おいおい、マジか!
今どきのギャルは積極的やなあ。これはもう、なにかフランス書院かマドンナメイト的な、めくるめくイヤンもうこれ以上は過激すぎて書けない! そんな世界が待っているのではないか。
という、盛大なる取らぬ狸を皮算用していたところ、マユコちゃんは開口一番、
「あのー、あたし今好きな人がいるんですけど……」
そう切り出されて、スココーン! とコケそうになったのであった。
おいおい、相手がもういてるんかいな。5秒くらい期待してしもうたこっちの心持ちを返してくれよ! まあ、世の中そんなうまい話なんて、なかなかないですわな。
阿呆な私の下心はともかく、マユコちゃんの話であるが、なんでも彼女には好きな人がいる。むこうも、雰囲気では彼女のことを、なにかと気にかけてくれておりらしい。
だが、どうにもそこからの進展がない。もしかしたら、むこうは自分のことを子供だと思って相手にしてないのかもしれない。そこをはっきりしてほしい。
その相手というのが年上で、ちょうど当時の私(24歳くらいだったかな)と同年代らしく、ゆえに参考意見を聞かせてもらいたいのだとか。
あー、なるほどねえ。それだったら、わざわざ選んで私に声をかけてきた理由はわかろうというものだ。人生経験の少ない女子高生からしたら、社会人の考えることはわかりにくいかもね。
となると、私だけではやや力不足のような気もするので、同席していた他の同年代の男女にも集まってもらうこととして、話を聞くこととなった。
マユコちゃんによると、ともかくもハッキリしてもらいたい。好きは好きだけど、むこうがコドモと思って相手してくれないなら、あきらめなければしょうがない。
そこで彼女がいったことというのが、
「こういうとき、大人の男の人はどう思うんですか? やっぱり女の方からコクったりしたら、はしたないとか思われちゃいますかねえ……」
ここで私は思わず飲んでいたワインを吹きそうになった。といっても、今となってはピンと来ないかもしれないが、そのとき私は、ヤング諸君が告白することを「コクる」と略していっていることを、はじめて知ったのである。
その一言は衝撃であった。へー、そうかあ。告白することを、今の子らは「コクる」っていうんや。そら知らなんだ。もうオレもオッサンやな。
酔いと女子高生の恋愛話を聞いているという気恥ずかしさも手伝ってか、もう私の中では「コクる」ショックが頭の中を経めぐって困ったのであった。
彼女の方は切々と、
「若い娘が自分から恋を打ち明けるなんて、そんな大胆なことが許されるのでしょうか」
という、なんともいじらしい悩みを訴えかけるのに、肝心の頼れるお兄さんは、そんなことはそっちのけで、
「へえ、そうなん、今の若い子はコクるっていうんや。今どきやなあ。ナウなヤングにフィーバーや」。
なんて、全然関係ないことにばかり感心して、ちっともまともなアドバイスができなかったのであった。
ただここにひとつ自分を弁護するなら、この若者言葉ショックは私だけでなく、援護に集めた同志たち(やはり20~25歳くらいの男女)も、
「えー、今の子ってコクるいうんや」
「へえ、勉強なるわあ」
「今度、会社で使ってみようかなあ」
などと、「どこのオバハンか」みたいな反応であり、あまつさえベロベロになった私の、
「コクるいうのは、告白やなくてコーク、ホンマは『コカインを決める』の略なんや」
という言葉を受けて、
「へー、マユコちゃんみたいなおとなしい子がねえ」
などと本気で心配する人もいた。おいおい、マジで信じてどうする。
バーベキューの開放感とはかくも人を能天気にするものらしく、真剣に相談していたマユコちゃんもすっかり置いてけぼりで悪いことをしてしまったものだが、まあそもそもそんなことを私に相談する方が悪いよな。
(続く【→こちら】)
私も一時期よく誘われたというと、一見「リア充」自慢のようだが、前回(→こちら)語ったように、心の汚れた私はそういう一点の曇りもないさわやかな場が苦手である。
うまい肉とおいしい空気、良き友とかわいい女子たちに囲まれながら、どうにもそれがいたたまれなくて、いつも泥酔していた記憶しかない。
これではいかんと、私も「近代バーベキューの父」と呼ばれたトーマス・マッコイの著作など読んで学んだりもしたが、付け焼き刃ではいかんともしがたく、恥をかくことも多かった。
あるバーベキューパーティーで、マユコちゃんという16歳の女の子から
「シャロンさん、ちょっとお話をうかがいたいんですけどいいですか」
女子高生から逆ナンである。おいおい、マジか!
今どきのギャルは積極的やなあ。これはもう、なにかフランス書院かマドンナメイト的な、めくるめくイヤンもうこれ以上は過激すぎて書けない! そんな世界が待っているのではないか。
という、盛大なる取らぬ狸を皮算用していたところ、マユコちゃんは開口一番、
「あのー、あたし今好きな人がいるんですけど……」
そう切り出されて、スココーン! とコケそうになったのであった。
おいおい、相手がもういてるんかいな。5秒くらい期待してしもうたこっちの心持ちを返してくれよ! まあ、世の中そんなうまい話なんて、なかなかないですわな。
阿呆な私の下心はともかく、マユコちゃんの話であるが、なんでも彼女には好きな人がいる。むこうも、雰囲気では彼女のことを、なにかと気にかけてくれておりらしい。
だが、どうにもそこからの進展がない。もしかしたら、むこうは自分のことを子供だと思って相手にしてないのかもしれない。そこをはっきりしてほしい。
その相手というのが年上で、ちょうど当時の私(24歳くらいだったかな)と同年代らしく、ゆえに参考意見を聞かせてもらいたいのだとか。
あー、なるほどねえ。それだったら、わざわざ選んで私に声をかけてきた理由はわかろうというものだ。人生経験の少ない女子高生からしたら、社会人の考えることはわかりにくいかもね。
となると、私だけではやや力不足のような気もするので、同席していた他の同年代の男女にも集まってもらうこととして、話を聞くこととなった。
マユコちゃんによると、ともかくもハッキリしてもらいたい。好きは好きだけど、むこうがコドモと思って相手してくれないなら、あきらめなければしょうがない。
そこで彼女がいったことというのが、
「こういうとき、大人の男の人はどう思うんですか? やっぱり女の方からコクったりしたら、はしたないとか思われちゃいますかねえ……」
ここで私は思わず飲んでいたワインを吹きそうになった。といっても、今となってはピンと来ないかもしれないが、そのとき私は、ヤング諸君が告白することを「コクる」と略していっていることを、はじめて知ったのである。
その一言は衝撃であった。へー、そうかあ。告白することを、今の子らは「コクる」っていうんや。そら知らなんだ。もうオレもオッサンやな。
酔いと女子高生の恋愛話を聞いているという気恥ずかしさも手伝ってか、もう私の中では「コクる」ショックが頭の中を経めぐって困ったのであった。
彼女の方は切々と、
「若い娘が自分から恋を打ち明けるなんて、そんな大胆なことが許されるのでしょうか」
という、なんともいじらしい悩みを訴えかけるのに、肝心の頼れるお兄さんは、そんなことはそっちのけで、
「へえ、そうなん、今の若い子はコクるっていうんや。今どきやなあ。ナウなヤングにフィーバーや」。
なんて、全然関係ないことにばかり感心して、ちっともまともなアドバイスができなかったのであった。
ただここにひとつ自分を弁護するなら、この若者言葉ショックは私だけでなく、援護に集めた同志たち(やはり20~25歳くらいの男女)も、
「えー、今の子ってコクるいうんや」
「へえ、勉強なるわあ」
「今度、会社で使ってみようかなあ」
などと、「どこのオバハンか」みたいな反応であり、あまつさえベロベロになった私の、
「コクるいうのは、告白やなくてコーク、ホンマは『コカインを決める』の略なんや」
という言葉を受けて、
「へー、マユコちゃんみたいなおとなしい子がねえ」
などと本気で心配する人もいた。おいおい、マジで信じてどうする。
バーベキューの開放感とはかくも人を能天気にするものらしく、真剣に相談していたマユコちゃんもすっかり置いてけぼりで悪いことをしてしまったものだが、まあそもそもそんなことを私に相談する方が悪いよな。
(続く【→こちら】)