昨日は安倍内閣の成長戦略の一つである「混合診療解禁」について条件付きで支持する主張を述べたが、同じ成長戦略の一つである「法人減税」について考えてみたい。
最初からバラしてしまうと、政府の税についての説明は全く信用できない。平気でウソをつくからだ。
私が知っていることだけ書く。消費税は、竹下内閣が導入し(3%)、橋下内閣のとき増税した(5%)。そのとき、自民党政府の説明は「日本の高額所得者に対する課税率は、他の先進国に比べて高すぎる。先進国並みに引き下げたい」ということだった。
高額所得層の課税率を引き下げれば、当たり前の話だが税収が減る。その減税分を補うために消費税が導入された。
この高額所得者への優遇税制と消費税導入がセットで行われたことは、安倍総理もメディアも否定できないはずだ。
が、実はこのときの政府説明がウソだった。デタラメだったことをばらしたのは、ほかならぬ安倍総理自身である。
今年4月の消費税増税と引きかえのように、安倍内閣は高額給与所得者に対して2段階の増税を決めた。1段階目は年収1200万円以上の給与所得者、2段階目は年収1000万円以上の給与所得者に対して、「給与所得控除」を減額するというのである。その理由について安倍総理は「先進各国に比べて日本の高額給与所得者に対する給与所得控除が優遇されすぎている。したがって給与所得控除を他の先進国並みに引き下げる」と説明した。
私は、他の先進国の課税システムがどうなっているのか知る由もないが(ウィキペディアでも調べられなかった)、日本の給与所得者の場合、年収から様々な名目の控除が行われ、最終的に課税対象所得額が決定され、その所得額に応じた5段階の所得税率が決められていた(所得税法改定により現在は6段階)。
日本の場合、給与所得者に限らず収入のある人すべてが一律で控除される基礎控除をはじめ、配偶者控除、扶養家族控除、社会保険控除、生命保険や火災保険の一部控除、配当控除などである。マイホームを購入した場合の控除や医療費が一定額を超えた場合の控除もある。私は税の専門家ではないので、ほかにも控除される支出があるかもしれない。でも、そこまで詳細に調べる必要はないと思っている。政府説明の欺瞞性を暴くヒントを提供するだけで、私の役割は終えたと思っている。
問題は給与所得控除である。ほかの控除が定額や支出実費であるのに対して、給与所得控除は年収が増えるにつれて増額される仕組みになっている。だからすでに日本の累進課税システムは、高額給与所得者が特に不利にならないよう、「給与所得控除」によってバランスをとっていた、と言えなくはなかったので
ある。
が、竹下内閣も橋下内閣も、「見かけ上の課税率」だけを他の先進国と比較して、日本の高額所得者に対する課税は過酷すぎるという短絡的な結論を出し、消費税導入・増税と引きかえに高額所得者に対する「見かけ上の課税率」を引き下げた。当時、社会党や共産党は「金持ち優遇税制だ」と批判したが、「見かけ上の課税率」の欺瞞性には全く気付かなかった。もし当時の社会党や共産党、あるいはメディアも他の先進諸国の所得税制度を調べていたら、竹下内閣、橋下内閣による税制改革はとん挫していた可能性は低くなかったと思う。言っておくが、私は消費税導入に反対しているわけではない。ペテン、といっても過言ではないやり方に、やり場のない怒りを覚えているだけだ。
皮肉なことに、竹下内閣、橋下内閣による高額所得者への軽減税制の欺瞞性を明らかにしたのが、同じ自民党総裁で現総理の安倍晋三氏だった。「日本の高額給与所得者に対する給与所得控除は他の先進国に比べて優遇されすぎている」ことを明らかにしてしまったのである。
「健忘症」というのは読売新聞の論説委員のことだろうか。竹下内閣、橋下内閣によるペテンと言ってもいい税制改革に諸手を挙げて支持した読売新聞の論説委員は、安倍内閣による給与所得控除の見直しに社説で反対した。購買力が大きい高額給与所得層の税負担を重くすると、景気に悪い影響を及ぼす、というのが主張の内容である。「健忘症」にかかれば、確かにメディアは都合がいいだろう。過去の主張をすっかり忘れて、正反対の主張をしても、心が痛まないのだから。
いずれにせよ、安倍総理は竹下内閣、橋下内閣と同様、今度は法人税率について「見かけ上の課税率」が高すぎると言いだした。メディアは、二度と同じ過ちを繰り返すべきではない。他の先進諸国の法人税制度を徹底的に検証して、そのうえで日本の経済成長と国民の生活、財政の健全化への指針を明らかにすべきだ。政府の手のひらの上に乗って、「見かけ上の課税率」をうんぬんするような愚は、今回はやめていただきたい。
言っておくが、私は別に法人税率の引き下げに反対しているわけではない。安倍内閣の説明に不信感を抱いているだけだ。メディアの責任と義務を、そういう意味で問うているだけである。
ついでのことに、EU先進諸国の消費税(付加価値税)は軒並み高い。食料品などの生活必需品は軽減税率が適用されているようだが、日本も来年10月には消費税を10%に増税することになっており(確定ではない)、その際軽減税率問題も検討することになっている。
が、食料品などに軽減税率を導入したら、他の商品の消費税を2%程度増税しても差引税収はどうなるのか、政党もメディアも検証作業をした形跡はない。食料品に軽減税率を導入するとしたら、食料品以外にはかなり高率の消費税を課さないと、たぶん釣り合いが取れないのではないかと思う。
それにしてもEU先進諸国が法人税を低く(ドイツは30%近いようだが)、付加価値税を高率にして、国家財政も破綻せず、国民生活も安定し、かつ社会福祉制度は充実しているのはなぜか。日本ほどではないが、少子高齢化は先進国共通の現象で、EU先進国はそうした深刻な事態(ひょっとしたらEU先進国にとってはまだ深刻化していないのかもしれないが)をどう克服しようとしているのか。日本の政治家やメディアは、アメリカにばかり関心を持つのではなく、EU先進国が財政の健全化を維持しながら国民生活と社会福祉も安定させているとしたら、日本が学ぶべきはEUかもしれない。
最初からバラしてしまうと、政府の税についての説明は全く信用できない。平気でウソをつくからだ。
私が知っていることだけ書く。消費税は、竹下内閣が導入し(3%)、橋下内閣のとき増税した(5%)。そのとき、自民党政府の説明は「日本の高額所得者に対する課税率は、他の先進国に比べて高すぎる。先進国並みに引き下げたい」ということだった。
高額所得層の課税率を引き下げれば、当たり前の話だが税収が減る。その減税分を補うために消費税が導入された。
この高額所得者への優遇税制と消費税導入がセットで行われたことは、安倍総理もメディアも否定できないはずだ。
が、実はこのときの政府説明がウソだった。デタラメだったことをばらしたのは、ほかならぬ安倍総理自身である。
今年4月の消費税増税と引きかえのように、安倍内閣は高額給与所得者に対して2段階の増税を決めた。1段階目は年収1200万円以上の給与所得者、2段階目は年収1000万円以上の給与所得者に対して、「給与所得控除」を減額するというのである。その理由について安倍総理は「先進各国に比べて日本の高額給与所得者に対する給与所得控除が優遇されすぎている。したがって給与所得控除を他の先進国並みに引き下げる」と説明した。
私は、他の先進国の課税システムがどうなっているのか知る由もないが(ウィキペディアでも調べられなかった)、日本の給与所得者の場合、年収から様々な名目の控除が行われ、最終的に課税対象所得額が決定され、その所得額に応じた5段階の所得税率が決められていた(所得税法改定により現在は6段階)。
日本の場合、給与所得者に限らず収入のある人すべてが一律で控除される基礎控除をはじめ、配偶者控除、扶養家族控除、社会保険控除、生命保険や火災保険の一部控除、配当控除などである。マイホームを購入した場合の控除や医療費が一定額を超えた場合の控除もある。私は税の専門家ではないので、ほかにも控除される支出があるかもしれない。でも、そこまで詳細に調べる必要はないと思っている。政府説明の欺瞞性を暴くヒントを提供するだけで、私の役割は終えたと思っている。
問題は給与所得控除である。ほかの控除が定額や支出実費であるのに対して、給与所得控除は年収が増えるにつれて増額される仕組みになっている。だからすでに日本の累進課税システムは、高額給与所得者が特に不利にならないよう、「給与所得控除」によってバランスをとっていた、と言えなくはなかったので
ある。
が、竹下内閣も橋下内閣も、「見かけ上の課税率」だけを他の先進国と比較して、日本の高額所得者に対する課税は過酷すぎるという短絡的な結論を出し、消費税導入・増税と引きかえに高額所得者に対する「見かけ上の課税率」を引き下げた。当時、社会党や共産党は「金持ち優遇税制だ」と批判したが、「見かけ上の課税率」の欺瞞性には全く気付かなかった。もし当時の社会党や共産党、あるいはメディアも他の先進諸国の所得税制度を調べていたら、竹下内閣、橋下内閣による税制改革はとん挫していた可能性は低くなかったと思う。言っておくが、私は消費税導入に反対しているわけではない。ペテン、といっても過言ではないやり方に、やり場のない怒りを覚えているだけだ。
皮肉なことに、竹下内閣、橋下内閣による高額所得者への軽減税制の欺瞞性を明らかにしたのが、同じ自民党総裁で現総理の安倍晋三氏だった。「日本の高額給与所得者に対する給与所得控除は他の先進国に比べて優遇されすぎている」ことを明らかにしてしまったのである。
「健忘症」というのは読売新聞の論説委員のことだろうか。竹下内閣、橋下内閣によるペテンと言ってもいい税制改革に諸手を挙げて支持した読売新聞の論説委員は、安倍内閣による給与所得控除の見直しに社説で反対した。購買力が大きい高額給与所得層の税負担を重くすると、景気に悪い影響を及ぼす、というのが主張の内容である。「健忘症」にかかれば、確かにメディアは都合がいいだろう。過去の主張をすっかり忘れて、正反対の主張をしても、心が痛まないのだから。
いずれにせよ、安倍総理は竹下内閣、橋下内閣と同様、今度は法人税率について「見かけ上の課税率」が高すぎると言いだした。メディアは、二度と同じ過ちを繰り返すべきではない。他の先進諸国の法人税制度を徹底的に検証して、そのうえで日本の経済成長と国民の生活、財政の健全化への指針を明らかにすべきだ。政府の手のひらの上に乗って、「見かけ上の課税率」をうんぬんするような愚は、今回はやめていただきたい。
言っておくが、私は別に法人税率の引き下げに反対しているわけではない。安倍内閣の説明に不信感を抱いているだけだ。メディアの責任と義務を、そういう意味で問うているだけである。
ついでのことに、EU先進諸国の消費税(付加価値税)は軒並み高い。食料品などの生活必需品は軽減税率が適用されているようだが、日本も来年10月には消費税を10%に増税することになっており(確定ではない)、その際軽減税率問題も検討することになっている。
が、食料品などに軽減税率を導入したら、他の商品の消費税を2%程度増税しても差引税収はどうなるのか、政党もメディアも検証作業をした形跡はない。食料品に軽減税率を導入するとしたら、食料品以外にはかなり高率の消費税を課さないと、たぶん釣り合いが取れないのではないかと思う。
それにしてもEU先進諸国が法人税を低く(ドイツは30%近いようだが)、付加価値税を高率にして、国家財政も破綻せず、国民生活も安定し、かつ社会福祉制度は充実しているのはなぜか。日本ほどではないが、少子高齢化は先進国共通の現象で、EU先進国はそうした深刻な事態(ひょっとしたらEU先進国にとってはまだ深刻化していないのかもしれないが)をどう克服しようとしているのか。日本の政治家やメディアは、アメリカにばかり関心を持つのではなく、EU先進国が財政の健全化を維持しながら国民生活と社会福祉も安定させているとしたら、日本が学ぶべきはEUかもしれない。