タイトル: ボーイングに立ち向かの欧州 電気推進開発バトル
世界の商業通信衛星に搭載する推進システムのオール電化が進んでいる。つまり電気推進システムである。この分野で先頭を走るのが米国のボーイング社。電気推進の生みの親でもある。しかし、欧州政府高官によると、この分野でのボーイングの永久的な独占を許さないと宣言している。欧州もオール電化衛星に投資を続けており、競争状態にあるためである。
ボーイングは今年三月にオール電気推進の商業通信衛星4機の製造契約をアジアとメキシコの衛星オペレータと契約した。衛星の価格はそれぞれ100億円を少し下回る。発注者は香港のアジア衛星放送(Asia Broadcast Satellite)とメキシコのSatmexの共同購入である。最初の衛星はABS-3A と Satmex 7で、打上げは2014年と2015年に予定されている。
この契約には追加でさらに4機の購入が追加されている。これらの衛星に搭載する電気推進は静止軌道の位置を維持するためだけではなく、ロケットから切り離されて静止軌道の最終軌道に移動する目的でも利用される。軌道市保持のための電気推進はすでに多くの衛星に搭載されているが、軌道投入用の推進に電気推進を使用するのは初めてである。
ボーイングによると、その結果、通常6キロワットクラスの通信衛星の場合の質量は打ち上げ時で4トン程度が、2トン程度まで減量が出来た。この質量だとSpaceXが開発を進めるファルコン9ロケットでは衛星2機が同時に打ち上げ可能である。
このボーイングの発表に続いて、世界第二位の商業衛星オペレータのSESは数か月後にも同様の衛星を購入する計画を発表している。宇宙プロパルジョン2012会議に出席した欧州政府高官はボーイングによって欧州の衛星メーカは脅威にさらされており、開発中でもじっとしていられないとして焦りをあらわにしている。
ESA電気推進部門長のホセ・ゴンザレスは、欧州の将来の宇宙投資を話し合う11月の会議で電気推進開発の追加予算を求める予定であると述べた。欧州内の産業基盤を強化するために、ESA加盟国政府はここ何年も電気推進システム開発に投資していた矢先、米国に追い越されたことになる。
例えば、ESAの月軌道投入のSmart衛星開発、従来の化学推進で失敗した衛星を救出するためのアルテミス技術実証衛星などである。さらに最近では米国空軍のAEHF-1軍事通信衛星は似たような不具合から、電気推進システムの複雑な操作によって復活することができた。
アストリム・サテライト社は商業通信衛星の半分程度に電気推進を組み込んでいるが、これらは全て軌道位置保持(ステーションキーピング)向けである。
パリの世界第三位の衛星オペレータEutelsatの主任技術者のひとりは、同社の衛星サービスの営業活動では衛星がオール電気推進であることを売り文句にしている。この技術者によると、電気推進技術は化学推進よりも設計が複雑であり、最大の欠点は静止軌道に到達するまでに半年間も必要となることであると、その欠点を指摘している。しかし、この欠点は打ち上げコストの低減で十分相殺されるとしている。また、ハードウェアもより効果ではあるが、電気推進の価値はそれ以上であるとしている。
また、技術者の説明では、衛星の主要な価格要素としては通信衛星自身の価格、これが全体の45~65パーセントを占め、次に打ち上げサービス、これは全体の25~45パーセントを占め、そして最後は衛星保険、これは全体の10パーセント程度。打ち上げコストは多少変化するにしても、全化学推進衛星と全電気推進衛星と比べると打ち上げコストで50億から60億円のコスト削減が可能であるとしている。
出典:http://www.spaceref.co.jp/index.html