飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

 第2章 スピンオフ事業: 葉もの野菜の鮮度評価に関するハイパースペクトル技術の応用化研究(2)

2006-07-31 22:20:17 | 佐鳥新の教授&社長日記

次にやや例外的な事例として、見た目の鮮度と鮮度値(細胞の光合成能力)とは必ずしも一致しないこともある。チンゲン菜を冷蔵庫に数日保管していたところ、図2-28の右の写真のように水分が抜けて見た目にも新鮮とは言い難い状態になっていたのだが、鮮度値を測って見ると75[HS]という高い数値を示していた。そこで給水させ日光に当ててみると5時間後に見事にシャキッとした状態に戻ったのである。鮮度値を計測して見るとやはり75[HS]であった。



図2-28 鮮度が見た目ではなく細胞の活性度を反映している事例


以上の応用化研究における実験結果を要約する。

①真の鮮度とは細胞レベルの活性度を指標として直接的手段により評価すべきものである。
②細胞の活性度という観点から見るならば、従来のような時間管理の考え方だけでは鮮度を正しく評価できない。
③「生きている細胞」の活性度は、環境条件(保存方法)によって大きく変化する。
④活性度の低下した細胞であっても、環境条件を改善すれば活性度を復活させることができる。(環境条件を工夫することにより、細胞の活性度、即ち鮮度を蘇らせることができる。)
 



こども未来博開会式

2006-07-29 23:04:01 | 佐鳥新の教授&社長日記
今日は札幌商工会議所100周年記念行事のこども未来博開会式が月寒グリーンドームで開催された。多くの関係者の努力の成果といえる。札幌商工会議所と丸ヨ池内の好意により宇宙関連の企画と北海道衛星のブースを盛り込んで頂いた。今回の宇宙企画には8月4日に宇宙飛行士の山崎直子さん、JAXAの的側泰信先生、UNISECの川島レイさんが応援に来てくれることになっている。



こども未来博のオープニング画面



札幌商工会議所 高向会頭の主催者挨拶



札幌市 上田市長による来賓挨拶



こども未来博の開会宣言。画面に映っている2名の後方にいる「℃-ute」 がテーマソングを歌ってくれた。



宇宙ブースでスタンバイしているT浪君(左)とI本君(右)



北海道宇宙連合が製作した北海道衛星の模型



北海道宇宙連合のカンサット



本物の隕石。右の隕鉄は漬物石ぐらいの大きさだが重さが20キロある。


宇宙ブースの様子


第2章 スピンオフ事業: 葉もの野菜の鮮度評価に関するハイパースペクトル技術の応用化研究(1)

2006-07-28 21:06:23 | 北海道衛星

鮮度という言葉は日常的に使われているが、しかし明確な定義は無い。刈り取り直後からの時間経過で糖質などの成分が分解されることを鮮度の指標にする研究事例もあるが、しかし、それは鮮度そのものではない。そこで、私たちは植物細胞の活性度を鮮度と定義し、それを光で計測する装置を開発した。ここでは製品化に至るまでのハイパースペクトル技術の応用化研究を紹介する。

鮮度測定の原理は、植物の葉の表面に可視から赤外までの光を照射し、各波長の反射光強度(反射スペクトル)から、葉緑素の光吸収量の強弱を読み取ることにより、植物細胞の活性度、つまり光合成する能力を直接計測している。反射スペクトルに反映される細胞の活性度は野菜の品種によって千差万別である。これは人間で例えるならば肌の色の違いから体調の良し悪しを計測するようなものであり、当然のことながら、各々の野菜に固有な個性を鮮度計算アルゴリズムに反映させる必要がある。鮮度計測のイメージを図2-22に示す。鮮度の単位は[HS](HS:ハイパースペクトル)と命名した。

鮮度測定器の使い方は簡単で、センサー部を葉の先端から5センチまでの表(おもて)面に軽く当てて計測スイッチを押せば、1秒後に細胞の活性度(鮮度値)が0~100[HS]までの数値に換算されて表示さる。刈り取り直後の野菜の場合には80以上の数値が出るが、トラックで移送されてスーパーに2~3日後に陳列された時には60~70[HS]程度まで落ちている。見切り品として売られている野菜を測ってみると、おおよそ鮮度値40[HS]前後の数値のものが多いようだ。


図2-22 鮮度計測の原理(概念図)

一般に、生鮮野菜の鮮度(細胞の活性度)は時間や環境と共に変化する。図2-23は収穫後の野菜の鮮度が時間経過に伴って劣化していく一般的な変化を示している。収穫後のある一定期間はある程度の鮮度(活性度)を維持しているのだが、あるレベルまで下がると一気に劣化が進行し、植物として死に至る。このレベルは鮮度値でいえば40[HS]付近にあたる。


図2-23 葉もの野菜の鮮度の時間履歴

それでは、鮮度値というのは細胞レベルで何を見ているのかを説明する。図2-24はホウレン草の顕微鏡写真をハイパースペクトルカメラで撮影したものである。図中の①と③は葉緑素の多い部位であるが、撮影するために用いる光源の熱で徐々に細胞が劣化していき、差が出ている。それぞれの部位での吸収スペクトルを比較すると、①では吸収強度が高いのに対して、②では全体的に低いレベルまで落ちている。600nm付近のくぼみは葉緑素(クロロフィル)による吸収スペクトルを示しているが、葉緑素の吸収量だけを見ても両者の違いは明らかといえる。私たちが葉もの野菜の「鮮度」と表現している概念はこのような細胞レベルでの光合成能力、つまり葉緑素の光吸収能力を見ているのである。ホウレン草の細胞の光合成能力をNDVI的な評価で簡易的に可視化した例を図2-25に示す。黄色い部分が細胞の活性度が高く、弱ってくるに従って青から黒っぽい色に変化している。


図2-24 細胞の活性度とスペクトル特性の関係


図2-25 細胞の活性度の可視化

図2-26にはマクロに葉緑素の光吸収能力を可視化した例である。計測にあたり、ホウレン草の房から葉を一枚ずつ剥がしてハイパースペクトルカメラで撮影し、それを同様な手法で可視化した。日数が経過するに従って黄色い部分が少なくなり、茎の根元から徐々に劣化が進行している様子が見て取れる。下の数値は色の変化に対応する鮮度値である。


図2-26 光合成吸収能力のマクロな変化


第2章 スピンオフ事業 基礎研究編: ハイパースペクトル技術による生鮮食品の鮮度評価(3)

2006-07-27 19:41:08 | 佐鳥新の教授&社長日記

牛肉の鮮度評価

鮮度の変化が早い牛肉の画像評価を行った例について紹介する。牛肉を室内に保存し、0時間後、1時間後、5時間後にそれぞれHSC1700で撮影を行った。図2-19にそのスペクトルグラフを示す。


図2-19 牛肉の分光反射スペクトル特性

反射スペクトルパターンをA(550~560nmの反射率平均)、B(600~630nmの反射率平均)の2つの波長領域を特徴点として使用して牛肉の簡易評価式を算出した。計算結果を図2-20に示す。明るい色ほど鮮度がよく、暗い色ほど鮮度が悪いという表示に設定した。赤い部分が最も鮮度がよい個所で、黒い部分がもっとも鮮度が悪い個所である。0時間後と5時間後では可視領域でみるとほとんど変化がないが、評価式を適用してみると、0時間後では全体的に明るい色合いであるが、5時間後では全体的に黒っぽく変化している様子が分かる。


図2-20 牛肉の鮮度評価画像



マグロの鮮度評価

 鮮度の変化が早いマグロの画像評価を行った例について紹介する。マグロを室内に保存し、0時間後から7時間後まで1時間おきにそれぞれHSC1700で撮影を行った。
牛肉の評価式を使い、同じようにその計算結果をマグロデータに当てはめてみた結果を図2-21に示す。色合いは同じに設定してあるので、明るい色ほど鮮度がよく、暗い色ほど鮮度が悪い。0時間後と5時間後では可視領域でみるとほとんど変化がないが、評価式を適用することで、0時間後では全体的に明るい色合いであるが、5時間後では全体的に黒っぽく変化している様子が分かる。


図2-21 マグロの鮮度評価画像


HITSAT振動試験

2006-07-26 19:28:44 | 佐鳥新の教授&社長日記
今日は朝から北海道立工業試験場にてHITSATフライトモデルのランダム振動試験と低周波衝撃試験を実施した。

HITSATはM-Vロケット7号機のサブペーロードとして打ち上げられる。
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■ JAXA プレスリリース配信サービス
━━━━━━━━━━━━━━━━━ 携帯からは→ http://mobile.jaxa.jp/
M-Vロケット7号機の打上げについて
http://www.jaxa.jp/press/2006/07/20060726_m-v-7_j.html

 宇宙航空研究開発機構は、M-Vロケット7号機による第22号科学衛星
「SOLAR-B」の打上げについて、下記のとおり宇宙開発委員会に報告し、了承
されましたので、お知らせいたします。



実験予定日  : 平成18年9月23日(土)
実験予備期間 : 平成18年9月24日(日)~9月30日(土)
実験時間帯  : 6:00~7:00(日本標準時)
実験場所   : 内之浦宇宙空間観測所


発表日:平成18年7月26日 発表:宇宙航空研究開発機構
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第2章 スピンオフ事業 基礎研究編: ハイパースペクトル技術による生鮮食品の鮮度評価(2)

2006-07-26 18:38:50 | 佐鳥新の教授&社長日記

キュウリの鮮度評価
生鮮食品の鮮度の違いによる、スペクトルの変化を調査する。食品を室内に常温で保存し、HSC1.0号機及び、HSC1700で撮影を行った。図2-15はキュウリの様子である。変化がはっきり分かるように、Rの波長域を反射率での変化の差が大きい730nmの波長に合わせて度合いを示した。1日目は鮮やかな朱色であるが、鮮度が悪くなるにつれて、赤黒っぽくなっていくのが分かる。これは730nmつまりは全体的にも反射率が落ちていることを意味している。グラフを図2-16に示す。グラフから見ても鮮度に比例して反射率が下がっているのが分かる。


図2-15 キュウリのハイパースペクトル画像


図2-16 キュウリの分光反射スペクトル特性


プラムの鮮度評価
プラムについても同様の実験を行った。図2-17はRの波長域を反射率で変化の差が大きい620nmの波長に合わせて度合いを示したプラムの画像である。1日目は鮮やかな赤だったが鮮度が悪くなるにつれて、赤黒っぽくなっていくのが分かる。これは反射率が落ちていることを意味している。グラフを図2-18示す。鮮度に比例して山なりだった波形が崩れ、反射率が下がっていく様子が分かる。


図2-17 プラムの分光反射スペクトル画像


図2-18 プラムの分光反射スペクトル特性


CAMUIハイブリットロケット打ち上げ実証試験中止

2006-07-24 19:36:02 | 北海道宇宙連合
どうも、加藤です。

CAMUIの打ち上げ実証試験が中止になりました。それで、追試験を受けるはずだったテストも通常通り受けることになりました。

確かに残念ではありますが、私共HSUはこれからもCAMUIの成功を祈っています。
今度は是非、テストとかぶっていない日に実験をお願いします。
それまで、搭載予定の衛星はさらなる実験をもとに万全を期しますのでよろしくお願いします。

第2章 スピンオフ事業 基礎研究編: ハイパースペクトル技術による生鮮食品の鮮度評価(1)

2006-07-12 20:41:34 | 佐鳥新の教授&社長日記

食品の特徴的なスペクトルは主に近赤外域に現れることが知られている。
近赤外法は1960年代に米国において盛んに研究された穀類の非破壊技術に関連して発展した技術である。当初、同法に関する研究は穀類を対象として水分、たんぱく質、脂質などの主要成分の迅速成分測定に関するものが主であったが、計測装置(ハード)及び解析方法(ソフト)の発展に伴い、測定対象品目は飲料、加工食品、青果物など色々な食品の他に、測定対象成分も主要成分の他、塩分、繊維、灰分、残留薬品など多様なものへと拡大した。
 近年、わが国の食文化は多様化する一方で、一般の消費者は、青果物、及び畜産物などの食に対する安全性に強い関心を持っている。とりわけ食材の鮮度や味覚情報、可視化あるいは数値化して簡単に知ることが強く望まれてきている。また、消費者においては品質管理や食品としての安全性の確認のみならず。生産および流通技術面で鮮度や風味などに関する情報を生かすことも必要になってくる。
  そこで私たちの研究室では、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した非破壊測定による分光スペクトルを用いて物理的な測定から、生鮮食品の鮮度評価を行っている。HSCを用いることにより、見た目に違いがなくても、数値的に判断することで食の安全・安心の客観的指標を与え、食品を等級化できるという利点につながる。

図2-11にHSC11.0号機により撮影したトマト、バナナ、ピーマン、キュウリ、りんご、青りんごの6種類の果実、野菜の分光反射スペクトルグラフ示す。撮影したデータをRGBで表示させた画像を図2-12に示す。対象食品は同じ時間に購入し、入手1日目のものである。見た目でもはっきり違いの分かる食品であるが、グラフの波形から見てもそれぞれに特徴があることがわかる。可視領域では色彩の違いによる特徴が出ているが、近赤外領域では表面の状態や中の状態によって影響が出ることが分かっている。そのため、鮮度評価では可視領域に加えて近赤外領域についても調査を行う。



図2-11 野菜・果実のハイパースペクトル画像



図2-12 野菜・果実の分光反射スペクトル特性

次に赤色食品のサンプルを撮影する。図2-13のトマト、パプリカ、りんごを対象とした。結果を図2-14に示す。対象食品は同じ時間に購入し、入手1日目のものである。色の違いがほとんどないので、可視領域はグラフからもほぼ同じ値をとることが分かるが、近赤外領域ではそれぞれの食品の特徴が表れることがわかる。



図2-13 赤色食品のハイパースペクトル画像



図2-14 赤色食品の分光反射スペクトル特性




第2章 スピンオフ事業 基礎研究編: 農業リモートセンシングの基礎研究(2)

2006-07-11 21:13:05 | 佐鳥新の教授&社長日記

小麦は第二葉時期の葉色値と子実蛋白含有率との間に相関性があることから同時期の葉色診断による追肥判定が可能である。また、それによって出穂期から出穂直前の葉の表面の反射特性を読み取る分光反射測定データから、窒素吸収量や子実蛋白含有率の変動が把握可能であることが予測される。
私たちの研究では、内部の子実の状態がある程度、葉の表面に影響が出やすいことから葉の特徴点を抽出することによって中の実の状態をある程度予測できるものと考え、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した小麦の葉の分光反射スペクトルの影響を調査し、窒素の施肥の違いによる、蛋白含有率、葉緑素、総重量などの小麦の子実との関係を調査した。

小麦の育成時期を表2-2に示す。おおよそ6月に出穂期を迎え、7月下旬で成熟するので、その頃には枯れたような状態の稲が目立つようになる。

表2-2 小麦の育成時期



調査を行ったのは、北海道立中央農業試験場 作物開発部 畑作科の試験区にあるホクシンという品種である。同じ品種で窒素(kg/10a)の施肥量が違う10種類のサンプルを対象に調査を行った。また、各サンプルの施肥量は図2-7の通りである。



図2-7 小麦の試験区と各サンプルの施肥量

小麦の育成時期に伴い、①6月上旬、②7月上旬、③7月中旬の3回に分けて稲のHSC調査を行った。撮影したデータは解析を行うことにより得られる分光反射スペクトルで評価を行い、SPAD(葉緑値測定)の測定との比較も同時に行った。
7月6日に撮影したホクシンのデータから算出した反射率グラフを図2-8に示す。全体的に反射率が高くなっており、比較的安定した波形であることが分かる。また、北海道立中央農業試験場より測定されたデータを表2-3に示す。



図2-8 ホクシンの反射率グラフ(7月6日撮影)

表2-3 試験場データ



各サンプルのNDVIを撮影時期別にそれぞれ算出したものとその平均を表2-4に示す。なお、7月6日は穂が成長し、成熟期であるので葉と穂でNDVIを算出した。時期によって植物の活性度に変化が表れ、サンプル別でばらつきがあるが、平均からも分かるように全体的に見て7月初旬で一度活性度が上がる。成熟期を迎え、その後日が経つにつれて徐々に下がっている様子が分かる。

表2-4 ホクシンのサンプル別NDVI



また、活性度が高い7月6日のホクシン(葉)データから、画像の各ピクセル中にNDVI数値の割合を当てはめ合成したものを図2-9に示す。明るい色ほどNDVI数値が高く、青っぽい色ほど数値が低い。サンプル番号①(NDVI平均0.548)と②(NDVI平均0.415)のデータを対象とした。左がサンプル番号①、右がサンプル番号②である。施肥量の多い①の方は明るい色合いでNDVIが高く、肥料を与えていない②の方は全体的に青っぽくNDVIが低いことが分かる。



図2-9 ホクシン7月6日のNDVI画像

水稲群落の単位土地面積当たりクロロフィル量や窒素吸収量の推定には、可視域・近赤外域の反射係数を組み合わせた植生指数が有効とされている。つまり、NDVI等の植生指数は稲体中のクロロフィルあるいは窒素の濃度と生育量の積を反映すると考える。従って、表2-4のように、NDVIの数値が7月中旬で高くなる傾向は、クロロフィル含有あるいは窒素の吸収による影響が高いと考えられる。また、同時期のNDVI調査をすることにより、窒素の吸収による蛋白含有量の推定も間接的に推定可能であることが考えられる。
 NDVIと現地データの相関を取ると、図2-10のようなグラフを得る。今回特にタンパクと子実重はNDVIとの相関が取れることが確認できる。また、NDVIとSPAD(葉緑値)はともにクロロフィルの影響による数値を出すのでともに相関があるものと考えることができる。



図2-10 相関グラフ

以上のようにNDVIが大きいほど蛋白含有率は高くなる傾向にある。また、子実重についても同様である。従って、地域における蛋白含有率の相対的な序列を判定する場合にはNDVIの序列をそのまま当てはめることが可能である。ただし、植物は同じ対象を持ったにしてもストレスや環境などの要因で多少なりとも内部や表面の状態が異なる場合があり、NDVIとタンパク含有率に関する傾向は変わらないが、測定条件や観測からの成熟期までの日数、その年の気候や土壌状態により、多少の相関比率が変わることが予想されるので、回帰式は観測ごとに作成する必要がある。それにより経年のデータを合わせることで、より的確な推定が可能になる。