火星隕石に含まれる鉱物の分析により、この鉱物が形成されたのは約40億年前の18℃前後の水の中であるらしいことがわかった。火星の過去の表面近くの温度環境が復元できたのはこれが初めてのことだ。
探査機が撮影した火星の地形の画像を見ると、デルタ地帯や川の跡のような、かつて水が流れたように見える場所が多く見つかっている。また隕石の分析によって、水が存在することで形成されたと思われる鉱物も複数見つかっており、火星には過去に大量の水が存在していたと思われている。
しかし現在の火星には大気がほとんどなく、気温も摂氏マイナス63度と非常に低い。液体の水が表面を流れていたということは、昔は今より温暖な気候だったはずだ。だが、火星表層における過去の温度環境を直接的に示す証拠のようなものはこれまで見つかっていなかった。
この環境を調べるため、ALH84001という南極で見つかった隕石に含まれる炭酸塩(注1)について研究が行われた。ALH84001はかつて生命の痕跡が疑われた隕石でもあり、およそ40億年前に形成されたことがわかっている。
炭酸塩は、主に水がある環境でよくできる鉱物だが、ALH84001に含まれる炭酸塩の起源についてあまり詳しいことはよくわかっておらず、炭酸塩を多く含むマグマから形成された、地表付近の水のある環境下で形成された、などいくつかの説があった。そこで今回「同位体温度計」と呼ばれる手法を用いることで、炭酸塩が形成された環境を復元することに成功した。
炭酸塩を酸で処理すると二酸化炭素が発生するが、このとき普通と異なる同位体(注2)を持つ二酸化炭素の割合を調べた。二酸化炭素の質量数は通常44(注3)だが、質量数47の二酸化炭素は低温下では炭酸塩として固定されやすいため、質量数47の二酸化炭素がどれくらい入っているかを調べれば、形成された時の温度を復元することができる。
その結果、この炭酸塩は18±4℃という環境下で形成されたことがわかった。炭酸塩が18℃という環境で形成されるのは水の中であるのが一般的であるため、およそ40億年前に18℃程度の水が存在し、そこでこの炭酸塩が形成されたようだ。
過去の火星の表層近くの温度環境が復元できたのはこれが初めてであり、過去の火星の環境を復元する上で、大きな直接的証拠となりそうだ
注1:「炭酸塩」 炭酸イオン(CO32-)を含む鉱物。よく知られたものとしては石灰石、鍾乳石、あられ石などが挙げられる。
注2: 「同位体」 陽子の数が等しいため同じ元素に分類されるが、中性子の数が違うことで質量が異なる原子のこと。たとえば、もっとも多い「12C」の原子核は6つの陽子と6つの中性子から成るのに対し、同位体の「13C」は中性子が1つ増え、質量もその分大きい。
注3: 「二酸化炭素の質量数」 「普通の」二酸化炭素(CO2)は12Cが1つ、16Oが2つなので、質量数は12+16+16=44となる。今回調べたのは13Cが1つ、18Oが1つ、16Oが1つの質量数が13+18+16=47となる二酸化炭素。
出典:http://www.astroarts.co.jp/news/2011/10/19alh84001/index-j.shtml