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“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

燐光群 『地の塩、海の根』 当日パンフレット原稿

2024-06-22 | Weblog
燐光群 『地の塩、海の根』 当日パンフレット原稿

一昨年、ロシアのウクライナ侵攻の報を聞いた直後、映画監督の瀬々敬久さんから連絡があった。私と瀬々監督は、一九八〇年代後半に知りあったが、互いに京都大学西部講堂と繋がりがあった。「大学の自治」が当然だった時代から、西部講堂は現在まで「連絡協議会」によって運営されており、学生でも京都に住んでいたわけでもなかった私も関わることができ、燐光群も数回公演した。瀬々監督は元京都大学映研の部長として西部講堂に関わっていたが、私の高校の後輩がその部にいたりして、そういう接点もあった。大学当局が撤去するという噂もあって、当時の燐光群のチラシには必ず「西部講堂をつぶすな!」と記していたことを、今、思い出した。
瀬々監督からの話は、「西部講堂に関わる人たちがロシアのウクライナ侵攻に反対するイベントをやりたいと言っているから手伝ってくれ」ということで、スケジュールが調整できたので快諾した。稽古は西部講堂で行ったが、本番は大阪城の野外音楽堂だった。二〇二二年六月二十二日当日は天候に恵まれ、ステージにウクライナカラーの幕が映え、「渋さ知らズ」オーケストラのライブに、踊りや鳩を飛ばすパフォーマンスもあった。私には、関西の演劇人たちと「ウクライナの反戦小説」のリーディングをやってくれということだった。それが『地の塩』との出会いである。

ユゼフ・ヴィトリン作『地の塩』。一九三五年発表。未完に終わった小説。
ウクライナを舞台にした戦争小説といっても、第一次世界大戦だし、主人公ピョートル・ニェヴャドムスキが従軍したのはオーストリアの皇帝ツァーの軍隊だ。現在のウクライナを取り巻く状況とは重ならないのではないかと思った。しかしそれは杞憂だった。小説に描かれる時代では、民族、宗教、言語の違いは、国境の区切りとは違うし、自分がどのグループの何者であるかという明確な自覚を持っていない者さえいた。そういう混沌がどのような紆余曲折を経て現在のウクライナとロシアの関係が形成されてきたのか、ロシア帝国が崩壊しソビエトが誕生する直前のその一つの起点をつぶさに見ることのできる小説だと言うこともできるのである。そう、ウクライナとロシアは、昔から戦ってきたのだともいえる。
そしてヴィトリンはポーランドの作家で、『地の塩』はポーランド語で書かれている。ウクライナの土地と人を描く小説なのにウクライナ語の翻訳がなく、地元の人たちが読む翻訳は、ロシア語版しかなかった。こうした歪みに気づくことは、とても大切な指針になった。
そして、日本語版は、まだなかった。田中壮泰さんが翻訳を始められていた。田中さんの論考も刺激的だった。「中略」の多い未完の小説の途中経過の翻訳をもとに、この小説を紹介するために働き、とにかく、二年前のリーディングは成立させた。
『地の塩』が描くのは戦争勃発直後のたかだか一ヶ月間の出来事であり、主人公ピョートルが戦場に行く前に中断している。そのことが、「今」の、未来が見えない現実に、とても見合ったもののように感じられる。

西部講堂が、一九三七年に当時の皇太子の生誕を祝し旧帝大構内に建てられたということ自体が皮肉だ。その場所が全共闘運動以降、表現活動と社会意識を持った運動の重なる場所となったからだ。そして、昭和天皇が死んだ翌日、一九八九年一月八日の正午から三日間、七十二時間ぶっ通しで、天皇の死で喪に服すことを強制する「自粛」に反対する全国のライブアーティストが結集したイベント「CRY DAY EVENT」が決行された。出演者のべ二百人、バンドは四〇組、劇団や芸人十団体以上、映画の上映も行われた。私も運営委員として参加した。天皇もよりによってこんな寒いときに死なないでくれよと思った凍える一月だったが、そのとき別な場所で「反自粛」活動を担っていた一人が、加藤直樹さんだ。
加藤さんの『ウクライナ侵略を考える』(あけび書房)を読んで、私たちのこの三十五年を思った。この一九八九年という年は、島国日本で誰かが死ぬよりもっと世界全体に影響を与えた大きな出来事があり、一つの時代の終焉、社会の価値観が転倒したことで記憶される。そう、この年、ベルリンの壁が崩壊し、東西がひっくり返り、冷戦が終結に向かい、世界地図がすっかり塗り替えられる、節目の年になった。そして当時消滅したソビエト連邦という国がロシアに代わった。
私たちは、またこの空間と出会う。
ロシアのウクライナ侵攻から二年が過ぎ、あらためて、ユゼフ・ヴィトリンの幻の小説『地の塩』のリーディングをするため、西部講堂に集められた人たちとして。
二年前と違うのは、新たに物語が動き始めていることだ。そこには、「その小説を読みたい、ただ、ロシア語になっている翻訳では、読みたくない」と言うウクライナの少年が、存在する。私たちはその物語に立ち会うことにした。

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開幕しました。
七夕の、7月7日までやっています。

撮影・姫田蘭。

手前 猪熊恒和 森尾舞
奥左より 円城寺あや 武山尚史 南谷朝子 鴨川てんし 

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燐光群公演
『地の塩、海の根』  
 作・演出◯坂手洋二
6月21日(金)〜7月7日(日)
下北沢ザ・スズナリ
世田谷区北沢1-45-15
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出演○森尾舞 南谷朝子 土屋良太 円城寺あや
鴨川てんし 川中健次郎 猪熊恒和 
樋尾麻衣子 武山尚史 大対源 徳永達哉 瓜生田凌矢 
尾形可耶子 西村順子 坂下可甫子 高木愛香 青山友香
声の出演 = 中山マリ
【お知らせ】
この度、大西孝洋が怪我のため、しばらく出演を見合わせることになりました。
復帰の際には劇団Webサイトでお知らせ致します。
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<開演時間> 
6月
21日(金)19:00 
22日(土)14:00
23日(日)14:00 ゲスト:加藤直樹(著述家)
24日(月)14:00
25日(火)19:00
26日(水)19:00
27日(木)14:00 ゲスト:藤原亮司(ジャーナリスト)
28日(金)19:00
29日(土)14:00 19:00
30日(日)14:00 ゲスト:田中壮泰(「地の塩」翻訳者、龍谷大学・東海大学非常
勤講師)
7月
1日(月)19:00
2日(火)14:00 ゲスト:瀬々敬久(映画監督)
3日(水)19:00
4日(木)14:00 19:00
5日(金)19:00
6日(土)14:00 19:00
7日(日)14:00
受付開始◯開演40分前 開場◯開演30分前
21日(金) はプレビュー。一律3,000円。人数限定・全席自由・撮影等あり。
◯ホームページでゲストの皆様をご紹介しております。
URL https://rinkogun.com
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【全席指定】
一般前売 3,800円 ペア前売 7,000円 当日 4,200円  
*U-25/大學・専門学校生 2,000円 *高校生以下 1000円 
(*U-25以下は受付にて要証明書提示)
障がい者割引3,000円(ご同伴者1名3,000円)、リピート割引(2回目以降1,900円)
(障がい者割引、リピート割引は劇団のみ受付)
*未就学児のご入場はご遠慮下さい。
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