つい先程、25日夜、オバマ米大統領と安倍晋三首相による日米首脳会談が行われた。沖縄県うるま市の二十歳の会社員の女性が米軍属により強姦、殺害、死体遺棄された事件を受け、当初見込んでいた26日午前の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)前に、会談を前倒ししたわけである。「沖縄で米軍基地への反感が高まっている現状を踏まえ、オバマ大統領来日直後に首脳レベルで迅速に対応する必要があると判断した」ということらしい。サミット、6月5日の沖縄県議会選挙、夏の参院選挙が控える中で、この件による反米軍基地、反政府の意識の広がりを、まずはなんとか「収束」させたことにしたい、それにはもってこいの機会だという、安倍政権の皮算用であろう。
会談後のオバマ大統領と安倍総理大臣の共同会見。安倍首相は「ほとんどこの問題を話していた」と、のっけから日米首脳会談はその話題ばかりだったということを強調したが、映像を見る限り、二人が意見を一致させた様子には見えず、長い会見の間、両者の視線は常に合うことはなく、最後の握手も一瞬で形式的だった。その一瞬を日本メディアは一面に載せるのであろう。握手の後に顔を背けるオバマ大統領のスピードの速さには、誰もが気づくはずだ。
安倍総理は待ってましたと言わんばかりに事件について正義漢ぶった強気な物言いをし、「卑劣きわまりない犯罪に憤り」「実効的な再発防止」「今回の事件で失われた信頼を回復していくのは困難だが克服していこうと一致」。そして「日米地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」という。しかし「地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」って、どういう日本語だ。犯人を日本で裁き、罪を償わせるのは、本来、当然のことである。これは現実を誤魔化している。日本での犯罪について日本の司法制度で裁かれるべきなのは、「そうでなければならない」という種類のことだ。
そもそも訴追されるような事態が起きている理由そのものが、日米地位協定にもあるのだということがわかっていない。日米地位協定があることから作られた米軍関係者の傲慢と無責任、沖縄本島住民への差別の意識、そうした原因そのものを断つべきなのだ。沖縄の人たちに限らず、日米関係やこの事件を詳しく知った者は誰でも、地位協定の存在自体がおかしいと言っているのだ。不平等な取り決め自体を変えない前提で、いったいどんな「改善」を目指すというのだ。
安倍首相はもともと23日の参院決算委員会で、沖縄県の翁長雄志知事が求めた日米地位協定の見直しに関し「相手があることだ。実質的に改善を積み重ねてきたところだ」と逃げていた。地位協定を変えることそのものには消極的なくせに、「あるべき姿」など、見えているはずがない。
安倍首相は続いて「広島訪問を歓迎」と言い、「核兵器を使用した唯一の国のリーダー」が「唯一の被爆国」の「哀悼の意を捧げることは意義深い」としたが、米国側に謝罪を求める気はないようだ。「日米が手を携えて」と言うが、安倍は経済のことを言うだけだ。
オバマは概ね安倍発言を険しい顔で聞いていたが、歓迎への感謝、力強い世界成長、世界平和、TPPのことなどを挙げ、「日米同盟は非常に重要な礎」「二カ国の同盟は平和、安全保障を強化」「沖縄で起きた悲惨な事件について心の底からのお悔やみと哀悼の意を示した」と言う。
そして、安倍首相同様に「日米地位協定は日本の訴追を妨げるものではない」「日本の司法制度の下できちんとした捜査ができることを確保し協力する」というが、本当に、そんなことは当たり前であるに過ぎない。実際には犯罪を犯した米兵は基地内に逃げ込みさえすれば、本国に移動してしまえば勝ち。「重大犯罪」での起訴を受けない限り、逃げおおせることができるのだ。「訴追させてやる」と恩着せがましく言われること自体が、どうかしている。
「北朝鮮の脅威に対して抑止力を高め防衛能力を強化したい」「気候変動問題でも話しあった」というから、沖縄の事件の話ばかりしていたみたいな安倍発言とは矛盾するが、そんなことはたいしたことではない。
プレスからの質問は日米1社ずつ。
日本からはNHK。「1995年の少女暴行事件から地位協定の改善を重ねてきたはずだが」と、珍しくいい切っ先の質問で始まったが、最初だけだった。
安倍首相はまたも「強い憤り」「被害者の恐怖と無念さ」「身勝手で卑劣きわまりない加害者に対して日本の法律に則り厳正な捜査を行う」と高飛車な感じで強気で言うが、この人が沖縄に寄り添った気持ちで発言しているわけではないことは明白なので、寒々しさだけが残る。「捜査に協力するとお約束」云々と下手になったりしつつ、「再発防止策を求めた」と人任せのように言う。「日米地位協定については一つ一つ目に見える改善をし結果を積み上げて参ります」と言うが、「改善」と言うたび、「日米地位協定」を変えはしないという「結論」のみが、繰り返し積み上げられることになるのは前述の通り。
続けて、とってつけたように「沖縄の皆さんが強い不安を感じておられます」「沖縄の皆さんの安全安心を確保できるよう徹底して策を講じる」というが、沖縄で沸き上がっているのは「不安」ではない。「怒り」である。
「日本国民の命と財産を守るのは総理大臣である私の責任であります。その責任を果たすため」というが、微塵のリアリティも感じられない。少なくともその「日本国民」に「沖縄」が入っているようには響かない。
シカゴトリビューン紙の記者は、オバマ大統領に向けてビンラディン殺害のこと、ドローン使用のことなどを問い、安倍首相には一つだけ「大統領の広島訪問」に対して「首相は真珠湾を訪問する意志はあるでしょうか」と問いかけた。
オバマ大統領は沖縄について「強調したいのはアメリカは米国民による暴力的な犯罪にショックを受けている」「言い訳のできないものであり再発防止に努めたい」とし、「さまざまな手続を見直して」というが、今回の容疑者が退役軍人とはいえ軍属であり現役の兵士ではないことからだろう(軍関係者は「彼は一民間人だ」と言い出したりしている)、「日米地位協定が、日本の法体系のもとでの完全な捜査や司法に必要な措置を何ら妨げてはいないと指摘しておきたい」とし、具体的に「日米地位協定」に手をつける気はないことを明言、ただただ「日米地位協定は訴追を妨げるものではない」と繰り返した。本当に「日米地位協定」を自明のこととする確認のために今回の事件が使われているように見えてしまう。
オバマ大統領にしてみれば、明日からの首脳会議の前に、面倒な件は片付けておきたかった、というところではないのか。
安倍首相は「真珠湾を訪問する意志はあるでしょうか」という問題の前に、国際問題についてなど聞かれてもいないのにオバマ大統領の言い分をなぞった発言を得々とし、真珠湾訪問についてはぼかし、ハワイを訪問するつもりはないとし、これまでも米軍の犠牲者に哀悼の意を表してきた、と誤魔化した。
ともかく、問題の核心である日米地位協定や米軍基地問題については、突っ込んだ議論になるはずもなく、安倍首相のために上っ面だけの強気のパフォーマンスの場を提供したことにしかならない。安倍はオバマと並んで威勢の良さそうなことを言う姿を見せたかっただけだ。
今回の事件と米軍基地駐留問題を別な問題と切り分けした印象を演出し、選挙に向けて自分のたちの立場を有利にするために、この場を使おうという魂胆だったのだ。
一言も言及されなかった普天間基地移転問題。「辺野古移設ありき」が揺るがないことを、結果的に確認させ、とにかく「事件」と切り離してしまおうとしているのだ。
今回のうるま市の事件の被害者の女性は名護出身だ。この悲惨な事件があっても、被害者の故郷に米軍基地が新設されてしまう計画が、両国首脳の会談の中で問われもしないということの無惨さに想像が及んでいる者は、あのような「政治」の場には、いないのか。
私は、事件の詳細が明らかになり、二十歳の女性が受けた状況を改めて想起し、怒りと、米軍基地撤退がこの二十年間に何も進展していないという現実への虚しさ悔しさといった感情が、新たに湧いた。
この日米首脳会談後会見での安倍首相の強気の物言いは、今回の悲惨な事件を、結果的に政治利用しようとしたものである。この欺瞞を許してはならないし、ジャーナリズムに関わる方々には、こうした経緯をどう扱うかによって自らの自立とアイデンティティーが問われていることを、忘れないでいただきたいと思う。
写真は、これも先月の、沖縄・高江。県道沿い。米軍北部演習場との境界を示す杭が立つ。
会談後のオバマ大統領と安倍総理大臣の共同会見。安倍首相は「ほとんどこの問題を話していた」と、のっけから日米首脳会談はその話題ばかりだったということを強調したが、映像を見る限り、二人が意見を一致させた様子には見えず、長い会見の間、両者の視線は常に合うことはなく、最後の握手も一瞬で形式的だった。その一瞬を日本メディアは一面に載せるのであろう。握手の後に顔を背けるオバマ大統領のスピードの速さには、誰もが気づくはずだ。
安倍総理は待ってましたと言わんばかりに事件について正義漢ぶった強気な物言いをし、「卑劣きわまりない犯罪に憤り」「実効的な再発防止」「今回の事件で失われた信頼を回復していくのは困難だが克服していこうと一致」。そして「日米地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」という。しかし「地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」って、どういう日本語だ。犯人を日本で裁き、罪を償わせるのは、本来、当然のことである。これは現実を誤魔化している。日本での犯罪について日本の司法制度で裁かれるべきなのは、「そうでなければならない」という種類のことだ。
そもそも訴追されるような事態が起きている理由そのものが、日米地位協定にもあるのだということがわかっていない。日米地位協定があることから作られた米軍関係者の傲慢と無責任、沖縄本島住民への差別の意識、そうした原因そのものを断つべきなのだ。沖縄の人たちに限らず、日米関係やこの事件を詳しく知った者は誰でも、地位協定の存在自体がおかしいと言っているのだ。不平等な取り決め自体を変えない前提で、いったいどんな「改善」を目指すというのだ。
安倍首相はもともと23日の参院決算委員会で、沖縄県の翁長雄志知事が求めた日米地位協定の見直しに関し「相手があることだ。実質的に改善を積み重ねてきたところだ」と逃げていた。地位協定を変えることそのものには消極的なくせに、「あるべき姿」など、見えているはずがない。
安倍首相は続いて「広島訪問を歓迎」と言い、「核兵器を使用した唯一の国のリーダー」が「唯一の被爆国」の「哀悼の意を捧げることは意義深い」としたが、米国側に謝罪を求める気はないようだ。「日米が手を携えて」と言うが、安倍は経済のことを言うだけだ。
オバマは概ね安倍発言を険しい顔で聞いていたが、歓迎への感謝、力強い世界成長、世界平和、TPPのことなどを挙げ、「日米同盟は非常に重要な礎」「二カ国の同盟は平和、安全保障を強化」「沖縄で起きた悲惨な事件について心の底からのお悔やみと哀悼の意を示した」と言う。
そして、安倍首相同様に「日米地位協定は日本の訴追を妨げるものではない」「日本の司法制度の下できちんとした捜査ができることを確保し協力する」というが、本当に、そんなことは当たり前であるに過ぎない。実際には犯罪を犯した米兵は基地内に逃げ込みさえすれば、本国に移動してしまえば勝ち。「重大犯罪」での起訴を受けない限り、逃げおおせることができるのだ。「訴追させてやる」と恩着せがましく言われること自体が、どうかしている。
「北朝鮮の脅威に対して抑止力を高め防衛能力を強化したい」「気候変動問題でも話しあった」というから、沖縄の事件の話ばかりしていたみたいな安倍発言とは矛盾するが、そんなことはたいしたことではない。
プレスからの質問は日米1社ずつ。
日本からはNHK。「1995年の少女暴行事件から地位協定の改善を重ねてきたはずだが」と、珍しくいい切っ先の質問で始まったが、最初だけだった。
安倍首相はまたも「強い憤り」「被害者の恐怖と無念さ」「身勝手で卑劣きわまりない加害者に対して日本の法律に則り厳正な捜査を行う」と高飛車な感じで強気で言うが、この人が沖縄に寄り添った気持ちで発言しているわけではないことは明白なので、寒々しさだけが残る。「捜査に協力するとお約束」云々と下手になったりしつつ、「再発防止策を求めた」と人任せのように言う。「日米地位協定については一つ一つ目に見える改善をし結果を積み上げて参ります」と言うが、「改善」と言うたび、「日米地位協定」を変えはしないという「結論」のみが、繰り返し積み上げられることになるのは前述の通り。
続けて、とってつけたように「沖縄の皆さんが強い不安を感じておられます」「沖縄の皆さんの安全安心を確保できるよう徹底して策を講じる」というが、沖縄で沸き上がっているのは「不安」ではない。「怒り」である。
「日本国民の命と財産を守るのは総理大臣である私の責任であります。その責任を果たすため」というが、微塵のリアリティも感じられない。少なくともその「日本国民」に「沖縄」が入っているようには響かない。
シカゴトリビューン紙の記者は、オバマ大統領に向けてビンラディン殺害のこと、ドローン使用のことなどを問い、安倍首相には一つだけ「大統領の広島訪問」に対して「首相は真珠湾を訪問する意志はあるでしょうか」と問いかけた。
オバマ大統領は沖縄について「強調したいのはアメリカは米国民による暴力的な犯罪にショックを受けている」「言い訳のできないものであり再発防止に努めたい」とし、「さまざまな手続を見直して」というが、今回の容疑者が退役軍人とはいえ軍属であり現役の兵士ではないことからだろう(軍関係者は「彼は一民間人だ」と言い出したりしている)、「日米地位協定が、日本の法体系のもとでの完全な捜査や司法に必要な措置を何ら妨げてはいないと指摘しておきたい」とし、具体的に「日米地位協定」に手をつける気はないことを明言、ただただ「日米地位協定は訴追を妨げるものではない」と繰り返した。本当に「日米地位協定」を自明のこととする確認のために今回の事件が使われているように見えてしまう。
オバマ大統領にしてみれば、明日からの首脳会議の前に、面倒な件は片付けておきたかった、というところではないのか。
安倍首相は「真珠湾を訪問する意志はあるでしょうか」という問題の前に、国際問題についてなど聞かれてもいないのにオバマ大統領の言い分をなぞった発言を得々とし、真珠湾訪問についてはぼかし、ハワイを訪問するつもりはないとし、これまでも米軍の犠牲者に哀悼の意を表してきた、と誤魔化した。
ともかく、問題の核心である日米地位協定や米軍基地問題については、突っ込んだ議論になるはずもなく、安倍首相のために上っ面だけの強気のパフォーマンスの場を提供したことにしかならない。安倍はオバマと並んで威勢の良さそうなことを言う姿を見せたかっただけだ。
今回の事件と米軍基地駐留問題を別な問題と切り分けした印象を演出し、選挙に向けて自分のたちの立場を有利にするために、この場を使おうという魂胆だったのだ。
一言も言及されなかった普天間基地移転問題。「辺野古移設ありき」が揺るがないことを、結果的に確認させ、とにかく「事件」と切り離してしまおうとしているのだ。
今回のうるま市の事件の被害者の女性は名護出身だ。この悲惨な事件があっても、被害者の故郷に米軍基地が新設されてしまう計画が、両国首脳の会談の中で問われもしないということの無惨さに想像が及んでいる者は、あのような「政治」の場には、いないのか。
私は、事件の詳細が明らかになり、二十歳の女性が受けた状況を改めて想起し、怒りと、米軍基地撤退がこの二十年間に何も進展していないという現実への虚しさ悔しさといった感情が、新たに湧いた。
この日米首脳会談後会見での安倍首相の強気の物言いは、今回の悲惨な事件を、結果的に政治利用しようとしたものである。この欺瞞を許してはならないし、ジャーナリズムに関わる方々には、こうした経緯をどう扱うかによって自らの自立とアイデンティティーが問われていることを、忘れないでいただきたいと思う。
写真は、これも先月の、沖縄・高江。県道沿い。米軍北部演習場との境界を示す杭が立つ。
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