岡山でのいろいろな出会いを経て誕生した、藤原さんの「愛のスカイライン」が、全国の旅の最後、ついに、岡山の舞台に登場します。
燐光群 『藤原さんのドライブ』、本 29日夜・岡山市民文化ホール公演 が 千秋楽です。
来年で四十周年を迎える劇団の、新たなる一歩となる、本作。
ぜひご覧くださいますよう、お願い申し上げます。
11月29日(火)午後7:00開演 岡山市立市民文化ホール
http://rinkogun.com/Fjiwara_Okayama.html
写真 猪熊恒和 川中健次郎 円城寺あや
撮影 姫田蘭
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『藤原さんのドライブ』 パンフレット掲載文
私がハンセン病について考えるようになったきっかけは、『カウラの班長会議』の創作時である。戦時中の1944年、オーストラリアのカウラで起きた日本兵捕虜の集団脱走暴動「カウラ事件」を描いた作品だ。自らも捕虜の一人でありながら、ハンセン病罹患のため一人用のテントに隔離され、脱走暴動に加わることなく事件を体験した、立花誠一郎さんの存在を知ったのだ。
立花さんは帰国後、岡山県瀬戸内市長島の国立ハンセン病療養所に入った。『カウラの班長会議』の御縁で、いろいろお話をうかがう機会があった。立花さんは手先が器用なため、入所直後は所内で理髪の仕事を担っていたほか、運転免許を取得し、他の入所者の里帰りやこだわりの場所への遠出のさい、自分のクルマを運転してあげていたと聞いた。立花さんの運転歴は四十三年に及び、最後に乗っていたクルマはエルグランデだったという。『藤原さんのドライブ』にはスカイラインが登場するが、立花さんが購入した二台目のクルマが、スカイラインだった。クルマの話をされるとき、とてもいきいきとされていたことを思い出す。
七年前、渡辺美佐子さんをお招きして『お召し列車』という劇を作った。長島にあったハンセン病罹患者のための全国で唯一の公立高校「新良田教室」について、そして入学するため全国各地の「新入生」が「お召し列車」と呼ばれる特別車輌で移動した旅について、実際に体験された元患者の皆さんに取材した。
本作の戯曲執筆にあたって、あらためて療養所での「運転」について調べた。療養所にいながら運転免許をお取りになった常念さんとも、お話できた。現在はコロナ禍下ゆえ、Zoomでのインタビューだったが、療養者の皆さんにとって、クルマで外出できる「自由」を獲得したことがいかに大切だったか、あらためて知ることができた。
物語の構成や登場人物は、純然たるフィクションであるが、「新良田教室」研究の第一人者である丹羽弘子さんからも、あらためてお話を聞いた。卒業生の島外での就職のためにも、免許取得が奨励されていたのだ。
また、今回のスタッフ・キャストで、映画『NAGASHIMA~“かくり”の証言』を鑑賞させていただいたが、その映像のみならず、監督である宮崎賢氏の著述も、戯曲執筆の参考にさせていただいた。
死への決起である「カウラ事件」の要因は、戦時下に兵士たちを縛った「戦陣訓」の教えである。戦死せず捕虜になることは「恥」であり、日本に残した家族たちも非難されると考え、多くの捕虜たちは偽名を使い、所属していた部隊、階級等についても、偽った。そして、ハンセン病療養所でも、ほとんどの人たちが、感染者を出したことで差別される可能性のある家族への影響を考え、偽名を使った。捕虜として、また、隔離を余儀なくされる患者として、二つの場所で「偽名」を使わざるをえなかった立花誠一郎さんは、五年前、96歳で亡くなられた。
立花さんに『カウラの班長会議』神戸公演を観ていただけたことは幸いだった。戦友たちを思って目頭が熱くなりました、とおっしゃった。
そして、もしも立花さんがご存命だったら、コロナ禍下の現在、日本のみならず世界各地での、新たな「感染症」に対するさまざまな対応を見て、どう思われただろうと思った。
歴史は繰り返すわけではない。差別と疎外は形を変えて続いてしまっている。「ミサイル射撃」の報道に惑わされ、国境近辺の離島に自衛隊基地を置くことを正当化しようとする現実がある。カウラ事件の悲劇とハンセン病隔離政策の不条理を、決して忘れることなく、それを乗り越えた立花さんのような先人の努力と苦難の歴史から学び、今後の私たちの糧にしなければならないのだ。
本作『藤原さんのドライブ』では、「歴史上の感染症療養所の島」に、現代の世界を襲った「新たな感染症の罹患者たち」が連れてこられて、「二つの感染症の人々が出会う」姿が、描かれる。
過去の名前を捨て、新たな名前を選び、外の世界と一切の関係を断つことを強制され、監視されていることが当然であるという日常。そんな場所に連れて行かれたとき、現代の私たちは、過去の教訓に学ぶしかないはずなのである。
坂手洋二
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燐光群 『藤原さんのドライブ』
助成○文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
協力◯セゾン文化財団
主催○有限会社グッドフェローズ
<CAST>
鴨川てんし 川中健次郎 猪熊恒和 大西孝洋
円城寺あや 中山マリ 樋尾麻衣子 尾形可耶子
三浦知之 武山尚史 山村秀勝 西村順子
坂下可甫子 遠藤いち花 宅間脩起
<STAFF>
照明○竹林功(龍前正夫舞台照明研究所) 音響○島猛(ステージオフィス)
舞台監督◯大山慎一 三津久 舞台協力○森下紀彦 美術◯じょん万次郎 演出助手○山田真実
衣裳○ぴんくぱんだー 燐光群衣裳部
擬闘◯山村秀勝 進行助手○中山美里 文芸助手○清水弥生 久保志乃ぶ
撮影○姫田蘭 宣伝意匠○高崎勝也
協力○浅井企画 オフィスにしむら
制作○Caco 尾形可耶子 島藤昌代