オセンタルカの太陽帝国

私的設定では遠州地方はだらハッパ文化圏
信州がドラゴンパスで
柏崎辺りが聖ファラオの国と思ってます

ヴェルディ作曲 『諸国民の讃歌』。

2007年07月25日 23時47分02秒 |   歴史音楽の部屋

1862年、作曲者49歳円熟期、ロンドン万国博覧会のために作曲。ばんぱくばんざい。ロンドンは記念すべき第一回の万博が開催された場所ですが、長い万博の歴史の中でロンドンが舞台となったのは2回しか無いんですね。(パリは7回)。残念ながらこの1862年はクリスタルパレスの作られた第一回ロンドン万博(1851年)ではなく、2回目ものなのだそうです。
この万博では、この時代の各国を代表する音楽家たちに一曲ずつ曲を依頼し、演奏されたのだとか。いかにもヨーロッパ中心の開催っぽい。英国はウィリアム・ベネットの『テニスンの詩による讃歌』、フランスはオーベールの『行進曲』、ドイツはマイヤベーアの『行進曲形式の序曲』だったんですって。イタリアの代表が国会議員にもなっていた(分裂状態の長かったイタリアはこの前年にサルディーニャ王国によって統一されていました)

この曲は、マニアの間には爆裂音楽として知られています。
なにが爆裂なのかと申しますと、いろんな国の国歌を組み合わせて作った作品となっているのです。正確に言うと、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」、英国国歌「ゴッドセイヴザクイーン」、イタリア国歌「マメーリの讃歌(イタリアの同胞よ)」の三曲なんですが。なかなかないですよ、「国歌を組み合わせる」って。ラ・マルセイエーズのみはチャイコフスキーやベルリオーズやシューマンが使っているのでおなじみなのですが。ここで疑問に思うのが「ドイツ国歌は無いの?」ということですが、、、、、 統一ドイツの誕生は4年後なんですね。マイヤベーアはドイツのどの国の代表として参加したんでしょう?(ドイツ連邦全体の代表なのかな)
曲全体は13分程度の音楽です。最初の8分ぐらいはテノールがひとりで朗々と気持ちの良い歌を歌う。これがまた、いかにもヴェルディっぽい勇壮な音楽で、『ドン・カルロ』に混じっていても違和感がないんじゃないかしら、と思うぐらいの力作。いや立派です。ヴェルディがノリにのっていることが窺えます。豪壮に続いてうっとりするような独唱。しかし、私の手持ちのCDには歌詞が付いていなくて、何て歌っているのか不明なんです。きっと「万博万歳」とか「こんにちわ~こんにちわ~世界の国から」とか歌っていたと思うんですけどね、(こちらのサイトさんに英訳された歌詞があるんですけど …小さくて読めなーーい)

8分半ごろから、テノールがうっとりと歌ってるところに、さりげなく英国国歌の旋律が入ってくる。続いて「英国」→「フランス」→「イタリア」→「英国」の順番で国歌が陳列されるんですが、最初はそれはそれはお行儀良く歌われるんです。(でも歌詞が不明なので国歌をそのまま歌っているのかどうかはわかりません)。次からがヴェルディの本領発揮、このみっつの国歌をごちゃごちゃに入り混ぜて(でもやりすぎないようにして)しまうのです。
やっぱり歌っていて一番迫力があるのはフランス国歌ですね。勇壮。この国家を持つ国民はきっと自慢鼻高々でしょうねえ。しかし次にその何倍も歌ってて気持ちよさそうなイタリア国歌が乱入。さすが歌の国だなイタリアは。と思わせつつ、一転して厳かな英国国歌が現れると一気に雰囲気が落ち着く。さすが紳士の国大英帝国。 ・・・などなどと、それぞれの国歌のいい部分を同時に味わえるような構成になっているのです。うん、この国歌、3つともすごーく良い曲だよ。
ところが終結部、この3つの国歌すべてをねじ伏せるように、ふたたびヴェルディ節炸裂。まるでアイーダ行進曲のコピーのような素晴らしいいい旋律が、3つの国歌をねじ伏せてしまうのです。うーーん、ヴェルディの勝ち!

さらにさらに、私の持っているCDはトスカニーニの指揮した1943年盤なのですが、このCDはさらにとてもとんでもないことになっているのです。
アルトゥーロ・トスカニーニはイタリアが誇る歴史的英雄指揮者なのですが、第二次大戦中ムッソリーニのファシスト政権を嫌って、米国へ亡命。最初は亡命を機に引退を表明したのですが、それを惜しむアメリカ国民の声が大きく、NBC交響楽団というトスカニーニ専用の楽団まで用意されて彼にプレゼントされるほどだったのです。私の持っている録音は、アメリカ時代のこのトスカニーニによるものなのですが、なにしろ1943年は大戦が最も佳境の時期、トスカニーニの手によってヴェルディのこの曲は改変され、英仏伊の国歌に続いて、ソ連の国歌「インターナショナル歌」と米国の「星条旗」が付け加えられ(ヴェルディの原曲にドイツの歌が含まれていないことが幸いでした!)、卑怯にもファシスト政権の権化となったイタリアの国歌の歌詞を「イタリア、裏切った祖国」という歌詞に替え歌して上演したのです。はっきりいってこの2つの国歌を付け加えたことが異様な熱気を生み出している!
米国とソ連の国歌を並べて聴けるだなんて! ソ連の国歌だなんていうからどんな変態な歌かと思いきや、これはすごく良い曲ですよね。ソ連の根本精神が“団結と調和”だということが良く分かる。(とはいえ、これはもともとはフランスで歌い始められた歌です)。他の4つに比べてアメリカの国歌は戯画的で極めて俗っぽいのですが、これが最後にでーんと鎮座ましましてすべての取りまとめ役と化す事には、これまた変な説得力がある。
(※例えばこのサイトさんで、すべての国歌が聴けたりしますので聞き比べて見てくださいね。これを全部組み合わせるのが、いかにエキサイティングな試みであることか)
「万国博覧会」という“世界の国はみんな仲良し”“みんなの長所を披露し合おう”という場のために作曲された作品が、祖国から信念のために亡命したひとりの偉大な指揮者の手によって、「悪のファシズムに対抗する連合国の聖戦の歌」となってしまう。作曲者のヴェルディは自分の国の国歌を「どうだ気持ちの良さそうな歌だろう」と示しただけなのに、演奏される場面に応じて「邪悪な裏切り」「イタリアは自由の国のはずなのに!」と責められる手段と変わってしまう。これほど興奮的な格好な歴史的素材はありましょうか。

なお、この諸国民の讃歌はイタリア在住時代からの得意曲でして、こちらのサイトさんによりますと、アメリカに移ってからの改変版の演奏の記録は3つあるそうなのですが、なぜかトスカニーニは、その際異様にやつれていたのだそうです。これまた非常に興味深いですね。

 

(※前半部分)
ここは、つまらないっていえばつまらないですね。

(※後半部分)
ここがキモ。
[1:42]のところで微妙な感じに英国国歌が始まり、[2:10]で無難にフランス国歌、[2:39]で気持ちの良さそうなイタリア国歌が始まる(一番長い)。[3:10]で英国国歌に荘厳に回帰し、[3:37]でさりげなくラ・マルセイエーズに戻るんですが、このときの歌手の表情がたまらない。[4:20]でまた英国国歌、[4:33]のところで3つの国歌をぐちゃぐちゃに混ぜたあと、[5:14]のところからアイーダによく似たヴェルディ独自の(どこの国歌でもない)ヴェルディ節を強引にぶちこむ。[5:45]は完全にアイーダ行進曲だね。[6:08]からトスカニーニの暴走。何の捻りもなく米国国歌をやったあと、、、、 あれ、ソ連のインターナショナル歌は?(この映像ではソ連は省略されているみたいです。あそこが一番天国的なのに。CDにはちゃんと入ってますから、聞いてみてネ♪ CDではソヴィエトたちの歌は米国の前です)

コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする