10年ぐらい前に沼津のダイソーで買ったヘンデル像。100円。他にベートーヴェンとかモーツァルトとかバッハとかあったんですけど、ヘンデルしか買いませんでした(これが一番かっこよかったから)。
やったー。
非常に心配していたパロット指揮の『エジプトのイスラエル人』や『ヨセフとその兄弟』『ヨシュア』その他のCDが、無事HMVから届いたよ。
経緯を説明いたしましょう。
2月の4日ごろ、「私ってヘンデルが好きなのに、オラトリオ方面に弱いな。特にエジプトのイスラエル人(←ヘンデル・オラトリオの代表曲)ってちゃんと聴いた事ないな」と思って、とりあえず、ガーディナー盤(旧盤)とパロット盤を注文したんです。ここで後のために説明しておきますと、ガーディナーに限っていちいち(旧盤)と記していますのは、わたくしはガーディナーの新しい録音(1990年)はすでに所持しているからでございます。だがしかし、エジプトのイスラエル人っていう作品はヘンデル作品の常で、いろいろな版があるようでございまして、この新盤は指揮者ガーディナーの恣意的な取捨選択がなされた物になっている。もともとエジプトのイスラエル人は2部構成で構想されたものが、途中でヘンデルの気が変わり、大幅に内容がふくらまされ(50分ぐらい増えた)、でもふたたびヘンデルの気が変わり、完成盤では一度付け加えられた第一部「ヨセフの死に対するイスラエル人の嘆き」がそっくり省かれ、「エジプト脱出」と「モーゼの歌」の2部だけになってしまった。私の持っているガーディナーの新盤(1990年)ではこの完成譜をもとに恣意的に演奏されているのですが、とにかくガーディナーの最大の欠点は「第一部が無い」んです。そりゃー、ヘンデル自身が「要らない」と思って省いた物なんだからまた再びわざわざ取り上げるにも当たらないんですが、それでも「もったいない」と思ってしまうのもファンのサガでして(だって楽譜は残っているのですから)、実際、世に出ている他の指揮者のエジプトのイスラエル人の多くに、失われたこの第一部を併録しているものが多い。そのガーディナーも、先立つ12年前(1978年)に録音した旧演奏では(第一部そのものではなく) 第一部の原曲となった「キャロライン王妃の為の葬送アンセム」を一緒に演奏して収録しているというのです。…ということを 『ヘンデル御殿』で10年前に知って、わたくしはどれほど悔しかった事か。この「キャロライン王妃の葬送アンセム」を聴くのが私の10年越しの悲願でした。
さらに、このキャロライン王妃という人について説明しますと、この方は英国王ジョージ2世のお妃です。ジョージ2世というのは英国ハノーヴァー王朝創始者ジョージ1世の息子です。だからキャロラインは、ヘンデルの雇い主の息子の嫁ということになる。彼女は武威逞しいホーエンツォーレルン家の縁戚でありますよ。
音楽史に親しい人なら、「ヘンデルは雇い主のハノーファー選帝侯ゲオルク1世とそりが合わず、職務を放り出して英国に遊びに行き、そのままそこに住み着いてしまった。しかしそのいけすかないゲオルク侯がジョージ1世となって英国王に即位してしまったためびっくりぎょうてん、あわてて素晴らしい音楽をいくつも書いて御機嫌取りに腐心した」という“水上の音楽事件”をご存じだと思いますが、この顛末に深く関わり、王家と天才音楽家の絆を強める役を果たしたのがキャロライン王妃(この時点では皇太子妃)だったといいます。そもそも、青年時代を放浪につぐ放浪で過ごしたヘンデルがドイツのハノーファーに就職を決めたのは、君主のジョージ1世ではなくて息子の嫁のキャロラインさんととてつもなく気があったからなんですって。ヘンデルにとってキャロラインは2歳年上のおねいさん。このキャロラインさんっていうのは美女として知られていたそうで、また夫のジョージ2世が国王となってからは宰相のウォルポールと二人三足で果敢に国政を操った才媛だという。その麗しいキャロライン妃が1737年にお亡くなりになって、悲しんだヘンデルが書いたのが「キャロライン王妃の葬送アンセム」。
2年後にその音楽を『エジプトのイスラエル人』の第一部に転用したのです。ヘンデルにとっても葬送アンセムはとても思い入れのある曲だったと思う。
前置きが長くなってしまった。
2/4に、「エジプトのイスラエル人を聞き比べてみよう」と思って、ガーディナー盤(旧盤)とパロット盤を選択し、HMVに注文してみたのですが(※パロットを選んだのは、以前聴いた『カルメル会の晩課』という2枚組が気に入っているから)、数日後にサイトを覗いてみると、パロット盤の方が「注文キャンセル」という処理をされておった。廃盤されているらしい。「なんでやん、パロットのCDって廉価版でたくさん売られてるやん」と思っていろいろ調べてみると、私が注文したパロットのイスラエル人は廉価版になる前の版で、HMV価格で3,082円。ところがこのCDは後に廉価版化されて、現在地ちまたに流通している物は(同じ物が)HMV価格1,205円。何も調べずに目に入った物をポチッとやってしまう性格なものですから、思わず余計な散財をしてしまうところでした。高い奴の在庫がHMVに一枚も残っていなくて、本当に良かった。ついこの間、「アリオダンテのDVDを2回ぽちっとやってしまう」という失敗をしたばかりですからね。
(…ところで、HMV価格はよく変動してしまうので注意が必要です。私が買ったパロット盤は確かに1205円だったのですが、今HMVを覗いてみると、同じ物が1584円になっている。震災のあと円高になったはずなのに。っていうかHMVが一時的に?マルチバイキャンペーンをやめているだけか)
ともかく、2/25になって私は安いパロット盤をサイトの中から見つけ出し、他に欲しかったCD(ヨシュアとかピオーのアリア集とか)と組み合わせてHMVに注文してみたわけです。その時点で20日前に注文したガーディナーのイスラエル人(旧盤)とかオットーネとかはまだ私の手元に届いておらず、当のガーディナー盤が「お取り寄せ中」になっていた。新しく注文した中にあった「ヨシュア」とか「ヨセフとその兄弟」はロバート・キング指揮キングス・コンソートの古いCD(1990年代)で、以前同じ演奏者の『アレクサンダー・バールス』を注文した時も手元に届くまでに滞った経験がありますから、「今回もちょっと時間が掛かるかもな、ふたつの注文が届くのは同じぐらいかな」と思ったのですが、毎日のようにHMVの注文履歴を眺めていて、長く「お取り寄せ中」だった『ヨセフとその兄弟』が「発送準備中」になったのが、3月11日。そう、東日本大地震のあった日です。
その日からテレビの前から離れられなくなってしまって、そんな私のCDのことなんか「いいよ落ち着いて世の中がヒマになってから送ってきてくれれば」と思っていたのですが、ふとサイトを覗いてみると、「発送準備中」だったのが「商品再手配中」に代わっておる。
ちょっとイヤな予感がしたのでした。
「もしかしたらHMVの倉庫は関東北部の海沿いにあったんじゃないか」とか「倉庫がガラガラに崩れて商品は壊滅してるんじゃないか」とか。
パロットとかガーディナーなんかはよく再発されるからどうでもいいんですが、キングのハイペリオン盤なんかは結構希少なんじゃないの? 思うに、欧州の在庫のありそうな店舗に順次問い合わせ回ってなかなか見つから無いから(←想像)、毎回こんなに時間が掛かっているとしたら、、、 「あれが最後の一枚でした」「欧州のお店の在庫は自国民向けで、日本に送ってくれる人はもういませんでした」なんて言われたらどうしよう、と。そんなわけねーけど。
それが、3/20になってようやく我が手元に届いたというわけでした。
なーんだ、地震によってちょっと混乱しただけだったのね。(再手配、なんて言われたからビックリしてしまって)
かえってこのことによって、「震災で失われてしまった地域には、もっともっとかけがえのない、唯一無二のものがたくさんあった筈だけどなあ、怖い事だなあ、無念だなあ」という当たり前の事にも思いが巡らせるようになりました。人命が一番なんですけどね、災害は無惨だ。
…ところで、先に注文したはずのガーディナーのエジプトのイスラエル人は、まだ欧州から届いていません、、、(涙)
それでは、このたび買ったCDの紹介をいたしましょう。(ただの自慢)
オラトリオ『エジプトのイスラエル人』(1739年)
アンドリュー・パロット指揮
タヴァナー合唱団&プレイヤーズ 1990年
(ヴァージン ヴェリタス×2) 2枚組 HMV価格1205円(HMV定価1584円)
このCDについてはガーディナー盤と聞き比べていろいろ語る事にします。
それまで頑張って聴き込もう!
オラトリオ『ヨシュア』(1747年)
ロバート・キング指揮
オックスフォード・ニューカレッジ合唱団、キングス・コンソート (1991年)
エマ・カークビー(s)、ジェームズ・ボウマン(カウンターテノール)
エイダン・オリヴァー(トレブル)、ジョン・マーク・エインズリー(t)
マイケル・ジョージ(b)
(ハイペリオン) 2枚組 HMV価格3805円(HMV定価5014円)
『機会オラトリオ』『ユダス・マカベウス』『ヨシュア』『アレクサンダー・バールス』の連作の事を、“戦争四部作”というのだそうです。
“名誉革命”によって“旧王朝”ステュワート家が英国から追い払われたのは60年も前なのですが、その残党はスコットランドの兵を率いて復権を夢見て度々侵入を繰り返し、英国内にも「ジャコバイト」と呼ばれるその支持者が少なからずいて、不穏な空気が幾度となく噴出していました。そのジャコバイトたちの最後の挑戦が1745年ぐらいにおこなわれ、英国民たちの間に愛国的な機運が盛り上がりました。(ステュワート家の人々もそれを支援するスコットランド人も国内のジャコバイト支持者たちもUK内では同国民であり、これは単なる内戦なのですが(※実際は仏も深く関わっている)疑心暗鬼に陥らず単純に「愛国の気分の高まりを見せた」というのが英国人のステキなところです)
とにかく、機を見るに敏なヘンデルは、気持ちを鼓舞するような曲調と荒々しい粗筋を持つ作品を作って、人々の歓心を買おうとしたのでした。
聖書の中の聖人ヨシュアはモーゼの後継者でして、エジプトを出発したイスラエル民衆を率いて“約束の地”とされたカナンをめざし、そこに住んでいた人々と戦い、虐殺して、神の王国を築いた人です。
ヘンデルのオラトリオではエリコ攻撃、ギブオン攻撃、デビル攻撃が立て続けに描かれる。とても勇壮な音楽です。とにかく「勝った、勝った、攻めて勝った。恋も勝ち取った」と言う感じの。
まだ聴いてないけど。
「マカベウスのユダ」で有名になった「見よ、勇者は帰る」はもともと「ヨシュア」のために書かれた音楽でして、すなわち、表彰に値すべきこの勇者とは、勇者ユダ・マカベウスのことではなくて勇者オトニエルのことだという (だれ? ←最初の士師。有名なひと。ヘンデルは士師記が大好きですから)
オラトリオ『ヨセフとその兄弟』 (1744年)
ロバート・キング指揮
オックスフォード・ニューカレッジ合唱団、キングス・コンソート合唱団
キングスコンソート (1996年)
イヴォンヌ・ケニー(s)、ジェイムズ・ボウマン(カウンターテナー)
キャサリン・デンリー(ms)、マイケル・ジョージ(bs)
コナー・バロウェズ(トレブル)、ジョン・マーク・エインズリー(t)
(ハイペリオン)3枚組 HMV価格5653円(HMV定価7429円)
ヘンデル好きの間でも「微妙な作品」と言われているこの作品ですが、ちょっと前にこんな論文を読んで、ちょっと興味を持っていたのでした。
要は、「めずらしい作品」だからですね。
このCDの制作者であるロバート・キングは少年に対する性犯罪で捕まりまして、2007年4月に3年9ヶ月の実刑判決を受けましたから、ちょうど出てきて少しというところでしょうが、そんな彼のCDが再発されるはずは無いと思いますから(そう考えるのは日本的な発想なのかしら)、この機を逃してはこの曲は聴けないと思ったのですが…
微妙そうなのでまだ聴いてない。この曲を聴き込むのは老後の為に取っておこう。
今の私にはまだ聴くべき作品がいっぱいある。ごめん、キング。
「王家の機会のために作られた音楽集」
ロバート・キング指揮
オックスフォード・ニューカレッジ合唱団、キングスコンソート(1989年)
ジリアン・フィッシャー(s)、ジェイムズ・ボウマン(カウンターテナー)
ジョン・マーク・エインズリー(t)、マイケル・ジョージ(bs)
(ハイペリオン) HMV価格1978円(HMV定価2599円)
HMVサイトの紹介文では、『アン女王の誕生日のためのオード』(1713年)が収録されていることしか分からなかったのですが、「聖チェチーリアの祝日のためのオードは持ってるけど、アン女王のためのは持ってないからな」と、意を決して買って見た。買ってみたら、アン女王の他に、持っていない『キャロライン・テ・デウム』(1714年)(=ジョージ1世の即位に関係のある音楽なのに、なぜかその王の息子の嫁の名前で呼ばれる曲)と「皇太子フレデリックのための結婚アンセム“神の王国の人々よ、神に向かいて歌え”」(1736年)(=ジョージ2世の息子のフレデリック・ルイスは下賤なくせに尊大なヘンデル師ととことん仲が悪く、ことあるごとにヘンデルの興業を邪魔した。母のキャロラインですらフレデリックを毛嫌いしていた)の2曲が収録されていました。ラッキー。
…だがしかし。
ワクワクしながら聴いてみたけど、アン女王の曲、なんかこれ聴いた事ある。
そうだ! 俺、アン女王の誕生日はCD(プレストン盤)を持っていて、「聖チェチーリア」の方がまだ聴いた事が無いんだった、、、 また間違えちゃったよ。
「ヘンデル オペラアリア集」
れにさんに言われてピオーのアリア集に興味を持ち、注文してみた。
サンドリーヌ・ピオーはCDの多い人ですが、ヘンデルのアリア集は2枚あるらしい。私が欲しかったアレッサンドロでロッサーネの歌う「Brilla nell` alma un non inteso ancor」の入っているのは、単品のCDもあったけど、詰め合わせ4枚組のお徳用パックもあって、そっちも安かったので、それを買ってみた。
サンドリーヌ・ピオーのアリア集が1枚、マリア・バーヨのアリア集が1枚、なぜかアリア集なのにオラトリオの『時と悟りの勝利』の全曲も入っていて(2枚組-リナルド・アレッサンドリーニ指揮、コンチェルト・イタリアーノ)、計4枚で、HMV価格2345円(HMV定価2345円)。お得だ、、、 でもあれ? これってマルチバイ安買いのできない作品だったのか。(定価と安売り価格が同じ。念のために言うとここで私が「HMV定価」と言っているのはHMVサイトでのオンライン価格での事で、「HMV価格」と言っているのは3枚買うととんでもなく安くなるマルチバイ特価のこと)。
私は「聴くなら全曲」派なので、選集を聴くことってほとんどないんですけど、まだ意欲が有り余っているからで、そのうち枯れてくると嗜好が変わってくるのかもしれない。ピオーの声は、憂いがありつつ大きな芯があってピンとしていて曲調が上を向いていて、なかなか好ましいね。
歌劇『クレタ島のアリアンナ』より。
歌劇『セルセ』より。
上の動画のふたつの曲はこのCDに含まれてはいませんが(笑)、参考までに。
なお、ひとつだけ残念なことが。このセットは4枚まとめて美麗な紙のケースに入っているのですが、そのケースの紙の噛み合わせが堅牢で、手でどうやっても開かず、結局箱をビリビリ破って開けるしかありませんでした。もったいない~