11月22日に発売された『日本妖怪大百科』の第3号(特集は天狗)に、伊豆半島西端の大瀬崎にある大瀬神社の天狗についての記載がありましたので、見に行ってきました。伊豆に住んで長いですけど、この神社が天狗の神社だという事は知らんかった。(夏場に非常に混むところなので、敬遠していたんですよね)。当誌には、神社の内壁にかかっている奉納された天狗のお面と、天狗の絵馬の写真が載っておりました。※ちなみに記事中には「おおせじんじゃ」と書いてありますけど、「おせじんじゃ」が正しいですよ。伊豆通は間違わない。
大瀬崎へは私の家から30分弱です。あいにく曇天で雨がぱらつく。ちょっと寒いです。
駐車場代1時間300円。
入り口の案内板には天狗の説明はありませんが、愛らしいイラストがありました。これは、上の本に写真が載っていた絵馬の絵と同じ絵ですね。ここの天狗はカラス天狗なのでしょう。
駐車場から岬の先端までは遠いです。途中、ダイバー向けの宿泊施設が建ち並ぶ。この季節のこういう施設は寂しいもの、、、 と思いきや、浜辺には100人を越える潜り人さんたちがおられ、大盛況。この人達、こんな寒い日に何してるんじゃ。…でも羨ましい。浜辺には温かいお風呂がたくさん設置され、それに入るのは幸せそうでした。
神社へ行く途中の数百mは、ねじくれた巨大な木が立ち並ぶ。大瀬崎名物、柏槇(びゃくしん)の巨木だそうです。すごい木だなー、と眺めていましたが、葉を良く眺めてみると、これ、私の実家でも生け垣に使ってた木じゃないですか。(今はコンクリ壁にしちゃったけど)あのまま千年くらいほっとけば、私の実家もこんなバケモノのような木に取り囲まれてたのか。
入り口の鳥居をくぐると、傍らに天狗のウチワ(?)のオブジェがあります。
これは期待が高まります。
しかし、ここで神社と神池の拝観料100円を払わねばならないのですが、その料金所が無人でした。料金は箱に入れるようになってます。ここでいろんな事を聞き天狗絵馬も買ってみようと思っていたのに、アテがはずれます。悪い予感は当たります。「絵馬殿」なる不思議な建物があったのに(←なかなか大きいです)、その扉は閉まっていて、脇にある絵馬掛け場にもたった2枚の絵馬しか吊されてません。(どちらも天狗絵馬じゃなかった)。これを見に来たというのに~。絵馬殿(北条義時みたいだ)の中には何があるんでしょう?
さらに、階段を登った上に「拝殿」と「本殿」があるのですが、こ、ここも閉まってる~。多分この中に天狗の面があると思うのに。写真だと格子の隙間から中が覗けると思うかも知れませんが、これ磨りガラスでして、全然中が見えないです。この神社の主神は引手力命だそうですが、一体中には何が飾ってあるんでしょう。見るつもりのものにここまで振られると、すごく悲しくなってきてしまいます。
しかし!
上の彫刻がやたらと豪華だなー、と思い、まじまじと眺めてみると、私の失望は歓喜に変わります。天狗だっ、天狗様がおわすっ。すごい素晴らしい天狗の彫り物が、一面に彫り込まれています。神社のこの部分は、神社によってすごく多彩な題材が飾られ、それがその神社の方向性を示していると思うのですが(三島大社は源頼政の鵺退治)、ここまで天狗を彫り込んでいる神社は他にあるでしょうかっ? (※調べてみると、新潟県栃尾市の秋葉神社の彫り物も天狗だそうです。浜松市の千歳町の山車も天狗の彫刻だそうです。これ、来年見に行こう)
しかし、この神社のこれは見事だ。
これをみるとここの天狗は普通の鼻高天狗のようですが、
別の場所にもっと素晴らしい天狗がおわします。
これはすごいっ。なんだこれっ。
検索してみるとこれを「カッパ天狗」と名付けている人もありますが、太陽の光輪のように振り乱した髪と、2本の棒(なにこれ?)を振りかざし、厚い雲を踏みしめる躍動的な足の形が素晴らしい。
最初のレリーフに話を戻しまして、「これは何の場面?」と考えますと、恍惚の表情で宙を舞っている少年から想像するに、これは牛若丸とそれを指導する鞍馬天狗(もしくは鬼一法眼)、そして見守る魔王尊なのかもしれませんね。「だとすると左上にいる怪物は何?」と考えたくなりますが、これは武蔵坊弁慶の寓意やただの通りすがりのグリフォンの可能性もありますし、これが牛若丸だとしたら対するのは弁慶じゃないとおかしいのですが、もしかしたらこれは太平記に出てくる「崇徳上皇」(=金色に輝く巨大な鳶)なのかもしれませんね。前掲の私の説によると、悪の大魔王=源頼朝は崇徳の手先となるわけですから(笑) (※本気にしないでくださいね)
これらの彫り物が太古からあったものなら感激しますが、この神社は延喜式にも記された式内社ではありますが、度重ねて地震や津波に襲われて廃墟となり、現在の社殿は昭和14年に再建されたものだそうです。この彫刻もそのときものでしょう。大きな天狗のレリーフの方はこの神社に伝わる天狗伝説から想を得た全然関係ない題材のもので、その前部にあるかっぱ天狗の方が、この神社を支配する天狗を顕しているものだと思われます。
看板の由来書きや沼津市の観光案内には天狗の事についてちらりとも触れていないのですが、その気になって見ると境内には不思議なものがいろいろあります。
神社の四隅と鳥居のそばに置かれた鉄製の一本足の下駄。
ちゃんとした写真を取り損ねたのですが、社殿の右側にたくさんかかっている赤い布は、漁師たちが納めた赤フンドシだそうです。石祠もたくさん。
こういう神社では、脇に彫り込まれている彫り物も見ものですが、この神社ではこういうものでした。
海に関係の深いこの神社の特性から見て、この彫り物はヤマトタケルか新田義貞の鎌倉攻めの光景かと思ったのですが、この神社の社伝に「源為朝と源頼朝が剣や弓矢やかぶとを奉納した」とあることから、これは頼朝と為朝なのだと思われます。(津波でその宝物は失われてしまったそうですが)。為朝は髭の生えた老人姿です。だとすると、鏡を奉納したという北条政子の像もどこかにあるはず、と思ったのですが、捜しても見つかりませんでした。
この神社の一番の見所は、「伊豆七不思議」の筆頭に挙げられる不思議な神池で、当地に伝わる天狗伝説もそれにまつわるものです。上掲の本によると「池には一艘の小舟が浮かんでいて、夜中になると池で魚を捕る不届き者をこらしめるために、神社から天狗が飛んでくる」というのですが、、、 池には小舟などありませんでした。残念。
覗くと無数の鯉がいて可愛らしく寄ってきますが、コイのエサ代100円は払えないので空しく逃げ出します。案内板には数万匹の淡水魚がいて底なし沼であり、富士山の伏流水が湧いていると書いてあります。確かに、津波が来たらすぐに沈んでしまいそうな場所にあるのに、淡水の池であるというのは不思議です。「この池で魚を捕ったり潜ったりすると神罰で即死あるいは精神喪失になる」と書いてありますが、天狗が神罰扱いなんですね。(実際に地元伝承を大事にして調査していない、というのが嬉しいです。死人が出たという故事があるからかもしれませんが)。池はビャクシンの森に取り囲まれています。他の地域では天狗は杉や松の木の上にいることが多いですが、ここではビャクシンの木がそれなのです。木々の間に中世の豪族・鈴木氏の城跡があって感慨深かった。
鈴木館跡。実際に建物が建ち並んでいた中世の光景を想像すると不思議な感じになる、とても微妙な位置にあります。実際、津波に襲われて別の場所(江梨郷)に移転したそうです。ここの武士達は神池の魚を食べたんじゃないかしら?
駐車場の傍らの供養塔に、変な像がありました。
ここの神様は引手力命というのですが、ウィキペティアによると伊豆にしかいない謎の神様だそうです。684年に四国から土地を引っ張ってきて、ここに島を現出させた神様なのだとか。国産みの神という事で、三島大明神と関係があるのかも知れませんね。
伊豆での天狗伝説で次に調べようと思っているのが、「山伏峠の伝説」です。伊豆には2つの「山伏峠」があるのですが、そのどちらにも「むかしここで数百人の山伏が戦った」という言い伝えがあるのです。この山伏というのは天狗ではなかったでしょうか。少なくとも正史には現れない事件ですので。恐らく、どちらかの峠で起こった知られざる歴史的事実がもう片方の峠にも混同されたのだと思うのですが、ここで戦った「山伏」とはどんな勢力かと考えますと、、、、 伊豆に古来からいた伊豆山や箱根の山伏は仲が良く、戦うなんてことは有り得ませんから、中世になってからこの地に入り込んできた熊野系の山伏がその対抗者に当たるのだと考えられます。
静岡県は東京都に次いで「鈴木さん」が多い土地なのだそうですが、伊豆はとりわけそれが多い。伊豆の鈴木さんは系譜がかなりはっきりしておりまして、南北朝時代に熊野からこの地に移り住み、この大瀬崎に館を作った海将・鈴木繁伴がその祖なのだとか。で、鈴木さんがいるところには熊野信仰が盛んになるのだそうです。伊豆に侵攻した北条早雲は、堀越公方と結びついていた箱根勢力に対抗する為に(?)鈴木氏とその海軍を家臣として迎え入れ、熊野社を保護して、伊豆中に熊野神社が造られました。上記の「山伏の対立」はこのあたりの事情を反映した逸話なのではないでしょうか。だとすると、伊豆の熊野系天狗の根拠地は、この大瀬崎になるのですよ。一方で、北条早雲に助力した伝説の人物・風魔小太郎も天狗だと思われますが、これは足柄の出身ですからね。この探求が、次の私の課題。
話変わって、赤い鳥の宝探しのはなし。
トレキューブという企画の静岡県の項に、次のような問題文があったのです。(会員登録しないと問題文が見れませんので、ここに全文抜粋しますね)
★水のクリスタル
ここにいる海の神と湖の神は、とても仲が悪かった。
もうだいぶ前の話になる。海と湖が近いこの地では、2人の神が顔を合わせる度にケンカをしていた。
住んでいる生物はどちらの方が立派だの、水質はどちらの方が優れているだの、理由は小さなことばかり。
お互いのところに住む生物たちはもちろん、
人間もその争いに耐えかねてこの地を離れる者も出てきた。そんな状況を見かねた大地の神が、2人の神にある提案をした。
「2人の間にある土地に、クリスタルを置こう。
これには人々や生物が集まるようなパワーがある。
ただし、2人が持つ『水』の力を合わせないとたちまち消えてしまうから、
気をつけてくれよ。」海の神と湖の神は最初は気が進まなかったが、
つきあいが長い大地の神からの提案ということで
仕方なくクリスタルを守ることにした。
すると本当に人々が戻り、生物たちも活気づき、
みんなの顔に笑顔も増えると2人の神もうれしくなった。
こうして2人の神は仲直りをして、この地も平和になったということだ。現代になっても2人の神が守るクリスタルはその地にあり、
仲の良さを象徴する名前が付けられた建物の中にあるといわれている。
『水』の力を必要とするので、
建物内にある『水』の近くではないか、という噂だが・・・。
この文章を読んで、「海と湖が近い土地」というのは大瀬の神池か浜名湖のどちらかに違いない!と思って、一生懸命捜しました。うーーーん。「仲の良さを象徴する名前が付けられた建物」というのがポイントなんですよね。なんだろう? 浜名湖だと、捜す範囲が広すぎると思うんですよね。私は勘のかなり悪い人間ですから、探し方が悪いのかもしれない。静岡県で他に該当する場所はありますか? 佐鳴湖か一碧湖かもしれないとも考えましたが、うーーーん。うーーーん。