長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『 This Armor 』

2015年02月28日 23時28分41秒 | すきなひとたち
鬼束ちひろ『 This Armor 』(2002年3月6日リリース 東芝EMI )

時間 51分00秒
プロデュース 土屋望・羽毛田丈史
チャート最高順位
週間3位(オリコン)

 『 This Armor(ディス・アーマー)』は、鬼束ちひろ(当時21歳)の2ndアルバム。
 ミリオンヒットを記録した前作『インソムニア』(2001年)に続く2ndアルバム。本人は、「前作の延長線上」、「インソムニア2」と語っている。タイトルの「 Armor 」については、前作のタイトルと同様に「響きが良いから。」という理由で採られた他、「 Armor や鎧という言葉に引っかかりを感じていた。」とのことで、『インソムニア』がリリースされた時期には、すでに次回作のタイトルに決めていたという。また、「鎧というのは普段の服飾やメイクであり、そういった鎧を脱ごうとか装着しようということを言いたいのではなく、そういう鎧が存在するということを言いたい。」と語っている。収録曲『 LITTLE BEAT RIFLE 』における「剣」や「弓」、『 Arrow of Pain 』の「矢」、『 infection 』の「仮面」、『 CROW 』の「盾」や「鎧」などというような、「Armor」に関連するような歌詞のフレーズが一貫したコンセプトになっていると解釈されることも多いが、鬼束本人は「いたって偶然。」と雑誌のインタビューで回答している。アルバムのジャケット写真は沖縄県宮古島で撮影された。
 すでにリリースされたシングル曲をのぞくタイアップ起用曲のうち、『 Our Song 』以外は、前作同様にアルバムのリリース後に起用が決定している。
 もともと、本作には楽曲『 A Horse and Queen 』が収録される予定だったが、アルバム全体のイメージに合わないことから収録を見送られた。その代わりに、2ndシングル『月光』(2000年)カップリング曲の『 Arrow of Pain 』が初めてアルバム収録されることとなった。この『 A Horse and Queen 』は、後に『 A Horse and A Queen 』とタイトルを変えて4thアルバム『 LAS VEGAS 』(2007年)に初収録されることとなる。
 オリコンウィークリーチャートは最高3位を記録した。


収録曲
全作詞・全作曲 …… 鬼束 ちひろ
プロデュース  …… 羽毛田 丈史

1、『 ROLLIN'』
 タイトルは本人によれば、「ロールプレイングゲームの現在進行形」であり、本人の造語である(「ロール」のスペルは「 ROLE 」であり、「転がる」という意味の「 ROLL 」とは違う)。歌詞の内容もロールプレイングゲームを意識した内容となっている。プロモーションビデオはスタジオで演奏・歌唱する模様を撮影している。

2、『茨の海』
・映画『群青の夜の羽毛布』(2002年公開 監督・磯村一路)主題歌
 アイリッシュホイッスルを使用してケルティックさを漂わせながらも和風な雰囲気になっており、洋楽志向の鬼束本人にとってもスタッフにとっても、この楽曲が出来上がったことは異例のことだったようで、この曲を気に入ったプロデューサーの羽毛田丈史が、自身が音楽を担当した映画『群青の夜の羽毛布』の制作スタッフにこの曲を推薦して、同映画の主題歌に起用されることが決定したという。本人はラジオ番組などで、「四方八方茨だから痛そう。」と語りながらも、「感情って物は言葉にできないけれど、自分なりに解釈して言葉にした結果」、「和をもって切なさを越えた安堵感を表現した。」とコメントしている。

3、『シャドウ』
 本人曰く「地下の歌」。デビュー前に作られた楽曲のうちのひとつを改めて作品化したものであるが、本人はタイムラグを感じず、当時の気持ちのままですんなりと収録できたという。チェロ演奏に溝口肇を迎えている。

4、『 everything, in my hands 』
 本人曰く「鬼束最速の曲」で、これまでの楽曲の中で最もテンポの速かった『 Cage 』よりも速くなっている(だが、後に『育つ雑草』がこれを超える)。もともとはミディアムナンバーであったが、『 Cage 』同様にプロデューサーの提案によってテンポアップされ、非常に速い曲になったという。鬼束が少女時代に感じた、「こんな大人にはなりたくない。」という気持ちを思い出して制作したという。

5、『 Our Song 』
・ネスレ「ブライト」CMソング
 鬼束が初めて公式に発表した(高校生時代は歌詞を英語で書いていたため、初めて英語詞で書いたわけではない)英語詞の楽曲。もともとは CM用に書き下ろされた楽曲で音源化の予定は当初なかったが、視聴者からの問い合わせが殺到したことからアルバム収録が決定したという。「これは完全に世界観を創って生み出した。」と本人が語るように、CM の映像からヒントを得て制作された。なお、本作の歌詞は鬼束自身と、mayuという人物が共同で作詞したとされている。

6、『流星群』

7、『 LITTLE BEAT RIFLE アルバムバージョン』
 シングルバージョンとは異なり、キーを半音下げてピアノのみのバラード調にアレンジされている。

8、『 Arrow of Pain 』

9、『 infection 』

10、『 CROW 』
 アルバムの核となるとされる作品。鬼束はカラスに対して憧れを持っているようで、「嫌われ者だけどとても頭が良く、誰の目にも左右されない凛とした性質が個人的にはとても好き。」と語っている。


 わたくしごとですが、私が最初に買った鬼束さんの CDなので、特に思い入れのある作品です。大学の生協で買ったんだよなぁ。私も若かった~!
 つらつら思いまするにアーティストのアルバム作品って、第1作がいちばん有名な場合がほとんどだと思うんですよ。やっぱりデビューのインパクトは大きいですし、世間も「だいたいそんな感じだよね。」というイメージを固定化させて馴れていきますから。
 でも、そのアーティストの実力は当然ながら、キャリアを重ねていくにつれて、その頂点に達するまでは高まっていくわけなんでありまして、第2作以降のほうがあらゆる意味で上手になっていくんじゃないかと思うんですよ。もちろん、1stアルバムをうめるまでに頂点に達しちゃう人もいるのでしょうが、無論のこと、鬼束さんはそうではなかったのだと思います。波乱万丈の道行きは、まだ始まったばかり!

 さて、アルバムとしての前作『インソムニア』は、まさしく神がかった名曲『月光』を堂々とコンセプトの中心にすえ、過去作を羽毛田プロデュース体制で一新することによって、統一感の高い長編作品の様相を呈したわけだったのですが、作品同士でも強力なつながりがありました。キーワードとしてパッと思いつくのは3つ、「あなた」、「ひたすら受け身のわたし」、そして「いるのかどうかわからない GOD」です。これぞ、初期鬼束三身一体の構図なり!!
 『インソムニア』の楽曲は、『This Armor』と同じく10曲なのですが(プラス『月光』の別バージョン)、その中で「あなた」が歌詞に出てくるのは半分の5曲(『月光』や『眩暈』など)、はっきりとした二人称に向かって語りかけている形式の楽曲は2曲(『イノセンス』と『 call』)。これは、そ~と~に濃厚なふたりの関係ですよね。でも、ここで押さえておきたいのは、んまぁ~ものすごい勢いで一人称が語りかけ訴えかけているのにもかかわらず、それに対する「あなた」の具体的なリアクションが一切ないということなんです。わたしがこんなに血を吐くほどあなたを欲しているのに、あなたはなんにも答えてくれな~い! 遠藤周作の『沈黙』かチキショウメーイ!!
 そうなんです、「わたし」は、自分の思い通りの返事をしてくれない「あなた」を通して、「 I am GOD`S CHILD!」と自分に言い聞かせ信じても信じても、どこかでわずかに、そんなもんいないんじゃないかと疑ってしまう「 GOD」を重ねてしまっているんですね。この懊悩が、気分の浮き沈みこそあれ、ほぼ全曲に一貫していると。
 そしてまた、悩み苦しむがゆえに、

「あなたなら救い出して 私を」(『月光』)
「足りないなら 求めて」(『イノセンス』)
「行かないで 消えないで」(『 edge』)
「ねぇ 何か言って」(『 call』)
「 It pressed me It blamed me again and again」(『シャイン』)
「神様 あなたがいるなら わたしを遠くへ逃がして下さい」(『 Cage』)

 と、その場にとどまって「あなた」やら「 GOD」の助けを待ち続けている受け身のわたしが、やたらめったら出てくるのです。ただしそんな状態の中でも絶妙に気持ちだけは、

「 We can go to the place Where we`re forgiven」(『 We can go』)
「椅子を蹴り倒し席を立てる日を 願ってた」(『シャイン』)

 と希望を見出そうとすることもあったと。
 ただしそれも、「あなたを忘れる事で天にまで届く」(『螺旋』)という、かんなり無理ゲーな条件つきであり、結局は「今はあなたのひざにもたれ 悪魔が来ない事を祈ってる」(『眩暈』)という、「なんにも進まんのかーい!!」状態に落着するのでありました。

 なんなんだ、この鋼鉄のように貫徹された無限ループ感は……はたから見れば呆れてものも言えないウジウジ感なわけですが、それこそが、人間なんだなぁ!!
 それだけ自分の心を、血がにじむまでひたすら凝視し続けている……あの醒めた二重まぶたで!!
 その作品をもってアーティストの人間を語ることは厳禁なのを承知の上で言いますが、あの時の鬼束さんはまさしく、平成を代表する私小説家と言ってもよかったのではないのでしょうか。
 うむむ~、時あたかも21世紀になるかならないかという時代にあそこまで自分を見つめ、GODを追い求める。宮崎県出身の鬼束さんには、隠れキリシタンの血でも流れているのか!? 江戸時代ならしょっぴかれてお白州行きよ!!

 話が『インソムニア』にいきすぎてしまいましたが、ここまで完成度の高かった前作を受けて、そのほぼきっかり1年後に、きっかり10曲を収録して世に出た待望の第2アルバムこそが、この『 This Armor』だったというわけなのです。あの『月光』に匹敵する名曲『 infection』を擁して堂々の船出だったわけですが、そのプレッシャーもかなりのものだったでしょう。そのお味や、いかに!?

 アルバム『 This Armor』を聞いて浮かび上がってくるキーワードはすなはち、「ついに歩き始めたわたし」!

 前作『インソムニア』において、願うだけでなく具体的に実行に移せたわたしの最大の前進は、「足跡だらけの道など走るのはやめて 切らした息を元に戻すの」(『 BACK DOOR』)、つまりは「立ち止まる」にとどまるという徹底ぶりでした。しかもその後に目指す突破口を「 BACK DOOR(裏口)」って表現しちゃうんですから、後ろ向きにもほどがあるよ!!

 それがなんとまぁ、『 This Armor』ではどうだいあんた、

「ひとりきりでわたしは人魚へ この脚であなたなど褪せる程の楽園へ 必ずいけるから
 信じなくたって いい」(『 ROLLIN`』)
「あなたの放り投げた祈りで わたしは茨の海さえ歩いていける
 正しくなど 無くても」(『茨の海』)
「あなたのようには 決してならない」、
「『わたしならどうにでもなる』と 手あたり次第放り投げてみる
 この身体が血を噴き出す程 ぶつかれる壁があればいい」(『 everything,in my hands」)

 といった感じで、明らかにポジティヴな意思をもって、あんなに巨大な存在だった「あなた」の助けを拒むことだって辞さない覚悟で自立を始めようとするのです。これはものすんごい前進ですわ! このさい、「人魚なんだから尾びれじゃない?」という指摘は黙殺!! ほら、上半身が魚のタイプかもしんないし。
 ただ、さすがに『 This Armor』すべてがそうなわけでもなく、やはり鬼束ワールド特有の「ぶれ」でもってがっつりテンションを下げ、

「誰かの何かがトドメを刺すのを待ってるわたし」(『シャドウ』)
「あなたが触れないわたしなら 無いのと同じだから」(『流星群』)
「わたしの放った矢はあなたには刺さらなかったのに
 どうしてわたしの方が痛くて泣いてしまったのだろう」(『 Arrow of Pain』)

 と受け身だったり、あなたのノーリアクションに大きく心を揺さぶられるところも残ってはいるのですが、『シャドウ』も『 Arrow of Pain』も『インソムニア』時代かそれ以前の楽曲であるということですし、『流星群』もかなりおだやかな唄い方になっているので、むしろ『 This Armor』期の鬼束さんの変化を際立たせる効果にさえなっているのではないでしょうか。
 さらに新しいのは、

「 I wish you have peace of mind」(『 Our Song』)
「ただあなたができること かろうじて愛せること」(『 LITTLE BEAT RIFLE』)
「もう誰もあなたを攻めたりしない そんなの早く脱ぎな」(『 CROW』)

 と、ついにわたしの側からあなたに対して「こうして!」と行動をうながすメッセージを送っているということなのです。積極的ィイ。

 ご本人が語っておられる通り、鬼束さんは今回に限らずデビュー当初から、自分の肉体にまとわりつく重圧を表現する際に「鎖」(『月光』)、「両足につけた鉛」(『 BACK DOOR』)、「身体から零れ落ちたトゲ」(『 Cage』)、「サビついた怒り」(『螺旋』)と、やたらに金属的だったりとげとげしい物にたとえる手法を取っていたので、この『 This Armor』で出てくる鎧っぽい表現の数々も、特に目新しいことではありません。そういうとこがジャンヌダルクっぽいのかなぁ。でもマリア様じゃないんだよな、鬼束さんは。時代劇で細川ガラシャやったら、ハマったろうなぁ!! 家来の槍くらいでは死にそうにないけど。

 そして、鬼束さん本人は肯定も否定もしていないわけですが、アルバムの最後の『 CROW』で「脱ぎな」と言っている以上、心の鎧は、かの映画『ベルリン天使の詩』の天使のように、脱ぎ捨てるべきものだというメッセージを与えるんじゃなかろうかと。非常におだやか~な締めくくり方ですよね。『インソムニア』からの大いなる成長を感じさせる、日なたの温かさ、心地良さを思わせる余裕があることが、『 This Armor』の魅力の一面なんですよね。

 だが、しかし。
 『 This Armor』ぜんたいを聞き通すと、な、ぜ、か! 「ついに歩き始めたわたし」というワンテーマだけでは終わらない、何とも言えない「すわりの悪さ」が、このアルバムに通底していることも事実なのです。さっき言ったように初期の作品が紛れ込んでいることもそうではあるんですが、それ以上に、今までつづったようなリズムを決定的に狂わせてしまうような「異端の曲」がドスーンと入っちゃってるんですよ……

 そう、それこそが『 infection』なんです! それがなんてったって、このアルバム最大の名曲なんだもん、そりゃパワーバランス、ガッタガタですよ!!

 『 infection』はもう、わたし、わたし、わたし!! 救ってくれるあなたも GODもいない無明の深夜の世界。そして心の大爆発! はーへんがぁああ~!!

 鬼束さんよ……やっぱり、あなたはとんでもない天才なのだ、切れば熱い血潮が流れる、生身の人間でありながらも!!
 私には見える……体裁のいい、ケルトだかなんだかわかんない、ミョ~に耳ざわりのよろしい編曲にのせておだやかな表情で唄おうが、人の心の弱さを繊細に語る歌手と世間にちやほやされようが、そんなあれこれでは絶対に満たされない、グツグツとしたマグマがせり上がってくる業をおさえられない、桜島もビックリの活火山を、その身長150cm そこそこの肉体の内にかかえる、ひとりの女性の姿が!! ニコニコ笑いながらも、しだいに青筋がビキ、ビキ……とおったっていく、その阿修羅のごとき、鬼子母神のごとき、カーリー神のごとき、二律背反性!!

 矛盾こそが人間、矛盾こそが鬼束ちひろ!!

 結局、こんな鬼束さんがキリスト教にこだわっている時点で、遠からぬ先の破綻は間違いないわけなのでありまして。信じるものが唯一絶対神であろうが、少なくとも鬼束さんの中にいるのは、豊穣と災厄のどっちも気分次第でブチこんでくる「多神教的な神」、なのよねぇ。

 というわけでありまして、歴史的名曲『 infection』がありながらも……というか、それがあるがゆえに異様にムラのある異形のアルバムとなった『 This Armor』なのでありましたが、商業的な安心感を与えようとする羽毛田プロデュース体制と、それでも隠し切れない情念を間欠泉のように噴出させる鬼束さんとの、ちょっぴり危険な対立の萌芽も感じさせる1枚なのでした。これから一体、どうなるというのか!?

 さぁ、盛りあがってまいりました!!

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ごった煮! 裏プリキュアオ... | トップ | Berryz工房さん大変お疲れさ... »

コメントを投稿

すきなひとたち」カテゴリの最新記事