長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

ぼくらはまだ、旅の途中 ~三条会『ガリバー旅行記』~

2019年12月31日 21時14分12秒 | すきなひとたち
 どうもこんばんは! そうだいでございます。いや~、いよいよ年の瀬ね。
 改元して最初の年越しですね。なんだかんだいってましたが、いちおう山形もそれなりに寒くなり、雪も降るようになってきました。でも、午前中はまだ雨だったんだよなぁ。
 令和、どうですか、皆さん? おだやかにお過ごしでしたでしょうか。
 私はといいますと、相変わらずお仕事であくせくしてはおりますが、昨年度に比べてだいぶ楽に働かせていただいておりますので、大病することも大ケガすることもなく、無事に年を越せそうであります。
 今年いちばん大変だったことっていっても、そんなに大したことはなかったなぁ。
 強いて挙げれば、庄内地方に出張した時に忘れ物をしちゃって、夜中に月山道を往復するハメになっちゃったくらいかな。トータル200キロですか。夜中の月山は霧がすごくってねぇ。むしろ道ばたに人がいた方が怖いっていう、文字通りの「人外の地」と化してましたわ……楽しかったから良かったですけど。

 そんなこんなで例年になく平和に過ごせた2019年、令和元年だったのですが、年の瀬に恒例の演劇鑑賞ということで、東京に行ってまいりました。

三条会公演 『ガリバー旅行記』 (2019年12月26~29日 下北沢ザ・スズナリ)

 毎年の年末に(あっちょわ~、これ私の記憶違い! 年末恒例じゃありませんでした……)東京・下北沢で行われる三条会の定期公演。今回は過去上演作品のリニューアルではなく、完全新作ですね。
 お題は、アイルランドの作家ジョナサン=スウィフトのモキュメンタリー小説『ガリヴァー旅行記』(1726年)ということで、う~ん、30年ぶりの改元があり、来年は東京オリンピックがあるこのタイミングでこの作品を選ぶとは! おやりんさる。

 原作小説は、「理想のユートピアを見つけたぞ!」から、「でも住んでみたらダメなとこばっかでした……」というオチにつながるパターンが続く、脱力系の「世の中そんなもんよね」的風刺小説ですね。
 今回をきっかけに読んでみたら、びっくりするほど読みやすかったですね。そして、言ってることというか、スタンスが『奴婢訓』(1731年)とまるでいっしょなのが面白かったです。いや~、スウィフトさんとは呑みたくないなぁ~!

 物語の内容うんぬんに関しましては、お話自体、ちょっと大きな書店に行けばたぶんいずれかの出版社の文庫版が売ってあるくらいメジャーなものですのでくだくだと申さないことにしますが、観劇した感想としましては、やっぱり今回も、ものすごくおもしろかった!!
 おもしろかったと同時にびっくりしたのが、原作の主人公ガリバーの心持ちに恐ろしいまでに肉薄した内容になっているがために、演劇を通り越して「旅」に近い感覚の娯楽になっているということでした、今回の公演が!
 これはまいりました。もちろん、劇場の中で上演されて、ある程度決まった時間の中で終了する以上、演劇であることに変わりはないのですが、外に出て歩き回ったわけでもないのに、なんかすご~く長い時間、知らない国々を旅していたような気がするし、なにかを実際に体験して帰って来たかのような感覚を得ているのです。

 演劇っぽくない、というか。いや、それは単に、私の少ない経験からくる「えんげきってこんなん?」という思い込みの範疇を超えているだけのことで、「本物の演劇」というものは、そもそもこのくらいの力を持っているのかも知れません。
 なぜなのだろう……まず思いつくのは、「演劇に出演している」というつもりで舞台に立っていない人物……いやいや、犬物が物語のそうとう重要なポジションを担っているからでしょうか。
 単なる出演者のペットとして、なんかじゃありません。堂々たる出演! しかもガリバーを相手にある国を代表して対話する主権者フウイヌムとしてですよ。
 あれ、ご本人じゃなくてご本犬たちは、その状況をどこまで理解しているんですかね? 「なんか普通の散歩じゃない。」「家のリビングでもなさそう。」「うわっ、かなりいっぱいの人達が、暗がりからこっちを観てる!!」っていう膨大な新情報をどう自分の中で処理してるんだろう?
 ただ、私が観た回では、公演日程の終盤だったせいか(28・29日)、客として観て不安になるような素振りは全くしていませんでしたね。落ち着いてたなぁ! たまにどっかに行こうとはしてたけど。

 もちろん、トキコさんもパブロフさんも、経験の積み重ねがあって覚える部分もあるのでしょうが、それでも、「演劇としての段取り」を身につけようとはしないまま舞台に立っているわけで、そうなると、自然その方々に対する人間の俳優陣も、演劇としての段取りを使ってもしょうがないということで、別の向き合い方が必要になるわけです。まさか、とって喰われるという危険はないでしょうが、人間の俳優を相手にしているのとは、たぶん全く違うチャンネルの作法とか、緊張感が生まれるんだろうなぁ。

 「旅行」っていうのは、結局「日常じゃないもの」に出会いに行くというおこないだと思うのですが、演劇をしてる人にとって充分に日常じゃない空間を提示するのが、「共演者が犬だ」という条件ですし、演劇を観に来た人にとっても、「舞台に犬がいる、しかもけっこう長い時間!」という情報はそうとう日常じゃない風景なわけなんですね。なるほど~、だから旅行っぽいのか。

 主人公(今回はガリバー)の視点が常に中心にあり、その周りでさまざまな物事がめまぐるしく展開していくという構図は、今パッと思いつくだけでも、三条会の過去の公演でいえば三島由紀夫の『近代能楽集』の『邯鄲』とか、夏目漱石の『夢十夜』とかが思い浮かびます。日本の幻想文学史に目をやりますと、奇しくもスウィフトの『ガリヴァー旅行記』とそう変わらない寛延二(1749)年の夏に、今の広島県三次市で「ほんとにあった事件」という触れ込みで記録された『稲生物怪録』というとんでもない奇書がありますね。これは旅ではありませんが、稲生平太郎という当時16歳の少年の家に30日間毎晩毎晩妖怪が出続けたという、「ヘンな夏休み」の克明な記録です。いっぽう映画でいいますと、『夢十夜』にインスピレーションを得たという、黒澤明の『夢』が、主人公が狐の嫁入りだの等身大ひな祭りだの、ゴッホの絵だのといったいろんな世界を旅するという構図になっていますよね。

 ただし、今回の『ガリバー旅行記』がそれらとちょっと違うのは、よりはっきりと主人公ガリバー(になろうとする男)が物語の中心にい続けているのに、最後に彼が明らかに変容して退場することによって、ついに物語が終わる、というところなんじゃないでしょうか。
 たぶん、主人公が「本当の旅行」に行く準備を終えた、というところで、今回の物語は終わってるんだろうな。じゃあ、それまでの一連の流れは、単なるシミュレーションだったのかしら? いや、でも、物語の始めの主人公とはまったく違うたたずまいになっているという意味でいえば、主人公はすでに、ひとつのちゃんとした旅を終えていると言えるのかも知れないし……深いね~!

 「だいたい行く所や観る物が決まっているパック旅行」よりも旅であり、「日本の猿回しとかロシアの熊サーカス」よりも動物が動物らしく、「動物園」よりも動物がそこにいておもしろい空間。それこそが、今回の三条会『ガリバー旅行記』であった、ということになるのでしょう。要するに、おもしろいということなんです。
 なので、「爆笑! 爆笑!!」とか、「あの長ゼリフ、よく覚えたなぁ!」とか、「すっごいアクロバティックな殺陣!」とかいう誉め言葉を全く必要としない演劇(もちろん、そういった要素もあるにしても、そこで勝負をしていないという意味で)なもんですから、やっぱり三条会は令和元年も、「唯一無二の三条会」であり続けているんですなぁ。

 「動物といっしょに演劇をする」というのも、馴れればおそらくは日常になっていくわけで、たぶん練習の日数とか公演回数のさじ加減、難しかったんだろうなぁ~。
 さじ加減といえば、大きく出てしまいますが、演劇に関わらず、人生って、仕事も私生活も「分かりきったお約束」だけじゃあつまらないですし、「予測もつかない非日常」の連続じゃあ心身がすり減ってしまいますし、安定と緊張のさじ加減がとっても大切ですよね。
 わたくしの今現在のお仕事は、まぁ私自身いまだに一人前に働けていないという体たらくもありますし、けっこう予測不能な事態も多い現場ですので非常事態感覚は適度に補給できているのですが、演劇の世界って、続ければ続けるほど非日常が日常になってくるような気がして、大変なところだな~!と余計なお世話すぎる思いをはせてしまいます。

 でも、「演者が馴れてようが病んでようが、観てる人がおもしろければそれでいい」っていう娯楽のかたちも、『ガリバー旅行記』の中の「大人国」でちゃんと語られてるという……要は「悩むな、楽しめ!!」ってことなんでしょうか。人生だねぇ~!!
 そうそう、特に「人類以外の動物が出演している」というポイントだけにこだわらずとも、今回の作品もまた、人の心の機微をんまぁ~繊細に捉えた印象的なシーンが多かったですね。私がいちばん感嘆したのは、最初のリリパット国で、皇居の火事を消火したガリバーが、その消火方法が原因で追放されてしまうくだりと、それを受けて去るガリバーの背中の哀しさでした。
 「わ、私はただ、よかれと思って……」という言葉を飲み込みつつひとり去っていくガリバー。演技と演出、照明と舞台、音響がひとつとなって、ある人生における情けない一コマを活写していたと思います。あるある! 少なくともわたくしは、そんな無数の失敗の積み重ねで、今生きてきてますよ!!
 人は魚、世の中は海。みんな絶え間なく泳ぎ回っていて、行く方向がたまたまおんなじになって喜ぶ時もあれば、完全なすれ違いになってさよならする時もあるんですよね。考えが一致するなんてこたぁ、まずないんだろうなぁ~!!
 やっぱり、人生は果てしない旅、なのかねぇ。うわ~、頭の中で、中島みゆきが流れてきた~!!

 旅行に近い公演といえば、同じく三条会の、数年前にあった「千葉都市モノレール内公演」が記憶に新しい……というか忘れられない思い出になっております。
 ただ、あれが2000年以上ある日本の歴史の中でたった1回数十分、しかも観客(というか目撃者)が100人にも満たないというもったいなさだったのに対し、今回は定期公演というかっちりした形式で間口を広げながらも、がっつりと、あのドキドキを進化させたものになっていたのには、感服いたしました。

 そして、ここまで全く触れてきませんでしたが、そういった「人類でない出演者がいる」という状況だったり、そもそも「300年前の外国の小説をおもしろく上演する」といったりした恐るべき冒険旅行に果敢に挑戦し、見事な収穫を見せつけてくれた俳優陣にも、これは賛辞の拍手を贈らずにはいられません。
 客演の方もけっこう多いというのに、なんでこんなに一体感のある、バランスの取れた集団になっているのか……不思議で仕方ありません。やっぱり、全員で道を探していくと語られていた、その稽古の過程に秘密があるんだろうか。
 こんな言い方をすると実もフタもないのですが、演出のフォローによって俳優陣を実力以上によく見せるという、いわばアンプもスピーカーもふんだんに使った大音響ライヴっていうのが、「なんか若いなぁ!」っていう感じの演劇だと思うのですが、最近の三条会のお芝居って、完全に俳優さんおのおのがたの実力でしか勝負しない室内楽アンサンブルのような魅力にあふれているような気がするんですよ。音を響き渡らせるのは演者の仕事、ちょっぴりハズれてしまった時も、責任を取るのは演者の仕事という。かといって、演出が何もしていないわけでは全くないということは、ここまでしつこくつづってきた通りであります。
 なので、「もっと広い会場でやろう!」とか、「1ヶ月ロングランだ!」という野心でカンパーイ☆な集団のあり方とは対極の位置にありながらも、演出や俳優にかかる負荷は同じかそれ以上に重いというシビアな世界に、現在の三条会は身を置いているのではなかろうか、と。それで、作品の中ではあのように笑顔で楽しそうに演じてるんだもんなぁ。これは、すごいことですよ。

 勢いだけでもない、技術だけでもない。それ以上に広大な演劇の可能性を体現してくれているのが、この21世紀の日本における三条会のあり方なのではないでしょうか。
 みなさん、これからも頑張ってほしいですね……今のみなさんだったら、何だってやれる! 言われなくてもわかってますか。

 三条会の『ガリバー旅行記』は、空港の荷物受け取り口のような場所で職員が挨拶をしている場面から始まって、最後もそれとまったく同じ配置でしめくくられます。
 私たちは、まだ旅に出ていないのか? もう旅から帰って来たのか? それとも、全てが旅の途中なのか……
 なんとなく、終演して劇場からおのおのの家へ帰っていく道から始まる、お客さん一人一人の「それ以降の人生」に対して、俳優さんがたが「お気をつけて!」と見送っているような気がしなくもない、エンディングなのでありました。おもしろいねぇ~!!


≪余談≫
 今回、この『ガリバー旅行記』のあるシーンに触発されて、渋谷の映画館で衝動的に映画『スター・ウォーズ エピソード9』を見てしまいました。
 いろいろ賛否両論の激しい作品ですが、『スターウォーズ』サーガ中、ちゃんと見ているのはエピソード2・3・4・5・6と『ローグワン』、いちばん好きなキャラクターは「グランドモフ・ターキン」という門外漢のわたくしの感想としましては、最後の最後のワンカットが「ちゃんと旅の終わりっぽくなっている」という理由から、まぁよろしいんじゃなかろうかと思いました。
 しかし、あの主人公の女の子、目の力がバンカラの学ランを着ててもおかしくないくらいに男らしかったなぁ!! ハリウッドで実写版『うる星やつら』が製作されるとしたら、竜之介はあの娘だな。「オレハ男ダー!!」って絶叫しながらライトセーバーぶんまわしてほしいです。
 「レイ」と「レン」がまぎらわしい。

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