長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

さよなら細川先生 『金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件』 解決編

2011年01月21日 22時26分47秒 | 愛すべきおっさんがた
 ども、こんばんはー。そうだいです。いやぁ、最近は働く時間が午前中からになったりお昼からになったり、丸一日休みになったかと思えば丸一日働きづめの日が来たりと……まぁ不規則で充実した日々を送っております。早く春にならないかしらねェ。

 さてさて、前々回に亡き俳優・細川俊之さんをしのんだ『長岡京エイリアン』だったのですが、前回で見事に『金田一少年の事件簿』シリーズに内容を持っていかれるという、じつに不謹慎な展開になってしまいました。なんと罰当たりな!

 しかしご安心を。予告通り、今回は私の記憶の中で燦然たる輝きをはなっている名作ドラマ『金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件』の魅力をつづらせていただきたいと思うのですが、このドラマは、「細川さんの存在感」と「学園ミステリーものとしての『金田一少年の事件簿』」がまれにみる好タッグを組んだことによって生まれたものだったのです! どっちが欠けてもあの作品は生まれえなかったし、ひいては「金田一少年フィーバー」もあれほどの規模にふくれあがることはなかったかもしれないのです! いいすぎじゃあないよ。

 1992年10月の連載開始から2年以上がたった1995年4月。ついに、『金田一少年の事件簿』の実写映像化作品が、2時間枠の単発スペシャルドラマとして放送されることになりました。日本テレビによる制作で、主演は前年に出演した大問題作ドラマ『人間・失格』で世間の話題をかっさらったKinki Kidsの堂本剛(16歳)、演出はTVディレクター出身で映画監督としても活躍していた堤幸彦(39歳)。
 同じ年の7月からはいよいよ連続ドラマシリーズとしての『金田一少年の事件簿』第1シーズン(毎週土曜日夜9時から)が始まるわけなのですが、4月のスペシャルドラマは、そんな連続ドラマ化に向けてのパイロット版(試験作品)のような役割をになっていました。実写映像化という企画全体の吉凶をうらなう重要すぎる一発目! こりゃあつまんないものを作ることは許されません。てぇへんだ!

 1995年の春の時点ですでに10本の長編が発表されていた原作マンガ『金田一少年の事件簿』だったのですが、記念すべきドラマ化作品第1弾に選ばれたのは、連載第1作の『オペラ座館殺人事件』ではなく、4作目の『学園七不思議殺人事件』でした。
 なぜ連載どおりの『オペラ座館』ではなく『学園七不思議』だったのか? これはもう、1995年という放送当時に巻き起こっていたあるブームが大きな原因になっていると考えざるをえないでしょう。

 そりゃあ1995年といえばあなた、「学校の怪談」ブームのまっただ中でございますよ!
 トイレの花子さん、夜中にほっつき歩く二宮金次郎像、テケテケなどなど……前年に児童書のヒットやTVドラマ化などで火がついた、日本全国の学校に伝わる都市伝説にスポットをあてた「学校の怪談」ブームなのですが、この1995年に満を持して公開された2本のホラー映画『学校の怪談』(東宝)と『トイレの花子さん』(松竹)によってピークをむかえることとなりました。
 話は「金田一少年」からズレますが、東宝の『学校の怪談』は大人も子どもも怖がって楽しめるにぎやかなエンタテインメント作となり、1999年までに4作が制作される人気シリーズとなりました。ところが、松竹の『トイレの花子さん』のほうはというと……
 松竹版『トイレの花子さん』は、はっきり言って「看板にいつわりあり」! いや、それはそれでおもしろい。おもしろいんだけど、トイレの花子さんがベロ~ンと出てくる純粋な「怪談ホラー」ではなく、「大人がしみじみ楽しむ教育テレビ系サイコサスペンス」なんです。
 そんなジャンルあんの? と思われる方もおられるでしょうが、『トイレの花子さん』はほんとにそうなのよ。要するに、怖さの対象が妖怪や幽霊じゃないんです。そして、子どもを置いてきぼりにした落ち着きすぎのスト-リー展開。当時まだまだ高1のガキンチョだった私は、これを観て「トイレの花子さん出てこねぇ! っんだよ、だまされた!」などと激昂したものですが……30になったいま観直してみると、しみじみするんだろうか。子どもいないけど。
 さらに余談ですが、「金田一少年の事件簿シリーズ」でブレイクした堤幸彦も数年後の1998年に、今度は東映が制作した『新生 トイレの花子さん』というホラー映画を監督しています。し、新生!?
 そしてなんと、この東映版「花子」さんも、松竹版とおなじく「看板にいつわりあり」なの! ただし、「いつわり」方がまったくちがっていて、堤監督による『新生』は、「学校の怪談」系と「モダンホラー」系をかけあわせたムチャクチャ恐いガッチガチのホラー映画になっています。これはうれしい裏切りだった! 堤幸彦監督の『新生 トイレの花子さん』は、ホラーファンにはおすすめです。「恐怖の対象」となる「アレ」の造形がすばらしい!

 脱線しすぎた! ま、とにかくそんな感じで「学校」という場所がホラーやサスペンスと親和性の強いホットスポットとなっていた1995年に実写版『金田一少年の事件簿』がデヴューするにあたって、やはりもっともキャッチーでインパクトのある既発長編は、主人公・金田一一のかよう高校を舞台に巻き起こった連続殺人事件をあつかう『学園七不思議殺人事件』だったのです。ナイスチョイス!
 こういった当時の世相もさることながら、主人公のはじめが「現役高校生である」という情報をわかってもらいやすいこと、16歳のジャニーズアイドルが主人公をつとめるドラマである以上、「メインの視聴者となる公算が高い中高生にむけたアピール力がある」といった見込みもあったのでしょう。
 この選択はだいぶ当たったらしく、のちに連続アニメ化された時も、『金田一少年の事件簿』の最初のエピソードはやはり『学園七不思議殺人事件』となっています。「金田一少年シリーズ」にとっては名刺がわりのようなエピソードなんですね。

 『学園七不思議殺人事件』はまさに読んで字のごとく、はじめが通う私立不動高校で、古くから校舎に伝わっていた七不思議にまつわる謎の連続殺人事件が発生し、不動高の生徒であるはじめが事件の解決に乗り出すというもの。わかりやすい……
 おおすじは一緒なのですが、前回にもふれた通り、ドラマ化された「金田一少年」は原作とはだいぶちがったアレンジが少なからず加えられており、はじめがふだんはぼんやりしたキャラクターで、事件の直前にふらりと不動高にやってきた転校生という設定になっていたり(原作では何の変哲もないジモティ)して、どことなく風来坊のような印象の強かったじっちゃんこと金田一耕助(実際はそうでもないですが)のイメージを継承したものに変更されています。
 あとは、今回の事件で初対面となる警視庁の剣持警部が、だいぶ落ち着いた性格の冷静沈着な人物になっているという変更も堂本版『金田一少年』の大きな特徴で、ドラマの中の剣持警部は、ある時は重要な手がかりを発見したり、またある時は明晰な推理力を発揮したりと、原作では名探偵が受け持っていた役割の一部まで受けもつということに。また演じた古尾谷雅人さんのまなざしがあったかくていいんだな。ただの高校生であるはじめの意見に、「シャシャったガキが……」と軽くあしらうこともなく真摯に耳をかたむける、その紳士的な態度! とても若い頃に、あの伝説の映画『丑三つの村』で30人の村人を惨殺したことのある方には見えませんでした。ほんとに大人ねぇ。
 そのほか、賢いながらもどことなく天然ボケな雰囲気のあった女子高生ヒロイン「七瀬美雪」が、演じた女優さんの印象によってもっとしっかりしたツッコミ&女房役の色合いを強くしていたのも特徴的でしたね。
 つまり原作マンガとドラマとでは、中核に位置する名探偵・その助手・警察代表の三役が全員ちがった味わいのキャラクターになっていたんですね。これはかなりの冒険だわ。
 構図としては、原作ではシンプルに探偵と警察がエネルギッシュにぶつかりあいながら捜査を進め、そこに助手が決めてとなる助言をさし込んで事件解決となるという流れなのですが、ドラマでは堅実に捜査を進めていきづまる警察を横目で見ながら探偵が自由奔放に独自の推理を展開し、律儀な助手がそれをわかりやすく解説して両者をむすびつけるという三角関係になっているんですね。トリオ漫才の形式がまったく違っていておもしろいんだなぁ!

 とまぁ、そんなアプローチのほどこされた『学園七不思議殺人事件』だったのですが、実はこの作品だけ、それ以降の実写版でも二度と見られることのなかったさらに大胆なアレンジが! そして、それにもっとも深い関わり方をしていたのが誰あろう、劇中で不動高校の物理学教師・的場勇一郎先生役を演じていた「存在そのものがサスペンス劇場」細川俊之さん、その人だったのです!! やっと来た来た!

 はっきり言っちゃいますと、『学園七不思議殺人事件』は原作版とドラマ版とで、「真犯人が別人」なんです。なんて大きすぎる変更なんだ!
 実は、有名な推理小説が映像化されるにあたって、「犯人が原作と別の登場人物になる」というサプライズは、観客に新鮮な驚きを与えるということで、けっこう古くからやられることの多い作戦ではありました。はじめのじっちゃんこと金田一耕助の活躍した作品で映画化されたものでも、1949年版と1977年版の『獄門島』の真犯人が、原作小説とは違った人物となっています。もうビックリよ。
 そういったくわだてが『学園七不思議殺人事件』でもおこなわれたわけだったのですが……ううっ、真犯人の設定に触れる話題なので、あんまりつっこんだことが言えない!

 とにかく言えることは、「とてもふつうの高校教師には見えない!」「その年の4月まで3~40年間ジゴロをやっていた人が先生になったとしか思えない!」「放課後に人を殺しているようにしか見えない!」というあやしすぎる細川先生の演技が、ドラマをおもしろくするための非常に重要なカギとなっているんです。しかも、読んだ方ならおわかりの通り、原作マンガの「物理の的場先生」は、細川俊之さんとは似ても似つかないしょぼくれた初老の男性です。なぜこんなキャスティングがおこなわれたのかというと……ギャー言えない!

 またしても字数が埋まってきたのでまとめに入りたいのですが、はっきり言って私は、実写化された『金田一少年の事件簿』諸作の中では、この『学園七不思議殺人事件』だけが頭ひとつ抜きんでた大傑作であると見ています。あとはちょっと……ミステリーものとしてはもちろんのこと、エンタテインメントとしてもいただけないものがほとんどでしょうか。基本的に、原作以上におもしろくなった映像化作品は他にはなかったと思います。だいたいね、のちに連続ドラマ化した時のほとんどの回がそうだったんですけど、長編1作(単行本1~2冊ぶん)の物語を50分程度のドラマ1回だけに圧縮して、まともな作品ができるわけがない! そういう意味でも、約2時間のスペシャルドラマという枠は好条件だったのでしょう。

 『金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件』はおもしろいよ! あぁ、早くDVDを観られる環境を整えて、あの時、しぶすぎるまなざしを虚空に向けて校舎にたたずんでいた「夕陽の細川先生」に一言あいさつがしたい。

 細川せんせ~い! ありがとう、そして、さようなら~!!

「フフッ、きみの目はそう言っていないよ。」
 きゃ~!!

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« さよなら細川先生 『金田一... | トップ | 桜木町恨道中(さくらぎちょ... »

コメントを投稿

愛すべきおっさんがた」カテゴリの最新記事