長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

そりゃあね……おもしろくはないっすよね。  映画『清須会議』  ~10年ごしの感想!!~

2023年11月01日 23時20分00秒 | 日本史みたいな
≪前回までのあらすじ、もなにも……≫
 資料編歴代信長家臣団のあゆみの記事から、なんと10年が経っちゃったよ!


 ……いや~、ついにこの時が来てしまいました。じゅ、10年!? 感想言うのに10年もかかっちゃったの!?
 でもね、今回、ついに重すぎる腰を上げて記事をまとめようと思って、DVD で再見してみたのですが、ほんとに面白くないと私が感じた理由は、もうこんなに時間をかけるまでもなく単純明快なんですよね。ただ、当時から今に至るまでなんやかやと記事の完成を先送りにしてしまっていただけなんです。何か難しい事情があったとか、そんなことは全く無かったのであります。

 ただ、この10年で私の中での三谷幸喜さん作品への印象もだいぶ変わりました。っていうか、昨年2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、ほぼ正反対に転換したわけだったのです。
 『鎌倉殿の13人』は、もうほんとに面白かったんです。なにが素晴らしいって、脚本の伏線の張り方、オリジナリティの打ち出し方に、「史実に誠実に対峙する」という態度がしっかり守り抜かれていたんですよね。破天荒に見えるキャラクターや展開があっても、そこは三谷さんだけの発想で生み出されているんじゃなくて、一見無茶苦茶に聞こえる「異説」や「伝説」が現代に残っている状況を丁寧に取材した上で組み立てている「ハイブリッド新説」に仕上がっているのです。その、歴史への仁義の切り方が非常にすがすがしい!
 登場人物の面々も、役者さんがのきなみ名演を見せてくれましたし、第一、「人の死」というものがこれほどまでに恐ろしく哀しいものなのかと、最終回のラストカットまで戦慄させられ通しになってしまう緊張感と重厚さが、『鎌倉殿の13人』には行き渡っていたと思います。
 映画『清須会議』もそうなのですが、三谷作品の大河ドラマ『新選組!』と『真田丸』には、歴史上実在した人物の死を、正面きって重苦しいものとして描く姿勢がない……とまでは言いませんが、観やすいものに軽くしていた手法があったかと思います。いや、そうでもしないと江戸幕末も戦国時代末期も、血なまぐさ過ぎてとてもじゃないが見られたもんにならないだろうという配慮もあったのでしょうが。
 でも、『鎌倉殿の13人』は、死ぬ人死ぬ人、みんなの最期の演技が本当に真剣勝負なんですよね。あまりにも重すぎて、ハードディスクや映像ソフトで何回も繰り返し観たいとは思えないかも知れませんが、すごいよね……死にざまがすごいってことは、生きざまもすごいってことだもんね。義経、全成、上総広常、比企能員、善児、そして義時。パッと今思い出しただけでも、一体いくつの名シーンがあったでしょうか。個人的には、実朝暗殺のときの源仲章の小物感たっぷりの死にざまが最高でしたね。NHK であそこまでギリギリの表現はすばらしい。でも、私の中での『鎌倉殿の13人』ベストカットは、巴御前の最後の絶叫です。あれはもう……涙なしには観られない。

 話が長くなりましたが、結局なにが言いたいのかと言いますと、『鎌倉殿の13人』の精華は、まさしくこの『清須会議』の大失敗なくしては生まれ得なかった、「泥沼に咲いた蓮の花」だったのではないかということなのです! リメンバー『清須会議』!! 無かったことにするなかれ、黒歴史にするなかれ!!
 あ、あと、『清須会議』とはまったく関係がないのですが、今月末に公開されるらしい映画『首』が、なんだか非常にかんばしいかほりのする予告編で妙にぞわぞわしてきましたので、そっちを観る前に、いい加減こっちの方にケリを着けようという気分にもなったので、今回の感想編にとりかかる運びとなりました。『清須会議』のちょうど10年後に『首』とは……なにやら因縁めいたものを感じちゃいますね。今年の初めに公開された映画『レジェンド&バタフライ』もそうとうな珍作でしたが、なかなかどうして『首』もすごそうだぞ~。青筋おったてて家臣をののしり蹴りまくる織田信長って、いったい何十年前から時の止まっている化石イメージなのでしょうか。

 お話を『清須会議』に戻しますが、私がこの作品をおもしろくないと感じた理由は、まさに『鎌倉殿の13人』の真逆の作風、つまり「史実に敬意の無い創作設定」をけっこう多めに弄しておきながら、その効果が「単に歴史上の人物をバカにしているだけ」にとどまり、作品の面白さに全くつながっていなかったから。ほんと、ひとえにこれだけのことなのです。

 映画をざっと見て気がついただけでも、この作品では、

・「織田家家督・織田信忠」という事実の無視
・武田松姫の設定
・池田恒興の設定
・滝川一益の設定と描写演出

 という、「そこでウソついちゃったら『清須会議を舞台にしているお話』って言う資格ないんじゃない?」と言いたくなるえそらごとが満載なのです。
 これ、映画のタイトルが『喜劇・清須会議』だったり、『きよそ会議』だったら私もそんなに怒らなかったかと思うのですが……題名の段階で「フィクション史劇以前のコントで~っす☆」って言ってくれればよかったのにねぇ。

 要するに、史実の清州会議は前提として「本能寺の変の6年も前から勝幡織田家第6代当主になっていた織田信忠」の嫡男である織田三法師の「後見人」を決める宿老会議であり、その三法師が武田松姫の実子である可能性はゼロで、宿老の一人・池田勝入斎は会議に参加する前の段階で完全に秀吉派になっており、滝川一益は最初から会議に参加する気など無かったのです。

 おいおい、作品の根幹を揺るがす「事実と異なる創作ポイント」が最低4コもあるよ! しかもこれらは、「そうだったかもしれない」可能性がまるでない完全なるでっちあげなのです。「そういう異説もあるよ」なんていうロマンなどかけらもない三谷コントの思いつきと申してよろしいでしょう。ぜ~んぶ、えそらごと。

 当然、三谷さんも無鉄砲ではないわけで、言葉にこそしていませんが、本作は「史実そのまんまではありませんよ~。」と解釈できる演出は、ちゃんと冒頭で提示しています。
 すなはちこの映画は、物語の脇役であるはずの前田玄以が誰もいない清須城の1階大広間に現れて、京での本能寺の変をアニメ的に表現する不思議な絵巻物を開陳するところから始まるのです。つまり、この映画の全ては玄以の披露するえそらごとであります、と。
 でも、だったらだったで、この清州会議の後に秀吉に取り入り、最終的に豊臣政権五奉行に名を連ねる程に出世した前田玄以がこの『清須会議』を語る必然性があってもよいものかと思うのですが、この映画は玄以の出てくる冒頭の演出の意図を全く説明せず、フツーに勝家と秀吉が別れる描写で終わるのです。織田信雄があんなにバカ殿さまに描かれる理由も、黒田官兵衛が吹き矢を放って勝家がビーチフラッグスに負ける理由も、ありもしない信忠と松姫との円満な家庭生活が空想される理由も、第一に玄以が途中から脇役以下に成り果てて物語にいっさいからまなくなる理由も、説明は一切ナシです。あと、西田敏行さんや天海祐希さんがあんなにくだらない出番のためにひっぱり出された理由も!

 ほんとね、清須会議が終わった後の残り30分、本当にいらない!! なんか、あの西田さんやら天海さんやら松山ケンイチさんやらが、クソどうでもいい役柄でちょっとだけ出てくるノリって、「私の映画には、こんな日本芸能界を代表する名俳優のみなさんがたも、どんな役でもいいから出たいってせがんできちゃうんですよね~。困っちゃうなぁもう♡」みたいな声が聞こえてくるようで、とっても嫌な気分になってしまうんですよね。いや、こんなの私の一方的な思い込みなんでしょうけれどね……モテモテな陽キャののろけ話を聞かされてるようで、心のズイから怒りがこみあげてきます。

 役者さんの話をするのならば、確かに本作も、三谷監督作品らしく当代人気の俳優さんがたのオンパレードといった陣容です。その中でも、私としましては大泉さんと浅野忠信さんの演技が光っていたかな、と思います。あと、やや軽めの立ち位置でかなり自由に遊んでおられた佐藤浩市さんの「小物」演技と、中谷美紀さんのハイテンションなダンスも素晴らしかったですね。あんな浩市さんと中谷さん、今じゃもう観られないのでは?
 ただ、それ以外のみなさんは、まぁ彼 or 彼女だったらそのくらいの仕事はするだろうな~、といった感じの、まるで TVのバラエティコントのような緊張感のない演技の持ち寄りあいにしか見えませんでした。ただダッシュさせてただけの阿南健治さんとか、ボーっとしてるだけの梶原善さんとか、一体どういう感覚をしていたらそういった貴重な人材をドブに捨てるような使い方ができるのかがまったく理解できません。
 特にもったいないにも程があるのは、やっぱり主演の役所広司さんでしょう。まるで三船敏郎のものまねのような安っぽい豪傑感! 絶対にその程度しかできない俳優さんじゃないのに、なんであんなことになってるんだろう。それはもう、確実に演出している監督が「そんな感じでいいです。」とギアダウンさせてしまっているのでしょう。役所さんに限らないことでしょうが。
 やっすいものまねと言えば、お市の方役の鈴木さんもひどかった。どこからどう見ても黒澤明の『乱』における原田美枝子さまのものまね……なんですが、設定として本作でのお市の方の年齢が三十代半ばなので、演技においてもビジュアルにおいても全面でオリジナルに劣っているという負けいくさっぷり。まさか黒澤明に TVバラエティコントで挑もうとするとは……浮き輪ひとつで太平洋に浮かぶ人間を、ホホジロザメは笑って許してくれるかな?
 そしてど~しても見逃せないのは、武田松姫役の剛力さんですよね。たぶん、ご本人はとっても真面目で勉強家なんだろうなぁ。でも、声の質と絶対的能力値が……三谷さんも、よくもまぁあそこでワンカットの長ゼリフを彼女にぶっつけたな。三谷さん、剛力さんキライ?


 とまぁ、そんな感じで10年もの時が経過した今もなお、1万字になんなんとする思いのたけは、まだ残ってました!
 でも、しゃべり出したら記事を何回やってもきりがないので、最後にその他気になった点をズラズラ~っと羅列するいつもの流れでしまいにしたいと思います。一部、先に触れたことと重複する内容もありますが、DVDを観ながらたったかたーっと打ったものですので、なにとぞご寛恕いただきたく。

その他、気になったポイントメモ
〇2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』を存分に楽しんだ人間としては、やっぱり森蘭丸成利を染谷将太くん(当時21歳)が演じているのが非常に感慨深い。蘭丸くん、出世したねぇ~! 出世しても本能寺で死んじゃうけど。
〇織田信長役の篠井英介さんも、明智光秀役の浅野和之さんも、物語的に本作にはちょっとだけしか登場しないのだが、ビジュアルが非常に良い。特に光秀は、あんまり他の映像作品では採用されない「本能寺の変当時67歳説」がちゃんと採用されていて最高です。あとキンカン頭も!
〇若干コミカルに描かれている末期の信長が印象的。案外、そのくらいのフツーのおじさんだったのかも?
〇ビジュアルと言えば、「織田家の血筋の特徴」として、現代日本から見ても異様に見える程の高い鼻筋を、登場する織田家関係者全員が特殊メイクで表現しているのも、他映像作品ではなかなか見られない演出である。でも信包役の伊勢谷さんは自鼻だったとか? さすが。
〇本作の重要な物語要素として、織田信忠の嫡男、つまり信長の嫡孫の織田三法師秀信が、あの武田信玄の四女である信松尼松姫の実子であるという設定がある。つまり三法師が信長と信玄の両方の血を引くハイブリッド貴公子であるという非常に魅力的な話なのだが、実は史実の三法師の母親ははっきり確定しておらず、大小とりまぜて5説あるうちのひとつが松姫説ということになる。武田信玄の血を引く可能性20%か……でも、面白いから本作で松姫説が採用されるのも、しょうがないよね! 三谷作品だし。
〇ちなみに、松姫以外の三法師の母親候補の中には、織田家武将・森可成の娘もいる。もしこっちが正しいとすると、三法師は森蘭丸くんの甥ということになる。こっちはこっちで面白いが……武田信玄の娘に比べると、ちょっとスケールがねぇ。
●史実では、武田松姫は確かに織田信忠の「婚約者」とはなったものの、例の信玄西上作戦と三方ヶ原合戦で織田家との関係が最悪になってしまったために婚約は立ち消えになり武田家領内から出ることはなく、織田三法師が誕生した天正八(1580)年には兄・仁科盛信のいる信濃国高遠城下に、武田家滅亡後は北条家の庇護のもと武蔵国八王子にいたという。え、じゃあ、映画の中のように本能寺の変の時に信忠と一緒に京にいるのも、そもそも三法師を産むのもムリなのでは……? 本編開始3~4分のこの時点で、本作が「史劇」でないことは明確になっている。ファンタジー!
●ついでに言うと、映画では父母と一緒に京の二条新御所にいた織田三法師(当時3歳)も、史実では父の居城の美濃国岐阜城にいたらしいです。そりゃそうだよね、現代感覚の京都旅行じゃないんだから、織田家当主と次期当主候補が軽々しく一緒に行動するわけがありません。
〇本作のストーリーテラーである前田玄以が、本能寺の変当日に信忠と一緒に二条新御所にいたのは史実らしいのだが、やはり本作は、冒頭の演出から見ても「前田玄以が盛りに盛ったフィクション」と受けとめるのがいいかもしんない。でんでんさんらしいうさんくささ!
〇3年後の2016年大河ドラマ『真田丸』であんなにはっちゃけた秀吉を演じた小日向文世さんを観てしまうと、本作でいかにも苦々しく大泉秀吉の栄達を眺めている丹羽長秀の姿が非常に興味深く見える。今に見てろよ、コノヤロー!
〇実質どこからどう見ても秀吉 VS 光秀の大決戦だった山崎合戦だが、本作で描写される通り、形式上の秀吉方の総大将は信長の三男・神戸信孝だった。ここでの信孝の存在感も、他作品では省略されがちなので地味にうれしい。
●冒頭の絵巻物風アニメでも実際の撮影でも、本能寺は約2m そこそこの土塀で囲まれただけのふつうの寺として描写されているが、まさか戦国時代の真っただ中に京にあった法華宗大本山の寺院がそんなわけなく、実際には堀と土塁と石垣に囲まれた要塞のような城館であったという。だからこそ信長も油断してたし、光秀も全軍をガッツリ投入して攻め込んでたわけでねぇ。
●やっぱりこの作品は、丹羽長秀が信孝を次期織田家当主に擁立して、宿老筆頭の柴田勝家を際立たせるために古巣の尾張国清須城で会議を開こうと提案したという根幹の筋が決定的なえそらごとになっている。清州会議が開かれたのは、当時清州城に三法師(次期当主確定)がいたからなのでは……
●本能寺の変の時点で、羽柴秀吉はすでに15年以上、織田家武将として活動しているはずなので、本作の時期に正室お寧の方や弟・秀長があんなに百姓ライズした言動で秀吉を裏切者扱いしているのは、ちょっと何を今さらな感じがする。そもそもお寧は百姓じゃないし。木下家の特徴らしい耳の特殊メイクも、こっちはやりすぎじゃない?
〇予想通り、苦み走った表情に黒服の寺島官兵衛のビジュアルが非常にいい。岡田准一官兵衛ほど美化されてもおらず、斎藤洋介官兵衛ほど異貌でもない絶妙なバランス! 本作においては陽の面の強い大泉秀吉と好対照ですね。
〇上映開始から12分というスピード感で、本作の重要な舞台となる清須城が出し惜しみなく登場して、映画のタイトルがクレジットされる。清須会議が行われるのは、二重四階建て檜皮葺きの、黒壁でも白壁でもない非常に簡素な印象の天守閣の一階である。あの信長の城としては意外すぎるほど地味なのだが、だからこそ信長もちゃっちゃと清須城から出ていったと考えられるわけで、納得のいく外観ではある。そしてこの天守も、清須会議から4年後の天正地震で倒壊するわけ。言うまでもないことだが、今現在清州城跡に建っている三重四階建ての鉄筋コンクリート造の模擬天守とは全く関係がない。
〇20年ぶりに清須城に入るという柴田勝家を満面の笑顔で迎える、清須城の老足軽・義兵衛。彼を演じるのは三谷作品に欠かせない名優・近藤芳正なのだが、近藤さんは本作の翌年の大河ドラマ『軍師官兵衛』で、柴田勝家その人を演じることとなる。ものすんごい出世! でも、ずいぶんとかわいらしい鬼権六ですね。
〇本作では信長の妹・お市の方がもともと清須城に住んでいたような描かれ方になっていたが、史実の彼女は当時どうやら美濃国岐阜城にいたらしい。確かにあの信長の妹として、そっちの方が自然な気がするのだが、そこはそれ、映画ですからね……便宜上のショートカットということで。
〇清須城入城に際して勝家が一番優先したのがお市の方との接見で、秀吉が優先したのが清須城下の民衆への施しセレモニーという、上層 VS 下層の対比が非常にわかりやすい。いろいろと目端の利く秀吉の深謀遠慮を象徴するエピソード。
〇冒頭からちょいちょい登場している信長の三男・神戸信孝に対して、もっと上位のはずの次男・北畠信雄がずいぶんと後になって登場する。上映開始18分でやっと会話の中に名前が出てきて、しかものっけから勝家に「大うつけ!」と呼ばれているさんざんっぷり。まぁ、実際そうなんですけどね……山形県人の私としては、地元近くの天童市に非常に縁の深い方なので、ついつい信雄に肩入れしたくなっちゃう。
〇お市の方が秀吉を蛇蝎のごとく嫌う理由は、清須会議から9年前に彼女の夫・浅井長政を、信長の命を受けた秀吉が先鋒として攻め滅ぼし、夫妻の間にできた嫡男・万福丸を処刑したことにあるとされている。しかし、当然ながら秀吉の行動は全て主君・信長の代行としてのものであり、なんだったら勝家も浅井攻めにはしっかり参加しているのである。秀吉が嘆く通り、織田家の中でも秀吉だけを嫌っているお市の方が理不尽なのか、それとも、それだけのことをしでかしておいて「9年も経てば忘れてくれるだろう」と考えている秀吉が異常なのか……
〇上映開始から23分たち、ついに本作の台風の目となる重要キャラクター・北畠信雄が登場。しかし、居室には所狭しと役に立つんだか何だかさっぱり見当のつかない発明グッズやおもちゃの数々が……織田家きっての「奇人」としての信雄の印象を強調する演出だが、史実の信雄はそれなりの水準以上の教養はあったにしても、ともかく長期的な戦略眼のなさや中途半端な世渡り上手さがあったゆえに歴史の渦に飲み込まれた「凡人」という方が正しいような気がするので、ここらへんも本作の創作のにおいが強い。そんなの奇人変人度で言ったら、信雄なんか足利将軍家のみなさんの足元にも及ばないんじゃなかろうか。格が違う!
〇特殊メイクによるつけ耳がやたら印象に残る大泉秀吉なのだが、実は右手にずっと手甲のような布を巻いているのも、映像作品の中の秀吉像としては非常に画期的である。これはつまり、「秀吉の右手は6本指(多指症)だった」という、本作にもがっつり登場している秀吉の盟友・前田利家の証言を採用している演出であると思われる。これなんかは特に NHKの大河ドラマではまず映像化されないであろうし、映画作品ならではの味付けなのではないだろうか。別に中二病で黄金の指ぬき手袋をしてるわけじゃないんだぞ!
●これまた三谷作品の常連名優である梶原善さん演じる羽柴秀長の存在が、史実よりもずっと小さい。山崎合戦後のこの時期に秀吉の傍にいないなんてことはありえないと思うのだが……これはおそらく、ポジションが黒田官兵衛とかぶりすぎるために採られたカット策であると思われる。そんな、お寧といっしょに一般人ヅラしてこっそり入城なんてできるわけないでしょ。
〇上映開始36分で、本作の新たなるキーパーソン、織田信包が登場! 物語の中で、秀吉は清須会議を有利に導くための奇策として信包の懐柔を謀るが、史実の信包はもっと早く、本能寺の変の直後から秀吉=信雄派に属していたらしい。これはおそらく、信包も信雄も本拠地が同じ伊勢国にあるという地政学的判断からだと思われる。ちなみに、信包が本作のように兄貴譲りの西洋かぶれなオシャレ人だったという記録史料は残っていない。むしろ、毒にも薬にもならない、兄・信長に従順な常識人だったのではなかろうか。ほら、二人のあいだにいた信勝(信行)くんの一件もあるし……
〇上映開始44分で、清須会議の行く末を決める織田家新宿老として、今度は信長の乳兄弟の池田恒興が登場。演じる佐藤浩市さんの、長いものに巻かれる俗物感がいい。しかし、ここでの秀吉派と勝家派とのはざまでフラフラする恒興というのも、実は本作にしかない虚像であり、史実の恒興は中国大返しを果たした秀吉軍と合流して山崎合戦に参戦した功によって織田家宿老に昇格されたという流れがすでに清州会議前にあった。さらにこの時点で秀吉との間に、次女(若政所)を秀吉の後継者候補である甥・秀次の正室とし、次男・輝政を秀吉の養子とするという盟約を結んでいるため、会議の時にすでに恒興は、勝家と長秀がつけ入る余地などないほど濃厚な秀吉派になっていたのである。さすが、人たらしの秀吉! ちなみに、山崎合戦の直前に恒興は剃髪して勝入斎と名乗っているため、本作の時期にはツルッツルの僧形になっているはずである。なんか、信長の死後すぐに出家するというその素直さは、本作のイメージとはちょっと違う気がする。むしろ、大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU 』(1992年)で恒興を演じた的場浩司さんがぴったりな気がしますね。筋は通すゼ!
〇キャラクター造形の是非はおいておいて、当時もうすっかり大女優の仲間入りを果たしていたはずの中谷さんが、かなり長い時間を使って秀吉の饗宴シーンで愛知県重要無形民俗文化財「津島市くつわ踊り」のソロダンスを披露しているのが非常にうれしい。若いな~! さすがは中谷さんだ、キャリアは積んでも、アイドルグループ「桜っ子クラブさくら組」内のアイドルデュオ「 KEY WEST CLUB」時代のステップは衰えちゃいねぇぜ! 夢はマジョリカ・セニョリータ!!
〇清須城内での秀吉派の酒宴の乱痴気騒ぎっぷりを、「あれもいくさ」と寝室から冷静に分析する前田利家。しかし、そういう無礼講パーティにいのいちばんで飛び込みたいのは間違いなく、若いころの犬千代時代に「槍の又佐」、「織田家きってのかぶき者(狂犬)」とおそれられた利家のはずである。大人になったな~!
●本作の公開後、2018年に提唱された柴裕之氏の新説によると、清州会議の前日の日付で秀吉が関東にいたと思われていた滝川一益にあてた書状に、「徳川家康と連携して北条家の織田領への侵攻を防いでくれ」としたためられていることから、清州城に参集していた織田家要人たちは、最初っから一益を会議に呼ぶ気はなかったのではないかと唱えられている。そりゃそうですよね、「関東から一益が来るかも」なんていう不確定要素のためにいつまでも待っていられる悠長さなんて、信包に言われるまでもなく当時の織田家にあるわけがありません。
〇清須会議後の祝宴での、池田恒興の「この世は生き残った者勝ちだ。俺は生き残ってみせるよ。」という発言が非常に深い。だって、彼はこの2年後に……ねぇ。


 まぁ、ざっとこんな感じよ。

 いろいろ言いましたがこの『清須会議』は、つまるところ大失敗作だと思います。
 でも、それは間違いなくのちの『鎌倉殿の13人』の大成功に結実している、長い長~い道のりのひとつだと思います。

 今2023年、令和になってしばらく経ってから観直してわかってくる『清須会議』の嫌なところは、「茶化しておもしろがる」、「無駄遣いしておもしろがる」という、実に平成らしい文化の一側面だったような気がしてきます。そして、三谷幸喜さんはそこにとどまらず、『鎌倉殿の13人』をもって令和にも大傑作を打ち出していける脚本家として進化したのではないでしょうか。
 だとすると、令和はかなり殺伐とした、余裕のない社会時代なんだろうなぁ。それはそれで、平成がなつかしく思えてくる?

 さぁ、これから公開される『首』は、どうなりますかねぇ? とっても楽しみですね!
 『首』に小日向さんが出てこなさそうなのが、実に残念ですね! でも、それじゃほんとに『アウトレイジ』のタイムスリップ版になっちゃうか。逮捕しちゃうぞ、コノヤロー☆

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