長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

遅くても、やらないよりゃマシだバカヤロー☆ ~映画『首』~

2023年12月03日 10時29分46秒 | 日本史みたいな
 こじゃんとさむいねやぁ~! どうもみなさま、こんにちは。そうだいでございます。
 もう12月ですってよ、奥さん! 早いな~。もう2023年も残り1ヶ月きっちゃいましたよ。みなさんにとっては、今年も楽しく充実した年になりましたか?
 私の住む山形もいよいよ寒さが厳しくなってきたのですが、やっぱりこの時期になっても雪がほとんど無い……というか、今シーズンまだ一度も積もるほど降ったことがないというのは、ちと異常ですわなぁ。年明けにやっと積もるくらい降るか、って感じなのかなぁ、この冬も。大人にとっては雪かきがなくなるからありがたいばっかりなんですが、子ども達にとってはさすがに、つまんないですよね。

 今年2023年も、私はといいますと御覧の通りに自分勝手、気ままに楽しく生きさせていただきました。もう不惑を越えていくとせかが過ぎ、人生の折り返し地点を回っちゃったかなという年齢になったのですが、まことにありがたいことに大した病にもかからず、身体にも目立つガタはきておらず、このままうまくいけば無難に新年を迎えられそうであります。無事これ名馬!!
 今年度から、個人的には生活にも多少の時間的余裕を持つようにし(代わりに経済的余裕がなくなってますが)、おかげさまでこの数年でたまりにたまった部屋の積ん読を、あたかもはらぺこあおむしが葉っぱをムチムチとはむかのような速度で減らし始め(©江戸川乱歩)、長年の懸案だった「片道500km の山梨ドライブ旅行」も7月に無事に終え(すんごい楽しかった!!)、しまいにゃほぼ毎週末に話題の映画を観るために映画館に通うという、自分なりに理想としていた「おっさんライフ」を堪能できるようになりました。なかなかうまくいかないことも当然のようにありますが、振り返れば心の安楽が得られた非常に幸福な一年になったかと思います。このままうまく過ごせればね……歳末こそ、気を引き締めねば!

 読書に時間をさけるようになったのもうれしいのですが、今年は比較的頻繁に映画を観られるようになったのもありがたいことで、そりゃまぁ出費は痛いには痛いのですが、いろんな作品を楽しむことができました。ちょっと手元のメモをひもといてみますと、なになに、今年最初に観た映画は、ドキュメンタリー映画の『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(監督・武石浩明)でしたか! けっこう渋い選択から始めてたんですね、面白かったけど。そうかそうか、『かがみの孤城』とか『すずめの戸締まり』は去年の映画でしたか。ホント、光陰矢の如しですな!

ん……あれ、この、1月に観た『レジェンド&バタフライ』って題名の映画、どういうお話だっけ……洋画かな?

 あぁ、思い出した。綾瀬はるかさんが殺人マシーンになる映画だった。旦那さんは、なんかヒマさえあればめそめそ泣く甲斐性なしだったな。
 あれ、その旦那さん、キムタクっていうか……織田信長?

 え、織田信長!? 織田信長って、私がゆうべ見た映画で、出るシーン出るシーンぜんぶで青筋と首筋おったてて、真っ白い顔で絶叫しまくってたキ〇ガイ!? キムタクとあの山王会若頭が、同一人物ぅ!?


映画『首』(2023年11月23日公開 131分 東宝)
 映画『首』は、2019年12月に出版された北野武による時代小説を原作とし、北野自身による脚本・編集・監督・主演で、出版元の角川書店の製作により映画化された作品である。R15+ 指定。
 総製作費15億円。北野武監督にとっては6年ぶりの新作映画で、2023年5月に開催された第76回カンヌ国際映画祭の「カンヌ・プレミア部門」に日本人映画監督として初めて出品された。撮影は山形県鶴岡市のスタジオセディック庄内オープンセット、岩手県奥州市のえさし藤原の郷、長野県富士見町などで行われた。
 北野武脚本・監督作品としては、『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)以来、約32年ぶりに東宝の配給作品となる。

あらすじ
 時は戦国時代末期。織田家重臣・羽柴秀吉と豪商・千利休に雇われ、謀反人と逃げ延びた敵方を探して各国を旅する抜け忍・曽呂利新左衛門は、織田信長に反旗を翻した武将・荒木村重を偶然に捕らえる。一方、丹波国篠山の農民・茂助は、播磨国へ向かう秀吉の軍勢を目撃し、戦で功を立てようとその従軍に紛れ込む。
 信長、秀吉、織田家重臣・明智光秀、信長と同盟する東海地方の大名・徳川家康までをも巻き込み、荒木村重の首を巡る戦国の狂宴が始まり、それはやがて本能寺の変へと繋がっていく。

おもなスタッフ(年齢は映画公開当時のもの)
監督・原作・脚本・編集 …… 北野 武(76歳)
製作 …… 夏野 剛(58歳)
プロデューサー …… 福島 聡司(62歳)
音楽 …… 岩代 太郎(58歳)
撮影 …… 浜田 毅(71歳)
衣裳 …… 黒澤 和子(69歳)
特殊メイク / 特殊造形スーパーバイザー …… 江川 悦子(?歳)
殺陣 …… 二家本 辰己(70歳)
能楽 …… 二十六世観世宗家 観世 清和(64歳)
製作 …… 角川書店
配給 …… 東宝、角川書店

おもなキャスティング(年齢は映画公開当時のもの)
羽柴 秀吉 …… ビートたけし(76歳)
羽柴 秀長 …… 大森 南朋(51歳)
黒田 官兵衛 孝高 …… 浅野 忠信(50歳)
徳川 家康 …… 小林 薫(72歳)
千 利休  …… 岸部 一徳(76歳)
荒木 村重 …… 遠藤 憲一(62歳)
服部 半蔵 正成 …… 桐谷 健太(43歳)
本多 忠勝  …… 矢島 健一(67歳)
宇喜多 忠家 …… 堀部 圭亮(57歳)
蜂須賀 小六 正勝 …… 仁科 貴(53歳)
滝川 一益  …… 中村 育二(69歳)
丹羽 長秀  …… 東根作 寿英(51歳)
安国寺 恵瓊 …… 六平 直政(69歳)
弥助     …… 副島 淳(39歳)
難波 茂助  …… 二世 中村 獅童(51歳)
明智 光秀  …… 西島 秀俊(52歳)
斎藤 利三  …… 勝村 政信(60歳)
初代 曽呂利 新左衛門 …… 木村 祐一(60歳)
丁次      …… アマレス兄(アマレス兄弟 48歳)
半次      …… アマレス太郎(アマレス兄弟 39歳)
間宮 無聊   …… 大竹 まこと(74歳)
般若の佐兵衛  …… 寺島 進(60歳)
清水 宗治   …… 荒川 良々(49歳)
織田 信長   …… 加瀬 亮(49歳)
織田 信忠   …… 中島 広稀(29歳)
森 蘭丸 成利 …… 寛一郎(27歳)
遣手婆マツ   …… 柴田 理恵(64歳)
多羅尾 光源坊 …… ホーキング青山(49歳)
為三      …… 津田 寛治(58歳)


 いや~、すごいもん観ちゃいましたねコリャ。とんでもない怪作でございました。
 だいたいみなさま、映画を観なくても、上のキャスティング表を見れば、この映画がいかに異常な映画なのかがよくわかるでしょ!?
 よく見てくださいよ、主要キャストで女性はただ一人! しかも、柴田理恵さんなのよ!? すごすぎるだろこれ……
 かと言って、この作品が漢っ気ムンムン、お色気ゼロのむくつけきマッチョ映画なのかといいますと、そうでもないのよね。なんだったら、男性俳優でお色気方面もカバーしようとしてるんですから。なぜおなごにお願いしない!?
 本作での最濃カップルとなる「光秀×村重」、西島さんが50歳過ぎてるのもそうとうなもんなんだけど、エンケンさんにいたっては還暦過ぎてるんですからね(撮影時はもうちょっと前か)!? 邪魔男爵もいろんな仕事をふられて大変だなぁ~オイ!

 あっ、本題に入る前にちょっとすみません。
 私、上記のように本作の原作本の出版社と、映画化に際して製作・配給を担当した企業のことを「角川書店」とあえて旧名で表記しているのですが、これはもう、現在の社名の超絶ダサさが心の底から大嫌いなので、強い抗議の意味も含めて旧名で通させていただきます。
 ダサい!ダサい!!クソダサい!! なに、日本語きらいなの!? そんな社名にして泉下の角川源義が納得してるとでも思ってんのか!? 最近のグループの大失敗の数々は、絶対に荒ぶりまくってる源義の怨霊のしわざだからな!! 即刻もどせェい!!
 でもあそこ、最近は狂ったように横溝正史のマイナー小説を復刊させてくれてるしな……「 KADOKAWA、だぁ~いすき♡」と、ハズキルーペの CM並みにはりついた笑顔でエールを贈らせていただきましょう。

 すみません、少々取り乱してしまいました。

 先ほども申した通り、今年2023年は「よわよわキムタク信長」に始まり、「正統武闘派ひらパー岡田准一信長」が大河ドラマ枠で大暴れし、そして再び銀幕では「超超破滅型ブチギレ加瀬亮信長」が疾走して終わるという、織田信長大豊作な年になったと思います。みんな信長で、みんないい! 多様性信長社会 SDGs に決まっとるがやぁあ~!!
 作品の出来不出来は別としましても、「ほんとは暴君でも魔王でもなかった他力本願信長」に、「ほんとは幼なじみの家康が大好きだったツンデレ信長」に、本作の「愛情の示し方が暴力しかない哀しきヘッジホッグ信長」と、フィクションの世界ならではの百花繚乱な信長解釈があって、天界の信長さんご本人が見下ろしたら、とってもおもしろい景色が広がっていたのではないでしょうか。
 前にも我が『長岡京エイリアン』のどこかの記事で申したかもしれませんが、私そうだい個人としましては、史実の織田信長というお人は、そんなに始終激怒しているわけでも、年がら年中マントをはおって闊歩しているような新し物好きでもない、ただ他の同時代人たちと比べて「異様に勘と運が良い」、きわめてマジメな仕事人間だったと思うんですけどね。

 それで、今回観た北野武待望の映画最新作『首』だったのですが、さすが世界のキタノと申しますか、公開当初からさまざまな反響がネット上でも沸き起こっております。まさに賛否両論! 「超おもしろかった!」から「たけしも老いたな……」まで、正反対な声が轟々とうなりまくってますね。
 私が昨夜、公開から1週間が経過した時点の週末土曜日に観に行った時も、広めのスクリーンの会場は観客層はやや高めではあるのですが、熟年夫婦を中心にしたお客さんで半分以上埋まっておりました。1週間たっても客足があんまり変わらないのって、山形ではけっこう珍しいと思います。

 そんでま、ここからはつらつら~っと私が観た感想をつづっていきたいのですが、本作はホントに不思議な怪作といいますか、


異常な世界を淡々と観察し続ける、完成されたモキュメンタリー調キタノ映画


 みたいな感じになりますでしょうか、簡潔に言っちゃいますと。

 例えば、かつて我が『長岡京エイリアン』にて私は、何の因果か、この『首』のきっかり10年前に公開された、同じく信長の晩年付近の日本史をテーマにした映画『清須会議』(2013年 監督・三谷幸喜)をはっきり「おもしろくない」と評価いたしました。あっ、でも『鎌倉殿の13人』は最高よ!?
 そう評した理由は、ご覧の通りこまごまと先の記事にて述べ立てたわけなのですが、結局のところフィクション作品として「つまんない」としか言いようのない、自分のかましたギャグへの「責任感の無さ」を全編に感じたからだったのでした。滝川一益や神戸信雄をあれだけ史実からかけ離れた笑いものにしておいて責任を取らないんですよ。要するに、「この作品はパロディコントです。」というただし書きをちゃんと付けないから、私みたいなねちっこい歴史おたくが「織田家家督・信忠はどこいった」とか「三法師の母親が武田の娘なわけないだろ」とかいきり立ってしまうのです。
 つまり、あの『清須会議』における最大の失敗は、三谷さんご本人が自分でちゃーんと冒頭に明示していた、前田玄以が「動く絵巻」を開陳して広げた大風呂敷という「えそらごと」のパッケージを、ド忘れしたかのようにラストでたたまなかったこと。これに尽きると思います。最後の最後に絵巻物を片付ける玄以さえ出てきてくれたら、観客は「あそっか、史実と違ってムチャクチャでもしょうがねっか、えそらごとなんだから。」と納得してくれるはずだったのです。

 なんで『首』の感想を言ってる記事なのに三谷さんを叩いてるんだといぶかる向きもあるかと思いますが、要するに「オチ」というものはそのくらい大事なものだということなのです。オチが悪かったら全て悪し!

 その点この『首』はどうなのかと言いますと、声を出して笑えるかというとそれほどでもないのですが、最後の最後のカットでたけし演じる秀吉が叫ぶ一言は、「あぁ、これで終わりだな。」と万人が納得するオチになっていたと思います。全てが無に帰す、ゼロに還る一言。それまで131分もの時間をかけて積み上げてきたものを瞬時に破壊してしまう秀吉の感覚は決して無責任な放り投げエンドではなく、歴史的に観れば新しい価値観の台頭ともとれる革命的な言葉ですし、そこまで持ち上げなくとも、あれほどまでにさんざん馬鹿にされ、泥水すすって生きてきた老獪な秀吉の心の底からの叫びなのです。めんどくせーんだよバカヤロー!! みたいな。これに、自分の身の回りの倦み疲れた日常の煩雑さを連想して共感しないお客さんはいないと思いますよ、よっぽどのおこちゃまでない限り。
 おれも、たけしみたいに蹴っ飛ばしてやりてぇなぁ! このルサンチマン、エネルギーを人々に呼び覚まさせる扇動術こそが、芸歴半世紀を超えるビートたけしの魔力の源泉であり、その必殺技をもって締めくくりとする『首』という作品は、完成されたひとつの「領域展開」といいますか、スタンド「じょ~うだんじゃっ、ないよっ」なのです。だからもう、史実がどうこうとか、登場人物たちの生活感がまるでないとか四の五の言っても意味無いんですよ。全ての不完全さ、いい加減さが、ビートたけしの芸のうちなんだから。

 こうなっちゃうと、もうね……131分という上映時間が冗長なのも、秀長役の大森さんのアドリブ対応がへったくそなのも、寛一郎さんのカツラが合わなくて頭が縦に長いのも、「そういうもんなんだからしょうがない。」という空気になっちゃうので、くさすだけ野暮になっちゃうんですよね。
 ずるい! 殿はずるいなぁ!! でも、その老獪さが主人公の秀吉と見事にオーバーラップしちゃうんですよね。ですから、本能寺の変が起きた時の史実の秀吉が数え年46歳だったのに、その役を30歳も年上のたけしが演じるのはどうなんだという声もあるとは思うのですが、70歳を越えたビートたけしだからこそできる秀吉像というものを、本作はちゃんと見せてくれていたと思います。
 本作の後半にて、中国攻めの陣営で信長横死の報を公表しながら下手なウソ泣きをする弟・秀長の様子をうかがい、屏風の裏で忍び笑いをする秀吉という描写があるのですが、ここは単なるコント風スケッチのようでありながらも、「時代を観察し嘲笑する秀吉」という、原作者兼脚本兼監督兼編集のたけしの視点をバッチリ提示してくれる象徴的なカットだと思います。軽いようで超重要! やっぱりタケちゃんはすごいな!!

 わたし、最近の『ゴジラ -1.0』みたいな「監督兼脚本」が当たり前のようになっている風潮は全く好きではないのですが、今回の『首』に関して言えば、ここまで原作者の言いたいことが気持ちよく伝わるんだから、これは同じ人がやる方がいい稀有な例なんだろうな、と思います。でもこれは、監督のほうの手腕がそうとうのもんでないと無理な変換でしょうけど。

 ちょっと話が変わりますが、私の持論として、21世紀に活躍する俳優さんが、だいたい20世紀以前の「歴史上の人物」を演じる場合、その年齢は「史実の10歳くらい年上がちょうどいい」と思っています。それは、人生経験的にも生物としての平均寿命の高齢化的にも、健康医学の向上といった点でも。多くの人々にとって、現代は「人生五十年」ではないわけです。
 そういう意味で、年齢が晩年の信長とほぼ同じはずの加瀬亮さんは、ちょっと若すぎて見えますよね。逆に秀吉と家康はやっぱり本能寺の変前後にしては老けすぎていると思うのですが、たけしと小林薫さんの「小牧・長久手合戦」を観てみたい気はします。
 ただ、そういう上下のブレはあっても、本作に出演する俳優さんがたの多くはもうバッチリどストライクの全盛期と言いますか、秀吉のネガともとれる無名の農民・茂助役の獅童さんとそろり役のキム兄は無論のこと、秀長役の大森さんも官兵衛役の浅野さんも、なんだったらちょっとだけしか出てこない安国寺恵瓊役の六平さんにいたるまで、「今撮らなくていつ撮る!?」という最高の演技を見せてくれていたと思います。『アウトレイジ』三部作では、ちょっと無理して頑張ってるかな、という息切れ感のあるベテラン俳優の姿もちらほら見られたのですが、今作は全体的に若返っているというか、キャスティングで大成功を確定させている面が大きいと思うんですよね。
 なので、確かに「たけしが秀吉!? 遅すぎるだろ!」と感じる人もいるのは分かるのですが、作品全体としてはたけしの実年齢をおぎなって余りある万全の態勢で作られている、脂ののりきった絶好のタイミングの一作であることは間違いありません。

 キャスティングでいえば、さすがたけしと言いますか、そろり役のキム兄と最終的に対峙する役の人が、よりにもよって「あの人」というのも、日本お笑い演芸史の東西対決と言いますか、なんか「ヒトシ VS タケシ」の代理戦争を見るかのようでおおっと手に汗握るものがありましたね! まぁ、ここでたけしの側で出るのが軍団のどなたかでないのが、そこはかとなく寂しくもあるのですが……
 あと、個人的に本作の中でいちばん気になっていた登場人物が、実はキム兄とはまた違った角度での「ヒトシの代理人」といった感じでキタノ映画に出向して来た堀部圭亮(言うまでもなく放送作家・竜泉)さん演じる宇喜多忠家で、終始どのシーンでも「借りてきたネコ」のようなカッチンコッチンの姿勢と表情でいたのが、ある意味でたけし=秀吉に匹敵するほど中身と役とが一致し過ぎていて笑ってしまいました。また、宇喜多忠家という「板ばさみ人生」というか、どこでどう生きても常に目上にコワい誰かがいるザ・苦労人な武将を堀部さんが演じているというのが、おもしろうてやがて哀しきキャスティングになっているんですよね! この『首』の世界線での宇喜多直家って、どんなヤバい人だったんだろうなぁ……配役するなら、やっぱ演じるのは椎名桔平さん一択でしょ! こわ~!!

 こんなことつぶやいても仕方ないんですが、私の勝手な理屈で言うのならば、本能寺の変前後の頃の秀吉をたけしが演じるのならば、それは50代半ばごろ、つまりは2000年代前半ということで、ちょうどキタノ映画で言うと『 BROTHER』(2001年)とか『座頭市』(2003年)を制作していたころで、俳優面で言うと『バトル・ロワイアル』(2000年)とか『血と骨』(2004年)に出ていたたけしになるわけです。
 ホ~ラかっこいいでしょ、めっちゃくちゃ見たいでしょ!? やっぱ、髪の毛染めてタップダンスやってる場合じゃなかったんだって! 『御法度』(1999年)から直行で秀吉もやるべきだったんだってぇ~!!
 でも、それはそれで、今年の『首』よりもだいぶナルシスティックで主観的な秀吉像になっていたろうし、第一、周辺に集まる俳優陣も、本作程に心身ともに充実したメンツにはなっていなかったかも知れないんでねぇ。それはもう、今回の『首』と20年前の『座頭市』のどっちにも出演している浅野忠信さんの成熟度を見ても明らかだと思います。今の方がだんぜん、いい!
 そういう意味では、本作は2000年代のキタノ映画とは趣が変わってプロの俳優さんの比率がだいぶ上がった現在だからこそ完成度も上がった、と言えるのかも知れません。キム兄の、たけし派でないからこそみなぎりまくっていた緊張感も良かったわけだし。やっぱり、いくら遅い遅いと言われようが、この『首』は今のタイミングで世に出るのが最高なのです!!
 ただ一点、大杉漣さんの出ている『首』も、観たかったような気はします。人間、先立つ不孝だけはやりたくないもんですな……

 少なくとも私にとって、今回の『首』はとっても満足のいく内容のものでしたし、その力技を押し通す勢いに元気ももらい、「ビートたけし健在なり!」という手ごたえを感じさせるものとなりました。
 でも、本作は始まって十数秒の時点で、苦手な人にとってはかなりキツい残酷描写が展開されますし、女性がいない分、戦国時代に「一流武士のたしなみ」として流行していたという衆道、同性愛の愛憎が露骨に絡む内容にもなっているので、最後の最後までドギツい描写がどこかで必ず出てくる作品となっています。もうタイトルからして『首』なので、全く覚悟せずに観に来るお客さんもそうそういないかとは思うのですが、それでも耐え切れず脱落してしまう人がいても、それは仕方のないことかと思います。ほいほい人に勧められる作品ではない、ということですね。

 以下は、そんなに気になったわけでもないけど少しばかり不満に感じたことをば。

・本能寺の変前後の歴史的出来事のどこをピックアップするのか取捨選択を行った結果、登場人物のうち誰かのエピソードが中途半端になってしまうことは仕方のないことなのですが、荒木村重の「その後」に全く触れないまま映画が終わってしまうのは、非常にもったいないと感じました。あの後の村重の生きざまこそが一番面白いと思うんですけどね……それとも北野監督、もしかして続編『首 びよんど』を制作する腹づもりなのか!? いずれにしても、エンケン入魂の村重はもうちょっと長く観たかったような気がしました。有岡城攻防戦での、喉がカッスカスに枯れ切ってもなお「逃げるなー! 逃げるなー!」と絶叫し続ける村重の姿は、もう地獄そのものでしたね。
・画面の色彩配置が、なんか全体的にふつうだったような。冒頭の「切り口とカニ」とか、高松城攻防戦下の豪雨の中を傘をさして歩く官兵衛とか、絵になりそうなカットはいくつもあるのですが、それぞれが断片的であるため散漫であんまり効果的と言えず、かつてのカラー映画時代の黒澤映画にあったような「えらいもん観てもーた」的な毒々しいインパクトが無かったように感じました。そもそも黒澤映画と比較すること自体が無理難題なのですが、それでも、もうちょっと一矢報いるくらいの冒険は観たかったような気がします。黒澤和子の衣装も、もはやそこらじゅうの時代劇で見られるような「ちょっとおしゃれなデザイン」くらいにまでありふれたものになっちゃいましたしね……明智光秀だから水色か紫、織田信長だから黒、羽柴秀吉だから黄色って……ベタですよね。

 そして、この映画はあくまでもビートたけしの芸を観る映画としてよくできているのであって、かつて万人が恐怖したような得体の知れない不条理、理屈の全く通らない火山噴火か台風のような「死の美しさ」を描いていた北野武の映画とは、全く別種のものになっていたと思います。その点を物足りないと感じている人は、けっこうおられるのではないでしょうか。
 言ってみれば、キタノ映画は絵画であり、今回の『首』は落語だと思います。そのくらいの別次元のものになっているってことですね。でも、それは仕方のないことだとも思えます。天下御免のビートたけしも歳はとるし、いつまでも気が狂わんばかりに過酷な世界で闘い続けてもいられないでしょう。

 にしても、今回の『首』の、娯楽映画としての完成度は間違いないと思います。アレルギー物質も塩分も辛みも徹底的に除去されている病院食のような時代劇ばかり観ていてもう飽き飽き!という方はぜひとも映画館に足を運んで、2023年のたけしの挑戦状に立ち向かってほしいと思います。

 そうそう、ホント、「こんなえいがに まじになっちゃって どうするの」の世界なんですよね……ブチギレるのは加瀬亮信長に任せといて、私たちはわろとけ、わろとけ~!!

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