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映画「ビロウ」〜見える敵と、見えない敵

2022-03-05 | 映画

オカルト戦争映画「ビロウ」二日目です。
この作品の日本発売のDVDパッケージの

「見える敵と見えない敵」

というアオリ文句には、上手いこと言うじゃないかと珍しく感心させられました。

さて、前回までで、「タイガーシャーク」前艦長が、この哨戒で命を落とし、
霊となって超常現象を起こしているらしいとわかりました。

潜航中にレコードが鳴り出して敵の攻撃が始まったり、
艦外修理中にクアーズ中尉が謎の死を遂げたり、
艦外からモールス信号で「帰ってきた」と通信されたり。

こんな潜水艦という舞台でしか起こり得ない怪奇現象は、
全て戦闘行為や事故ではなく、乗員によって命を断たれた艦長が
恨みから起こしているのだろう、と見ている誰もが映画半ばで気づきます。

ホラー映画の定石から言うと、この後の見るべきところは
艦長の死の秘密が解き明かされ、彼を手にかけた真犯人を、
呪いのパワーがどんな酷い目に遭わせてくれるのかといったところです。

つまり、この後の展開はホラー的にはもう見えたも同然なのですが、
ただこの映画の他と違うところは、これが戦争中の、潜水艦の中の出来事という
ディティールにあり、逆にいうとそれしかないということでもあります。

さて「タイガーシャーク」の異変は続いていました。



操舵席ではおかしなことに、舵輪が勝手に動き出して
二人がかりでも修正することができなくなり、果ては弾け飛んでご覧の有り様。


「タイガーシャーク」乗員は、この相次ぐ異常現象をどう捉えているのか。

「俺たち実はもう死んでるんでね?」

「なるほどー、気づかんかったわ」

冷静な機関長は、蓄電池から出た水素のせいで、
酸素不足が皆の脳にバグを起こしたに過ぎず、おかしなことも
たまたま起こった機械のトラブルだ、と言い切ります。


航海士であるキングスレーやオデール少尉、クレアの三人は、艦が、
いつの間にか敵を撃沈したとされる場所に向かっていることに気が付きました。

オデール少尉は、そのことをルーミス大尉に質問しますが、
お前がイギリスに行きたいからなんかしたんじゃないのか、と逆ギレされるのみ。



さて、壊れた舵は油圧を回復すれば動くようになるはずですが、
油圧管が通っているのは蓄電室であり、しかも水素が充満しています。

そこでブライス大尉とルーミス大尉は、なぜか乗員に知らせずに
下の区画をこっそり密閉して、蓄電室での修理を決行することにしました。

どうしてせめて乗員を上の区画に避難させないんでしょうか。
何を考えているんだこの幹部たちは。



危険な作業がドアの向こうで行われていることを何も知らずに
潜水艦での「日常」を過ごす乗員たち。



イリノイ州ノックスビル出身の乗員は、就寝前に娘の写真に投げキスします。


しばらくしてブライス大尉がチーフと連絡を取ろうとしますが、返答がありません。
そりゃあるわけないよね。


恐る恐る水密ドアを開けてみると、
全員が真っ黒になった区画の中で焼け爛れて死亡していました。

火花が水素に引火して爆発したんです。
ってさ、どうしてなんの振動もなく音も叫び声も聞こえてこないの?
狭い潜水艦で区画一つが吹っ飛んだと言うのに。

しかも、中に踏み込んだオデール少尉らは、爆発直後だというのに
普通にドアのノブや床のグレーチングに素手で触っています。

こんな大爆発を起こして激しく炎上し燃えたなら金属は熱くなるよね?
他の区画も無事ではいられないと思うんですが。


まあ、それはよろしい。よろしくないけど。

わたしがホラー映画として一番怖かったのはこのシーンです。
ドアの鏡に映るルーミス大尉の動きが、実際より一瞬だけ遅いのです。

しばらく映像を凝視して動作を確認していたルーミスですが、鏡に背を向けた瞬間、
彼は感じました。
鏡の中からこちらを見ている自分自身を。

振り向いた彼が見たものは・・・

「ああああああ〜〜〜〜」画像自粛)



血相変えて飛び出してきたルーミス。



「ルーミス?」

「奴がいる!」

錯乱状態のルーミス大尉はそのまま出て行ってしまいました。


外に。



アクアラングなしで。


生き残った数名の乗員が呆然としていると、物が落ちる音がしました。
駆けつけてみると、廊下には前艦長ウィンターズ少佐の私物一式が・・・。


そのときブライス大尉は艦長室のカーテンの奥に、
確かに「それ」を見たのです。

艦体はそのまま海底に鎮座し、暖房が切れてバラストも動かなくなりました。


スタンボという掌帆員はまだ生きていて、床でぶつぶつ独り言を言っていました。


そこで看護師のクレアが彼を正気にするために殴りつけます。
この怒れるスタンボのセリフも、PG-13が取れなかった理由の一つでしょう。


ここでオデール少尉は、いきなりクレアにこんなことを言い出します。

「ルーミス大尉は勲章が欲しかった。
ブライスは昇進してアナポリスに行こうとしていた。
クアーズは故郷に美人のガールフレンドが待っていた。
だからだ。」

いや、ちょっと待ってほしい。

まず、オデール少尉は、艦長の死の真相を知っているのでしょうか。
それとも知らないで想像でこれを言ってるんでしょうか。

本人も言うように、彼にとってこれが初めての哨戒任務であり、
途中でどこかに行っていたとかでないのならば、当然彼は
艦長が亡くなった時、「タイガーシャーク」の幹部としてそこにいたわけです。

「ドイツの船を沈めた後、艦長が暖炉の飾りを拾おうとして海に落ちた」

と言うのを今まで信じていたのが、おかしなことが起こりだしたので、
どうやらそれは嘘で、3人の士官が艦長を殺したらしいと気付いたのでしょうか。

それならどうしてその理由だけをこんなにはっきり言い切るのか。

しかも、なぜ3人が自分の保身のために艦長を殺したのか、
艦長は何をしようとしたのかについては、わかっていないようなのです。

そんな馬鹿な。

だって、オデール少尉も潜水艦の幹部のひとりなのに、
なぜ彼だけがその時何も知らずにいられたのか、知らされなかったのか。


なぜこの映画はこんな無茶苦茶な設定になっていると思いますか?
お分かりいただけただろうか。
ヒントは、「映画の主人公が誰か」です。

本作の主人公は、若いアメリカ人イケメン士官であるオデール少尉です。
彼は事件が発覚するきっかけを作った女性看護師のカウンターパートでもあります。

主人公が、同盟国の女性看護師とともに黒い殺人事件の真相を暴く。
それには、オデール少尉が「事件を起こした側」であってはなりません。

しかし、潜水艦という特殊な狭い環境下で起きた事件について、
いくら下っ端でもここまで知らずにいられるわけはないのです。

完全にこれは映画の設定ミスというやつです。

わたしは、オデール少尉の役は、救難機かなんかのパイロットで、
撃墜されて英病院船にいたことにすればよかったのにと思っているのですが、
彼が「潜水艦乗員」であることは外せなかったのかもしれません。



さて、そうしている間にも、艦内の空気は残り少なくなり、
クレアも朦朧としてきてしまいます。


そのとき彼女はこのメモとブライス大尉の書いた航海ログを見つけました。
そして彼女はついに事件の真相を知るのです。



その日、2315、ドイツ軍艦らしき艦影を発見した「タイガーシャーク」は
1発の魚雷を放ち、命中の手応えを感じました。



隔壁の破れる音を確認し、撃沈は確実だと思った四人の士官たちは
敵艦の沈没を確かめるために、甲板に上がります。

「標的艦は炎上しており、海面には無数の人間が漂流していた」

クレアが読み進めたところ、そこで記述が途絶えていました。


そのとき彼女は寝台の上に人影を見ました。
人影は彼女に何かを告げているようにも見えます。

怯えながらも、彼女の脳裏にある考えが閃き、彼女は震える手で
あの日沈めたと彼らが言うところのドイツ艦と、
自分自身が乗っていた病院船、フォート・ジェームズ号、
二つの艦影を重ね合わせてみたのです。

するとそれはほぼ同じ艦であるかのようにピッタリと重なりました((((;゚Д゚)))))))

つまりフォート・ジェームズ号を沈めたのはUボートではなく、
この「タイガーシャーク」だったのです。

これが真相でした。
ウィンターズ艦長は間違って同盟国の病院船を1発で撃沈したことを知り、
すぐさま海上の生存者を救出させる指令を下そうとします。

ところが、軍法会議にかけられキャリアを台無しにすることを恐れた三人の士官が、
暗黙の了解のうちに艦長を亡き者にしてしまったのです。


その頃潜水艦内では浮上のための努力が続いていました。

蓄電池が切れたので空気を送るために、全員が一丸となって
ワイヤーを素手で掴んで引っ張っております。

これをするとどうなって空気が送られるのかわたしにはわかりませんが、
空気が少なく、飲み残しのコーヒーがカップの中で完全に固まるくらい寒いのに、
全員全く白い息も吐かず、元気いっぱい綱引きをしております。

「もうおしまいだ!」
「ちくしょー!」

と言いながら引っ張っていると、あら不思議、
艦が浮上していくではありませんか。


こう言うところの詰めが甘いのは、ホラーに話を振り切った結果ですかね。


しかし、このとき引っ張られたワイヤーの先の部品が飛んで、
それを頭部に受けた病院船の航海士キングスレーは亡くなってしまいました。

この人は艦長の死に何も関わっていないのに・・・・。


見事浮上したところに別の艦が接近していることが探知されました。
どうやら同盟国艦船らしい、と一同が沸き立ったそのとき、


「よくやった、オデール少尉」

折り目もパリッとした軍服にタイを締め、ブライス大尉登場。
こざっぱりと髪の毛までいつの間にか撫でつけて。
そういえばさっきこのおっさん暗闇で髭を剃って靴を磨いていたな。

「私はもう大丈夫だよ」
”I'm feeling much better now."


オデール少尉がもはや艦を捨てるべきです、というと、ブライス大尉は、



「コネチカットになんといえばいい?」

と、この期に及んで艦を維持することを主張するのでした。
オデールが構わず通信員に救助をコンタクトするようにいうと、ブライス大尉、

「君は艦長ではないぞ」

するとオデール少尉、ここぞとばかり、

「あなたも違いますよね!?」



ブライス大尉は途端にキレてオデール少尉を殴りつけ、
腰の銃を抜くが早いか、通信機にぶっ放して破壊してしまいました。

気がくるっとる。


ところで、男たちが無益な争いの真っ只中にいる間、
ここでもいい意味で空気読まない働き者のクレアは、勝手に外に出て、
雨の中、通りすがる船にカンテラを振って助けを求めておりました。


彼女のいないのに気がついて甲板に上がってきたブライス大尉に、

「みんなを艦もろとも葬るつもりなのね?」

と烈しくなじり、ブライスに突きつけられた銃を自分の喉元に当てて、

「殺すなら殺しなさいよ!え?」

この映画で最も男前なのは実はこのクレアだったりします。

ついでに英語では彼女、ブライスに対して

「このf×××ing coward!」

とまで罵っております。

これは、階級社会の軍隊の中で彼女だけが無関係だからです。(看護師ですが)

「女性が乗ってきたから縁起が悪い」

という最初の思わせは全く逆で、潜水艦の置かれた最悪の事態を打開したのは
実は勇気あるこの女性というオチだったんですね。


見張り塔には、ハッチを開けて出ていったルーミス大尉が引っ掛かっていました。

いよいよおかしくなったブライス大尉、ルーミス大尉の亡骸に向かって
パンパンと銃を当てながら彼を罵ります。

「『すぐに離脱するんです!
彼らはUボートのせいだと思ってくれるでしょう』だと?
『見つからないように早くここから去りましょう』だと?
他にアドバイスはないのか、チャンプよ?」

あー、間違えて病院船を撃沈した現場から離脱しようと言ったのは、
だれかと思ったらルーミス大尉だったのね。

でも、ブライス大尉だってそれに同意したんだよね?
人のせいにしてはいかんよ。



そのとき、先ほどの船が灯りに気づいたのかこちらにやってきました。


ブライス大尉は夢遊病のひとのようにクレアに語りかけます。

「私はどうにかしようとしたんだ・・・なんとかなると・・
なんとかしてウィンターズの名誉を傷つけないようにと・・

私はこのユニフォームを着て港に帰るはずだったんだ。
だが・・・・
私はどうしたらいい、ミス・ペイジ?

もう・・何もわからない!


「ライトを拾って私にちょうだい!」

甲板に駆け上がったオデール少尉とウォラースが見たのは、
まるで手負の獣を宥めるように、ブライス大尉に手を差し伸べるクレアの姿でした。


ライフルを構えるオデール少尉の前で、ブライスはこう言います。

「ああ、わかったよ。どうして彼が私を殺さなかったかが・・
彼はそれをする必要がなかったからだ。

さて、私は何をすると思う?ミス・ペイジ」


(え・・・・?)


次の瞬間、彼はライトを海に放り込み、続いて銃をこめかみに当てました。





そもそも、最初にイギリスの病院船を敵と間違えたのは誰だったのでしょうか。

艦長はじめ、ブライス大尉、ルーミス大尉、クアーズ中尉の誰もが
海軍軍人として任務を遂行する上で起こり得るミスを起こしたにすぎず、
少なくともその時点では誰一人として悪人ではなかったのです。

しかし、「軍人としての名誉を守るための嘘」は、
犠牲になった艦長の霊の深い恨みとなって彼らを死に引き摺り込みました。


危ない人がいなくなったので、ここぞとオデール少尉は銃をぶっ放し、
近づいてきた船に合図を送ります。


ところが、船は通り過ぎていくではありませんか。


一同が絶望的になったそのときです。


船から信号花火が打ち上げられました。




彼らを救出したのはイギリス船籍の民間船RMS「アルキメデス」でした。

この映像では船尾にユニオンジャックがありますが、彼女は商船なので、
実際なら旗竿に近い上の隅に、ユニオンフラッグがついた
小さな赤い旗だけをつけているはずだそうです。(ネット情報ね)


助かったのは、まず、通信員の「物知り博士」ウォラース。
集めていたポップコーンのおまけである潜水艦をなぜか海に指で弾き飛ばします。


そして我らがクレア・ペイジ看護少尉。



彼女に平手打ちを喰らって正気を取り戻したスタンボ。

「あんたは今までで俺を殴った最初の女ってわけじゃないが、
最後の女になることもなかったわけだ。
・・・俺を正気に戻してくれてありがとよ」


「Well done」を互いに投げかけ検討を讃えあう二人でした。



そしてオデール少尉。
船端に佇む彼のところに船長がやってきて、


「君の船が沈んでいくよ」



本当だ・・・。


艦体は悲鳴のような軋みをあげ、艦尾を上に向けて海に姿を消しました。
彼はクレアとこんな会話を交わします。

「君ならなんて”これ”を説明する?」

「今となってはもう誰も信じないわよね」

「ウィンター艦長が死んだとき、彼は・・残していったんだ
・・どう言えばいいんだろう」

ええ?ちょっと待って?
もしかしたらオデール少尉、艦長が死んだ時のこと何か知っていた?
このセリフ、一体どういう意味なんだろう。
それに対してクレアは、

「あなたが思う通り言えばいいわよ、少尉。
でも、わたしたちは何か
訳があって引き戻されたんだ
と思うわ」



そのとき、彼らには知る由もないことでしたが、海面から姿を消した潜水艦は
真っ直ぐ、目的を持っているかのように確信的に海中を落下していました。



そして、海の底で潜水艦を待っていたのは・・・・・。
潜水艦は引き寄せられるように「フォート・ジェームズ」の側に横たわりました。


今回、どこかの映画サイトの感想(日本語)に、

「なぜ前艦長だけが呪いのために現れたのだろうか。
それをいうなら、殺されたドイツ人や撃沈された病院船に乗っていた

たくさんの犠牲者は一斉に化けて出てこなくてはいけないはず」

というのがありました。

この感想を書いた人は、おそらく最後のシーンをちゃんと見ていないか、
あるいは日本語字幕にとらわれてペイジ少尉の最後の言葉を
きちんと解釈しなかったのではないかと思われます。

間違えて撃沈された病院船の元に潜水艦を引き戻したのは、
果たして艦長の霊だったのでしょうか。
それとも誤爆で命を失った無辜の民間人の怨念だったのでしょうか。





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1 Comments

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面白かったです (Unknown)
2022-03-06 08:46:59
いやー。面白かったです。

>軍法会議にかけられキャリアを台無しにすることを恐れた三人の士官が、暗黙の了解のうちに艦長を亡き者にしてしまったのです。

これは「あるある」だと思います。平時だったら、ここまで出来ないですが、有事でしかも船だったら、関係者みんなで共謀したら出来ちゃいますしね。あー。怖い。怖い。

>蓄電池が切れたので空気を送るために、全員が一丸となってワイヤーを素手で掴んで引っ張っております。

ベント弁を開けて、浮上しようとしているのだと思います。今の船では無理ですが、昔のディーゼル艦は、エンジンの始動に使う高圧空気が切れてしまった時に、ハンドルをシーソーのようにギッコンバッタンやれば、空気を貯めることが出来る手動ポンプがあったので、この頃は同じ仕組みがあったのかもしれません。

>潜水艦の置かれた最悪の事態を打開したのは、実は勇気あるこの女性というオチだったんですね。

男は上下関係を考えてしまうので、ここは女の出番ですね。うちの♡も思ったことを言いますしね(笑)

賛否両論ある、というか否がほとんどかもしれませんが、韓国の潜水艦映画「ユリョン」(ハングルで「幽霊」)を思い出しました。こちらはホラーではなく、潜水艦を舞台にしたアクションもの?です。自衛隊がやっつけられ「このヤロー」というところはありますが、私は面白かったです。お勧め。https://eiga.com/movie/1760/
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