
ニューヨークのハドソン川河岸に係留展示されている博物艦、
駆逐艦「スレーター」。
長々と外から見た様子について描写してきましたが、ようやく
見学ツァーの一員として乗艦するときがやってきました。
ラッタルを渡ってから一行は舷門のところでこの艦の歴史的な価値、
多大な努力によって完璧な姿で保存されていることなど説明されます。
そのあと左舷側の舷側に沿ってコースを進んでいくのですが、
すぐにこのような初めて見るコンパートメントを発見しました。
「エスケープハッチ」(脱出用ハッチ)というのが正式名称です。
非常用のハッチといいながら、上部に滑車と鎖があり、ここから
ものを出し入れしていたらしいことがわかります。
内部で火災が起きた時にはここからホースを入れることができるように
消火栓も近くに設置されています。
上部構造物の壁にはアプリケーターがセットされています。
この部分、青いですが、ダズル・カモフラージュの濃部分です。
ツァーに同行していた一人の男性のTシャツが気になって仕方ありません(笑)
「YAMATOって何〜!」
さりげなく後ろに忍び寄り、写真を撮っておきました。
どうも「倭(やまと)」という和太鼓グループがこの年アメリカで
ツァーを行い、この男性はそのコンサートでTシャツを購入したようです。
「人の輪の真ん中に太鼓」
という日本語が書かれていました。
最初に見学したのはギャレーです。
メスドックという水兵用の食堂の一階のデッキにあり、ここで
212名の下士官兵の食事を用意しました。
この時の説明によると、ギャレーというのは平時一番危険な場所だそうです。
波高が高い時、あるいはヘビーな横揺れに見舞われたりすると、
熱湯でもあるスープ類が鍋からこぼれたり、熱された鍋の蓋が飛んで
調理人を直撃することもあるからです。
スープやシチュー類を煮込むために三つの巨大な鍋があり、
これは「コッパーズ」(Coppers)と呼ばれていました。
見たところ女性の後ろの大きな鍋は銅製ではありませんが、
慣例的にそう呼ばれていただけなのかもしれません。
このタイプはアメリカ海軍のスタンダードで皆同じ形をしています。
鍋は低圧の蒸気を使って料理を行う仕組みですが、
この蒸気は艦を動かす補助ボイラーから取られていました。
食材はメスデッキの階(階下)の倉庫に収納されており、そこへは
前方の乗員の洗面所内にあるハッチでいくしかありませんし、
野菜などの倉庫は逆に一階上の上部構造物デッキにあり、
パンの棚は廊下にあると言った具合に散らばっていました。
駆逐艦は小さいのでこれは仕方がありません。
食事の時間になると、重い鍋や食べ物を手で持った人が
前方の梯子を使ってそれらを毎回階下に手で下ろしました。
本日のメニューは
「ドライビーフのクリーム和え」
まず「ドライビーフ」というのが既に謎ですが、ローストビーフとは
全く別物だろうし、まさかビーフジャーキーのことじゃないよね?
まさか高級ステーキ店で出てくる「ドライドエイジドビーフ」のことかしら。
クリームというのは、ミルクを温めてそれに脂と小麦粉をぶちこみ、
ねるねるねるねしてそれに胡椒をぶちこんだもの。
うーん、ハーブを使えとは言わんが、味付けに胡椒だけってどうなんだろう。
左に半分見えているのがオーブン。
オーブンではいつもパンを焼いていて、ことに夜になると
切れ端などをお目当ての乗員たちの人気のスポットでした。
粉を混ぜる「ドウミキサー」はホバートのA-200モデルです。
ギャレーは物資が持ち込まれ、海の状態がそんなひどくない限り、
乗組員に十分な栄養を与え続けることができました。
しかし、駆逐艦乗組員の多くは、北大西洋の船団勤務中、
戦闘ステーションに貼り付いているか、荒天でキッチンの火が使えず、
コーヒーとサンドイッチだけですませていた記憶しかないそうです(涙)
説明が終わり、ギャレーを出るとき、わたしは解説の人に
「スレーターにはアイスクリームメーカーはあったんですか」
と聞いてみました。
すると彼は、その質問待ってました、という調子で、
わたしというより見学者全員に聞かせるように、
「スレーターにはアイスクリームメーカーはありませんでしたが、
第二次世界大戦中の軍艦、とくに大きな艦はほとんどが
アイスクリームが食べられるようになっていました。
潜水艦はキッチンが小さいですが、任務がハードなこともあって
アイスクリームメーカーを持っていることが多かったのです」
と説明しました。
ここで説明したこともありますが、駆逐艦の場合、護衛する戦艦や空母に
ゲダンクと呼ばれるアイスクリームショップがあるので、たとえば
海に落ちた飛行機の搭乗員を助けたら、その搭乗員の体重と同じだけ
駆逐艦に対しアイスクリームが振舞われるという風に、
ご褒美兼『餌』にされていたという報告もあります。
そんなアメリカ人のアイスクリーム愛をかつてここでご紹介したことも。
ギャレーを出てそのまま艦首に向かって歩いていくと、
艦首旗を掲揚する
Bow Jackstaff
部分に近づきます。
ここには錨鎖などがあるため、立ち入ることはできません。
現在ここに掲揚されている旗はユニオンジャックです。
伝統的に、アメリカ海軍の軍艦が港にいるときに揚げられます。
ユニオンジャックとともに、かつての「スレーター」艦首にて。
「ミッドウェイ」の内部見学で、空母ではトレーニングジムにもなっている
広い「フォクスル」=艦首楼(Fo'c's' le=Forecastle)
をご紹介しましたが、駆逐艦の場合はこの部分がフォクスルということになります。
ところで、このフォクスル=Forecastleですが、なぜこう呼ぶかというと、
帆船時代の名称の名残です。
その時代、船首部分は最初に敵の船と交戦するための城、つまり
「前方の城」だったことに由来します。
ここには通常錨鎖とそれを止めるペリカンフック、チェーンストッパーがあり、
アンカーを上げ下げするために使用される電気駆動式の油圧ホイスト、
アンカーウィンドラス(巻き上げ機)があります。
今はどうかわかりませんが、「スレーター」では一度に
一つのアンカーしか処理することができなかったので、
二つ目のアンカーを使用する場合には、最初のアンカーを固定してから
切り替える必要がありました。
フォクスルの後方には弓形の囲いがあります。
「Gun No.1」の周りを取り囲むようになっていて、
エッジには銃座から見ての角度が10度ごとに刻まれており、
配置につく前にかぶる鉄帽がフェンスに人数分掛かっています。
ここには3"/50 口径対空銃が設置されています。
駆逐艦の主砲としては5”/38 口径の銃を装備することになっていたのですが、
生産不足のため、この台座タイプが主砲として、
最初の駆逐艦4クラスに採用されました。
そのうち生産が需要に間に合うようになり、最後の「ラドロウ」級、
「ジョン・C・バトラー」級に5”/38 口径が搭載されるようになりました。
装填は手動で行い、昇降ギアによって銃弾は運ばれます。
ここでは実際に使用していた弾を見せてもらえます。
俯角のリミットは13度、仰角は85度。
「上部構造物に射線が当たらないように設計されています」
どんなに夢中になって撃ちまくってもこの部分には絶対に当たらないので安心ですね。
「スレーター」ではより正確な銃撃のために、ディレクターコントロール
(射撃制装置)を使用していました
「注意:カバーの取り外しの際にはシフトレバーを元の位置に戻すこと」
と書いてあります。
ディレクターコントロールから送られてくる情報通りに
ここを覗きながら角度を調節するためのスコープだと思います。
「ちょっと持ってみますか」
言われて一人の男性が持たされ、
「重いなこりゃあ」
男性の腕の筋肉が重さで緊張しているのに注意。
#1ガンの後ろには、
MK 10 ヘッジホッグプロジェクターが設置されています。
ヘッジホッグは、先日江田島の第一術科学校に展示されていたのを
ご紹介ついでに説明もさせていただきましたが、繰り返しておくと、
この「ハリネズミ」は、爆雷攻撃の欠点を克服するために、
イギリスで開発された攻撃方法です。
第二次世界大戦時、ソナーは船の前方でしかスキャンできなかったため、
潜水艦がいると分かっていてもソナーに引っかからなければ、
爆雷は当てずっぽうに落とすしかなく、攻撃の精度が下がりました。
もっとまずいことは、一度爆雷攻撃を行うと、ノイズと乱流が発生するため、
ソナーがそのあと30分間は使うことができなくなるのです。
この点、艦首近くに設置されたヘッジホッグは、潜水艦をソナーで捉えている
(つまり艦の前方にいることがわかっている)とき、そこに向かって
攻撃を行うということを可能とします。
ヘッジホッグとは、24門の迫撃砲からなり、艦の前方
250メートル先をミサイルで攻撃するものです。
潜水艦の潜むエリアに向けて、迫撃砲は円形、または楕円形をなして
落下していき、潜水艦を取り囲むように海中に落ちてこれを殲滅します。
ヘッジホッグ発射後、海面で水しぶきを上げるミサイル。
こちらは戦後のヘッジホッグの発射跡。
各ミサイルには35ポンドのトーペックス(Torpex、英国で開発された
魚雷用の爆薬でTorpedo Explosiveの略語)あるいはTNT爆薬が含まれます。
ミサイルの推進力はロケット式ではなく、無煙パウダーのインパルスチャージです。
ミサイルは先端に接触性のヒューズが付けられており、潜水艦などの
水面下の物体に信管が当たった時に飲み爆発する仕組みでした。
ヘッジホッグには後方に蓋のようなものがありますが・・・・・、
これがそのヘッジホッグの裏側。
コントロール装置一式があり、これ全体がシールドにもなっています。
そしてこれがヘッジホッグのクレイドル、つまり設置されている台。
第二次世界大戦中は護衛駆逐艦とイギリス海軍のフリゲート艦だけが
これを装備していました。
第二次世界大戦中、ヘッジホッグの攻撃を受けて
生き延びた潜水艦はないと言われます。
続く。
自衛隊でも先代「あめ」「なみ」型等、昔の蒸気タービン艦にはありました。ほとんどの区画はラッタルを登って上甲板に出るようになっていますが、機械室だけは垂直ラッタルで直接、出られるようになっていました。
艦内の機械室への入り口も垂直ラッタルで、航海中は出入りするので、開いたままになっていました。当時、艦内は士官室や食堂にしか冷房がなく、夏の居住区はつらかったので、ボイラーに吸い込まれる空気のせいで、ハッチの側にいると涼しく快適で、休憩用の穴場でした(笑)
>アプリケーター
遠洋航海で発展途上国に行くと、先端の真鍮製のノズルがよく盗まれるので、一般公開の前には外します。付けっ放しでも大丈夫とはさすが民度の高いアメリカ合衆国ですね(笑)
>食材はメスデッキの階(階下)の倉庫に収納されており、そこへは前方の乗員の洗面所内にあるハッチでいくしかありませんし、野菜などの倉庫は逆に一階上の上部構造物デッキにあり、パンの棚は廊下にあると言った具合に散らばっていました。
小さい船あるあるです。昔、自衛隊にもいた駆潜艇(苦戦艇?)は船体中央の上甲板のすぐ下まで機械室で、前の居住区から食堂があるうしろに行くには一旦、上甲板に出ないと行けず、夜間、特に荒天時は怖い思いをしました。
>ドライビーフ
文字通り「乾燥牛肉」だと思います。
>駆逐艦乗組員の多くは、北大西洋の船団勤務中、戦闘ステーションに貼り付いているか、荒天でキッチンの火が使えず、コーヒーとサンドイッチだけですませていた記憶しかないそうです(涙)
これもいつ対潜戦で配置に就くかわからない行動あるあるですね。日本の場合、缶飯かおにぎりになります(笑)
>エッジには銃座から見ての角度が10度ごとに刻まれており
このタイプのガンはレーダーを見ているCICから「何度(水平方向)仰角何度(垂直方向)に備え」と言われて、砲側の左側の操作員がハンドルを回して、砲の向きを合わせるので、わかりやすいようにブルワークに角度を記しているのだと思います。右側が砲台長で、望遠鏡で目標を確認(敵味方識別)して発砲します。
>ここには3"/50 口径対空銃が設置されています。駆逐艦の主砲としては5”/38 口径の銃を装備することになっていたのですが、生産不足のため、この台座タイプが主砲として、最初の駆逐艦4クラスに採用されました。
恐らくDEが3インチ砲。DDが5インチ砲だったんじゃないかと思います。
>「ちょっと持ってみますか」言われて一人の男性が持たされ「重いな。こりゃあ」男性の腕の筋肉が重さで緊張しているのに注意。
初めて持ったのでしょうね。重さがわかっている人なら、もうちょっと脇を締めます(笑)
3インチ砲とヘッジホッグ砲台があまりに近いのでビックリです。あれじゃ、ヘッジホッグを発射する時には3インチ砲の射撃員は退避しないと危なくて撃てませんね(驚)
潜水艦は水上艦を襲撃(魚雷攻撃)する際、近くても2、3千メートルから撃って来ると思います。それに対して、水上艦の反撃手段はヘッジホッグで射程250メートル。爆雷に至っては、潜水艦の直上を通り越してドン!なので、零距離です。
そこに潜水艦がいる時に撃てば、逃れることはまず不可能ですが、そこまで行く間に先制攻撃で水上艦がやられることも多かっただろうと思います。
そのうえで要求される武器や乗員数、スピード、行動距離や場所等により大きさや価格等も加味して形が決まってきますが船は過去のタイプシップと呼ぶ参考にする船がベースとして土台となります。
中小型艦艇の船型には低平甲板型、短船首楼型、長船首楼型、平甲板型、船楼型があります。
国によって設計方針があり決定されますがこの時代アメリカは環境や考え方で低平甲板型が多く、「スレーター」も典型的な低平甲板型です。
機械区画の上が1甲板であり、そのため上部構造物の横に機関区画からの脱出口が設けられています。常時の出入り口は上部構造物内に設置されていると思います。
これぐらいの大きさの艦艇は揚錨機は1基です。そのため両舷の錨、錨鎖は片方での使用となり、揚錨機の前にライジング・ビットを装備し、片舷投錨後錨鎖車から錨鎖を外し、このライジング・ビットに錨鎖を1巻巻きつけて、反対舷の錨、錨鎖を使用して両方必要な双錨泊とします。
推進装置は「スレーター」はデイーゼル電気推進ですのでメインボイラーはありません。よって補助ボイラーを装備し、炊事や暖房の雑用に蒸気を使用することとなっていました。
ギャレーは調理器等はどうような物を使用するか国によって違いますが電気だろうと高温になりますので換気と火気に十分注意しておかねばなりません。
結構火災となる事があります。
上部構造物内にギャレーで食堂が主船体内にある等動線が悪くなる場合があります。
ヘッジホッグですがこの時代のソーナーが150mくらいに近づくと失探となり、通過して爆雷投下まで40秒以上経過し、潜水艦に方向変換や深度変更で逃げられる事が多く、前投兵器として200m以上前に投入できる武器として開発されました。イギリスはスキッドを開発しました。
参照海人社岡田幸和著「艦艇工学入門」、原書房堀元美著「潜水艦」