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CPO「俺たちがスタンダード」〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-05-02 | 軍艦

何回調べても、アメリカ海軍の階級、特に下士官のそれは複雑で覚えにくいものです。
特にEnlisted Personnel の下士官(Non-Commissioned Officers )の中だけで、下から

OR-4 三等兵曹

OR-5 二等兵曹

OR-6 一等兵曹

OR-7 上等兵曹

OR-8 上級上等兵曹

OR-9 最先任上等上級兵曹

          部隊等最先任上等曹

    艦隊・司令部最先任上等兵曹

OR-9 海軍最先任上等兵曹

と6段階にこれだけの階級があるわけですから、階級を聞いただけで
どの地位にあるのかなどとはピンとこないのが当たり前でしょう。

上級兵曹の上に「シニア」をつけて上等上級兵曹とかいうのもわかりにくいです。
指揮体系と給与体系の関係でこういうランクづけをしているのでしょうが。

 


存在感のあるこの洗濯板はCMCという立場のチーフです。
東洋系ですが、名前が「KEETCH」。

キーチ・・・・・・喜一?

とにかくこの喜一さんは

「ミッドウェイ」のCMC(コマンド・マスター・チーフ)

CMCというポジションは、ベトナム戦争時代から運用されています。
給与体系でいうとE-9、下士官の最高なので、名称はこれに「ペティ・オフィサー」が付きます。

日本語だと、

「部隊等最上級兵曹長」(Command master chief petty officer)


役割を一言でいうと「艦長の特別なアシスタント」であり、具体的には
クルーのモラルとか勤務状態をモニタリングして統制し報告をあげたり、また、
艦上での生活全般のクォリティを向上させるために広聴を実施する役目です。

「ミッドウェイ」のCMCは特に、航海中の水兵の家族をアシストし、
心配がないように頻繁な配慮を行うことを留意していたという話があります。


 CMCには立派なオフィスがありますが、勤務中の彼は艦内をくまなく周り、
必要とあれば乗員と話をするなどして、彼らの状態を把握すると同時に
対処していたので、彼が実際にオフィスにいることはあまりなかったかもしれません。

それでは上記ランキングの中でCMCはどこに所属するのでしょうか?

OR-9(NATOランク)の海軍最先任上等兵曹のことは

「Master Chief Petty Officer Of The Navy」

といい、これが一番近い気がするのですが、それではこの
MCPON(マクポン?)とCMCではどちらが偉いんでしょうか。

ついでに記述しておくと、下士官の最高ランク、E-9にはCMCの他に

  • 最上級兵曹長(Master chief petty officer)
  • 艦隊/司令部最上級兵曹長(Fleet/Force master chief petty officer)
  • 海軍最上級兵曹長(Master chief petty officer of the Navy)
などの役職があります。
 

ところで、海軍というところは士官に向かって話す時には語尾に
「サー」を付けますが、この「サー」を間違ってチーフやマスターチーフに
使ってしまったらえらいことになるといわれています。
 
「サーだとお?バカにするなあ!
俺は将校じゃねえぞ!」
 
と怒鳴りつけられること間違いなし、なんだそうです。
つまり下士官というのは「士官ではない」ということを誇りにしているのか、
それとも叩き上げ特有の「エリートコース」に対する反発なのか知りませんが、
士官に対するような扱いをされることを嫌がる傾向にあるらしいんですね。
 
一般に「チーフ」と称する人種は敬礼をされても怒るというくらいで、
どうもアメリカ海軍では敬礼される対象は”士官だけ”というのが常識である模様。

今回は「ミッドウェイ」のCPOカントリーを見学したのですが、そのエリアに
こんなカリカチュアがあったのでご紹介しておきます。

左の陸軍軍人が

「チーフは少尉になれるのに、少尉はチーフになれないってちょっと変だと思うんだ」

右のお魚模様のコーヒーカップを持ったCPOが

「俺らが基準だから

どういうことかというと、海軍では「チーフ」と呼ばれるチーフウォラントオフィサー、
そしてやはり「チーフ」であるCPOには絶大な権限を持たされていて、それは
ペーペーの少尉がそれでも彼らより軍隊の階級が上とはとても信じられない、
と言いたくなるほどだということなんだと思います。

どこの軍隊でも(もちろん自衛隊でも)士官学校を出た士官は、どんな若造でも
洗濯板のような功労賞を腕に付けた下士官より階級だけは上です。

しかし持たされている権限も責任も、勿論海軍の飯を食った年数などははるかに
下士官のチーフは上、ということで、ついこのような疑問を抱きたくもなるのでしょう。

そして下士官たちは、自分たちが基準であり、士官の階級というのは
おまけか表面だけのこと、少なくとも初級士官なんぞ階級バッジだけの
取るに足らない存在、と考えているということに他なりません。

たぶんですけど。

武器庫エレベーターを過ぎると「空母の歴史」コーナーがありました。
「未来の空母」として「ジェラルド・フォード」が紹介されています。

CVN-78 「ジェラルド・R・フォード」は去年の 2017年7月22日 就役し、
現在はノーフォーク海軍基地で慣熟訓練中だそうです。
「ジェラルド・R・フォード」級で予定されている2番艦は
今年進水式が予定されているCVN-79「 ジョン・F・ケネディ」。
就役は2020年予定です。

3番艦は今年起工が予定されているCVN-80 「エンタープライズ」。
またエンタープライズか、と思うわけですが、フォード、ケネディときて
なぜいきなり人名でなくなるのかちょっと不思議ですね。

ネタ切れかな。

ここに制限区域の始まりがありました。
怖い顔をした警衛のおじさんが睨みを利かせています。
そしてここにも横須賀時代の名残り、日本語での警告が・・・。

「制限区域につき立ち入り禁止

許可された者のみ立入可
許可無き者の立ち入りについては即刻厳罰に処せられます」

怖い。奈良東大寺の仁王像みたい。

こちらの階段を降りるとCPOメスがありますよ、の看板があります。

海軍の艦船は十分な収容スペースがあったので(!)
士官を含む「チーフ」の付かない乗員がオフリミットの、
「CPOだけの区画」を、艦内にいかようにも設けることができ、
特別の住人からの招待状がないと、何人たりとも(勿論士官も)
ここに立ち入ることはできないということになっていました。

海軍用語ではここをCPOメス、あるいは冗談(tongue in cheek)で
「ゴート・ロッカー」とも呼ばれていました。

つまりCPOは「ヤギの集団」ってことになりますが、一般に英語圏でヤギというと
おなじみ「スケープゴート」の意味の「身代わり」以外に、
なぜか「好色な男」という意味があるのだそうです。

「ヤギのように強情」とか「馬鹿な真似」という場合にも使われます。
どれがメインの理由なのかは、英語圏でないものにはわかりませんが、
まあ、全員がヤギっぽかったってことなんでしょう。

さて、士官や下士官兵のギャレーやメスのある階を見学し終わると、
順路は階下のCPOカントリーへと続いていきます。

おお、階段の壁ですら木目があしらわれ、ちょっとゴージャスな雰囲気?

無機質がスタンダードであるはずの軍艦の中で最大限に「潤い」を
インテリアに求めた結果が、これ。

全面木目の壁に角をなくしたカーブ、布のソファ。
個室の床はなんと白黒のアール・デコもどきの配色タイルです。

ボードには今日の彼らの夕食メニューが書かれています。

サーフアンドターフ(ロブスターとステーキ)

ベイクドポテト

グリーンビーンズ サラダ

パイとアイスクリーム

サーフ(海、ロブスター)とターフ(牧草地、牛)とはまた
思いっきり力技なメニューですが、まあ要するにCPOとは
こういういいものを
しょっちゅう喰っていた連中なのでしょう。

そして本日上映される映画は・・・

「THE PLAINS MAN」

一瞬「平野の男?」と思ったのですが、ゲイリー・クーパーの

「平原児」1936

でした。
西部開拓史上の伝説的ガンマン、ワイルド・ビル・ヒコック(クーパー)と
カラミティ・ジェーン(ジーン・アーサー)を描いたものです。
兵員のギャレーでは「トータルリコール」という最新映画を観ているのに、
古い西部劇をチョイスするあたりがいかにもCPOらしいのかもしれません。

ボードに映画の制作年を1900年とありますが、それだと
ゲイリー・クーパーはまだ生まれてないっての(彼は1901年生まれ)

それと「ウォルター・ブレナン」はこの映画に出演していません。
ブレナンはガンマン俳優なので、あの人確か出てた!って感じで
調べずに適当に書いちゃったのね・・・。

CPOの執務室一例。
メスの経理関係の部屋ではないかと思われます。

壁のカーブに沿って作り付けのゴージャスな布のソファーに、
脚を組んでやたら態度のでかいおじさんが!

いやー、なんかこの佇まい、いかにもCPOって感じ。

マネキンではなく、服ごと人形をこのためだけに作ってしまったようです。
確かに凝った人形ですが、ご予算はこの人一人で力尽きたようです。

ちなみに彼は勤続12〜14年のCPOで、鷲の羽の上に二つ星があるので
階級ランクでいうと

マスター・チーフ・ペティ・オフィサー
Master Chief Petty Officer (MCPO)

であり、「ミッドウェイ」下士官界の最高峰にいる人となります。

道理で偉そうだと思った。

彼のすぐ上の階級は少尉となりますが、確かに昨日入ったばかりの少尉より
この人の方が階級が下だなんて、「ODD」、つまり奇妙だと思いますよね。

そして綺麗に揃えた髭を立てているのもCPOのお約束です。

髭は一説には「男らしさの誇示」の意味がありますから、叩き上げで
海千山千の海の男たちの上に立ち、彼らを率いていくCPOが、見かけを
まず
「manly」にキメる傾向にあるのは至極自然なことのような気がします。



続く。






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1 Comments

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CPO country (Unknown)
2018-05-02 22:50:25
軍隊だけではなく、どんな組織でもそうですが、人の重みはそこで過ごした年数、食った飯の数で決まるので、経験を積んだ下士官が士官学校出たての若手士官をバカにする気持ちはわかります。

下士官の場合、ペーペーから十年くらいで班長と呼ばれる数人の長(例えば76ミリ砲台員長)になり、その次は分隊の先任として数十人の長。それからCPOに入り、20年くらいで艦内の全曹士を仕切る先任伍長(Command Master Chief)になります。

士官の場合、最初の5年は「士」(さむらい)と呼ばれる配置で曹士(実際には班長クラス)を指揮します。この頃が「階級章の意味を疑われる」ところですが、班長になるくらいの人は階級社会の秩序を十分理解しているので、面と向かって若手士官をバカにはしないし、そういう態度を見せる曹士がいたら正します。

「士」の間は曹士との間のことで、先任海曹にお世話になりますが、たとえ自分の方が階級が上であったとしても、必ず自分から先任海曹室(CPO country)に赴き、先輩として敬意を持って、教えを乞います。おっちゃん達はみんな気安く接してくれます。

ただ、基本は階級社会なので、先任海曹室の外で若い曹士が見ている前では「士」はたとえ自分より年上であっても、曹士に対しては節度を持って命令口調で接しなければなりません。これが出来ないと班長や先任海曹もフォローはしてくれません。

若手士官が曹士の目を気にすることなく、先任海曹に教えを乞える場所である先任海曹室は先任海曹に取っても、若手士官に取っても必要不可欠な仕組みです。
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