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ACES HIGH 敵戦闘機につけたあだ名

2010-07-24 | 海軍



ACES HIGHからもう一日書きます。

今日画像はその綴じ込み写真。
キャプションには
「編隊を組んで飛行するロッキードP-38ライトニング。同社は1938年から45年にかけて、この”双胴の悪魔”(Fork-Tailed Devils、枝分かれした尾を持つ悪魔の意)を9、925機生産した」
とあります。
この飛行機、日本軍の搭乗員からは「ペロハチ」と呼ばれました。

今日は、この本でも目についた敵戦闘機の呼び名についてです。


敵機が現れたとき、通信でとっさに機種を特定し合うことは最重要事項です。
敵機はその機種によって対処法が変わってくるため一瞬で分かるコードネームが必要になってくるわけです。

しかしラバウルでの零戦は通信装置が無かったので、身振り手振りとバンクで意志疎通していたため、コードネームは必要ではありませんでした。
ですので、このころの日本側のは「あだ名」「愛称?」という範疇のものです。

ドーントレスやヘルキャットのように、そのまま呼ばれた機種もたくさんありますが、呼びやすいあだ名をつけられた機種もあります。

冒頭写真のロッキード社のライトニングP-38は、ヨーロッパ戦線では上記にもあるように「双胴の悪魔」と呼ばれて怖れられましたが、当初日本軍からは「メザシ」「ペロハチ」などと半分馬鹿にされたような呼び名が付けられていました。

メザシは見ての通り、体を表した名前です。
写真を見てもらうと分かりますが、編隊を組んでいる様子はより一層メザシ状です。

P-39エアコブラはその形から「鰹節」と呼ばれました。
「鰹節退治は最も愉快とするところです」
と、笹井中尉は実家への手紙に書いています。
「台南航空隊 昭和17年6月17日の映像」の日にふれた「海軍爆撃隊」の映像にも、このP-39が大量に撃墜されているのが板書されています。
「落とされても落とされても来る」
「しかも単機で来たりする」
と、手紙にはまた米軍搭乗員の勇気に感心していることが書かれています。

これも、胴の形はまさしく鰹節のそれで、さすがユーモアを重んじた海軍にはあだ名をつけるのが天才的にうまい人がいたようです。


ペロハチとは、P-38の数字の3を「ろ」と読み替えたもので、「ぺろっと喰える」という意味合いもあったようです。
この本について拙訳にてお伝えした本文に書かれていたように、当時ラバウルの航空隊には精強のパイロットが揃っていた上、戦闘機として失格の烙印を押されていた「月光」にすらあっさり撃墜されてしまったことから、ペロハチ呼ばわりされてしまったようです。

しかし、1943年の大野中尉の手記には若い隊員が「P-38ってのなぁ嫌な野郎だぜ。まるでお正月に揚げる奴凧みたいな恰好をしていやがってな。それでいて速力ときたら滅法速いんだ。俺ぁ二機追っかけたけどみんな逃げられちゃったさ」
と言っている個所があります。
(これも実際には『ペロハチってのは』と言ったのでしょうか)
ACES HIGHによると、この頃戦線には性能向上型のP-38が投入されていたということで、アメリカの凄いところは「ペロハチ」をペロハチのままにしておかなかったところでしょう。
加えて、このころにはそのP-38を愛機とするディック・ボングがこの地にあり、日本軍にとっての猛威となっていたわけです。

もう日本軍にとってペロハチは「ペロッと喰える」相手ではなくなってきていたのです。


この本には、日本機の種類がそれこそ日本の搭乗員の名前より多く登場します。

日本側があだ名をつけて呼んでいたのより、切実な理由でアメリカ軍は日本機にコードネームをつける必要がありました。
なぜなら、日本語というものに全くなじみがない国民だからです。

ヒリュー、シデンカイ、ショウリュウ、なんて、とてもじゃないけれど外国語の絶望的に苦手なアメリカ人には覚えられそうにないし、そもそも発音すらできないと思われます。
(そんなバカな、と思うなかれ。私の知り合いのアメリカ人は「サユリ」という名前がどうしても発音できず、最後まで覚えられませんでした)
当然彼らは勝手に日本機に英語の名前をつけていました。


最も有名なのは零戦に与えられた「ジーク」ZEKEでしょう。
零戦は「ハンプ」HAMPというコードネームも持っていましたが、こちらはあまり使われなかったのか有名ではありません。
ちなみにペロハチを撃墜した月光は「アーヴィング」(IRVING)です。

紫電改が「ジョージ」GEORGEだったのもご存知の方は多いと思います。
それにしても、自国の人名を敵機につけるセンスは日本人にはちょっと理解できません。

「フランク」(四式戦闘機)「ジャック」(雷電)「ジェイク」(零式水偵)
などの男性名はいいとして、
「リリー」(九九式軽爆撃機)ベティ(一式陸攻)ジュディ(彗星)
など、女性名の方が多いのは何故でしょうか。
自分の恋人の名前だったり母親の名前だったりしないんでしょうか。

広島に原子爆弾を落とした爆撃機の名「エノラ・ゲイ」は、搭乗員の母親の名前だった、と言うことでショックを受けていた詩人がいました。
それはこの詩人が日本人であったからです。

あくまでも彼らにとっては「単なる認識の都合としての名前」。
台風にも人名をつける国ですから、便宜上にすぎないということのようです。

しかし自分の母親の名前を持つ敵機を撃墜することになるかもしれないという可能性に思い至らないのがアメリカ人特有のドライさであり、日本人とは決定的に相いれない部分であると思います。

敵国の人物の名前をつけたのは唯一、
「トージョー」(二式戦闘機)
のみ。
というか、普通のアメリカ人が知っている日本人の名前ってこれだけだったんでしょうか。

練習機にはなぜか木の名前がつけられます。
攻撃してこない(はず)だから立木と一緒、という意味でしょうか。

「ウィロー」(九三式中間練習機)「サイプレス」(二式初歩練習機)「パイン」(九〇式作業練習機)「シダ―」(九五式一型練習機)「ヒッコリー」(一式双発高等練習機)
練習機を識別する場面が果たしてあるのかどうかはわかりませんが。
というか、そこまで覚えているオタク、いや記憶力抜群のパイロットって、いたんですかね。


それにしても・・・。

どういうつもりでつけたのか、悪意か、洒落か、それは分かりませんが、桜花につけられた「BAKA」と言うコードネーム、これに関しては私は絶対アメリカを許す気になれません。

日本側とて、ペロハチの前科がありますから、あまり言えたものではないのですが、どう考えてもこのBAKAはあの馬鹿です。

異国の罵り言葉は(場合によっては地方が違っても)今一つ怒りの沸点を高くするもので、ピンとこないためこれが日本人に知られたときどう思われるか、ということまでは、ただでさえ鈍感なアメリカ人のこと、おそらく考えていなかったのかもしれません。

しかし、一連の彼らの無神経さの中でも、この所業だけは―よりによって桜花を侮辱することだけは―糾弾されてもいいと思っています。



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