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金曜日はカレー曜日〜そうりゅう型潜水艦見学

2016-12-21 | 自衛隊

そうりゅう型潜水艦見学、案の定前回では終わらなかったので、
今日が最終回となります。

追加ですが、前回、「89式は深々度魚雷だから深海に鎮座して発射できる」
と書いたところ、詳しい方から

水中で音は屈折するので、海面にいる護衛艦がソーナーを発振しても、
潜水艦がLD(層深、レイヤーディプス)下に潜れば探知しにくくなります。

海面からの音が届きにくくなるということは、潜水艦からすると、
海面にいる水上艦の音も届きにくくなるので、隠れると同時に、
自分もblindになってしまいます。

そのため、潜航中の潜水艦は実はあまり深くは潜らず、ほとんどLD付近にいます。
深々度で魚雷を発射しようと思っても、海面にいる敵艦は見つかりません。

という潜水艦戦のイロハについてレクチャーしていただきました。

そして、層深の屈折率などを変える最も大きなファクターは海水温度なので、
世界の潜水艦隊のルーチンワークとはすなわち

「ひたすら水温を測定してそのデータを蓄積すること」

なんだそうです。

 

さて、発射管室までやって来たわたしたち、ここから引き返すことになりました。

もう一度区画配置をみてください。
発射管室の下には居住区があります。

乗員のほとんどがそこで寝起きしているのだそうです。
ただし、港に停泊しているときにはここで寝泊まりはしません。 

「プライバシーというか、いろいろとお見せにくいものもあるので」

というわけでそこは見学をパス。

先頭にいって発射管室で折り返し、さっきの階下を進んでいき、
またもや分厚い扉を通ってお次は機械室。

図を見ていただくとわかるのですが、機械室や科員食堂には
外から直接出入りすることはできません。
一旦発射管室かAIP室にいって、二つある扉のもう一つをくぐると
そこが自動的に一階下につながっているという不思議な仕組みです。

だから、わたしたちはいつ降りたのか自覚がないままに
発令所と士官室の真下に立っていたのでした。

 

機械室というのは、文字通り操舵を執り行う席があったり、
ベントを開いたり閉じたりするものがあったり、今どんな状態か
わかるモニターがあったりします。

当然ですが、見学者を迎え入れるにあたってはすべてのモニターの
電源はシャットオフされ、何もわからないようになっていますし、
ソナー室というのはカーテンがかけられて覗くこともできません。

見学が始まる前、注意事項としていわれたのが

「狭くてその辺にレバーやスイッチがいたるところにありますが、
絶対に触ったり操作したりしないでください」

そんなこといわれなくてもしませんが。

「中には、そのスイッチ一つで潜水艦が沈んでしまうというものもあります。
万が一体が当たったとかでスイッチを触ってしまったら」

「触ってしまったら・・・?」

すぐに!こちらにそのことをいってください」

すぐならまだなんとかなるってことでしょうか。
でもハッチを開けたままいきなり沈んだら、たとえ岸壁でも
下の区画にいる人はまずアウトよね。 


 さて、そんな危険な可能性のある機械室を通り抜けると、
途端に
空気が変わった気がしました。
科員食堂にやってきたのです。

艦艇というのは一般にどこもそうですが、特に潜水艦というのは
食事が他のフネに比べてより大切なイベントとなります。
狭い潜水艦の生活ではストレスが溜まりやすく、なにより
食べることが大きな楽しみになるので、当然ですがキッチンには
腕利きの調理人が配属されてくるのです。

そういえば、ニューロンドンの潜水艦博物館を見学した時、
その健闘を評価されて勲章を授与されたキッチンシェフがいた、
という話が紹介されていましたが、たとえ勲章は出ないとしても、
自衛隊の潜水艦の食事は自他共に認める調理員たちの努力に支えられています。

たとえば艦長が胚芽米をリクエストしたりパン派だったりすると、
艦長絶対の潜水艦ではそういうリクエストにも極力応えるのだとか。


ちょうどわたしたちが食堂にさしかかったとき、テーブルには3〜4人がいて、
食後の休憩時間だったのか、まったりとした雰囲気でした。

「潜水艦では食事は1日4回6時間ごとに出されます」

午前6時の朝食、正午の昼食、午後6時の「中間食」、
そして午前0時の夕食です。 
勤務が3交代制で6時間勤務したら12時間の休みをとり、
残りの6時間は寝ているというものなので、この4回のうち
3回の食事をとることになります。

「4回全部食べてしまう人もいますが、そういう人は太ってしまいます」

そらそーだ。

「やっぱり運動不足になりがちなので、筋トレとか、休みの時には
陸を走ったりして体調管理を行います」

ハッチの上り下りだけで運動は十分、と考えるのはわたしだけですか。

 

キッチンに当潜水艦オリジナルカレーを考案したシェフがいました。
このオリジナルカレーは、呉で実施中のカレースタンプラリーでは

白桃の甘さを隠し味にした、コクの中にもスパイシーな後味の
飽きのこないカレーです。
揚げたジャガイモの香ばしさも絶品です。

という紹介文とともに、ビューポートくれにある
「海軍さんの麦酒館」で紹介されています。 
白桃、というのが白い龍である当潜水艦的にはこだわりのポイントでしょうか。 

今、海自カレーラリーのガイドブックを見ていたら、
たとえば潜水艦「けんりゅう」カレー(ソードドラゴンカレー)
が食べられるのは、その名も「りゅう」というお店。

そして、「うんりゅう」カレーは呉市役所食堂で提供しています。

日頃カレーを提供していないに違いないお店も幾つか参加しています。

丼&串揚げ「たまや」の呉教育隊ナスとひき肉カレー

お好み焼き「多幸膳」の呉基地業務隊牛すじカレー

焼肉「叙寿苑」しもきたカレー

郷原カントリークラブの潜水艦「みちしお」カレー

などなど。
特記したいのは、中通りにある

瀬戸内屋台 「五十六」

ちうお店(笑)
ここは護衛艦「さざなみ」のオリジナルカレーを提供しているのですが、
なにがなんでもカレーにせっかくの店名をつけたかったらしく、

「五十六さざなみカレー」

と無理やりな名前になっています。

 

さて、そうりゅう型潜水艦の艦内にもどります。 

「やっぱり金曜日はカレー曜日なんですか」

TOがわたしにとっては当たり前すぎて聞くことも思いつかなかったことを聞きます。

「金曜日のお昼ご飯がカレーです。
朝からいい匂いがしてきてたまらないんですよ〜!」

「飽きないんですね」

「ぜんっぜん飽きませんね!楽しみで仕方ありません」

 満面の笑みでそう語る隊員さんの口調に、今更ながら
カレーとは海上自衛隊の食の象徴なのだと思い知った次第です。

 

このとき、キッチンの窓から、もう一人の調理員がものすごい速さで
大量にキャベツの千切りをしているのにわたしは思わず目を見張りました。

「は、早い・・・・」

プロの調理人なら当たり前ですが、おそらく、同じ潜水艦の
調理員でも、こんな技を身につけているのは海自だけだと確信しました。
アメリカの調理人は昔から野菜も全て機械で処理していたみたいですし。 


食堂からエンジンルームに移る前に、艦内組織図が貼ってありました。
乗員総数は70名です。
それを見ながらまたもや、 

「このたった70名で、2000人の部隊と戦ってったことがあります」

模擬戦で優秀な結果をあげた時のことを、解説の方はこのようにおっしゃいました。
もしかしたら機密に抵触するかもしれないので、ここでは詳しく書きませんが。

ついでに、潜水艦の最大の敵はP3Cで、「実に憎たらしい相手」なんだそうです。
いわば天敵ってやつですね。 
この後散々対P3C戦のことについてもお聞きしましたが、 

あ・・・・でもこの後呉地方総監とお会いになるんですよね。
(呉地方総監はP3Cのパイロット) ぜひここでのことはご内密に(笑)」

 

さて、この後後部のスターリングエンジンを見学したのですが、
これら AIPシステムについてはすでにお話ししたので見学記はこれにて終了です。

付け加えれば、後からこのそうりゅう型潜水艦は、AIP室を設けるため
その分他のスペースを削っているのでその分居住区が狭いと聞きました。 


艦内に入ってすぐ、わたしたちは

「狭いので歩いていて機材に引っかからないように」

コートを預かってもらっていましたが、 ハッチを登る前に、
ちゃんとハンガーにかけていてくれたらしいそれらを受け取り、
同じラッタルから潜水艦を退去しました。

そして預けていたカメラを受け取り、車に乗って、来た時と同じように
雨の中きっちりと並んで敬礼をする彼らに挨拶をしながら
潜水艦桟橋を後にしたのでした。


潜水艦乗員の皆様、当日はお世話になりました。とても楽しかったです。

この場をお借りしてお礼を申し上げます。

 

続く。 

 



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6 Comments

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そうりゅうシリーズ感謝 (佐久間)
2016-12-21 15:02:46
秘密の塊のそうりゅう型の詳しいレポートをいただき、有難うございました。(最後の「続く」にちょっぴり期待)

まず、艦長用の椅子の見た目は、かなり立派でしたでしょうか?すわり心地までは伺いませんが。

スマホやハイブリッドカーなど、リチウムイオン電池が生み出した高性能新機種が沢山ありますが、業務用懐中電灯なども、パワーLEDの採用とともに、高輝度で長寿命になっているのに驚いています。いくらAIPでも、燃料と酸化剤とを搭載しなければならないのですから、駆逐されるのも、当然かもしれません。めんどうなメンテナンスとともに、艦長の許可なしには、半分以上は使えない、鉛蓄電池用の精製水タンクもいらなくなると、スペースにも余裕ができるのでしょう。

女性にお尋ねするのは申し訳ないのですが、トイレまでご覧になられましたでしょうか?私が以前に海自の潜水艦でトイレを拝借(わざと)した際には、もちろんウォシュレットなどついていませんでした。そうりゅう型は、かさばるトイレットペーパーの保管スペースも、ウォシュレットで節約できているというのは、ほんとうでしょうか?

また、緊急浮上用のエマージェンシー・ブローのボタンは、確認されましたでしょうか?聞くところによると、米海軍と異なり、海自の潜水艦は、気楽に緊急浮上などしないどころか、一旦エマージェンシー・ブローをすると、壊れてしまうらしいのですが、本当のところは全くわかりません。そもそも、潜水艦オペレーションについては、誰も話題にしてはいけないそうですね。

ハッチやバルブの閉鎖状況を示すクリスマスツリーや、艦長しかさわれない気蓄器のキャプテンズ・バンクなども、ご覧になられましたでしょうか?

SS-511 平成27年度計画8126号艦からは、電池以外に、どんな改良がなされるのか、とても興味があります。 そのうち、バージニア級にみならって、従来の潜望鏡が廃止され、発令所が1階下に下がって、広くなってソナールームと合併されて、CICの様になったり、セイルの位置が流体力学上最良の位置に移動されたりするものと思っております。でも、そうなると、CICに入室する許可を持たない見学者は、今のように発令所には入れなくなってしまうかもしれないと危惧しております。

これからも、レポートを楽しみにさせていただきます。
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カレー (佳太郎)
2016-12-21 22:33:07
私も広島旅行に行った時にカレー食べましたw居酒屋利根に行って利根カレーを食べました。ちょうど広島優勝時だったのでお店も気前がよく、千福を2合もタダで頂いてしまい、呉鶴もものすごく安い値段で出してくれました。利根カレーもよかったです。
そして江田島でもカツカレーを食べてました。
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艦内の住人 (ハーロック三世)
2016-12-22 02:37:39
>港にいる間はここに寝泊まりしない

私が聞いた話は逆です。

潜水艦はエリス中尉が言及されている通り、非常に隠密性が高いです。

そのため、彼女がいる若い乗員が下宿を借りて一緒に住んでいても、ある日突然音信不通になり、いつ帰ってくるかもわからない、そんな男に愛想をつかされることが多々あるそうです。

そうすると航海を終えて帰ってみると荷物が綺麗になくなっているのも珍しくない。
ヤケになって下宿も引き払い、艦内の蚕棚をスイートホームにしてしまうとか。

一方、潜水艦乗りの奥さんは神戸出身が多いそうです。

定期的なメンテナンスで三菱、川重共に神戸で行うので数ヶ月は乗員も滞在し、そこで奥さんを射止めるケースが多いと聞きます。
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究極の(笑) (鉄火お嬢)
2016-12-22 10:00:08
世界トップクラスの潜水艦部隊のそうりゅう型と世界トップクラスの哨戒機部隊のP3-Cの対決、こんなん究極のホコタテですやん。いよいよ練度高まる一方(笑)訓練成績の勝敗の割合が知りたいものです。先日の某会で「シン・ゴジラ」の話をして、2度目の上陸に備えて艦艇が出てるってことはP3-Cもわらわら飛ばしてた筈で、クジラや潜水艦も探知するのに、あんなデカいものが放射能撒いて移動してて捕捉できなくて、いきなし上がってくるなんて「なんか哨戒が仕事してないみたいに」と制服さんとブーブー。まあ映画にマジに突っ込むのもですが。しかしエリス中尉、ご内密にと拝まれたのにバラしてるしい。総監がネイ恋読んでない保証は無いですやんww
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皆様 (エリス中尉)
2016-12-23 15:51:40
佐久間さん

艦長の椅子は、士官室の四角いテーブルの艦首側(つまり上座?)の辺にありました。
他は作り付けで、それだけが独立した椅子です。
詳しい記憶はありませんが、座布団の色が赤かった覚えがあります。
たとえ総理大臣が乗っても座らせてもらえない椅子ですから、私などとてもとても(笑)

トイレはそういえば見せてもらえませんでした。
しかしたとえウォッシュレットがついていてもペーパー無しはあり得ない気が・・。

操作ボタンについては説明は一切ありませんでした。
聞いたら教えてくれると思うのですが、必要以上の重要情報は向こうからは
言わない、こちらからも聞かないというのが暗黙の了解だった気がします。

>ハッチやバルブの閉鎖状況を示すクリスマスツリー
これはもちろんパネルを見ればそうとわかりましたが電源は全て切られて真っ黒でした。

佳太郎さん
江田島のカツカレー、わたしも見学に行った時に食べました。
利根カレーはキーマですね。キーマカレーはナンと食べるのが好きです。

ハーロック三世さん
家族持ちは母港地に家を持っていてそこから通ってくるということでした。
部屋を引き払うって・・・潜水艦に住み着いても構わないんでしょうか(笑)

そうそう、余談ですが、ハーロック三世さんに教えていただいた
防衛大の協力会?の件、大学の内部の方に聞いてみたのですが、おっしゃるような
一般の人を対象にした組織はないそうです。
やはり父兄会のようなもののことではないかと言うお話でした。

>潜水艦乗りの奥さんは神戸出身が多い
そういえば「約束の海」では
主人公の潜水艦が神戸に寄港し、意中の女性(フルート奏者)と六甲山を
ドライブするという展開でしたね。

鉄火お嬢さん
シン・ゴジラ、海自の協力が薄かったせいで哨戒に全くリアリティがなかったですね。
確かに1度目の襲撃の後P3Cが飛ばないというのはありえないですよね。
現場の人はやっぱりそういうところを突っ込むのか・・・・。

>総監がネイ恋読んでない保証は無い

あ・・・言われてみたらそうでしたね(超棒)
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防衛大学校教育学術振興会 (ハーロック三世)
2016-12-24 18:36:53
失礼しました。
防衛大の管轄ではなく、公益財団法人でした。
こちらでご覧いただけます。


http://www.boudaisinkoukai.or.jp/about/index.html
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