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前部魚雷室 ”英国貴族院”での生活〜シカゴ科学産業博物館 U-505

2023-07-23 | 軍艦

シカゴ科学産業博物館のU-505艦内ツァーでは、
艦体の前部寄りに穿たれた入り口から入艦していくので、
最初に足を踏み入れるのは下士官とチーフのクォーターとなりますが、
左手には前部魚雷発射室があります。

魚雷発射管は4基、そのうち右上はハッチが開いているわけですが、
これは外からの写真をご覧くださればお分かりの通り、



絶賛魚雷発射中だからです。

前部魚雷室には通常22本の魚雷を搭載することができました。
前方のこのコンパートメントには8本の魚雷が収容でき、
そのうち4本は常にチューブの中にある状態で航行しました。



4本は予備として、そのうち2本はコンパートメントのデッキ下の
長い掩蔽壕のようなところに、残りの2本は
コンパートメントの頭上に沿ってチェーンホイストで吊り下げられ、
装填の準備はいつでも整っていました。

■ U-505の電気魚雷

U-505 が搭載する電気魚雷は定期的なメンテナンスが必要でした。
バッテリーは常に充電しておく必要があり、
その複雑な電気機構には常に注意を払う必要がありました。

バッテリーは冷えると効率が低下するため、
バッテリーを温めるための対処が常に必要でした。

大容量の蓄電池によってボートのモーターや電動機器に電力が供給され、
たとえボートが水没しても静かに航行できるようにしておきます。

蓄電池は、甲板レベルの下のコンパートメントに、
前方に 1 つ、後方に 1 つ格納されていました。

各バッテリーには 62 個のセルがあり、
電池は個別、直列、並列の切り替えが可能で、
110~170DC、220~340DC(DC=直流)の電圧可変が可能でした。

主電動機以外の一般用途には直流110ボルトの安定化電源が供給されます。

ボートはバッテリー電源で最大 7.5 ノットの速度で運航できましたが、
通常はパワーを維持するために低速で運航しました。

通常のバッテリー充電時間は約 7 時間で、
充電は通常、ボートが水面を走行している夜間に行われました。

U-505 にはシュノーケルが取り付けられていなかったので、
水中ではバッテリーを充電できなかったのです。

通常の速度で充電している間のボートの最大速度は 13.5 ノット、
電池は板貼りタイプで、寿命は15ヶ月から21ヶ月でした。


■ 前部魚雷室の生活


乗組員がかつて敏捷に行き来したハッチには、
立ち入り禁止のためガードが取り付けられていて、
こちらから向こうを覗き込むことしかできなくなっています。

「ブルーのギンガムチェック」のカバーをかけた枕は、
かつての仕様のままに再現されています。

ボートの乗組員の大部分は、この約75 平方フィートの
狭い前方の魚雷室で寝て、起きて、食べ、生活していました。


「Lords」(卿・侯爵、伯爵、子爵、男爵)というUボートスラングは、
これ自体下士官以下の階級を指すことばです。
なぜこのようなスラングが彼らを指すようになったかというと、

「二人で一つのバンクを共用していたから」

とよくわからない答えがでてきて混乱させられるのですが、
この辺りの解釈は、皆様のご想像にお任せするとして(任せるな)
なぜこの言葉が前部魚雷室の居住空間という意味でもあったかというと、

「British House of Lords」
(英国貴族院)

からきていました。
つまり「ロード=なんとか卿」が集まっているからということのようです。



魚雷発射管のすぐ後方には、両側に 5 つずつ、
合計10の吊り下げ式バースがあり、船体に対して折りたたむことができ、
魚雷を追加で保管することができました。

両側に 4 つの寝台がありましたが、これらの下の寝台は
兵の中の上級者用
に予約されていました。

寝台は窮屈で、バルブとパイプが頭上の部屋を占め、
革で覆われた馬の毛のマットレスと、青い市松模様のシーツ、
おそろいの枕カバーが用意されていました。



通常は、頭上のパイプから肉やパンでいっぱいの網かごがぶら下がっており、
この写真には角度的に写らない右舷側から船室後方にある水洗トイレ(浴室)も
通常は食料で満たされ、水洗トイレとしての使用が困難な状態でした。


U-505 の小さなギャレー(キッチン)は、
先任下士官と下士官のワードルームの間にあり、
50人の乗組員の食事を賄える仕様と言うことになっていましたが、
U-505やいくつかのボートでは、実質約60人分の調理をしていました。

スープケトルは40リットル調理用で、
鍋そのものが発熱する仕組みでした。



スープやかん、3 つのコンロと 2 つの小さなオーブンを備えたレンジ、
小さな冷蔵庫、、小さな吸水器(左側、音声管の下) ・・・。

調理室の大きさは長さ59インチ、幅27.5インチ。

給水器には温水と冷水、淡水と塩水が供給されていました。
海上での淡水は、電気室の後部にある塩水蒸留装置で1日63.5ガロンが作られ、
その使用はバッテリー水の交換、飲料、調理目的に限られました。

体を洗うのは潮水だったようです。
最後に洗い流すことくらいはできたのだと信じたい。

この写真は捕獲当時撮られたもので、右側にはしごがあり、
司令塔前方のメイン デッキのハッチにつながっていましたが、
現在は展示のために取り外されています。

そして潜水艦全体のさまざまな場所に大量の食料が詰め込まれていました。
潜水艦で供される食事は最高でしたが、そのために
食料を狭いスペースに詰め込んでいかねばなりません。
U-505のタイプは、だいたい12週間のパトロールのために
14トンの食料を搭載しました。



食品の在庫は毎日料理人のためにチェックされていましたが、
それはただ単に食べ物そのものの残り量を知るためではなく、
それに応じてエンジニアがボートのトリムを調整するために必要でした。

哨戒に出て1ヶ月も経つと、食料の一部が消費され、戦闘に応じて
魚雷も消費されると、乗組員は少しそれで「息をつく」ことができました。

物理的な狭さは呼吸さえも苦しくさせるほどだったんですね。



前部魚雷室に装備された寝台でくつろぐ「Lord」たち。
中央左奥に魚雷チューブのカバーが見えます。



パトロール中の U-505 でのレクリエーションは、カード遊び、
本や雑誌の読み物 (ボートには出版物の小さな図書館がありました)、
チェス、チェッカーなどに限られていました。

また、インタビューで元U-505水兵だった人が言っていたように、
航海や潜水艦の運用に関連する技術マニュアルの勉強は常に必要でした。

実際、航海士と乗組員は、当直中の任務に加えて、多くの保守、
その他責務が多く、余暇はほとんどな買ったと言ってもいいでしょう。

音楽については、同じ元水兵が、

「オペラなどより『リリー・マルレーン』みたいなポピュラーが人気があった」

と言っていましたが、オペラの歌はある意味人気でした。
新入りの乗組員のことを英語でもドイツ語でも同じく

「グリーンホーン」Greenhorn
=経験の浅い人、未熟な者、新参者


というのですが、グリーンホーンは、インターホンでオペラ、
女性歌手のアリアを歌うという「試練」が与えられます。
もちろん真面目に歌わなければいけませんが、
真面目に歌えば歌うほど、歌が下手なほど、乗組員は歓喜しました。

(きっとモーツァルトの『魔笛』の『夜の女王のアリア』とかだろうなあ)

ラジオの周波数をチューニングできなかった場合、
乗組員はレコードを聞いたり、なんならジャズを演奏していたそうです。
ジャズはやっぱりアメリカのスタンダードとかだったとか。

音楽に国境なし。
(日本には『敵性音楽』なんて言葉もあって聴くのも禁止されましたが)

そして、何度も書いていますが、潜水艦内は全面禁煙でした。
潜水艦が水面に出た夜だけ、乗組員はタバコを楽しむことができました。

夕方のUボート乗組員のお気に入りの娯楽の 1 つは、
ニュルブルクリンクまたはアブス・モーターレースサーキットでの
自動車レースのレポートを聞くことでした。

ニュルブルクリングとアヴスについては説明が必要かもしれません。

ニュルブルクリンク( Nürburgring)は、ドイツのニュルブルクにある
2つの異なる性格を持つサーキットの総称であり、
アヴス(Avus)はかつてベルリン郊外にあったサーキット場です。

ニュルブルクリンクの当初の名称は Nürburg-Ring でしたが、
1933年にナチスがモータースポーツ全体に資金援助を行なって改修され、
この時にハイフンの無い Nürburgring に改められました。

"Nürburgring" は造語で、
[ de: Nürburg(一地名)」+ 「Ring(「環」や環状のもの)]
意味としては「ニュルブルクの環」です。

さすがナチスドイツ肝入りだけあって、当時ドイツの若者は
サーキットに夢中になっていたようですね。

「世界有数の超難関コース」「世界有数のドライバーズサーキット」
などといわれ、現在でもバリバリ現役で24時間耐久が行われます。

アヴスの方は、ドイツ自動車産業の競争力向上を目的として
民間会社Automobil-Verkehrs- und Übungs-Straße GmbH
1913年に建設を開始したサーキットで、
「死の壁」と言われるほど難関コースのため事故が多く、
そのせいだったのか1995年に廃止されています。


モーターレースの解説は、U ボートのラジオでライブ放送を拾い、
Uボート用語と航海用語に「翻訳」されて艦内放送されました。
たとえば・・・。

「カラツィオラ(オットー・ヴィルヘルム・ルドルフ・カラツィオラ)
右舷の曲がり角に突っ込んで時速17マイルで爆走!
ああっ、突然ディーゼルが故障した!

Eモーターに切り替えなければならない!
排気ガストラップを研磨し、強い煙が発生、

猛烈なオキシ水素の音を出しながら追いかける!」

こんな感じだった・・・・・・というのですが、
第二次世界大戦時には、そもそもオートレースが中断していましたし、
伝説のレーサー、カラツィオラもスイスで隠遁生活をしていたといいますから、
おそらくこの「実況」が行われたとしても、それは、まだ戦前、
厳密には1939年以前の話だと思われます。



ツァーの説明をしてくれたボランティアは、
この前部魚雷室、通称「貴族院」のライトを赤に切り替えて見せました。

外の様子が全くわからない潜水艦内では、夜間の照明を赤に切り替えます。
人間の目は明るいところから暗いところに移るとしばらく見えませんが、
暗順応といって、赤い照明の中にいると、そのギャップが減らせるからです。

赤は黒と波長が近く、暗順応を容易にします。

また、夜間海上航行していても、内部の光が赤であれば
発見されにくいということもあります。

それから、時間の感覚が日光によって捉えにくい艦内生活では、
灯りの色によって今何時かわかりやすいということもあるかもです。

■ アメリカ潜水艦スラング

好評かどうか全くわからない段階でスラングシリーズ続行です。
今日はBから(最後まで行けるかも不明)。

Baboon ass



Baboonとは、マントヒヒなどの「ヒヒ」類
コンビーフのこと
色と硬さが似ているらしいが色はともかくなぜ硬さがわかるのか

Bagged 

「I got bagged」=ワッチに行かされた、のように使う
他の人がやるはずだったことを任されてしまったという意味

Balls to the wall

映画「ダウン・ペリスコープ」で、覚醒した女性潜水艦士官が
これを叫んで男どもがドン引きしていましたが、
Flank Speed=前進全速のことです。

握り部分を壁に叩きつけるように押し倒す、から来ている模様。

Banging Air

Air Chargeすること

Bent Shitcan

海軍の「基準以下」の人、使えないやつ
ex. “He’s as fucked up as a bent shitcan."
      
B.F.H.

 =Big Fucking Hammer.
Torpedoman's Tweeker (ひねったもの)ともいう
とても大きなレンチのこと。
                                                       
  これのことですねわかります

ビルジピッカー 

手の届かないところから物を取り出すのに使う細長い道具

Blow and Go 

         メインバラストタンクを緊急ブローすること    
                        
Blowing a Shitter

サニタリータンクを船外に吹き飛ばしている最中に、
うっかりトイレを「流して」しまうこと
これにより、排泄物やトイレットペーパーが頭上に吹き付けられ、
他の乗組員をたいへん喜ばせる
                                                       
    Blow Job

 緊急ブロー、緊急ベンチレーション
(元々の意味は検索してください)

Blue Nose

(原潜で)初めて北極圏を越えて儀式した人
    
            Booger board           
    
昔の潜水艦乗員がほじった鼻●を見せるために使ったコルクボード
なんでそんなことをするのかって?しらんがな

B.O.C.O.D.

Beat Off Cut Off Date.
帰港前、妻やガールフレンドのために禁欲を始める日のこと

B.O.H.I.C.A. 

Bend Over Here It Comes Again.
「身をかがめろ、またくるぞ」

何か悪いことがまた起こりそうな、あるいは
いつものように起こることを意味する

Boomer Fag

弾道ミサイル潜水艦(SSBN)の乗組員のこと
fagはアメリカ俗語で同性愛者
通常、嫉妬深い高速艇の船員たちが使う(もう使わないと思う)

Boondockers


鋼鉄製の爪先のついたブーツ、元々は海兵隊用 ブーンドッカーズ

Boondoggle

役に立たない、無駄の多い、忙しく見えるだけの価値のない仕事の意
海軍的には政府の時間やお金を使って行われる、
非効率的で組織化されていないな進化や出張;ブンドッグル

Boomer Widow(SSBN未亡人)

浮気相手にするため他の水兵を漁るSSBN水兵の妻

Boy butter(ボーイバター)

髪の毛につけるグリースのこと

Box of rocks(岩の箱)

納得できない方法で仕事をやっつけた水兵を馬鹿にして呼ぶ言葉

 Brain Fart(脳が放屁する)

ストレスがかかって、普段なら簡単にできることが
思い出せなくなったり、実行できなくなったりする状態

Bravo Zulu(ブラボーズールー)

オリジナルの「BZ」は「よくやった」を意味する信号
先輩が部下を褒める時に使うことが多い

Bremerloes(ブレマーローズ)

ワシントンのブレマートン基地が関係あるらしい
大柄でたくましい女性のこと(失礼だな)

Broke-dick(ブロークディック)

故障して操作できない機器を指す技術用語
Ex: "The fuckin' aux drain pump is fuckin' broke-dick."

B.U.B. 

Barely Useful Body(ほとんど役に立たない体)。

バブルヘッド

 潜水艦乗組員に対する国際的に認知された愛称

バディ・ファッカー(Buddy Fucker)

暗黙の了解として、潜水艦員をバカにする人
重要な情報は一切任せてはいけない

バグ・ジュース

メスデッキのディスペンサーにあるクールエイドのような飲み物
世紀末以前、「虫の汁」は、デッキを洗う洗浄剤の代わりとしても使われた
今でも真鍮の金具の腐食除去に使われている

B.U.F.F. 

ビッグ・アグリー・ファット・ファッカー。

ブルシット・フラッグ(デタラメ旗)

誰か(偉い人)が話していることが全くのデタラメだと思うときに
頭の中で「掲げる」想像上の旗のこと

“I am raising the bullshit flag on that one”
「私はデタラメ旗を掲げています」
とコールしたり、
実際にボロ布を持ち歩き、それを地面に投げつけて言う場合もある

てかいつするんだよそれ

バムファック(エジプト) 

最低の勤務地や場所全般のこと

バンクバッグ

元々は細長いバッグで、水平通路の収納用に設計され、
ディーゼルボートの筒状の寝台フレームに吊るされていた

後年はラックの内側に吊るされ、通常は汚れた衣類を入れたり
人に見られては気まずい本やパトロール用の靴下を隠すのに使われた

バンキー(Bunkie)

ベッド、寝台、ラックに対する愛称

Burn the flick(バーン・ザ・フリック)

映画を始めること
フリックは一編の映画、それを「燃やす」

バーン・ラン 

バーンバッグ(いざとなったら処分する物入れ)
に保管されている機密資料を処分するための組織的な「進化」

Buttsshark バッツ シャーク(お尻のサメ)

brown-noser (茶色い鼻)とか butt snorkeler(お尻のシュノーケラー)
とも呼ばれ、好意や下心を得るために、
他の人(たいていアホ)と仲良くしている人のこと

コバンザメみたいな感じかしら。


続く。




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2 Comments

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発射管室 (Unknown)
2023-07-23 17:41:23
発射管室ですが、かなり広く見えます。上段と下段のベッドの間隔は、自衛隊の潜水艦や水上艦よりあります。ここに起居する人が「Lord」と呼ばれていたのも、ここが艦内の居住区で一番広い(少なくとも天井が最も高い)からだと思います。
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前部魚雷発射管室 (お節介船屋)
2023-07-29 11:45:23
ガタルカナル写真班撮影とエリス中尉撮影を比べると、発射管回りの圧力計等機器、2番発射管上部の電話機、中央上部の扇風機等相当の装備品が撤去されています。
発射管取付の銘板もありません。
保管時等に取られたりしたのでしょう。
参照海人社「世界の艦船」No926
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