ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

U-505の3人の艦長〜シカゴ科学産業博物艦

2023-08-21 | 軍艦

U-505の最後の区画を見学しています。


ディーゼルエンジンルームからエレクトリックモータールームに入り、
電気モーター室を見たところです。

潜航時、推進力となるのは通路の両側に1基ずつ設置された
定格493馬力の二つのダイナモーターです。
床レベルの部分に対である、空気穴のついた半円形の筒に収納されています。

それらに電力を供給する蓄電池は前部と後部の床下にありました。
「シルバーサイズ」で見たように、アメリカ海軍の潜水艦とは
バッテリーの位置が若干違っているように思われます。

「シルバーサイズ」のバッテリーは、士官居室の床下にありましたね。


左舷側にある「パラレル」と書かれた装備のカバー。



エレクトリックモータールーム天井。
かなり長いコードが収納されていて、何かの時は
ここから引っ張り出すのだと思うのですが、
溶接と関係あるのかどうかはわかりません。

ちなみにライトはブルーです。



右舷側のヒューズを意味する「Sichrungen」のプレートの横に、
ライオンの頭が貼り付けられていました。

これは間違いなく初代艦長のアクセル・オーラフ・ロエヴェ大尉に
敬意を表して最初に飾られたものでしょう。



ロエヴェ大尉の経歴について少し触れておきます。

彼は兵学校卒の士官ですが、19歳で水兵として海軍に入隊し、
しばらく勤務してから兵学校を卒業しており、任官したのは30歳のときです。

翌年、1940年11月にUボートの訓練を開始し、1941年4月に終了。
研修中のUボート司令官(Kommandantenschüler)として、
1941年5月8日から30日までU-74の哨戒に参加し、
指揮官としてデビューするためにUボート建造慣熟訓練(Baubelehrung)
に派遣されました。

そして1941年8月26日から新型IXC UボートU-505に就役。

13ヶ月の指揮期間中に大活躍し、3回の哨戒で7隻を撃沈しました。
中でも目覚ましかった2回目の哨戒では、
南大西洋の86日間に4隻を撃沈するという鮮やかな指揮ぶりを見せます。

しかし病気になってしまい、1941年9月5日に
U-505をペーター・ツェッヒ中尉に引き渡すことになります。

ボートを降りたあとは司令部(BdU)の作戦スタッフとして勤務し、
終戦までアルベルト・シュペーアのもとで軍需生産省に配属されていました。

哨戒 3回 海上生活182日

哨戒1. U-505 1942年1月19日 キール 1942年2月3日 ロリアン 16日
哨戒2. U-505 1942年2月11日 ロリアン 1942年5月7日 ロリアン 86日
哨戒3. U-505 1942年6月7日 ロリアン 1942年8月25日 ロリアン 80日

撃沈認定された艦船

日付 船名 トン数 国名 コンボイ

1942/3/5 Benmohr 5,920 br
1942/3/6 Sydhav 7,587 nw
1942/04/03 West Irmo 5,775 am
1942/04/04 Alphacca 5,759 nl
1942/6/28 Sea Thrush 5,447 am
1942/6/29 Thomas McKean 7,191 am
1942/07/22 Urious 153 co

7隻撃沈(37,832トン)


ロエヴェ大尉のときには大変うまく行っていたU-505ですが、
これはロエヴェ大尉が兵学校を出てキャリアを積んだベテランで
歳もそれなりにいっていたからと思われます。


自決したことだけが注目されてしまうツェッヒ中尉ですが、
経歴を改めて見てみましょう。

戦績
沈没1隻、総トン数7,173GRT

1918年10月1日 トルコ、コンスタンチノープル生まれ
1943年10月24日(25歳)北大西洋にて死去


階級
1936年4月3日 士官候補生
1936年9月10日 海軍士官候補生(Seekadett)
1937年7月1日 海軍少尉 (Fähnrich zur See)
1938 年 7 月 1 日 海軍中尉( Oberfähnrich )
1938年10月1日 海軍中尉(Leutnant zur See)
1940年10月1日 海軍中尉(Oberleutnant zur See )
1943年4月1日 艦長(Kapitänleutnant)

叙勲
1939 年 12 月 21 日 鉄十字勲章 2 級
1940年10月19日 駆逐艦戦傷章
1941.12.31 1939年Uボート戦時バッジ
1942年4月12日 鉄十字章1級

Uボート指揮官

U-505 1942年9月6日 1943年10月24日 (+)
7回(118日、*はこのパトロール中に死亡)

ペーター・ツェッヒは1936年にドイツ海軍に入隊し、
オリンピア・クルーの一員となる
1939年7月から1940年4月まで駆逐艦Z 7 「Hermann Schoemann」
その後1940年4月から10月までZ 14「 Friedrich Ihn」で航海士

1940年10月にUボート訓練を開始し、
1941年8月にU-124(Mohr)に航海士として配属される

彼はU-124で、4回の哨戒を成功させ(22隻の沈没と3隻の損傷)
その後第24(訓練)船団で司令官訓練を経て
1942年9月6日にU-505の艦長に就任

ペーター・ツェッヒはUボートの指揮官として素晴らしい素養を身につけ、
大きな期待が寄せられていた。
彼はその期待に応えることができず、多くの証言によれば、
乗組員からあまり好かれていなかった。
哨戒開始時に発見された度重なる妨害工作により、
何度も帰港を余儀なくされたことも、彼の士気に影響を与えた。

ほぼ14ヶ月の指揮期間中、彼は6回の哨戒で96日しか海に出なかった
(そのうち3回は1943年8月に1日で頓挫したものだった)。

69日間の最初の哨戒だけが何事もなく進み、その間
7,173トンの英国商船「オーシャン・ジャスティス」を南米沖で撃沈。

1943年10月24日、U-505はアゾレス諸島の東を航行中、
激しい深度爆雷の攻撃を受けた。
その際ピーター・ツェッヒは、艦内でピストル自決した。
IWOであるOblt. Paul Mayer(26歳)が指揮を執り、
追っ手を逃れて1943年11月7日にボートをロリアンに戻した。

ピーター・ツェッヒのU-505の哨戒記録

Uボートの出発地 到着地
哨戒1. 1942年10月4日 ロリアン 1942年12月12日 ロリアン 
70日
哨戒2.  1943年7月1日 ロリアン 1943年7月13日 ロリアン
 13日
哨戒3.  1943 年 8 月 1 日 ロリアン 1943 年 8 月 2 日 ロリアン 
2 日
哨戒4.  1943 年 8 月 14 日 ロリアン 1943 年 8 月 15 日 ロリアン
 2 日
哨戒5.  1943 年 8 月 21 日 ロリアン 1943 年 8 月 22 日 ロリアン 
2 日
哨戒6.  1943 年 9 月 18 日 ロリアン 1943 年 9 月 30 日 ロリアン
 3 日
哨戒7. 1943年10月9日 ロリアン 1943年11月7日 ロリアン 16日 *
* Peter Zschechは1943年10月24日、この哨戒中に死亡した。


ピーター・ツェッヒの被弾した艦船
日付 Uボート 船名 トン数 国産品 コンボイ
7 1942年11月 U-505 オーシャン・ジャスティス 7,173 br
1 隻撃沈(7,173t)



乗員たちとうまく行かず、戦闘中に自決してしまった
ペーター・ツェッヒ中尉ですが、コメント欄にもご意見があったように
兵学校卒業後、いかに最初の鑑で実績を上げても、若干25歳の中尉でした。
色んな意味で人心を掌握するには経験不足の感が拭えません。

戦時で、しかもロエヴェ大尉が病気というイレギュラーな退任だったため、
戦績を挙げたばかりの若い彼が、自分より年上が多い下士官始め、
経験のある乗員の指揮を執らざるをえなかったのは気の毒でした。



最後のランゲ中尉は、階級こそ中尉ですが、これは
彼が民間の商船出身だったからで、1903年生まれの彼は
U-505の艦長になった時には40歳と艦長としては最高齢でした。

ちなみに、ロエヴェ大尉は1909年でランゲ中尉より6歳年下です。

彼がU-505の艦長に任命されたのは、
前艦長が自殺というただならぬ状況に置かれ、しかも
そのままのメンバーで戦い続けることを余儀なくされた乗組員たちを
包み込むような包容力があると嘱望されたからでもあります。

ランゲ中尉は1943年の10月1日から実は初めてUボート艦長として
民間船からU-180に転勤したところでした。

ご存知のように、ツェッヒ艦長の自殺事件が起こったのは10月10日です。

事件を受けて、ランゲが急遽U-505の艦長に任命されましたが、
そのせいで彼はわずか1ヶ月でU-180艦長を退任しました。

いかにランゲという人の人格が期待されていたかという証拠です。


■ 項末付録:米海軍潜水艦スラング集【S】

Sail she may, shine she must 



古い船乗り用語
真鍮やクロムを磨くのが単調で、海に出ることよりも
掃除して磨くことの方が優先されるように感じたときに使う

セーラープルーフ(Sailorproof)

「ウォータープルーフ」(防水)のセーラー版
つまりセーラーが壊すことができない仕様

残念ながら、これはユニコーンやネス湖の怪物、
ビッグフットのようなもので、発見されたことはない
多くの技術者が船乗りに「強い」ものを作ろうとしたが、
成功はごく限られたというかほとんど成功したことがない

サンドバッギング(Sandbagging)

ゲームで、プレーヤーが(わざと)ベストのプレーをしないこと
通常、実力ですでに優位に立ちすぎている、相手をハッスルさせたい、
あるいは何もない状態でベストを尽くすのが面倒くさいのが理由

ハーツ、スペード、ピノクルなどで多用される

そのため多くのプレイヤーがサンドバッグ・ルールを制定し、
サンドバッグしたプレイヤーがトリックの量を過少に申告した場合
罰則対象となる

S.A.P.F.U. 
Surpassing All Previous Fuck-Ups.

これまでの失敗を超える

S.C.R.A.M. 
Safety Control Reactor Axe Man

安全制御原子炉斧男

Screwed、blue、tattooed 

 旧海軍用語で、水兵が上陸休暇や自由時間に何をしたかを表す意味
Screwedはヤル、Blueは酔う、Tattooedは刺青を入れる

スカッパートラウト 

船外に流される下水固形物や糞、または船外に汲み上げられた海中の浮遊糞
「Cornbacked Gator」またはBrown Trout」とも呼ばれる

Scuttlebutt (スカットルバット)

 ウォータークーラー・噂
(船上で水桶について集まっているときに広まる噂に由来する)
「ホット・コック」や「ザ・スキニー」とも呼ばれる

シー・ダディ

経験豊富な先輩乗組員
非公式に新しい乗組員を自分の下に置いて勝手に指導する

Seaman Schmuckatelli
シーマン・シュムカテリ

セーラーの総称で、「ジョー・ブロー」(路上の男みたいな意味)や
「ジョン・Q・パブリック」(見本に書かれる架空の名 日本の『山田一郎』)
と同様の意味で使われる

例 :タグを付けずに電気系統の作業をしていると、
そんな時に限ってシーマン・シュムカテリが回路に通電するんだ。
たちまちバチーン!ときてイカフライの出来上がりさ」

Sea P●ssy

ヨーマンまたは人事担当者のこと
秘書的な事務仕事なのでこんなふうに言われる
別名 "titless WAVE"(胸のないWAVE)

もちろん現在は死語と思われる

"フィールドデーを厳となせ! 艦内清掃を開始!" 

清潔を最も重んじる団体である米海軍は、厳格な清掃演習の1つとして、
艦全体を2時間清掃する日を「フィールドデー」としています。

一例として、「ジョージ・ワシントン」では、毎週木曜日の午後と金曜日の朝、
すべての部門の乗組員は、鑑と浮上宿泊施設(FAF)のほうき、
モップ、布、ブラシを取り出し、割り当てられたスペースを
できるだけ徹底的に深く掃除するという「訓練」を行います。

海軍では船の清潔さと誇りは間違いなく関連しているという考えで、

「艦が清潔でプロフェッショナルに見えるなら、
そこにいる者も清潔でプロフェッショナルに見える。
それは間違いなくプライドの問題である。

清掃は戦争とは関係がないように見えるかもしれないし、
一部のクルーにとって、掃除は退屈で平凡に思えるかもしれないが、
きれいな船は個人的なプロフェッショナリズムの反映であり、
それは誇りを持って突き詰める必要のある成果である」


とまで言明しています。
尤も、我が自衛隊ではそれが当たり前すぎて、いちいちこんな大袈裟に
プライドと結びつけて語る必要もないように見えますが。

で、冒頭のスラングですが、

 フィールドデーでの清掃が思うようにいかなかったときに言われる

要はやり直し!ってことね。

下水道管水兵 

ディーゼル潜水艦の乗組員
ディーゼルボートに乗っているとそんな匂いになるらしい

シャフトシール(あざらし)

シャフトの管に住む神話上の生き物

シャーウッドの森 

SSBNのミサイル・コンパートメントを表すスラング


USS「サム・レイバーン」のミサイルコンパートメント

シット・オン・ア・ラフト(S●it on a raftいかだ) 


 トーストにかけたグレイビーソースに浸した牛肉のチップス

一桁小人さん(Single digit midget)

 帰港や海軍を退役するまでの日数が10日未満になった人

Shipmate 

 乗組員仲間という意味
また、E-5以下(二等兵曹以下)に対する蔑称として使われる
士官、上級兵曹、一等兵曹は、
「お前ことをあまりよく思っておらず、名前を覚える時間もない」
ことを示すために、わざわざこれを使用する

また、優秀でない乗組員に使う場合は、
shipwreck「難破船」という言葉で代用されることもある

S●it can

ゴミ箱、またはゴミ箱に何かを捨てる行為のこと

S●it house mouse ●ハツカネズミ 

 メスコック(給養)の任務

“S●it in the tanks, air in the banks, I had it you got it”
「●はタンクに空気はバンクに、俺はすんだ、お前の番だ」 


終わったワッチから次のワッチへのよくある省略された無許可の交代劇
チーフ・オブ・ザ・ワッチがよく使う

Shower Tech 

ソナー技術者

スケート

バレないように仕事を回避する船員。
例えば、14人の作業班に配属されながら、発見されずに仕事から抜け出す


Slept out(寝た)

もう眠れないほど眠ったとき
ソナー技師、ラジオマン、航法電子技師には適用されない

スライダー 

メスデッキのチーズバーガー
油脂分が多すぎて消化器官を「滑りそう」なことから


S.L.I.F.F. 
 Silly Little Ignorant Fat F●ck.

愚かでちっぽけで無知で太った野郎

“Smile! At least your wife is getting laid”

「笑って!少なくとも奥さんは”やってる”から」

有資格者が無資格者に使う楽しい言葉
通常、非資格者がファミリー・グラムを受け取らなかった期間が
長ければ長いほど効果的であるとされる

スモーキングランプ 

喫煙が許可されている場所や時間を指定するために使われる言葉
絶滅しつつある

スモークテスト

 何かをフルパワーでテストしたり、
破損した機器の電源を入れたりすることを指す俗語

Smut locker 

まだ視聴途中の人に見られては恥ずかしいビデオを保管するための指定場所
死語

S.N.A.F.U. 

 Situation Normal All F●cked Up
Situation Normal All Fouled Up

スナッチ・イン・ザ・ハッチ 

ハッチから降りてくる女性
通常、潜水艦の乗組員は、その女性が
スカートを履いているかどうか確認するために走り出す

スナッチ・イン・ザ・ハウス(Snatch in the house) 

 潜水艦に乗船している女性

ソナーガールズ 

ソナー技師に対して使われる蔑称

Squat to Pee 
(座って用を足すこと)

 ELT(Engineering Laboratory Technician)の蔑称
女っぽいということらしい

S.S.N.

SSN(高速攻撃型)潜水艦のこと
サタデイ土曜、サンデイ日曜、ナイト夜間とかけている
週7日勤務であることにちなんで

スティールビーチ・ピクニック 

潜水艦の甲板で行われる祝賀会で、
通常はスイムコール(飛び込みさせられる)とバーベキューが行われる

Steely-eyed Stealthy Killers of the Deep 
鋼鉄の目を持つ深海のステルスキラー

潜水艦の乗組員のこと(多分自称)

スティル

蒸発器

サブマリン・シャワー

シャワーを数秒かけてかけて濡らし、シャワーを止めて泡立て、
再びシャワーを数秒かけて洗い流すという潜水艦のシャワーの掟
水を節約するために使われる

Sucking rubber
ゴムを吸う


EABマスクを装着すること

Suffers from dietary indiscretion

直訳すると「食の軽率さに苦しむ人」
太り過ぎの乗組員のこと


S.W.A.G.

Sonar Wild Ass Guess
Some Wild Ass Guess
ソナー員のことだったりそうでなかったり

Sweat pumps(汗かきポンプ)

心配性でいつも全速力で走っているような人
興奮しやすい人、またはユーモラスな状況を深刻に受け止めすぎる人

”They're sweat pumps are in high speed."
(汗のポンプが高速で動いている)

システムヘビー

特定の潜水艦のシステムに関する豊富な知識で知られる潜水艦乗りのこと

(対義語)
システムライト

逆に特定の潜水艦のシステムに関する知識があまりない潜水艦乗りのこと
非正規雇用の人や抜け駆けをしようとしている人がよく利用する


続く。