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ファースト・ネイビー・ジャックと魚雷発射室〜潜水艦「ノーチラス」

2016-07-03 | 軍艦

さて、いよいよ原潜「ノーチラス」の内部に入っていくわけですが、
その前に少し説明をしておきます。



これが世界初の原潜「ノーチラス」模型。
二色に色が分かれているように見えますが、ウォーターラインなのだと思います。



「潜水可能な船ではなく真の潜水艦」であるためには、給油に動力を頼らない、
原子力に推進力を負う全く新しい概念の導入が必要である、と考え、
それを推進したのが「原子力海軍の父」と言われる

ハイマン・ジョージ・リッコーヴァー海軍大将

です。
この写真ではリッコーヴァー大将は軍帽をかぶりラッタルを降りてきています。

名前を見てピンときた人もいるかもしれませんが、リッコーヴァー大将は
ポーランド系ユダヤ人の家系の出で、父親は反ユダヤ主義の社会から
1906年に移住してきており、もしこの判断がなければ、リッコーヴァーは
のちのユダヤ人排斥でおそらく命がなかっただろうと言われています。

ユダヤ人移民の仕立て屋の息子でも優秀であれば海軍大将になれる、
それがアメリカという国であり、たとえば原子力潜水艦のような
新機軸をも世界に先駆けて現実のものにしてしまうパワーも
こういう社会であればこそということの好例ですね。

さて、リッコーヴァー大将の艦隊勤務は掃海艇だったということですが、
コロンビア大学で電気工学の学位を取っていたため海軍工廠勤務になり、
エンジニアリング局の電気の部門で副主任を務めています。

この頃、リッコーヴァーはオッペンハイマーが率いたマンハッタン計画に

参画した物理学者と交流を深め、そのことから核を艦艇の推進動力として利用する
という計画を進めようという考えに至ります。

ただし、それはどちらかというと少数派の考えであったため、
リッコーヴァーは海軍がその着想を取り上げてくれるまでかなりの苦労をしています。
そこで彼はあのチェスター・ニミッツ提督に直訴までして実現化にこぎつけました。

まあそれでいろいろあって、「ノーチラス」が誕生するわけですが、
このリッコーヴァーという人、なかなかキャラの立った人だったみたいです。
当然かもしれませんがとことんこだわり派で、なんと原潜の乗組員は
大将になっているというのに彼が一人一人面接して、気に入らなければ採用しない、
というくらいだったそうです。(現場からは面倒な人だったかも)

今でも、原子力推進の艦艇勤務の経験のある海軍士官は、退役後
原子力発電所のポストにつくことが多いといいますが、その体制は
リッコーヴァーのおかげで成立したと思われます。

そしてありがちな話ですが、海軍軍人からは
"The Old Man"とか"The Old Guy" と呼ばれていたそうです。
「オヤジ」って感じですかね。
ハルゼー提督なら「俺はまだオールドマンじゃねえ!」と言いそうですが、
(というか本当にそう言った)
リッコーヴァーはこの「尊称」をあまんじて受けたのでしょう。 




「ノーチラス」内部。

出入り口が摂津されているのはちょうど前部発射管室の上です。
今日はこの前部発射管室をご紹介しようと思います。

ところで、話は戻るようですが、前回気になった海軍軍人たち。



旗の下に立っている士官のキャップには彼の乗っている潜水艦名が
書いてあるようなのですが、残念ながら読み取ることはできません。
その右側のメガネの人が一番後から来た偉い人だったかも・・。

そして後部に皆で集まって、三人を残して皆が入って行った部分なんですが、
後部から入っていくと、上の図によるとまず乗員のベッドのある「クォーターズ」
あり、エンジンルームがあり、そして・・・「リアクター」(原子炉)が・・。

原子炉?

ノーチラスの原子炉って、もう廃炉というか停止してますよね?
まさかとは思いますが、まだ原子炉動いてたりして。
今回、どこを見ても「ノーチラス」の原子炉が今どうなっているのか
全く言及されていなかったのです。

そういえば見終わってものすごく何かを見落とした感があったのですが、
それはこの展示で

原子炉部分は見学させてもらえなかったという・・。

というわけで、画竜点睛を欠くというか、それを見せずにどうするよ、という
残念感は否めなかったのであります。
やっぱり原潜のリアクターって、初代のものといっても極秘なんですね。

で、後部から入って行った軍人さんたちは、未だに廃炉になっていない
原子炉部分で、その部分についての操作のトレーニングをしている。

・・・・とかだったらすごいなあ。違うと思うけど。



少し見にくいですが、冷却システムについての図解がありました。
原子力を動力に変えるにはどうすればよかったですか?

そう、原子炉で作った熱源によって高温高圧の水蒸気を発生させ、
その水蒸気によるエネルギーを利用してスクリューを回すんですね。

この図によると、「ノーチラス」は動力を電力に変換させることなく、

直接タービンを回していたらしいことがわかります。
(電力を作りスクリューを回すターボ・エレクトリック方式の原潜もある)

原子力を潜水艦に導入するのには、潜水艦ならではの特殊な事情を
考慮しなければなりませんでしたが、その一つが、原子力の発生方式。

原子炉には、核分裂反応によって生じた熱エネルギーで軽水を沸騰させ、
高温・高圧の蒸気として取り出す「沸騰水型」と、
核分裂反応によって生じた熱エネルギーで、まず水を300℃以上に熱し、
それを蒸気発生器に通し、そこで発生した別の水の高温高圧蒸気により
タービン発電機を回す「加圧水型」の2種類があります。

潜水艦の場合、前者は海の状態や気象条件によって原子炉が傾いたりするので、
十分に冷却できなくなる可能性があり、ゆえに使われません。

それから、リッコーヴァーがそのモットー、

”Keep it simple!"

にもかかわらず、こだわらないわけにいかなかった、
潜水艦ならではの問題が、
艦内の酸素の供給の問題でした。

目からウロコというか、思わず膝を叩いて納得してしまったのですが、
原子力潜水艦が浮上しなくても潜航していられる理由は、

原子力が酸素を必要としない動力だからです。

しかし、人間は酸素がなくては1分も生きていられませんから、
せっかく無酸素で動く乗り物を作っても「潜行を常態とする真の潜水艦」
は、人を乗せて動かす限り内部に酸素がなくては成り立ちません。

そこで、酸素を発生させるのは電力によって海水を電気分解する仕組み、
そして二酸化炭素を除去する「CO2スクラバー」を開発しました。


さて、艦内に入る入ると言いながらなかなか説明が終わらないのは、
結局この部分については見学することができなかったからですが、
もう解説はええ、という声が聞こえてきた気がするので、先に進みます。



おおお!こんなところでこの旗にお目にかかるとは!

DON'T TREAD ON ME (私を踏みにじるな)

と蛇が言っている(らしい)この旗、FIRST NAVY JACKといって、
アメリカの軍艦旗なんです。
1977年より、現役最古参の軍艦のみこの艦首旗を掲揚している、ということなので、
「ノーチラス」は未だに現役最古参扱いってことでよろしいでしょうか。

アメリカの愛国のシンボルは「ガズデン・フラッグ」といって、黄色地に
蛇がやっぱり「私を踏むな」と言っているモチーフのものなのですが、
こちらは海軍のみの仕様で、赤い線は建国当時の13州を表す赤線13本。
蛇はガラガラヘビ一匹です。

ガズデンというのは独立戦争時の軍人で、旗をデザインした人の名前です。
ちなみに、2009年からアメリカでは、オバマ政権へのアンチテーゼとして

「ティーパーティ運動」

という保守回帰運動が行われているそうですが、このグループが掲げる旗が
まさにこのガズデン・フラッグなのです。

ところで今世界を揺るがすブリグジットも、結局民族自決への回帰本能だと捉えれば、
つまりジョンレノンがいくらイマジンしても、それがたとえ「Not the only one」
でも、「No country」には代償が伴い、決して「The world will be as one」なんて
絵に描いた餅のようなことは簡単に実現しないということに
イギリス人が気づいてしまったってことなんじゃないでしょうか。


知らんけど。 



いい加減に中に入ってください。という声が本当に聞こえたので、
次に進みます。

これが甲板レベルに立って見た「ノーチラス」だ!
もちろん昔は手すりなんかありません。
ここに手すりがつけられたということは、ごく稀に
甲板に立つことができることもあるってことですよね?



昔のハッチ跡。
今は使用されていないのでわざわざ柵で囲ってしまいました。
柵をしておかないとつまずく人がいたり、ダイヤルを回して
ハッチを開けようとする奴がでてくるからですねわかります。



エントランスには海軍迷彩の人が立っていて、皆に音声モニターを
渡してくれていました。
わたしは写真を撮るのに忙しく、全てをTOに聞いてもらって翻訳してもらいましたが、
後でここを通りかかった時に、日本語のモニターがあったことに気付きました。
日本語だったら聞いてみたかったな。



さて、階段を降りていきます。
内部は一方通行になっていて、狭い艦内で進む人と戻る人が鉢合わせしないように
ちゃんと仕切られているのがさすが海軍です。

この階段はもちろん記念艦になってから増設されたものでしょう。



前回のエントリで退役した同年に記念艦になったのだと勘違いして
そのように書いたのですが、実は6年後だったそうですね。
内部の展示の充実ぶりを見れば、企画から公開までに6年かかっても
全く不思議ではないことがわかります。
上部を切り取ってこんな入口を作ったのですからね。



関係者の中に絵心のある人がいた模様。
「ノーチラスくん」がミスターアメリカの扮装でお出迎え。

 

階段を降りたところは、前部発射管室となります。
ツアー的には簡単に「トルピード・ルーム」。



「ノーチラス」が搭載することのできた魚雷は何種類もあって、
Mk14、Mk37、Mk45、そしてMk48など。
今見えているのはおそらくMK48であろうと思われます。



上の緑のがMark48。
ちなみにその下の白いのは「サブロック」、サブマリンロケット。
1967年から使用されました。



この上の緑色のがMk37魚雷です。
下の黒いのはMk49マイン、つまり海中に敷設する機雷。



こちらが Mark14。

下の緑のはおそらくMk45。(違ってたらすまん)



説明によると、ここを「トルピード・リロード・ステーション」といいます。
発射するためのチューブに魚雷を装填する仕組みがこれ。

魚雷が収納されている部分は「クレイドル」(ゆりかご)です。



なんと、トルピードルームの横で修理中の人がいるー。
見に来ている士官がコーヒー持参なのがいかにもアメリカ。
でまたあっちこっちに出てくるこの乗員マネキンがリアルなのよ。
デパートの洋服を着ているあの嘘くさい男前なんかじゃなくて、
いかにもこんな人いたんだろうなって感じの顔ばかり。
実在の人物をモデルにしたと言われても信じるレベル。



マニュアルブックを見ながらレンチを回しております。
なんか読むのも面倒くさそうなマニュアルだなあ。



訳もなくこの混沌とした計器とバルブを撮ってみました。
どうも計器の目盛りから、発射管の圧力調整器のようです。

さあ、どんどん次に進むことにしましょう。

続く。