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フランス海軍提督の贈り物〜原潜「ノーチラス」

2016-07-04 | 軍艦

さて、お待ちかね?士官居住区です。
ノーチラスの乗員は思っていたのより少なく105名。
うち士官15名、先任兵曹12名、下士官兵80名という内訳です。

たった士官が15名なのですから、艦内生活それなりに快適だったのでは、
と思ったのですが、さて、実態はどうだったでしょうか。

魚雷発射室と居住区の間には、トイレやバス、洗面の区画があり、
それを過ぎるといきなりどーん!と現れたのが冒頭写真の食堂。

いやー、ゴーヂャスです。
何がゴージャスって、シルバーのセットがまるでフレンチレストランのように
ちゃんとテーブルセッティングされているところ。




部屋の内装も木目調、テーブルクロスは綺麗な青。
そういえば我が海上自衛隊でも士官室のテーブルクロスは青でした。
示し合わせたわけでもないのにこれは世界の海軍共通みたいです。

なんとコーヒーポットも銀で、中央にはフィンガーボールらしきものが・・。

席数は8しかないので、士官食堂といってもきっと上層部だけでしょう。



たとえばこういう人が乗り込んできたときにはここでお食事が出されるに違いありません。
別の展示で見たのですが、とにかく潜水艦は食事が良かったそうです。
特にこのノーチラスは「サンシャイン作戦」で何ヶ月も深海を潜行していたので、
せめて食事に楽しみがないと乗員の精神が持たないってことだったんだと思います。



スープから始まるフルコースメニューのセッティングですね。
陶器の皿には金で部隊章があしらわれており、ラインも金と青。
きっとディナー開始のときにはここに真っ白なナプキンがセットされていたのでしょう。



これを読んで初めて知ったのですが、カトラリーは銀でなく
チタンだったそうです。
それならわざわざ磨かなくてもいいから楽ですよね。

札の向こうに見えているのは電極棒。
"keel laying ceremony"とありますが、これは木造船の頃からのアメリカの伝統で
新造艦の起工のときに行うセレモニーのことです。
日本の棟上げ式みたいなものでしょう。

キールというのは日本語では「竜骨」と称します。

重船舶の船底を船首から船尾にかけて通すように配置された構造材のことですが、
英語でkeel キールは船舶の下に配置された水中構造体も含めます。

船の背骨ともいうべき部分なので、ここを敷設することで船の建造の
開始とする、ということなんだと思うのですが、現在の船ではそれから派生して
「キール・オーセンティケイション」つまりキール認証ということをします。

なぜそれに電極棒が必要かというと、最初のモジュール接合をもって
キール認証とするからです。 
 



右側にあるのが、「ノーチラス」のキール認証に使われた電極棒。
ケースには金のプレートがはめ込まれ、「ノーチラス」起工日の
1952年6月14日の日付が刻まれています。


さて、このカトラリーですが、このような艦隊勤務に置いて
この製品が特注で作られた初めての金属カトラリーだったそうです。
アメリカでは現在でもカトラリーメーカーとして有名な
ユーティカ・カトラリー・カンパニーが特注を受けて制作しました。
 


ワードルーム・メスというのは士官食堂のことです。

「FIRST AND FINEST 」というモットーがここにも刻まれています。
昔は席札だったのでしょうか。 

ちなみに左のフォークの先が広がっているのはフルーツ用だからです。



士官食堂では音楽を流しながら食事をしたこともあったのでしょうか。
当時の最新装置であったopen reel式のテープレコーダーが
なんと壁に備え付けてあります。
まだテープが入っていますが、何が録音されているのだろう。

横にある「プロジェクターステレオ」というのも謎ですが、
もしかしたら8ミリ投影機でも内蔵されているのでしょうか。



食事をしながらも艦の深度を把握していたい。
というわけでちゃんと深度計も完備。



この士官食堂の隅に佇んでいる人がなんかじわじわくる(笑)
中の人が見たら、「あーこれビルだ」「あいつこんなんだったよな」
とわかってしまったりするんでしょうか。
ちなみにビルの(勝手に名前つけてるし)顔をアップすると、
なんと眉毛とまつ毛もちゃんと植わっております。
もしかしたら本人のライフマスクから作ったんではないかってくらいリアル。



キッチンは他にもありました。
士官と下士官兵用が分かれているのかもしれません。
まあ、食べるものも違うわけですしね。



さて、この辺で水回りの施設を紹介しましょう。
まずは洗面所。
もちろんこの辺の区画は士官専用です。



クレストという歯磨き粉とアメリカ人の使うでかい歯ブラシ。
アメリカ人は日本だと靴磨きに使うような大きな歯ブラシを使います。
こんな大雑把な作りで、歯と歯の隙間とかましてや歯周ポケットの
掃除なんてできっこない、といつも思うのですが。

わたしはアメリカ在住時、歯ブラシは幼児用を買っていました。 



すべての施設は展示のために扉を取ってアクリルの板をはめ込んであります。
トイレのフラッシュは自衛隊のと同じ、ノズルを回して流す仕組み。



TOがこのシャワーブースを見た瞬間、

「こんなシャワー室は嫌だ!」

と叫んでいました(笑)
アメリカ人なので、日本人ほど「湯船に浸かりたい欲望」=入欲はないとはいえ、
この、まるで棺桶を立てたようなスペースはきつかったでしょう。



ここで区画が分かれており、こちら側に先ほどのメスがあります。

 

100人単位の居住が行われている潜水艦ですので、トイレはふんだんにあります。



洗面所その2。



さて、ここからは士官寝室の区画です。
ちゃんと自分のタオルをセットしてくれるんですね。
こういう世話も、かならず従兵みたいな人がやるんだと思いますが、
アメリカで従兵という役目があると聞いたことがありません。



寝室のベッドは2段と3段の部屋があります。
15名の士官のうち、艦長以外が共同部屋となりますので、このような部屋が
少なくとも4〜5はあることになります。



引き出し式のデスクには女優さんの写真がありますが、
三人部屋なのでこれはなかったかも・・。



一番上のベッドに寝る人はきっと一番上の階級に違いない(笑)

こういった「エグゼクティブ・オフィサー」の部屋のことを

「XO STATE ROOM」

 と称します。
Xはエグゼクティブのことですね。



これらは「セカンドシニア」である士官のための居住区であり、
またワークスペースでもあります。 



当たり前ですが、艦長には個室が与えられます。
上の段のないベッド、狭いながらも自分だけの空間。
海軍軍人は艦長になって初めてこの部屋を与えられた時、
ああ、俺もやっとここまできたか・・と感無量なのでしょう。

ベッドの上には艦長の位の軍服が寝かせてありますが、
肩章は中佐(Commander CDR)です。



机上に置かれた「ライフ」の表紙には、オペレーション・サンシャインのときの
艦長であるウィリアム・アンダーソン中佐(イケメン)の顔写真が。



当たり前ですが、彼を艦長に抜擢したのも「オヤジ」ことリッコーヴァーでした。
2年間「ノーチラス」の艦長を務めたあと、アンダーソンはオヤジのもとで
補佐のような仕事をしていたようです。
海軍を引退した後は、政治家となって共和党の牙城であるテネシー州で
民主党議員として活動しました。




ここはやはりXOルーム。
ベッドが一つ収納式になっています。



右はUNCLASSIFIED(それほど重要ではない)とされる海軍メッセージ。
何月何日に艦長が誕生日なので皆でお祝いしましょう、みたいな
(たとえばですよ)当たり障りのないメッセージが書かれていると思われます。

左は、なんと手書きの食事メニュー。
食後のコーヒーかティー、なんてのまで丁寧に書かれて、
だいたい毎日デザートまで7品出ていたようです。 




あれ?ここも一人部屋だ。

ここはコマンディングオフィサー・ステートルームといいます。
艦の「シニア・クルー」に与えられ、艦長だけでなく
コマンディング・オフィサー(司令クラス)だけが一人部屋を与えられました。

この左利きの司令(推定)は「DEAR 誰々」で始まるお手紙を書き始めたところ。
なみなみと入ったブラックコーヒーが落ちないかハラハラします。



ここは艦の「事務所」。
忙しそうに働いているのはYeoman、事務系の下士官です。
ヨーマンはエグゼクティブ・オフィサーの右腕とでもいうべき重要な役目を担い、
記録と予定の調整などを行うなど、艦の事務関係を全て掌握しています。

実際にそうだったのかどうかわかりませんが、彼は眼鏡をかけています。

さて、この区画の壁に、小説「海底二万マイル」のフランス語版
(1892年発行の初版らしい)が埋め込む形で展示されていました。

これは、北極点を潜行することを目標にした「サンシャイン作戦」で
ノーチラスがフランスのルアーブル(セーヌ河口の港)に寄港した時、
フランス海軍のアンリ・ノミ提督からノーチラスのアンダーソン艦長に
プレゼントされたものです。

貫禄のノミ提督

ノミ提督自身は航空出身であまり潜水艦のことは知らなかったと思いますが、
自国の名作である架空小説に登場するそれと同じ名を持つ潜水艦、
「ノーチラス」艦長に、冒険の成功を祝って初版本を贈ることを考えつくとは
さすがエスプリの国の「マリーヌ」(海軍軍人)だけのことはあります。


続く。