ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

艦爆気質、艦攻気質

2011-01-07 | 海軍

1944年の映画「雷撃隊出動」を観ました。
戦中の制作であることから、東京上空三〇秒のような和製国威発揚映画だったら辛いなあ、
と危惧しつつ観たのですが、いい方に想像は外れ。

またこの映画について書きたいのですが、とにかく大興奮。
内容もさることながら、この映画には航空機は

艦上攻撃機天山
九七式艦上攻撃機
一式陸上攻撃機
零式艦上戦闘機
九七式飛行艇

艦船は
空母瑞鶴
空母鳳翔
 

という実機が使われ、鳳翔は艦内のロケまで行われているのです。

まさにこれを知らない航空ファンはモグリ、と言っていいほどの垂涎の名画。
もちろんエリス中尉は知りませんでしたがね。

ところで、この映画を、かの艦攻隊長肥田真幸大尉はご覧になったのでしょうか。
DVDの発売が最近のことらしいので、もしかしてビデオではなくこの鮮明な画像で
実機をあらためてご覧になればさぞ驚かれるのでは、

と全く存じ上げないのに思ってしまいました。
肥田大尉、2010年年末現在もご健在でおられるようです。


この映画について「連合艦隊」「大空のサムライ」の脚本を書いた須崎勝彌氏がコメントをしています。
当時一度だけ上映されたものを観た須崎氏は
「ずいぶんおとなしい映画だなと思った」
と語っています。

出てくる士官たちが紳士に見えた、というのですが、この映画の主人公は「艦攻乗り」。

航空予備士官として海軍に籍を置いたことのある須崎氏は、
航空では練習課程を終えて戦闘機か、雷撃か、といった機種を選ぶのだが、
明らかにその選択は彼らの傾向を表わしていた、というのです。
例えばですが「荒くれ者は艦爆」という通説があったとか。

ここで専門の音楽についてですが、エリス中尉の知る限り、音楽でも楽器によって性格の傾向があります。
一例をご紹介すると、

管楽器は弦楽器より体育会系であるが、その中でも
フルートは繊細、オーボエは神経質で唯我独尊、
クラリネットは協調性があってトランペットは武士のような人間が多い。
そしてチューバ吹きは何も考えていない<(_ _)>
弦楽器も大きくなるほど人格が鷹揚になる、という。

人が楽器を選ぶのか、楽器が人を作るのかはわかりませんが、
なんと飛行機の種別によって「気質」があると言うではないですか。

今日はこれを検証してみることにしました。

さて、初心者とエリス中尉自身のためにおさらいですが、飛行機の種類は次のように大別されます。

陸攻、陸上攻撃機
陸上基地より飛び立ち爆撃や雷撃を行うもの。一式陸上攻撃機、九六式陸攻、深山など
艦攻、艦上攻撃機
航空母艦に搭載して運用する攻撃機。天山艦攻、九六式艦攻、九七式艦攻など
艦爆、艦上爆撃機九九式艦爆、彗星など


九七式艦攻、零戦、九九式艦爆は、日華事変末期から空母部隊の花形トリオとして
太平洋戦争の緒戦で活躍しました。



攻撃法も、機種により変わってきます。
以下、図解で示します。

天山艦攻が行う水平爆撃
高高度から目標の上空に侵入し、爆弾を投下する。


航空魚雷攻撃
日本海軍では、急降下爆撃の能力をもたない代わりに大型爆弾または魚雷を搭載可能で、
長距離の作戦が可能な(3座の)爆撃機を艦上攻撃機と呼称しました。
目標から三千メートル付近まで緩やかな角度を取り全速で接近します。
そして、距離千メートル、高度50から200メートルほどのところで魚雷を発射。


上空より目標に向かって急角度で降下接近し、叩きつけるように爆弾を投下してから急上昇し避退。
   

いかがでしょうか。
急降下で叩きつけるように爆弾を投下する艦爆乗りが「荒くれ者集団」で、
対象に接近しつつ投下地点を計算し見極める艦攻乗りが「紳士的」
というのは、いかにもその攻撃方法が作り出した性質ではないかと思われるのですが。

須崎氏は、実際に監督の山本嘉二郎が航空士官、艦攻乗りに会って紳士的な若者が多い
と思った結果のこの描き方ではないか、と想像するそうです。


この映画の主役は「雷撃の神様、三カミ」とあだ名される「村上、三上、川上」の三人の艦攻乗り。
兵学校のクラスメートです。

三人いるとそのキャラクターは名作「三匹の侍」に例えると

少しニヒルな男前「桔梗」(平幹二郎)=川上
西郷さんタイプの熱血漢「桜」(長門勇)=村上
呑気なようで剛直なリーダー格「芝」(丹波哲郎)=三上

ということになるのですが、はっきりしたキャラ立ちはなされておらず、三人とも穏やかでそこそこ陽気、
しかし、戦闘に及んでは淡々と任務を全うする、というむしろ現実的な描かれ方をされています。


この艦攻乗りがどうやら紳士であったということなのですが、荒くれ者の艦爆。
例を挙げようと思いましたが、戦闘機一本やりのエリス中尉、艦爆乗りといえば作家の豊田穣氏、
そして、艦攻乗りといえば前述の肥田大尉しかサンプルを知りません。

しかし、この豊田穣氏といえば、兵学校では「土方クラス」の名付け親であり牽引者。
柔道で鍛えた体躯をフルに生かして下級生を殴りまくったと述懐しています。
のみならず戦後も、井上大将の自宅に押しかけ酔っぱらって唄う、踊る。
鴛渕孝大尉の妹君にはインタビューに訪れて
「あんなに酔っていてよく取材ができるものだと思いました」などと言われてしまう始末。
荒くれ者の片鱗ありありです。


そして、肥田大尉は、闘志あふれる指揮官でありながら、隊員の心的ケアにまで気配りをし、
さらには天山の輸送には「敵を見たら自爆してしまうから」加わらない、という自己判断の冷静さ。
やはりこの艦攻乗りは紳士的と評してよいかと思います。



須崎氏は述べていませんが、それでは戦闘機乗りは?
よくあちこちで見る評価は

「あたりを払うような迫力がある」

この、まさに一対一で真剣を構え対峙する侍のような気迫を持つ人物が多かったようです。
それは西沢廣義や岩本徹三、といった有名な人物に限ったことはなく、
一機で空の真剣勝負に臨む搭乗員はなぜかどんなに風体は荒んでいても、
澄み切った眼をした不思議な空気を漂わせていたと言います。

そして、いつも陽気さを忘れなかったと。